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賞与に関する法規制の概要と運用の実情

1.日本

(1) 賞与の法的性格

賞与については、その支払いの有無や金額が、まったく使用者の裁量に委ねられているものは、単なる恩恵的給付であり賃金には当たらないと解されています。

他方で、就業規則等において、支給基準等が定められている場合には、労働の対償としての賃金であり、所定の支払基準等の下で使用者に支給義務があるとされます。この点、労働基準法11条も、賃金の定義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」としているところです。

賞与については、ほとんどの企業において給与規定等に賞与制度が定められていることが通常であり、恩給的給付として解し得る賞与は実際には稀であると考えられます。

(2) 賞与の支給日在籍要件について

賞与については、査定対象期間の一部または全部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍要件)をする例も珍しくありません。通常の賃金であればこのような取扱いは許されないところ、賞与が賃金であるならば、賞与の支給日在籍要件は有効といえるのでしょうか。

この点、裁判例では、支給日在籍要件を有効とする例が複数見られます。退職日を自ら選択できる自主的退職の事案で支給日在籍要件を有効としたものとしては、最高裁昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)等があります。また、退職日を自ら選択できない定年退職の事案で有効性を認めた東京地裁平成8年10月29日判決(カツデン事件)等の例もあります。現実にも多くの企業では、就業規則等に支給日在籍要件を定めています。

2.タイ

(1) 賞与に関する規制

日本では賞与が賃金としての性格を有するのに対し、タイでは、賃金を、時間、日、週、月その他の「通常の労働時間」の労働の対価と定義しており(タイ労働者保護法5条)、賞与は「通常の労働時間」の労働の対価ではないため、賃金には含まれないとされます。

また、タイの労働者保護法には、賞与に関する明文規定はありません。

ただし、実際には、雇用契約や就業規則等で賞与について定めている企業は珍しくなく、雇用契約や就業規則の内容は労働条件となる以上、賞与について定めた場合には、それに従わなければなりません。

(2) 賞与制度の運用

先述のとおり、賞与について具体的な法的規制等はないため、支給時期や支給額の定め方等は企業によって様々であると考えられます。

支給時期については12月とするものが多いほか、年に2回支給する例もあります。

支給額については企業や業種、年度等によって様々であり、業績変動型の仕組みを取り入れている例もあります。

3.マレーシア

(1) 賞与に関する規制

マレーシアには賞与に関する法的規制は存在せず、当事者間での合意がない限り、使用者が賞与の支払が義務付けられることはありません。雇用契約又は就業規則において賞与の支払を明示した場合には使用者に契約上の支払義務が生じます。

(2) 賞与の一例

賞与を支払う旨の取り決めがある場合、一般的に、「〇か月分」等の形で金額を明示することは行わず、雇用契約又は就業規則には「業績・成績に応じて支払う」旨の記載に留めることが多いと思われます。

4.ミャンマー

(1) 賞与の法規制

ミャンマーにおいては賞与の法的規制は存在しません。したがって、支給するか否かは会社次第となります。もっとも、雇用契約書または就業規則等で賞与を支払う旨を規定している場合には、会社としては支払い義務が存在することとなります。

(2) 賞与の支給時期

賞与の法的規制は存在しないため、支給時期に関する法規制も存在しません。しかし、支給する場合には、一般的には、会計年度が4月1日~3月31日であることや4月上旬に水かけ祭りという長期の祝日(現地の正月)があることから、3月末頃に支給する会社が多いと思われます。

5.メキシコ

(1) 概要

賞与を「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるも」とすると、メキシコにはこれに該当する規定はありません。しかしながら、労働者の勤務成績に関係なく、月々の給与とは別に年に一度支給しなければならない「Aguinaldo(アギナルド)」という制度が、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に規定されています。アギナルドはクリスマスボーナスや法定ボーナスと翻訳されています。このほか、賞与を「給与とは別に支給される一時金」と考えると、会社の業績が良く、利益が生じた場合にその一部を従業員で分配する制度「PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)」という制度も規定されています。

(2) アギナルド(Aguinaldo)

