タイで食品を温度管理して品質を確保したまま保管・輸送するコールドチェーン(低温物流)が拡大している。タイ人の所得が増加したことで、温度管理が必要な生鮮食品や冷凍冷蔵食品の消費量が増えていることが背景にある。技術力の高い日系企業の商機が広がっている。
タイの首都で大消費地であるバンコクの東郊サムットプラカン県のバンナー・トラート通り付近は、冷凍冷蔵倉庫の一大集積地として知られる。レムチャバン港やバンコク港、スワンナプーム国際空港、ラッカバンのインランド・コンテナ・デポ(ICD)といった主要輸送拠点へのアクセスの良さがその魅力だ。
川崎汽船はタイ法人、バンコク・コールド・ストレージ・サービスを通じてバンナー・トラート通りの敷地に3番目となる倉庫の建設を進めている。マイナス25度の冷凍保管庫と0~15度の冷蔵保管庫などからなり、2023年8月のサービス開始を予定。完成すれば、同社の保管能力は低温保管庫を含め計1万9,600トンとなる。第1と第2倉庫を合わせた日系企業の利用比率は7割ほどだ。
ニチレイの低温物流部門、ニチレイロジグループとタイの素材大手サイアム・セメント(SCG)傘下の物流会社、SCGロジスティクス・マネジメント(SCGL)の合弁会社、SCGニチレイ・ロジスティクスは21年に物流センターの2期棟を稼働させたばかり。
1期棟と合わせた設備能力は計4万7,460トン。倉庫責任者であるSCGニチレイ・ロジスティクスの中島正孝ゼネラルマネジャーによると、流通加工のための付帯設備である急速凍結室と解凍室が大きな役割を果たしているという。顧客から預かった食肉をチルド保存から冷凍保存に切り替えることで需給調整が可能になり、食品ロスの削減につながる。タイでは、まだまだ温度管理に対する意識も高くないため、温度管理が不十分なサービスを提供する低温物流事業者も多い。同社の沼田英彰社長は「欧米企業など高い品質基準を求める顧客を持つタイ食品大手から引き合いが多く来ている」と話す。
現在建設中の倉庫の完成予想図(川崎汽船提供)
センコーグループホールディングスが地場の外食大手MKレストラン・グループと19年に開設した低温物流倉庫は、日系倉庫では初めて冷凍自動ラックを装備した。2棟目は21年3月に稼働させた。
五十嵐冷蔵(東京都港区)のタイ現地出資先である、タイ・マックス・コールド・ストレージは、バンナー・トラート通り沿いに3つの倉庫を保有する。保管能力は計3万3,000トン。3つの倉庫は相互に10キロ圏内にあるため、空きスペースを活用できるだけでなく、効率良くスタッフを配置できるのが強みだ。新型コロナウイルス感染症の流行によるサプライチェーンの混乱などの影響で倉庫の占有率は100%を超え、現在は他社の倉庫に保管を委託している。タイ・マックスの清水寛之社長は「需要が旺盛な中、日本スタイルのきめ細かなサービスを提供することで差別化を図りたい」と話す。
マルハニチロ傘下で、冷凍水産加工品やペットフードなどの常温加工品を製造販売するキングフィッシャー・ホールディングスの岸祥司社長も、「全般的にタイで冷凍冷蔵倉庫の需要は高まっており、バンコク周辺では満庫状態のところもある」と説明した。タイ政府による入国規制の緩和によって国内のマーケットが回復し、国内販売の物量が全体的に増加しているとの認識だ。キングフィッシャーが地場物流JWDインフォ・ロジスティクスの合弁会社JWDパシフィックと合弁で14年に設立した「JPKコールド・ストレージ(JPK)」は、バンナー・トラート通りに保管能力1万3,150トンの倉庫を保有。マイナス25度からマイナス18度の冷凍、0度から5度の冷蔵、18~25度と常温に近い各温度帯があり、水産物の他、鶏肉、医療器具など多岐にわたって保管。輸入貨物にはフリーゾーン(保税地域)しての特典がある。
■「オールジャパンで」
鴻池運輸のタイ法人、鴻池クールロジスティクス(タイ)の倉庫面積は計9,858平方メートルで、保管能力約1万パレット。保管庫内はマイナス26℃~15℃への温度可変とし、あらゆる温度帯に対応。地場の大手外食グループや大手食品メーカーの商品管理や配送を手がけている。現在は新たな収益源の確保に向け、コールドチェーン技術を活用した医薬品の配送サービスに向けた準備も進めている。
