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日系が介護医療の商機捕捉へ輸入博で売り込み、高齢化見据え

中国の輸入拡大を目的とした上海市の大型見本市「第5回中国国際輸入博覧会(輸入博)」が5日から始まり、介護・医療業界の日系各社は、中国での事業拡大に向けて積極的に売り込みをかけた。中国で急速に高齢化が進んでいることや、中国の地方政府が介護用品の普及に注力していることなどが商機になるとみている。

「第5回中国国際輸入博覧会(輸入博)」が5日から始まり、多くの日系企業が製品を積極的にPRした=6日、上海市

日本貿易振興機構(ジェトロ)が「医療機器・医薬保健」に関する日系企業を集めたパビリオンを設置。27社・団体が出展した。
ジェトロは昨年の第4回輸入博でも同様のパビリオンを設けており、ジェトロのヘルスケア産業の担当者は「参加数自体は前回から減った」と説明した。ただ、背景には出展団体の募集時期が上海のロックダウン時期と重なったことなどがあると指摘。会場の業界関係者からも、中国社会の高齢化が進んでいる中、介護・医療分野の日系企業にとって中国市場に大きな商機があることに変わりはないとの声が相次いだ。
■レンタル需要拡大へ
とりわけ積極的なPR活動を行ったのは、福祉用具のレンタル・販売などを手がけるヤマシタ(静岡県島田市)。同社の輸入博への出展は今回が初めてで、パラマウントベッド、ミキなど日本の介護用品企業十数社の製品を展示。介護用ベッド、車いすをはじめとするさまざまな製品を来場者に紹介した。
同社の中国合弁企業である上海福至実業の李輝総経理は、今回の出展に力を入れた理由に、中国の介護用品のレンタル市場が拡大する流れにあることを挙げた。中国の複数の都市が近年になって介護用品のレンタルに補助金を支給し始めており、レンタル需要が高まる傾向にあるとの考えを示した。
李氏によると、上海市政府は75歳以上の上海戸籍保有者が介護用品をレンタルする場合、料金の50%を負担する。上海福至実業が提供する介護ベッドの一つは、購入価格が4万元(約80万円)だが、レンタル料金は半年当たり3,000元。政府の補助金により、半年当たり1,500元で利用することが可能となる。
介護用品は高価な上、年齢や病状、けがの程度によっては使用期間が短くなることもあり、レンタルの需要は底堅い。仮に購入するとしても、「レンタルで性能を確認した上で買うパターンも多い」(李氏)という。
日本企業がレンタルに適した介護用品の開発にたけていることも、ヤマシタが今回の展示に力を入れた理由の一つだ。
李氏は、日本では介護用品をレンタルするのが一般的で、メーカーもレンタル品として使われることに配慮した設計を行っていると指摘した。設置・撤去を繰り返ししやすいように、製品を分解可能にするなどの工夫が施されていることが多く、レンタルに適した用品をつくる能力は世界的にも抜きんでていると強調。中国の一部の集合住宅はエレベーターが設置されていないことに触れ、日本製品の運搬面の利点は中国での需要取り込みにつながるとの見解を示した。

ヤマシタは日本企業の介護ベッドなどを来場者に紹介した。中国での介護用品のレンタル事業拡大を狙う=6日、上海市

■足こぎ車いすをアピール
車いす分野では、日本の個性的な製品が注目を集めている。
フォトマスク事業を本業とするエスケーエレクトロニクス(京都市上京区)は、副業で手がけるヘルスケア事業を輸入博でアピール。東北大学の半田康延名誉教授が開発した足こぎ車いす「COGY(コギー)」を展示した。エスケーは、コギーの中国販売の総代理を務めている。
コギーは半身不随など歩行が困難な状態であっても、どちらかの足を少しでも動かすことができれば自力でペダルをこぐことが可能。足が不自由な人が誰かに車いすを押してもらうことなく、一人で出歩くことに役立つ製品だ。
コギーは東京パラリンピックの聖火リレーで使われたことから、日本では既に大きな注目を集めており、米国や欧州などでも販売を始めている。
エスケーの上海現地法人の原口泰佳営業経理は、中国の老人ホームの運動会などにコギーを提供した際、高齢者から大きな反響を得たと指摘。中国社会が高齢化の局面を迎えていることも踏まえると、中国の潜在的な需要は大きいとみており、輸入博を機に中国での販売拡大を狙うと意気込んだ。
エスケーは、手が不自由な人のリハビリ器具「WILMO(ウィルモ)」も展示。脳卒中などで手が不自由になった人は従来、わざわざリハビリ施設に通って手の動かし方を少しずつ習得しなければならなかったが、ウィルモを手に装着していれば、日常生活の中で手の動かし方を習得することが可能だ。
ウィルモは、エスケーが早稲田大学の村岡慶裕教授と開発に当たっており、中国では未販売。来年、中国での輸入認証を取得する見通しで、輸入博で販売業者との提携を目指す。