アギナルドは、出費の重なる12月の祝祭のシーズンに労働者の支出を賄えるよう支給されることを目的とされ、最低15日分の賃金相当額が支給されなければなりません。その支給時期は、毎年12月20日までとされています。会社の業績や労働者のパフォーマンスなどに関係なく、至急が義務付けられています。
労働者の勤務期間が1年に満たない場合は、勤務期間に応じた割合の額を支払うこととなります。また、労働者が支払日より前に退職した場合は、その退職時に勤務日数に応じた割合の金額を支払わなければなりません。

(3) PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)

PTUは、労働者に対して一定の割合により会社の利益を分配する制度です。この割合は2024年時点では10%となります。つまり、単一課税年度所得に一定の調整を加えた額の10%を当該事業年度に在籍した労働者に分配することとなります。なお、当該労働者には、取締役や執行役、支配人といった業務全般を管理する役員は含まれず分配の対象とはなりません。また、労働者が受け取るPTUの額が、当該労働者の3カ月分の給与額又は過去3年間に受け取ったPTUの額の平均額のいずれか高い額を超えたときは、これが上限となります。

6.バングラデシュ

(1) 法規制の有無

バングラデシュには、2015年バングラデシュ労働規則(以下「労働規則」という)、2019年EPZ労働法及び2022年EPZ労働規則(以下、それぞれ「EPZ労働法」「EPZ労働規則」という)において、賞与に関する規定があります。

(2) 法規制の内容

(a) 労働規則

労働規則第111条(5)によると、1年間勤続した労働者には、年に2回のフェスティバルボーナス(festival bonus)を支給しなければならず、かかるボーナスは基本給月額を超えてはならないと規定されています。
ただし、金額については、労働者側が基本給月額以上を要求してはならないと解釈されており、企業側がその金額を超えることは認められます。また、3回以上のボーナスを支給することも認められます。

(b)EPZ労働法、EPZ労働規則

EPZ労働法第53条(4)によると、雇用主または雇用主が承認した者は、無期雇用労働者に対して、暦年あたり、基本給2か月分に相当するフェスティバルボーナスを、宗教的祭りの期間に支払うと規定されています。

EPZ労働規則第166条では、イスラム教徒の労働者に対して、イード・ウル・フィトル(Eid-ul-Fitr いわゆる「断食明けの祝祭日」 2024年の場合4月11日)の際に1回支払われ、イード・ウル・アズハ(Eid ul-Adha いわゆる「犠牲祭」。イード・ウル・フィトルの2,3カ月後)の際に、2回目のフェスティバルボーナスが支払われるものとしています(第166条(2))。イスラム教以外の宗教またはコミュニティの労働者は、雇用主または工場経営者に対し、宗教祝祭について書面にて通知しなければならず、それに応じて、暦年で2回の主要な宗教祝祭の際に、フェスティバルボーナスが支払われるものとされています。ただし、労働者が宗教祝祭を指定しなかった場合、第166条(2)に従って、イード・ウル・フィトルとイード・ウル・アズハの宗教祝祭に、フェスティバルボーナスが支払われることとされています(第166条(3))。各フェスティバルボーナスは、基本給の1か月分に相当するものとします(第166条(4))。

(3) 運用の実情

各フェスティバルボーナスはイスラム教の祝祭である、イード・ウル・フィトル、イード・ウル・アズハの前に支払われることが一般的です。ただし、上述の通り、労働者が別の宗教の場合で、他の宗教祝祭を指定した場合には、別日を祝祭日に指定することもできるとされておりますので、その配慮も必要となります。
支払日は祝祭日の10日~15日ほど前、支払額は労働者の基本給1か月分とするのが一般的な運用です。

いわゆる日本で想定される賞与とは性質が異なり、フェスティバルボーナスは、業績や各人の功績に応じて支払われるものではなく、労働者に一律に一定額が支払われるものとして受け入れられています。

7.フィリピン

第1 会社は原則としてボーナスを支給する義務を負わない

フィリピンにおいて、ボーナスの支給に関するルールはありません。そのため、ボーナスを支給するかどうか、支給する条件、金額については会社が決定することができます。したがって、会社は原則としてボーナスを支給する義務を負いません

