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「アジア独自の脱炭素」を提案日本、各国の行程表づくりを支援

世界的に脱炭素への動きが加速する中、日本政府は、アジアの取り組みについて、先行する欧州とは異なる独自のアプローチの必要性を訴えている。先週、タイの首都バンコクで開かれた日本の経済産業省およびタイのエネルギー省の主催による「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」では、昨年5月に発表した「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」に基づき、各国のロードマップ策定の支援を進める方針を強調した。
脱炭素の動きが加速する中、世界銀行グループおよび欧州の金融機関が次々と化石燃料へのファイナンスに対する厳しい姿勢を表明している。アジア開発銀行(ADB)も、2021年10月に新たなエネルギー分野への融資方針を公表。上流開発および石炭火力発電への融資を停止するとともに、ガス火力発電関連施設についても支援要件を厳格化することを表明した。脱炭素への取り組みは各国・地域にとって待ったなしの状況となっている。
■化石燃料への依存免れないアジア
そうした中、経済成長が続く東南アジアでは、今後もエネルギー需要の拡大が続く見通し。国際エネルギー機関(IEA)は、東南アジアでは、50年までに石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱などの一次エネルギー(加工されない状態で供給されるエネルギー)に対する需要が、現行に比べて約5割増加すると予想。このうち、50年時点でエネルギーの約7~8割を化石燃料が占める見込みだ。化石燃料ベースの電力の重要性は現在と変わらず、50年の総電力消費量の約5割強を占めるという。東南アジアでは、いまだ電力アクセスが低く、安価な電気を必要としており、今後も石炭や天然ガスを燃料とする発電の割合が多くを占めると考えられている。
脱炭素を進める上で期待されるのが、燃焼による二酸化炭素(CO2)排出量の多い化石燃料から、再生可能エネルギーへの移行だ。再生エネ資源として、重要な位置を占める太陽光と風力だが、経済産業省資源エネルギー庁は、東南アジア諸国ではこれらの資源ポテンシャルが不均一に分布していると指摘する。太陽光についてはタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーなどで高いポテンシャルがあるが、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどはややポテンシャルが落ちる。一方、風力については低コストで発電できる地域はベトナムやフィリピンに限られる。さらに洋上風力については、アジア近海の水深が深く、適地は限られているとの評価もある。風力を中心に再生エネ資源が豊富で、電力供給網が広く、かつ石炭火力の多くがすでに償却済みとなっている欧州とは置かれた条件が大きく異なると訴えている。
脱炭素の実現に向けた取り組みの加速は、喫緊かつ世界共通の課題だが、資源エネルギー庁石油・天然ガス課の早田豪課長は、「欧州とアジアでは、現在置かれている状況は全く異なり、炭素中立に至る道筋は多様かつ現実的であるべき」と話す。アジアでは、再生エネのポテンシャルの低さやグリッドの狭小さを踏まえると、ゼロエミッション火力、技術が不可欠。また、地理的に相互に近接していることから、燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアなどのサプライチェーンを共同で作り上げることが可能と訴えている。
日本政府は、昨年5月にアジア各国の事情を踏まえた現実的なトランジションに向けた支援パッケージとしてAETIを提案。アジア各国のエネルギートランジションに向けたロードマップ策定の支援や、再エネ・省エネ、水素、アンモニア、液化天然ガス(LNG)、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)などのプロジェクトに対して100億米ドル(約1兆4,900億円)のファイナンス支援を柱としている。すでにタイ、ベトナム、インドネシアなどとロードマップ策定支援では議論を進めており、インドも日本からの支援受け入れに向けて議論することで合意している。
このうち、タイ政府は、1)水素・アンモニア、2)CCUS、3)再生エネ、4)電気自動車(EV)・バッテリー、5)省エネの——5つの分野で、日本政府および日本企業との協業を希望。資源エネルギー庁の広報担当者は、NNAに対し「タイはAETIにおけるロードマップ策定支援の次の段階である『官民ビジネスマッチング』に到達した初めての国だ。東南アジアで最も日本企業が集中する最重要国であるタイで成功しなければ他国での成功もない」との認識を示した。
■EGCOとJERA、アンモニア混焼で協力
20日にバンコクで開催された「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」では、日タイ両政府が今年1月に締結した「エネルギー・パートナーシップの実現に関する協力覚書」に基づき、エネルギートランジション、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた日タイ官民エネルギー協力について、低炭素技術を持つ日本とタイの企業によるプレゼンテーションと議論を行った。
日本企業からは、◇豊田通商◇千代田化工建設◇JERA(ジェラ)◇トヨタ自動車◇日揮ホールディングス◇INPEX◇日立製作所◇東芝◇三菱重工(プレゼンテーション順)の9社が参加。一方、タイ側から◇PTT◇タイ発電公団(EGAT)◇エレクトリシティー・ジェネレーティング(EGCO)◇ガルフエナジー◇アジア天然ガス・エネルギー協会(ANGEA)◇エナジー・アブソルート(EA)◇PTTエクスプロレーション・アンド・プロダクション(PTTEP)◇バンプー◇EGATインターナショナル◇イノパワーの9社がそれぞれ脱炭素に向けた技術や取り組みをプレゼンテーションした。
このうち、EGCOとJERAは、11月にバンコクで開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)会議でアンモニア混焼の覚書を発表すると説明。電源構成の10%以上が若い石炭火力が占めるタイで、マレーシアとインドネシアに続きアンモニア混焼が実現することになる。
今年6月にCO2を回収して地下に貯留する「CCS」を26年までに始めると発表したPTTEP、INPEX、日揮の3社からは、他国や東南アジア諸国連合(ASEAN)からCO2を収集することでタイをCCSハブとする可能性が示された。
