日本政府が今月11日から新型コロナウイルスの水際対策を緩和する。1日当たりの入国者数の上限が撤廃され、個人旅行も解禁される。コロナ禍前は東南アジアで最も日本への旅行者が多かったタイでは、待ちに待った日本旅行の機運が高まっており、歴史的な円安も需要を押し上げると考えられている。一方で、日本国内の観光業の人手不足が指摘され、急速な外国人旅行者の回復が及ぼす影響が懸念される。日本政府観光局(JNTO)の土居佳以所長に話を聞いた。
日本の水際対策の緩和に伴いタイからの訪日旅行者の本格回復が期待される(JNTOバンコク事務所提供)
——訪日インバウンド旅行におけるタイの位置付けは。
新型コロナが世界的に流行する前の2019年には、延べ約132万人のタイ人旅行者が日本を訪れた。これは中国、韓国、台湾、香港、米国に次ぐ6番目で、東南アジア6カ国(タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、シンガポール、インドネシア)の中では合計384万人の34%を占め最多だった。コロナ禍からの再開局面において、中国、台湾、香港などにおける海外渡航制限の緩和の時期が見通せなかったこともあり、外国人旅行者の誘致に積極的な日本の自治体や観光業からは、タイからの訪日に期待する声を多く聞いている。タイは日本人の海外旅行先としても人気があり、双方向での国際交流が期待される非常に重要な国と考えている。
——タイ人による訪日旅行の特徴や傾向は。
コロナ前は、タイ人の訪日旅行者の7割が過去に何度か日本を訪れたことのあるリピーターだった。最初の訪日で、東京や大阪、北海道などの定番ルートを経験。2度目以降は定番以外の観光地に足を延ばすタイ人旅行者が増え始めたところで、コロナ禍による渡航制限に見舞われた。佐賀県や福島県など主要国際空港から近い地方に訪問する旅行者が増えている途上にあった。
リピーターのタイ人訪日客の多くは、旅行会社によるパックツアーよりも、自由な旅行プランを立てられる個人旅行を好む傾向がある。今月11日からの個人旅行の解禁は、多くのタイ人旅行者にとってまさに朗報だ。
日本での人気アクティビティーは、「温泉」「食事」「ショッピング」がトップ3となっている。また、旅行の時期としては3~4月、12月~1月に集中している。桜や雪といったタイでは味わうことができない日本ならではの季節感を体験できることや、ソンクラーン(水かけ祭り)や年末年始でタイ人が比較的休みがとりやすいことが影響していると考えられる。逆にタイよりも気温が高くなる日本の夏の時期は敬遠される傾向がある。
また、家族や夫婦で旅行する際、女性がより旅行プランの主導権を持っていることが多いようだ。
——訪日旅行を加速させるためのJNTOとしての取り組みは。
JNTOバンコク事務所が主な訪日ターゲット層として想定しているのは大きく分けて3つのグループだ。まず、20~40歳代の中間層。これらの層はさらに、初めて日本を訪れる層と、過去に訪日経験のあるリピーターの2つに分類している。もう一つのグループは、30~50歳代の比較的年収の高い層だ。
現在、タイ人のインフルエンサーやユーチューバーに訪日旅行を実際に体験してもらい、各観光地の魅力を発信してもらう準備を進めている。コースは3つ。未訪日者向けに東京と北海道をめぐる定番コース、リピーター向けに関西・四国・福岡をめぐるコース、30~50歳代の高年収層向けに東京・富士山・長野・岐阜・名古屋などをめぐるコースだ。11~12月に日本を訪れ、それぞれ動画を作成。年明けをめどに動画サイトにアップしてもらう予定だ。
来年1月27~29日には、首都バンコクで訪日旅行フェア「第14回FITフェア」を3年ぶりに開催する。バンコク中心部の商業施設「サイアム・パラゴン」で、日本の自治体、観光関連団体、航空会社、鉄道、ホテルなどの観光関連企業が訪日旅行をPRする予定だ。19年11月に開かれた第13回のイベントでは約5万6,000人が来場した。今回も前回並みの来場者を見込んでいる。
■日本側の受け入れ態勢に懸念も
——タイ人による訪日旅行の今後の見通しは。
