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【中国新成長】防疫政策にもがく日系企業それでも変わらない中国の重要性

中国に進出する日系企業は今年、「ゼロコロナ」政策という強烈な逆風にさらされている。さまざまな都市で断続的に発生するロックダウン(都市封鎖)や経済活動への制限措置を背景に、多くの企業は円滑な事業の遂行が困難になっている。一方で、大半の日系企業は中国からの撤退や中国事業の縮小を否定。超大国に成長した中国との関わりを絶つことは大きな損失を覚悟しなければならず、リスク対策を取った上で中国事業を継続する考えだ。

中国の日系企業は今年、ゼロコロナ政策という強烈な逆風にさらされている。ただ、多くの企業は中国市場を重く見て、撤退や事業縮小を行わない方針を示す=7月、上海

「昨年までは中国のコロナ政策に感謝したこともあった」。日系企業の関係者がそう指摘するほど、中国の初期の新型コロナウイルス対策は成果を上げた。厳格な防疫政策が感染者数を極めて低い水準にとどめ、経済は好調を維持。諸外国の経済が新型コロナ流行で機能不全に陥ったのとは対照的だった。
だが、2022年に入り、風向きが変わった。中国の厳しい水際対策も、同年から主流株となった感染力の強い「オミクロン株」を完全に抑え込むことはできず、国内での流行が頻発するようになった。その結果、国内各地の当局はロックダウンをはじめとする経済を犠牲にした緊急措置をたびたび発動。一方、諸外国はワクチンの普及を機に次々と「ウィズコロナ」政策にかじを切り、国内外の事業環境は180度変わった。
特に中国最大の経済都市である上海市のロックダウンは、ゼロコロナ政策の弊害を浮き彫りにした。
市政府は今年3月末から約2カ月にわたって人の外出を厳しく制限。企業に対しては在宅勤務の導入などを迫った。
ただ、市内に工場を抱える製造業者は従業員を工場に出勤させなければ生産活動を行えず、正常な事業の遂行が困難になった。
三井化学は上海市に複数の合弁工場を保有。同社中国法人の三井化学(中国)管理の樫森雅史董事長兼総経理は、「一部の拠点は一定期間休業せざるを得なかった」とロックダウンを振り返る。
市政府は4月、製造業の苦境に目を向け、防疫措置の徹底を条件に一部工場の生産再開を許可。企業は人の移動による感染拡大を防ぐため、従業員を工場に寝泊まりさせて生産を再開した。
ただ、樫森氏は「道路輸送が止まったり、通関ができなかったりした期間があった」と説明。トラック運転手や空港・港湾労働者などが通常通り勤務できなくなったことで、物流網がまひした格好だ。
しかも、物流網のまひは影響を他地域に広げた。上海で生産される原材料が他地域に届かないことで、新型コロナを抑え込んでいる都市の工場も正常な生産ができなくなった。
特に自動車業界は部品の生産拠点が上海に集まっていたことで大きな影響を被ることになり、多くのメーカーが他都市の工場の生産も停止。影響は海外にも波及し、トヨタ自動車をはじめとする日本メーカーは上海のロックダウンを理由に日本の工場の生産量を一時的に減らした。
■飲食業は大打撃
上海のロックダウンは、店舗営業を行うサービス業にも甚大な影響を与えた。
中でも飲食業界は惨たんたる状況。店内サービスは3月中旬から6月下旬まで禁止され、ロックダウン中は配送員不足のため出前サービスもほとんど提供できず、諸外国でみられる飲食店へのまとまった支援金の付与もなかった。
「3月中旬から6月下旬までの収入がほぼゼロで、月の店舗賃料8万元(約163万円)が悩みの種になった」。上海市静安区の西洋料理店の経営者は当時をこう振り返る。同店は物件オーナーとの交渉で5月以降の賃料が減免されることになったため廃業を免れたが、同経営者は「自分の飲食店経営者の仲間うちでは、およそ半分が廃業した」と惨状を明かす。
上海市の弁護士は、「今春以降、店舗賃料や人件費の支払い義務を巡る飲食店からの相談が激増した。上海中心部に店を構える老舗店も賃料を負担しきれずに続々と閉店した」と説明する。
上海のロックダウンは多くの人々に収入の減少をもたらしたほか、再流行への備えとして貯蓄を増やす必要性を強く認識させた。結果、消費はかつての勢いを失い、小売業などの事業環境も悪化した。
三菱UFJ銀行の中国法人、MUFGバンク(中国)のリサーチ&アドバイザリー部の加藤哲也調査役は、「小売業や飲食業など消費者に近い産業については比較的強い懸念がある」との見解を示す。