タイ・エネルギー省のクリット次官は、LNG市場が乱高下する中、日タイ間のLNG分野での協力の重要性に言及した。

日本経済産業省などの主催で「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」が開かれた=20日、タイ・バンコク(NNA撮影)
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脱炭素の動きが加速する中、世界銀行グループおよび欧州の金融機関が次々と化石燃料へのファイナンスに対する厳しい姿勢を表明している。アジア開発銀行(ADB)も、2021年10月に新たなエネルギー分野への融資方針を公表。上流開発および石炭火力発電への融資を停止するとともに、ガス火力発電関連施設についても支援要件を厳格化することを表明した。脱炭素への取り組みは各国・地域にとって待ったなしの状況となっている。
■化石燃料への依存免れないアジア
そうした中、経済成長が続く東南アジアでは、今後もエネルギー需要の拡大が続く見通し。国際エネルギー機関(IEA)は、東南アジアでは、50年までに石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱などの一次エネルギー(加工されない状態で供給されるエネルギー)に対する需要が、現行に比べて約5割増加すると予想。このうち、50年時点でエネルギーの約7~8割を化石燃料が占める見込みだ。化石燃料ベースの電力の重要性は現在と変わらず、50年の総電力消費量の約5割強を占めるという。東南アジアでは、いまだ電力アクセスが低く、安価な電気を必要としており、今後も石炭や天然ガスを燃料とする発電の割合が多くを占めると考えられている。
脱炭素を進める上で期待されるのが、燃焼による二酸化炭素(CO2)排出量の多い化石燃料から、再生可能エネルギーへの移行だ。再生エネ資源として、重要な位置を占める太陽光と風力だが、経済産業省資源エネルギー庁は、東南アジア諸国ではこれらの資源ポテンシャルが不均一に分布していると指摘する。太陽光についてはタイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーなどで高いポテンシャルがあるが、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどはややポテンシャルが落ちる。一方、風力については低コストで発電できる地域はベトナムやフィリピンに限られる。さらに洋上風力については、アジア近海の水深が深く、適地は限られているとの評価もある。風力を中心に再生エネ資源が豊富で、電力供給網が広く、かつ石炭火力の多くがすでに償却済みとなっている欧州とは置かれた条件が大きく異なると訴えている。
脱炭素の実現に向けた取り組みの加速は、喫緊かつ世界共通の課題だが、資源エネルギー庁石油・天然ガス課の早田豪課長は、「欧州とアジアでは、現在置かれている状況は全く異なり、炭素中立に至る道筋は多様かつ現実的であるべき」と話す。アジアでは、再生エネのポテンシャルの低さやグリッドの狭小さを踏まえると、ゼロエミッション火力、技術が不可欠。また、地理的に相互に近接していることから、燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアなどのサプライチェーンを共同で作り上げることが可能と訴えている。
日本政府は、昨年5月にアジア各国の事情を踏まえた現実的なトランジションに向けた支援パッケージとしてAETIを提案。アジア各国のエネルギートランジションに向けたロードマップ策定の支援や、再エネ・省エネ、水素、アンモニア、液化天然ガス(LNG)、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)などのプロジェクトに対して100億米ドル(約1兆4,900億円)のファイナンス支援を柱としている。すでにタイ、ベトナム、インドネシアなどとロードマップ策定支援では議論を進めており、インドも日本からの支援受け入れに向けて議論することで合意している。
このうち、タイ政府は、1)水素・アンモニア、2)CCUS、3)再生エネ、4)電気自動車(EV)・バッテリー、5)省エネの——5つの分野で、日本政府および日本企業との協業を希望。資源エネルギー庁の広報担当者は、NNAに対し「タイはAETIにおけるロードマップ策定支援の次の段階である『官民ビジネスマッチング』に到達した初めての国だ。東南アジアで最も日本企業が集中する最重要国であるタイで成功しなければ他国での成功もない」との認識を示した。
■EGCOとJERA、アンモニア混焼で協力
20日にバンコクで開催された「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」では、日タイ両政府が今年1月に締結した「エネルギー・パートナーシップの実現に関する協力覚書」に基づき、エネルギートランジション、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた日タイ官民エネルギー協力について、低炭素技術を持つ日本とタイの企業によるプレゼンテーションと議論を行った。
日本企業からは、◇豊田通商◇千代田化工建設◇JERA(ジェラ)◇トヨタ自動車◇日揮ホールディングス◇INPEX◇日立製作所◇東芝◇三菱重工(プレゼンテーション順)の9社が参加。一方、タイ側から◇PTT◇タイ発電公団(EGAT)◇エレクトリシティー・ジェネレーティング(EGCO)◇ガルフエナジー◇アジア天然ガス・エネルギー協会(ANGEA)◇エナジー・アブソルート(EA)◇PTTエクスプロレーション・アンド・プロダクション(PTTEP)◇バンプー◇EGATインターナショナル◇イノパワーの9社がそれぞれ脱炭素に向けた技術や取り組みをプレゼンテーションした。
このうち、EGCOとJERAは、11月にバンコクで開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)会議でアンモニア混焼の覚書を発表すると説明。電源構成の10%以上が若い石炭火力が占めるタイで、マレーシアとインドネシアに続きアンモニア混焼が実現することになる。
今年6月にCO2を回収して地下に貯留する「CCS」を26年までに始めると発表したPTTEP、INPEX、日揮の3社からは、他国や東南アジア諸国連合(ASEAN)からCO2を収集することでタイをCCSハブとする可能性が示された。
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