第2 会社がボーナスを支払う必要がある場合

上記の通り、会社は基本的にボーナスを支払う必要がありませんが、例外的に、たとえば判例は以下の場合にはボーナスを支払わなければならないと判示しています。

1. ボーナスが従業員の賃金の一部である場合

ボーナスが従業員の賃金等の一部である場合には、会社はこれを支払う義務があります。そして、ボーナスが賃金等の一部であるかについて、判例は、その支払いの状況と条件によって異なると判示しています。

さらに、判例は、ボーナスが賃金等の一部となる場合について、たとえば、会社が事業の成功や生産量の増加など条件を課すことなく支給することを認めた報酬である場合は、このような報酬は賃金等の一部であるとしています。他方で、これらの条件が達成された場合にのみ支払われる場合には、それは賃金等の一部とみなされない、つまりボーナスに該当するとしています。

2. ボーナスが会社と従業員を代表する労働組合との間の団体協約(Collective Bargaining Agreement)に組み込まれている場合。

団体協約は会社と労働組合の間の契約上の取り決めです。ボーナスが団体協約に組み込まれている場合、これは会社が遵守しなければならない契約上の義務となります。

3. ボーナスが会社の慣行として定着したとき。

会社の慣行として定着している場合、ボーナスは従業員への福利厚生となります。そして。そして、福利厚生を減らすには労働法の条件を遵守する必要があるため、ボーナスが福利厚生となった場合には労働法に従って支給する必要が生じます。

そして、以下の場合においてボーナスは慣行であると認められます。

① 長期間にわたって支給されていること。たとえば判例は2年間を「長期間」であると判断しています。

② 会社によって継続的(consistently)かつ意図的(deliberately)に与えられていること。なお、ボーナスの提供がいかなる法律や規制によっても義務付けられていないことを会社が認識していることを示す必要があります。

8.ベトナム

現行法では、一般労働者については労働法第104条に、公営企業で働く労働者については政令51/2016/ND-CPに、芸術、スポーツ、海上運送、航空輸送分野の労働者については労働法第166条に、それぞれ賞与に関する規定が置かれています。このうち、一般労働者の賞与に関する労働法104条には、

1. 賞与とは、使用者が、労働者に対し、生産・経営の結果、労働者の業務の完遂の程度に 基づき支給する金員、財物その他の形式のものをいう。

2. 賞与規程は、使用者が、基礎レベル労働者代表組織がある場合は基礎レベル労働者代表 組織の意見を参考にしたうえで決定し、職場において公開、周知するものとする。

と規定されています。この規定を前提として、一般労働者の賞与に関しては、次のとおり取り扱われるものとされています。

• 賞与支給義務の有無:法律で使用者に義務付けられているものではありません。

• 賞与規定の要否:賞与を支払うこととする場合、使用者は、どのような方針、基準で支払うかについて文書化し、全労働者に周知する必要があります。但し、「賞与規定」のような特別の規定を作成する必要はなく、例えば、労働契約書に定めることも可能です。

• 賞与の形態:現金だけでなく、会社が製造・加工・生産する製品や商品、有価証券(ESOPプログラム)、買い物券、クーポン券などの現物支給も可能です。

• 賞与支給時期:使用者が決定することができますが、実務上は、 (i) テト休暇の直前に「13か月目の給与」として年に1回支給する場合と、(ii) 賞与の一部を(i)の時期に、残りを第1四半期末に支給する場合が多いです。

• 個人所得税及び社会保険:賞与は、個人所得税(PIT)の課税対象となりますが、各種社会保険料の算定基礎には算入されません。

9.インド

(1) 賞与に関する法規制について

インドでは、賞与については賞与支給法(The Payment of Bonus Act, 1965)(以下、「本法」)に規定されています。

本法は、全ての事業所に適用されるのではなく、以下の事業所に適用されます(本法1条3項)。

・工場法(The Factories Act, 1948)に規定される工場
・営利を目的として従業員20人以上を雇用する事業所

(2) 賞与の受給資格について

1会計年度に30日以上就労した「労働者」は本法に基づき雇用主から賞与が支払われる権利を有します(本法8条)。本法上、労働者とは、熟練若しくは非熟練作業、監督作業、技術作業、又は事務作業を行う者で、月給INR21,000以下の者をいいます(本法2条13項)。