■影響は今もなお
上海の新型コロナ禍は6月ごろにひとまず収束した。だが、オミクロン株はその後も地域を変えながらまん延を繰り返しており、各地の政府はそのたびに経済活動を制限することで感染を抑制。夏以降は上海のような2カ月に及ぶロックダウンは起きていないものの、企業は今もなお防疫政策のあおりを受けている。
日本の外食大手ゼンショーホールディングスは中国で牛丼チェーンの「すき家」を約470店、回転ずしチェーンの「はま寿司」を約20店それぞれ展開。ただ9月13日時点では、すき家が47店、はま寿司が3店それぞれ休業に追い込まれており、「9月時点でも物流網の混乱や従業員が出勤できなくなるといった影響を受けている」(同社広報)。
イオンモールの中国法人、永旺夢楽城(中国)投資の橋本達也董事総経理は、今年に入り新型コロナの影響を強く受けているとした上で、「下半期(7~12月)は事業が回復に向かうと思っていたが、消費の回復は遅く、リベンジ消費などは発生していない」と指摘する。
厳しい事業環境の中、店を閉めるテナントが「例年に比べかなり多い」とも説明。各企業の資金繰りが悪化していること、移動制限などで入居を検討する業者がなかなか物件の視察に来られないことなどから、業者退去後の空きスペースも埋まりにくくなっているという。
製造業への影響も継続している。特定の地域で感染が拡大すると、同地域に生産拠点が集積している製品の生産量が減少。サプライチェーン(供給網)の安定性が著しく阻害されている。
日本の医薬品メーカーの担当者は中国の事業環境に深刻な懸念が出ていることを踏まえ、こう吐露する。「中国からの撤退も選択肢だ」
■「中国を安易に捨てるべきでない」
ただ実情は、ほとんどの日系企業が中国からの撤退を考えていない。中国事業の規模を縮小しないと明確に表明する企業も多い。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も中国事業の縮小は視野にないとの考え。イオンモールの中国での出店数を現在の22カ所から25年に29カ所とする計画にも大きな変更はないと強調する。
製造業でも中国市場に対する根本的な姿勢に変化はなく、自動車部品、化学品、電機など幅広い分野の大手日系企業が軒並み事業規模縮小を否定する。
一定の事業環境悪化はあるにせよ、中国市場の潜在的な魅力が今もなお日系企業を引きつけている格好だ。
日系企業の関係者らが真っ先に指摘する中国の魅力は、市場の大きさ。巨大な消費需要を背景に販売先としての重要性は高く、消費地の近くで生産する利点があることから生産地としての重要性も高い。
生産地としての重要性を巡っては近年、中国の人件費高騰などを機に中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)への生産移管を進めるべきだとの声が出ている。
ただ、MUFGバンク(中国)リサーチ&アドバイザリー部の関謙次部長は、「中国国内には既に成熟したサプライチェーンができ上がっている」と説明。一方のASEANについては「業種にもよるが、往々にして域内の複数の国にまたがるサプライチェーンを形成する必要があり、物流費がかさむ」とし、中国の生産地としての魅力が直ちに薄れるわけではないとの考えだ。
MUFGバンク(中国)の加藤氏は、市場の大きさに加えて、高い成長性も魅力だと指摘。経済成長が近年鈍化してきているとはいえ、先進国よりは高い成長力を持っていると強調する。
「長期的な視点として中国経済は引き続き成長していくとみており、中国事業を縮小することは考えていない」とは三井化学(中国)管理の樫森氏。化学品の需要の源となる自動車や太陽電池モジュールの分野で中国が強い存在感を放っていることも、中国で事業を続けるメリットに挙げた。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も「経済成長率は徐々に下がってきているものの、内需型経済への転換に伴い、中国の小売り分野の需要は今後も成長が見込める」と期待感を示す。
市場の大きさに高い成長性。これらの魅力を兼ね備えている国は極めて少なく、日系企業の関係者からは「長年海外事業の柱としてきた中国を安易に捨てるのは得策でない」との声が多く聞こえてくる。
■高まる在庫管理の重要性
もっとも、日系企業は何も対策を打たずして中国事業を続けようとしているわけではない。新型コロナの影響を少しでも軽減できるよう、事業に一定の調整を加えている。