鴻池クールロジスティクス(タイ)の倉庫内のようす=8月25日、タイ・サムットプラカン(NNA撮影)
グループ会社間の連携も同社の強みだ。鴻池エクスプレス(タイランド)の定温車両を活用したシームレスな「倉足一体サービス」のほか、フォワーディング業務サービスを提供する鴻池アジア(タイランド)との連携でタイから日本国内までの「一貫物流サービス」を提供している。
タイでは今後、地方でも所得の増加と共に冷凍冷蔵食品の需要が拡大しそうだという。バンコクとその近郊エリアではすでに冷蔵冷凍倉庫が飽和状態になりつつあることから、今後は全国にコールドチェーン物流の整備に力を入れていく考えだ。鴻池クールロジスティクス(タイ)の村上智彦代表は「単独では限界がある。他の日系企業とも力を合わせた『オールジャパン』での取り組みが必要になってくるだろう」と話した。
■地場企業が積極投資
川崎汽船によると、バンコクとその近郊で約150の冷凍冷蔵会社が事業を展開。倉庫の収容可能トン数は約85万トンで、日系が全体の約33%を占める。
タイ企業もコールドチェーン需要の取り込みに力を入れている。富士通総研公共政策研究センター長の坂野成俊氏は「タイでは財閥系が商品の生産から物流、小売りまで手がけており、コールドチェーンのレベルも決して低くない」と説明する。日系の倉庫関係者によると、地場企業は意思決定が早く、躊躇(ちゅうちょ)せずに大胆に投資できるのが強みだという。JWDインフォ・ロジスティクスは現在、ロボットを使って管理する冷凍倉庫3軒を新たに開発中だ。完成すれば、既存の3軒と合わせて、ロボット管理の冷凍倉庫は計3万8,000平方メートルの広さとなる。
英調査会社のユーロモニターによると、タイの冷凍冷蔵食品の消費量は新型コロナの影響で20年は前年比で減少したものの、21年は回復。25年は20年比で8%の増加が予測されている。川崎汽船の広報担当者は「タイは地理的にインドシナの中心に位置し、コールドチェーンの需要は将来的に近隣諸国を巻き込んだ形態での発展が見込まれる。今後しばらくは物流網の拡大、輸送品質の高度化の流れは変わらないだろう」と予測した。
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川崎汽船はタイ法人、バンコク・コールド・ストレージ・サービスを通じてバンナー・トラート通りの敷地に3番目となる倉庫の建設を進めている。マイナス25度の冷凍保管庫と0~15度の冷蔵保管庫などからなり、2023年8月のサービス開始を予定。完成すれば、同社の保管能力は低温保管庫を含め計1万9,600トンとなる。第1と第2倉庫を合わせた日系企業の利用比率は7割ほどだ。
ニチレイの低温物流部門、ニチレイロジグループとタイの素材大手サイアム・セメント(SCG)傘下の物流会社、SCGロジスティクス・マネジメント(SCGL)の合弁会社、SCGニチレイ・ロジスティクスは21年に物流センターの2期棟を稼働させたばかり。
1期棟と合わせた設備能力は計4万7,460トン。倉庫責任者であるSCGニチレイ・ロジスティクスの中島正孝ゼネラルマネジャーによると、流通加工のための付帯設備である急速凍結室と解凍室が大きな役割を果たしているという。顧客から預かった食肉をチルド保存から冷凍保存に切り替えることで需給調整が可能になり、食品ロスの削減につながる。タイでは、まだまだ温度管理に対する意識も高くないため、温度管理が不十分なサービスを提供する低温物流事業者も多い。同社の沼田英彰社長は「欧米企業など高い品質基準を求める顧客を持つタイ食品大手から引き合いが多く来ている」と話す。
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センコーグループホールディングスが地場の外食大手MKレストラン・グループと19年に開設した低温物流倉庫は、日系倉庫では初めて冷凍自動ラックを装備した。2棟目は21年3月に稼働させた。