日本の水際対策の緩和に加えて、円安が追い風になると考えられる。バンコクの両替所では、近い将来の訪日旅行に備え、円安のうちに円に両替する動きも増えているようだ。2年以上にわたって「待ちに待った日本旅行」への期待がうかがえる。
ただし、旅行需要があっても旅客輸送の回復が追い付かない可能性がある。タイ国際航空が今月からバンコク—福岡便を再開し、12月にはバンコク—札幌便を再開するなど徐々に旅客輸送は回復しつつあるが、需要の急増を受けきれるかがポイントだと感じている。
19年のタイ人旅行者の平均滞在日数は4.7日だったが、久しぶりの訪日旅行であることや、以前に比べて割高となった航空チケットなどを背景に、滞在日数を伸ばす旅行者が増えると考えている。
一方で、コロナ禍によって厳しい状態にあった訪日観光に携わるホテルや航空会社、バス会社などでは、人手不足が伝えられている。急速な訪日インバウンドの回復は、日本人の国内旅行も回復途上にある中、受け入れ側のキャパシティーを超えてしまう可能性がある。JNTOとしては、外国人旅行者の目的地の分散化の促進などにより、よりスムーズな訪日旅行の回復につなげたい。(聞き手=須賀毅)
日本政府観光局(JNTO)バンコク事務所の土居佳以所長=タイ・バンコク(NNA撮影)
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コロナ前は、タイ人の訪日旅行者の7割が過去に何度か日本を訪れたことのあるリピーターだった。最初の訪日で、東京や大阪、北海道などの定番ルートを経験。2度目以降は定番以外の観光地に足を延ばすタイ人旅行者が増え始めたところで、コロナ禍による渡航制限に見舞われた。佐賀県や福島県など主要国際空港から近い地方に訪問する旅行者が増えている途上にあった。
リピーターのタイ人訪日客の多くは、旅行会社によるパックツアーよりも、自由な旅行プランを立てられる個人旅行を好む傾向がある。今月11日からの個人旅行の解禁は、多くのタイ人旅行者にとってまさに朗報だ。
日本での人気アクティビティーは、「温泉」「食事」「ショッピング」がトップ3となっている。また、旅行の時期としては3~4月、12月~1月に集中している。桜や雪といったタイでは味わうことができない日本ならではの季節感を体験できることや、ソンクラーン(水かけ祭り)や年末年始でタイ人が比較的休みがとりやすいことが影響していると考えられる。逆にタイよりも気温が高くなる日本の夏の時期は敬遠される傾向がある。
また、家族や夫婦で旅行する際、女性がより旅行プランの主導権を持っていることが多いようだ。
——訪日旅行を加速させるためのJNTOとしての取り組みは。
JNTOバンコク事務所が主な訪日ターゲット層として想定しているのは大きく分けて3つのグループだ。まず、20~40歳代の中間層。これらの層はさらに、初めて日本を訪れる層と、過去に訪日経験のあるリピーターの2つに分類している。もう一つのグループは、30~50歳代の比較的年収の高い層だ。
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来年1月27~29日には、首都バンコクで訪日旅行フェア「第14回FITフェア」を3年ぶりに開催する。バンコク中心部の商業施設「サイアム・パラゴン」で、日本の自治体、観光関連団体、航空会社、鉄道、ホテルなどの観光関連企業が訪日旅行をPRする予定だ。19年11月に開かれた第13回のイベントでは約5万6,000人が来場した。今回も前回並みの来場者を見込んでいる。
■日本側の受け入れ態勢に懸念も
——タイ人による訪日旅行の今後の見通しは。
日本の水際対策の緩和に加えて、円安が追い風になると考えられる。バンコクの両替所では、近い将来の訪日旅行に備え、円安のうちに円に両替する動きも増えているようだ。2年以上にわたって「待ちに待った日本旅行」への期待がうかがえる。
ただし、旅行需要があっても旅客輸送の回復が追い付かない可能性がある。タイ国際航空が今月からバンコク—福岡便を再開し、12月にはバンコク—札幌便を再開するなど徐々に旅客輸送は回復しつつあるが、需要の急増を受けきれるかがポイントだと感じている。
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