製造業の間では、「できる限り納品の遅延を防げるよう、在庫量の管理を強化する」流れが生まれている。
大手メーカーでは、デンソーが「在庫量を適切に、かつ分散して持つ」ようにしていると表明。三井化学(中国)管理の樫森氏も、在庫水準の最適化を継続的に検討していると話す。
多くのメーカーはロックダウンなどの際、生産停滞などを背景に顧客への納品を予定通り行えずに苦心した。こうした事態を可能な限り防ぐため、在庫を積み増す動きが出ている形だ。
生産品だけでなく、原材料の在庫を積み増す動きも活発化。原材料不足による生産停滞を回避するのが目的で、自動車部品メーカーの幹部は「仕入れ先との連絡を密にし、感染状況に異常が感じられたら、先行納入してもらうようにしている」と明かす。
仕入れ先を分散することで原材料不足を回避しようとする企業もあり、「中国を南北や東西に分けてサプライヤーを増やしている」(医薬品メーカー)、「国内外を含めて原料ソースの複数化をさらに推進した」(自動車部品メーカー)といった声も聞こえる。
生産拠点の増設を模索する動きも出ている。アパレルメーカーの幹部は、パートナー企業に対し生産拠点の新設を打診したと打ち明けた。
一部企業は拠点増設以外の方法で生産体制をてこ入れしており、ある自動車部品メーカーは既存工場で生産できる製品の種類を拡大した。
生産設備の販売を手がける日系企業は、「提携する受託生産業者への委託量増加などを通じ、企業が生産地の分散を図る動きがある」と指摘。こうした一部企業の生産体制変更が新たな設備需要を生み、上海のロックダウンを機に中国での引き合いが強まったとの認識を示す。
■ローソン、感染地域ではデリバリー6割も
一方、店舗営業型のサービス業では「できる限りオンライン化を図る」動きが強まっている。
上海市静安区の西洋料理店は、オンライン販売(出前プラットフォームを使った料理の販売)用に手頃な価格の料理を提供するようにした。同店は客単価が約200元とやや高めだが、一般的な消費者は出前で高額な料理を頼まず、出前向けに安価な料理を提供する必要があったという。店内でのサービス提供が禁じられた場合に備えた措置だ。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も、イオンモールに入居する業者に対し、自社の電子商取引(EC)プラットフォームへの参画を促していると語る。
コンビニ業界もオンラインプラットフォームを使ったデリバリー事業で影響を軽減している。ローソンの中国法人、羅森(中国)投資の三宅示修総裁によると、デリバリー事業は以前から強化していたが、今年の新型コロナ流行を機に重要性が増した。今夏に四川省成都市で新型コロナが流行した際は、ローソンの同地域でのデリバリー販売比率が6割に上った。
ローソンは物流網の拡充にも注力し、20年から店舗への商品供給ルートを3通り設けるようにした。三宅氏は、上海のロックダウンのように地域経済がほぼ全てストップする場合は対処しきれないものの、濃厚接触者の確認で特定の倉庫が閉鎖した場合などは予備の供給ルートの存在が役立つと強調する。
■政策強度は確実に低下
中国経済の大きな重しとなっているゼロコロナ政策。ただ、同政策は今年の中頃からやや緩和している。
中央政府は6月ごろから地方政府に対し、独断で過度な防疫規制を設けないよう繰り返し要求。今夏は各地で新型コロナの感染が拡大し、1日の国内感染者数(無症状含む)は一時3,000人を超えたが、全国的に強力な移動制限を敷くことはなかった。昨夏は1日の国内感染者数がわずか100人台だった段階で、全国31省・自治区・直轄市が軒並み移動制限を設けており、政策強度の変化が見て取れる。
一部の識者は今後も引き続き緩和に向かうと考えており、中には「今月の共産党大会を機にゼロコロナ政策の強度が大きく低下する」と期待する声もある。
明確な時期は見通せないものの、企業は徐々に近づいているであろうゼロコロナ政策の終止符を静かに待っている。
※「中国新成長」では、中国が新しい成長局面に入る中、中国経済の注目度の高い分野に焦点を当てて日系企業の商機を探る。1回目は「ゼロコロナ政策」に焦点を当てた。2回目以降は「下沈市場」「半導体」「新型インフラ」「脱炭素」を取り上げる。