したがって、上記(1)の工場や営利を目的として20人以上の従業員を雇用する事業所において、上記に該当する労働者は賞与を受給する権利を有します。

もっとも、不正行為、事業所内での暴行行為、又は事業所の財産の窃盗等の理由で解雇された労働者は賞与の受給資格を失います(本法9条)。

(3) 賞与の額について

賞与の最低額として、1会計年度において雇用主に余剰金があるかどうかに関わらず、会計年度に労働者が得る給与の8.33%又はINR100のいずれか高い方と規定しています(本法10条)。そして、1会計年度において余剰金が労働者に支払われる最低賞与額を超える場合、雇用主は当該会計年度に関して、全ての労働者に対して、労働者が当該会計年度で得た給与の20%を上限として、当該会計年度に労働者が得た給与に比例した賞与を支払わなければなりません(本法11条)。

(4) 賞与の支払方法について

賞与は会計年度終了後8カ月以内に現金で支払われなければなりません(本法19条)。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

(1) 賞与に関する規制

アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法が適用除外される2つのフリーゾーンの労働関連法規のいずれにおいても、賞与についての規定はありません。そのため、賞与を付与するか否かについては、使用者の裁量事項となります。ただし、50名以上を雇用する使用者は、昇進及び報酬に関しての特別の基準及び規則を定めた規程を定めなければなりません(連邦労働法施行規則第14条4項)。

(2) 賞与を定める際の留意点

賞与を付与する場合には、支給額の算定方法や支給時期等の基準を明確にするため、賃金規程を定め、または雇用契約で明示的に合意することが望まれます。特に労働者の辞職により雇用契約が解除されるときに賞与が支給されるか、退職金算定の基準とされる基本給に賞与が含まれるか、休業時の支給の有無等、様々な事態を想定して明確になるようにすることが肝要です。規程や基準を定めない場合でも、労働者間で賞与の支給に不合理な差別が生じないようにすることが求められます。

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1.日本

(1) 賞与の法的性格 賞与については、その支払いの有無や金額が、まったく使用者の裁量に委ねられているものは、単なる恩恵的給付であり賃金には当たらないと解されています。 他方で、就業規則等において、支給基準等が定められている場合には、労働の対償としての賃金であり、所定の支払基準等の下で使用者に支給義務があるとされます。この点、労働基準法11条も、賃金の定義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」としているところです。 賞与については、ほとんどの企業において給与規定等に賞与制度が定められていることが通常であり、恩給的給付として解し得る賞与は実際には稀であると考えられます。 (2) 賞与の支給日在籍要件について 賞与については、査定対象期間の一部または全部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍要件)をする例も珍しくありません。通常の賃金であればこのような取扱いは許されないところ、賞与が賃金であるならば、賞与の支給日在籍要件は有効といえるのでしょうか。 この点、裁判例では、支給日在籍要件を有効とする例が複数見られます。退職日を自ら選択できる自主的退職の事案で支給日在籍要件を有効としたものとしては、最高裁昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)等があります。また、退職日を自ら選択できない定年退職の事案で有効性を認めた東京地裁平成8年10月29日判決(カツデン事件)等の例もあります。現実にも多くの企業では、就業規則等に支給日在籍要件を定めています。

2.タイ

(1) 賞与に関する規制 日本では賞与が賃金としての性格を有するのに対し、タイでは、賃金を、時間、日、週、月その他の「通常の労働時間」の労働の対価と定義しており(タイ労働者保護法5条)、賞与は「通常の労働時間」の労働の対価ではないため、賃金には含まれないとされます。 また、タイの労働者保護法には、賞与に関する明文規定はありません。 ただし、実際には、雇用契約や就業規則等で賞与について定めている企業は珍しくなく、雇用契約や就業規則の内容は労働条件となる以上、賞与について定めた場合には、それに従わなければなりません。 (2) 賞与制度の運用 先述のとおり、賞与について具体的な法的規制等はないため、支給時期や支給額の定め方等は企業によって様々であると考えられます。 支給時期については12月とするものが多いほか、年に2回支給する例もあります。 支給額については企業や業種、年度等によって様々であり、業績変動型の仕組みを取り入れている例もあります。