五十嵐冷蔵(東京都港区)のタイ現地出資先である、タイ・マックス・コールド・ストレージは、バンナー・トラート通り沿いに3つの倉庫を保有する。保管能力は計3万3,000トン。3つの倉庫は相互に10キロ圏内にあるため、空きスペースを活用できるだけでなく、効率良くスタッフを配置できるのが強みだ。新型コロナウイルス感染症の流行によるサプライチェーンの混乱などの影響で倉庫の占有率は100%を超え、現在は他社の倉庫に保管を委託している。タイ・マックスの清水寛之社長は「需要が旺盛な中、日本スタイルのきめ細かなサービスを提供することで差別化を図りたい」と話す。
マルハニチロ傘下で、冷凍水産加工品やペットフードなどの常温加工品を製造販売するキングフィッシャー・ホールディングスの岸祥司社長も、「全般的にタイで冷凍冷蔵倉庫の需要は高まっており、バンコク周辺では満庫状態のところもある」と説明した。タイ政府による入国規制の緩和によって国内のマーケットが回復し、国内販売の物量が全体的に増加しているとの認識だ。キングフィッシャーが地場物流JWDインフォ・ロジスティクスの合弁会社JWDパシフィックと合弁で14年に設立した「JPKコールド・ストレージ(JPK)」は、バンナー・トラート通りに保管能力1万3,150トンの倉庫を保有。マイナス25度からマイナス18度の冷凍、0度から5度の冷蔵、18~25度と常温に近い各温度帯があり、水産物の他、鶏肉、医療器具など多岐にわたって保管。輸入貨物にはフリーゾーン(保税地域)しての特典がある。
■「オールジャパンで」
鴻池運輸のタイ法人、鴻池クールロジスティクス(タイ)の倉庫面積は計9,858平方メートルで、保管能力約1万パレット。保管庫内はマイナス26℃~15℃への温度可変とし、あらゆる温度帯に対応。地場の大手外食グループや大手食品メーカーの商品管理や配送を手がけている。現在は新たな収益源の確保に向け、コールドチェーン技術を活用した医薬品の配送サービスに向けた準備も進めている。
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グループ会社間の連携も同社の強みだ。鴻池エクスプレス(タイランド)の定温車両を活用したシームレスな「倉足一体サービス」のほか、フォワーディング業務サービスを提供する鴻池アジア(タイランド)との連携でタイから日本国内までの「一貫物流サービス」を提供している。
タイでは今後、地方でも所得の増加と共に冷凍冷蔵食品の需要が拡大しそうだという。バンコクとその近郊エリアではすでに冷蔵冷凍倉庫が飽和状態になりつつあることから、今後は全国にコールドチェーン物流の整備に力を入れていく考えだ。鴻池クールロジスティクス(タイ)の村上智彦代表は「単独では限界がある。他の日系企業とも力を合わせた『オールジャパン』での取り組みが必要になってくるだろう」と話した。
■地場企業が積極投資
川崎汽船によると、バンコクとその近郊で約150の冷凍冷蔵会社が事業を展開。倉庫の収容可能トン数は約85万トンで、日系が全体の約33%を占める。
タイ企業もコールドチェーン需要の取り込みに力を入れている。富士通総研公共政策研究センター長の坂野成俊氏は「タイでは財閥系が商品の生産から物流、小売りまで手がけており、コールドチェーンのレベルも決して低くない」と説明する。日系の倉庫関係者によると、地場企業は意思決定が早く、躊躇(ちゅうちょ)せずに大胆に投資できるのが強みだという。JWDインフォ・ロジスティクスは現在、ロボットを使って管理する冷凍倉庫3軒を新たに開発中だ。完成すれば、既存の3軒と合わせて、ロボット管理の冷凍倉庫は計3万8,000平方メートルの広さとなる。
英調査会社のユーロモニターによると、タイの冷凍冷蔵食品の消費量は新型コロナの影響で20年は前年比で減少したものの、21年は回復。25年は20年比で8%の増加が予測されている。川崎汽船の広報担当者は「タイは地理的にインドシナの中心に位置し、コールドチェーンの需要は将来的に近隣諸国を巻き込んだ形態での発展が見込まれる。今後しばらくは物流網の拡大、輸送品質の高度化の流れは変わらないだろう」と予測した。
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