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だが、2022年に入り、風向きが変わった。中国の厳しい水際対策も、同年から主流株となった感染力の強い「オミクロン株」を完全に抑え込むことはできず、国内での流行が頻発するようになった。その結果、国内各地の当局はロックダウンをはじめとする経済を犠牲にした緊急措置をたびたび発動。一方、諸外国はワクチンの普及を機に次々と「ウィズコロナ」政策にかじを切り、国内外の事業環境は180度変わった。
特に中国最大の経済都市である上海市のロックダウンは、ゼロコロナ政策の弊害を浮き彫りにした。
市政府は今年3月末から約2カ月にわたって人の外出を厳しく制限。企業に対しては在宅勤務の導入などを迫った。
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三井化学は上海市に複数の合弁工場を保有。同社中国法人の三井化学(中国)管理の樫森雅史董事長兼総経理は、「一部の拠点は一定期間休業せざるを得なかった」とロックダウンを振り返る。
市政府は4月、製造業の苦境に目を向け、防疫措置の徹底を条件に一部工場の生産再開を許可。企業は人の移動による感染拡大を防ぐため、従業員を工場に寝泊まりさせて生産を再開した。
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特に自動車業界は部品の生産拠点が上海に集まっていたことで大きな影響を被ることになり、多くのメーカーが他都市の工場の生産も停止。影響は海外にも波及し、トヨタ自動車をはじめとする日本メーカーは上海のロックダウンを理由に日本の工場の生産量を一時的に減らした。
■飲食業は大打撃
上海のロックダウンは、店舗営業を行うサービス業にも甚大な影響を与えた。
中でも飲食業界は惨たんたる状況。店内サービスは3月中旬から6月下旬まで禁止され、ロックダウン中は配送員不足のため出前サービスもほとんど提供できず、諸外国でみられる飲食店へのまとまった支援金の付与もなかった。
「3月中旬から6月下旬までの収入がほぼゼロで、月の店舗賃料8万元(約163万円)が悩みの種になった」。上海市静安区の西洋料理店の経営者は当時をこう振り返る。同店は物件オーナーとの交渉で5月以降の賃料が減免されることになったため廃業を免れたが、同経営者は「自分の飲食店経営者の仲間うちでは、およそ半分が廃業した」と惨状を明かす。
上海市の弁護士は、「今春以降、店舗賃料や人件費の支払い義務を巡る飲食店からの相談が激増した。上海中心部に店を構える老舗店も賃料を負担しきれずに続々と閉店した」と説明する。
上海のロックダウンは多くの人々に収入の減少をもたらしたほか、再流行への備えとして貯蓄を増やす必要性を強く認識させた。結果、消費はかつての勢いを失い、小売業などの事業環境も悪化した。
三菱UFJ銀行の中国法人、MUFGバンク(中国)のリサーチ&アドバイザリー部の加藤哲也調査役は、「小売業や飲食業など消費者に近い産業については比較的強い懸念がある」との見解を示す。
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上海の新型コロナ禍は6月ごろにひとまず収束した。だが、オミクロン株はその後も地域を変えながらまん延を繰り返しており、各地の政府はそのたびに経済活動を制限することで感染を抑制。夏以降は上海のような2カ月に及ぶロックダウンは起きていないものの、企業は今もなお防疫政策のあおりを受けている。
日本の外食大手ゼンショーホールディングスは中国で牛丼チェーンの「すき家」を約470店、回転ずしチェーンの「はま寿司」を約20店それぞれ展開。ただ9月13日時点では、すき家が47店、はま寿司が3店それぞれ休業に追い込まれており、「9月時点でも物流網の混乱や従業員が出勤できなくなるといった影響を受けている」(同社広報)。
イオンモールの中国法人、永旺夢楽城(中国)投資の橋本達也董事総経理は、今年に入り新型コロナの影響を強く受けているとした上で、「下半期(7~12月)は事業が回復に向かうと思っていたが、消費の回復は遅く、リベンジ消費などは発生していない」と指摘する。
厳しい事業環境の中、店を閉めるテナントが「例年に比べかなり多い」とも説明。各企業の資金繰りが悪化していること、移動制限などで入居を検討する業者がなかなか物件の視察に来られないことなどから、業者退去後の空きスペースも埋まりにくくなっているという。