3.マレーシア

(1) 賞与に関する規制 マレーシアには賞与に関する法的規制は存在せず、当事者間での合意がない限り、使用者が賞与の支払が義務付けられることはありません。雇用契約又は就業規則において賞与の支払を明示した場合には使用者に契約上の支払義務が生じます。 (2) 賞与の一例 賞与を支払う旨の取り決めがある場合、一般的に、「〇か月分」等の形で金額を明示することは行わず、雇用契約又は就業規則には「業績・成績に応じて支払う」旨の記載に留めることが多いと思われます。

4.ミャンマー

(1) 賞与の法規制 ミャンマーにおいては賞与の法的規制は存在しません。したがって、支給するか否かは会社次第となります。もっとも、雇用契約書または就業規則等で賞与を支払う旨を規定している場合には、会社としては支払い義務が存在することとなります。 (2) 賞与の支給時期 賞与の法的規制は存在しないため、支給時期に関する法規制も存在しません。しかし、支給する場合には、一般的には、会計年度が4月1日~3月31日であることや4月上旬に水かけ祭りという長期の祝日(現地の正月)があることから、3月末頃に支給する会社が多いと思われます。

5.メキシコ

(1) 概要 賞与を「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるも」とすると、メキシコにはこれに該当する規定はありません。しかしながら、労働者の勤務成績に関係なく、月々の給与とは別に年に一度支給しなければならない「Aguinaldo(アギナルド)」という制度が、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に規定されています。アギナルドはクリスマスボーナスや法定ボーナスと翻訳されています。このほか、賞与を「給与とは別に支給される一時金」と考えると、会社の業績が良く、利益が生じた場合にその一部を従業員で分配する制度「PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas)」という制度も規定されています。 (2) アギナルド(Aguinaldo) アギナルドは、出費の重なる12月の祝祭のシーズンに労働者の支出を賄えるよう支給されることを目的とされ、最低15日分の賃金相当額が支給されなければなりません。その支給時期は、毎年12月20日までとされています。会社の業績や労働者のパフォーマンスなどに関係なく、至急が義務付けられています。 労働者の勤務期間が1年に満たない場合は、勤務期間に応じた割合の額を支払うこととなります。また、労働者が支払日より前に退職した場合は、その退職時に勤務日数に応じた割合の金額を支払わなければなりません。 (3) PTU(Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las empresas) PTUは、労働者に対して一定の割合により会社の利益を分配する制度です。この割合は2024年時点では10%となります。つまり、単一課税年度所得に一定の調整を加えた額の10%を当該事業年度に在籍した労働者に分配することとなります。なお、当該労働者には、取締役や執行役、支配人といった業務全般を管理する役員は含まれず分配の対象とはなりません。また、労働者が受け取るPTUの額が、当該労働者の3カ月分の給与額又は過去3年間に受け取ったPTUの額の平均額のいずれか高い額を超えたときは、これが上限となります。

6.バングラデシュ

(1) 法規制の有無 バングラデシュには、2015年バングラデシュ労働規則(以下「労働規則」という)、2019年EPZ労働法及び2022年EPZ労働規則(以下、それぞれ「EPZ労働法」「EPZ労働規則」という)において、賞与に関する規定があります。 (2) 法規制の内容 (a) 労働規則 労働規則第111条(5)によると、1年間勤続した労働者には、年に2回のフェスティバルボーナス(festival bonus)を支給しなければならず、かかるボーナスは基本給月額を超えてはならないと規定されています。 ただし、金額については、労働者側が基本給月額以上を要求してはならないと解釈されており、企業側がその金額を超えることは認められます。また、3回以上のボーナスを支給することも認められます。 (b)EPZ労働法、EPZ労働規則 EPZ労働法第53条(4)によると、雇用主または雇用主が承認した者は、無期雇用労働者に対して、暦年あたり、基本給2か月分に相当するフェスティバルボーナスを、宗教的祭りの期間に支払うと規定されています。 EPZ労働規則第166条では、イスラム教徒の労働者に対して、イード・ウル・フィトル(Eid-ul-Fitr いわゆる「断食明けの祝祭日」 2024年の場合4月11日)の際に1回支払われ、イード・ウル・アズハ(Eid ul-Adha いわゆる「犠牲祭」。イード・ウル・フィトルの2,3カ月後)の際に、2回目のフェスティバルボーナスが支払われるものとしています(第166条(2))。イスラム教以外の宗教またはコミュニティの労働者は、雇用主または工場経営者に対し、宗教祝祭について書面にて通知しなければならず、それに応じて、暦年で2回の主要な宗教祝祭の際に、フェスティバルボーナスが支払われるものとされています。ただし、労働者が宗教祝祭を指定しなかった場合、第166条(2)に従って、イード・ウル・フィトルとイード・ウル・アズハの宗教祝祭に、フェスティバルボーナスが支払われることとされています(第166条(3))。各フェスティバルボーナスは、基本給の1か月分に相当するものとします(第166条(4))。 (3) 運用の実情 各フェスティバルボーナスはイスラム教の祝祭である、イード・ウル・フィトル、イード・ウル・アズハの前に支払われることが一般的です。ただし、上述の通り、労働者が別の宗教の場合で、他の宗教祝祭を指定した場合には、別日を祝祭日に指定することもできるとされておりますので、その配慮も必要となります。 支払日は祝祭日の10日~15日ほど前、支払額は労働者の基本給1か月分とするのが一般的な運用です。 いわゆる日本で想定される賞与とは性質が異なり、フェスティバルボーナスは、業績や各人の功績に応じて支払われるものではなく、労働者に一律に一定額が支払われるものとして受け入れられています。