製造業への影響も継続している。特定の地域で感染が拡大すると、同地域に生産拠点が集積している製品の生産量が減少。サプライチェーン(供給網)の安定性が著しく阻害されている。
日本の医薬品メーカーの担当者は中国の事業環境に深刻な懸念が出ていることを踏まえ、こう吐露する。「中国からの撤退も選択肢だ」
■「中国を安易に捨てるべきでない」
ただ実情は、ほとんどの日系企業が中国からの撤退を考えていない。中国事業の規模を縮小しないと明確に表明する企業も多い。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も中国事業の縮小は視野にないとの考え。イオンモールの中国での出店数を現在の22カ所から25年に29カ所とする計画にも大きな変更はないと強調する。
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一定の事業環境悪化はあるにせよ、中国市場の潜在的な魅力が今もなお日系企業を引きつけている格好だ。
日系企業の関係者らが真っ先に指摘する中国の魅力は、市場の大きさ。巨大な消費需要を背景に販売先としての重要性は高く、消費地の近くで生産する利点があることから生産地としての重要性も高い。
生産地としての重要性を巡っては近年、中国の人件費高騰などを機に中国から東南アジア諸国連合(ASEAN)への生産移管を進めるべきだとの声が出ている。
ただ、MUFGバンク(中国)リサーチ&アドバイザリー部の関謙次部長は、「中国国内には既に成熟したサプライチェーンができ上がっている」と説明。一方のASEANについては「業種にもよるが、往々にして域内の複数の国にまたがるサプライチェーンを形成する必要があり、物流費がかさむ」とし、中国の生産地としての魅力が直ちに薄れるわけではないとの考えだ。
MUFGバンク(中国)の加藤氏は、市場の大きさに加えて、高い成長性も魅力だと指摘。経済成長が近年鈍化してきているとはいえ、先進国よりは高い成長力を持っていると強調する。
「長期的な視点として中国経済は引き続き成長していくとみており、中国事業を縮小することは考えていない」とは三井化学(中国)管理の樫森氏。化学品の需要の源となる自動車や太陽電池モジュールの分野で中国が強い存在感を放っていることも、中国で事業を続けるメリットに挙げた。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も「経済成長率は徐々に下がってきているものの、内需型経済への転換に伴い、中国の小売り分野の需要は今後も成長が見込める」と期待感を示す。
市場の大きさに高い成長性。これらの魅力を兼ね備えている国は極めて少なく、日系企業の関係者からは「長年海外事業の柱としてきた中国を安易に捨てるのは得策でない」との声が多く聞こえてくる。
■高まる在庫管理の重要性
もっとも、日系企業は何も対策を打たずして中国事業を続けようとしているわけではない。新型コロナの影響を少しでも軽減できるよう、事業に一定の調整を加えている。
製造業の間では、「できる限り納品の遅延を防げるよう、在庫量の管理を強化する」流れが生まれている。
大手メーカーでは、デンソーが「在庫量を適切に、かつ分散して持つ」ようにしていると表明。三井化学(中国)管理の樫森氏も、在庫水準の最適化を継続的に検討していると話す。
多くのメーカーはロックダウンなどの際、生産停滞などを背景に顧客への納品を予定通り行えずに苦心した。こうした事態を可能な限り防ぐため、在庫を積み増す動きが出ている形だ。
生産品だけでなく、原材料の在庫を積み増す動きも活発化。原材料不足による生産停滞を回避するのが目的で、自動車部品メーカーの幹部は「仕入れ先との連絡を密にし、感染状況に異常が感じられたら、先行納入してもらうようにしている」と明かす。
仕入れ先を分散することで原材料不足を回避しようとする企業もあり、「中国を南北や東西に分けてサプライヤーを増やしている」(医薬品メーカー)、「国内外を含めて原料ソースの複数化をさらに推進した」(自動車部品メーカー)といった声も聞こえる。
生産拠点の増設を模索する動きも出ている。アパレルメーカーの幹部は、パートナー企業に対し生産拠点の新設を打診したと打ち明けた。
一部企業は拠点増設以外の方法で生産体制をてこ入れしており、ある自動車部品メーカーは既存工場で生産できる製品の種類を拡大した。