7.フィリピン

第1 会社は原則としてボーナスを支給する義務を負わない フィリピンにおいて、ボーナスの支給に関するルールはありません。そのため、ボーナスを支給するかどうか、支給する条件、金額については会社が決定することができます。したがって、会社は原則としてボーナスを支給する義務を負いません 第2 会社がボーナスを支払う必要がある場合 上記の通り、会社は基本的にボーナスを支払う必要がありませんが、例外的に、たとえば判例は以下の場合にはボーナスを支払わなければならないと判示しています。 1. ボーナスが従業員の賃金の一部である場合 ボーナスが従業員の賃金等の一部である場合には、会社はこれを支払う義務があります。そして、ボーナスが賃金等の一部であるかについて、判例は、その支払いの状況と条件によって異なると判示しています。 さらに、判例は、ボーナスが賃金等の一部となる場合について、たとえば、会社が事業の成功や生産量の増加など条件を課すことなく支給することを認めた報酬である場合は、このような報酬は賃金等の一部であるとしています。他方で、これらの条件が達成された場合にのみ支払われる場合には、それは賃金等の一部とみなされない、つまりボーナスに該当するとしています。 2. ボーナスが会社と従業員を代表する労働組合との間の団体協約(Collective Bargaining Agreement)に組み込まれている場合。 団体協約は会社と労働組合の間の契約上の取り決めです。ボーナスが団体協約に組み込まれている場合、これは会社が遵守しなければならない契約上の義務となります。 3. ボーナスが会社の慣行として定着したとき。 会社の慣行として定着している場合、ボーナスは従業員への福利厚生となります。そして。そして、福利厚生を減らすには労働法の条件を遵守する必要があるため、ボーナスが福利厚生となった場合には労働法に従って支給する必要が生じます。 そして、以下の場合においてボーナスは慣行であると認められます。 ① 長期間にわたって支給されていること。たとえば判例は2年間を「長期間」であると判断しています。 ② 会社によって継続的(consistently)かつ意図的(deliberately)に与えられていること。なお、ボーナスの提供がいかなる法律や規制によっても義務付けられていないことを会社が認識していることを示す必要があります。