生産設備の販売を手がける日系企業は、「提携する受託生産業者への委託量増加などを通じ、企業が生産地の分散を図る動きがある」と指摘。こうした一部企業の生産体制変更が新たな設備需要を生み、上海のロックダウンを機に中国での引き合いが強まったとの認識を示す。
■ローソン、感染地域ではデリバリー6割も
一方、店舗営業型のサービス業では「できる限りオンライン化を図る」動きが強まっている。
上海市静安区の西洋料理店は、オンライン販売(出前プラットフォームを使った料理の販売)用に手頃な価格の料理を提供するようにした。同店は客単価が約200元とやや高めだが、一般的な消費者は出前で高額な料理を頼まず、出前向けに安価な料理を提供する必要があったという。店内でのサービス提供が禁じられた場合に備えた措置だ。
永旺夢楽城(中国)投資の橋本氏も、イオンモールに入居する業者に対し、自社の電子商取引(EC)プラットフォームへの参画を促していると語る。
コンビニ業界もオンラインプラットフォームを使ったデリバリー事業で影響を軽減している。ローソンの中国法人、羅森(中国)投資の三宅示修総裁によると、デリバリー事業は以前から強化していたが、今年の新型コロナ流行を機に重要性が増した。今夏に四川省成都市で新型コロナが流行した際は、ローソンの同地域でのデリバリー販売比率が6割に上った。
ローソンは物流網の拡充にも注力し、20年から店舗への商品供給ルートを3通り設けるようにした。三宅氏は、上海のロックダウンのように地域経済がほぼ全てストップする場合は対処しきれないものの、濃厚接触者の確認で特定の倉庫が閉鎖した場合などは予備の供給ルートの存在が役立つと強調する。
■政策強度は確実に低下
中国経済の大きな重しとなっているゼロコロナ政策。ただ、同政策は今年の中頃からやや緩和している。
中央政府は6月ごろから地方政府に対し、独断で過度な防疫規制を設けないよう繰り返し要求。今夏は各地で新型コロナの感染が拡大し、1日の国内感染者数(無症状含む)は一時3,000人を超えたが、全国的に強力な移動制限を敷くことはなかった。昨夏は1日の国内感染者数がわずか100人台だった段階で、全国31省・自治区・直轄市が軒並み移動制限を設けており、政策強度の変化が見て取れる。
一部の識者は今後も引き続き緩和に向かうと考えており、中には「今月の共産党大会を機にゼロコロナ政策の強度が大きく低下する」と期待する声もある。
明確な時期は見通せないものの、企業は徐々に近づいているであろうゼロコロナ政策の終止符を静かに待っている。
※「中国新成長」では、中国が新しい成長局面に入る中、中国経済の注目度の高い分野に焦点を当てて日系企業の商機を探る。1回目は「ゼロコロナ政策」に焦点を当てた。2回目以降は「下沈市場」「半導体」「新型インフラ」「脱炭素」を取り上げる。" ["post_title"]=> string(102) "【中国新成長】防疫政策にもがく日系企業それでも変わらない中国の重要性" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%80%90%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e6%96%b0%e6%88%90%e9%95%b7%e3%80%91%e9%98%b2%e7%96%ab%e6%94%bf%e7%ad%96%e3%81%ab%e3%82%82%e3%81%8c%e3%81%8f%e6%97%a5%e7%b3%bb%e4%bc%81%e6%a5%ad%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%a7" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2022-10-10 04:00:05" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2022-10-09 19:00:05" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(33) "https://nnaglobalnavi.com/?p=6893" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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