8.ベトナム

現行法では、一般労働者については労働法第104条に、公営企業で働く労働者については政令51/2016/ND-CPに、芸術、スポーツ、海上運送、航空輸送分野の労働者については労働法第166条に、それぞれ賞与に関する規定が置かれています。このうち、一般労働者の賞与に関する労働法104条には、 1. 賞与とは、使用者が、労働者に対し、生産・経営の結果、労働者の業務の完遂の程度に 基づき支給する金員、財物その他の形式のものをいう。 2. 賞与規程は、使用者が、基礎レベル労働者代表組織がある場合は基礎レベル労働者代表 組織の意見を参考にしたうえで決定し、職場において公開、周知するものとする。 と規定されています。この規定を前提として、一般労働者の賞与に関しては、次のとおり取り扱われるものとされています。 • 賞与支給義務の有無:法律で使用者に義務付けられているものではありません。 • 賞与規定の要否:賞与を支払うこととする場合、使用者は、どのような方針、基準で支払うかについて文書化し、全労働者に周知する必要があります。但し、「賞与規定」のような特別の規定を作成する必要はなく、例えば、労働契約書に定めることも可能です。 • 賞与の形態:現金だけでなく、会社が製造・加工・生産する製品や商品、有価証券(ESOPプログラム)、買い物券、クーポン券などの現物支給も可能です。 • 賞与支給時期:使用者が決定することができますが、実務上は、 (i) テト休暇の直前に「13か月目の給与」として年に1回支給する場合と、(ii) 賞与の一部を(i)の時期に、残りを第1四半期末に支給する場合が多いです。 • 個人所得税及び社会保険:賞与は、個人所得税(PIT)の課税対象となりますが、各種社会保険料の算定基礎には算入されません。

9.インド

(1) 賞与に関する法規制について インドでは、賞与については賞与支給法(The Payment of Bonus Act, 1965)(以下、「本法」)に規定されています。 本法は、全ての事業所に適用されるのではなく、以下の事業所に適用されます(本法1条3項)。 ・工場法(The Factories Act, 1948)に規定される工場 ・営利を目的として従業員20人以上を雇用する事業所 (2) 賞与の受給資格について 1会計年度に30日以上就労した「労働者」は本法に基づき雇用主から賞与が支払われる権利を有します(本法8条)。本法上、労働者とは、熟練若しくは非熟練作業、監督作業、技術作業、又は事務作業を行う者で、月給INR21,000以下の者をいいます(本法2条13項)。 したがって、上記(1)の工場や営利を目的として20人以上の従業員を雇用する事業所において、上記に該当する労働者は賞与を受給する権利を有します。 もっとも、不正行為、事業所内での暴行行為、又は事業所の財産の窃盗等の理由で解雇された労働者は賞与の受給資格を失います(本法9条)。 (3) 賞与の額について 賞与の最低額として、1会計年度において雇用主に余剰金があるかどうかに関わらず、会計年度に労働者が得る給与の8.33%又はINR100のいずれか高い方と規定しています(本法10条)。そして、1会計年度において余剰金が労働者に支払われる最低賞与額を超える場合、雇用主は当該会計年度に関して、全ての労働者に対して、労働者が当該会計年度で得た給与の20%を上限として、当該会計年度に労働者が得た給与に比例した賞与を支払わなければなりません(本法11条)。 (4) 賞与の支払方法について 賞与は会計年度終了後8カ月以内に現金で支払われなければなりません(本法19条)。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

(1) 賞与に関する規制 アラブ首長国連邦(UAE)での私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)および連邦労働法が適用除外される2つのフリーゾーンの労働関連法規のいずれにおいても、賞与についての規定はありません。そのため、賞与を付与するか否かについては、使用者の裁量事項となります。ただし、50名以上を雇用する使用者は、昇進及び報酬に関しての特別の基準及び規則を定めた規程を定めなければなりません(連邦労働法施行規則第14条4項)。 (2) 賞与を定める際の留意点 賞与を付与する場合には、支給額の算定方法や支給時期等の基準を明確にするため、賃金規程を定め、または雇用契約で明示的に合意することが望まれます。特に労働者の辞職により雇用契約が解除されるときに賞与が支給されるか、退職金算定の基準とされる基本給に賞与が含まれるか、休業時の支給の有無等、様々な事態を想定して明確になるようにすることが肝要です。規程や基準を定めない場合でも、労働者間で賞与の支給に不合理な差別が生じないようにすることが求められます。" ["post_title"]=> string(54) "賞与に関する法規制の概要と運用の実情" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(162) "%e8%b3%9e%e4%b8%8e%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%b3%95%e8%a6%8f%e5%88%b6%e3%81%ae%e6%a6%82%e8%a6%81%e3%81%a8%e9%81%8b%e7%94%a8%e3%81%ae%e5%ae%9f%e6%83%85" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-05-03 19:04:41" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-05-03 10:04:41" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=19834" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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