エスケーエレクトロニクスは、足こぎ車いす「COGY(コギー)」の中国での販売拡大を狙う=6日、上海市

■健康食品業、販路を中国に拡大へ
日系企業は健康食品分野でも積極的なPRを実施している。
乳酸菌やグルコサミンを含む健康食品などを製造するフジ・ケアコーポレーション(鹿児島県日置市)は今回、中国市場に打って出ることを目的に出展。中国で健康食品の販売を手がける企業との提携を模索する。

エスケーエレクトロニクスの手に装着するリハビリ器具「WILMO(ウィルモ)」=6日、上海市

同社の呂呈剛理事は、もともと日本の健康食品の購入に積極的だった中国人の訪日観光客が新型コロナウイルスの流行をきっかけに減っていると指摘。訪日観光客が来ない以上、自ら中国市場の掘り起こしに動く必要性が出ているとの見方を示した。
ジェトロは今回の輸入博で、医療機器・医薬保健のほかに「食品・農水品」「消費財」の2分野に関する日系企業を集めたパビリオンを設置。3分野を合わせた出展数は279社・団体に上る。
主催団体によると、今回の輸入博全体では127カ国・地域の企業が出展。地域的な包括的経済連携(RCEP)の全参加国の企業が参加しているほか、世界の大手企業500社のうち284社が参加している。
習近平国家主席は4日、輸入博の式典でビデオ演説し、対外開放を堅持し、投資を歓迎するとの姿勢を示した。環太平洋連携協定(TPP)とデジタル経済連携協定(DEPA)への加盟も積極的に進めると表明した。
第4回は127カ国・地域から2,900社以上が参加。来場者数は48万人以上で、成約額は約707億米ドル(約10兆3,660億円)だった。第5回は10日まで開かれている。

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ジェトロは昨年の第4回輸入博でも同様のパビリオンを設けており、ジェトロのヘルスケア産業の担当者は「参加数自体は前回から減った」と説明した。ただ、背景には出展団体の募集時期が上海のロックダウン時期と重なったことなどがあると指摘。会場の業界関係者からも、中国社会の高齢化が進んでいる中、介護・医療分野の日系企業にとって中国市場に大きな商機があることに変わりはないとの声が相次いだ。
■レンタル需要拡大へ
とりわけ積極的なPR活動を行ったのは、福祉用具のレンタル・販売などを手がけるヤマシタ(静岡県島田市)。同社の輸入博への出展は今回が初めてで、パラマウントベッド、ミキなど日本の介護用品企業十数社の製品を展示。介護用ベッド、車いすをはじめとするさまざまな製品を来場者に紹介した。
同社の中国合弁企業である上海福至実業の李輝総経理は、今回の出展に力を入れた理由に、中国の介護用品のレンタル市場が拡大する流れにあることを挙げた。中国の複数の都市が近年になって介護用品のレンタルに補助金を支給し始めており、レンタル需要が高まる傾向にあるとの考えを示した。
李氏によると、上海市政府は75歳以上の上海戸籍保有者が介護用品をレンタルする場合、料金の50%を負担する。上海福至実業が提供する介護ベッドの一つは、購入価格が4万元(約80万円)だが、レンタル料金は半年当たり3,000元。政府の補助金により、半年当たり1,500元で利用することが可能となる。
介護用品は高価な上、年齢や病状、けがの程度によっては使用期間が短くなることもあり、レンタルの需要は底堅い。仮に購入するとしても、「レンタルで性能を確認した上で買うパターンも多い」(李氏)という。
日本企業がレンタルに適した介護用品の開発にたけていることも、ヤマシタが今回の展示に力を入れた理由の一つだ。
李氏は、日本では介護用品をレンタルするのが一般的で、メーカーもレンタル品として使われることに配慮した設計を行っていると指摘した。設置・撤去を繰り返ししやすいように、製品を分解可能にするなどの工夫が施されていることが多く、レンタルに適した用品をつくる能力は世界的にも抜きんでていると強調。中国の一部の集合住宅はエレベーターが設置されていないことに触れ、日本製品の運搬面の利点は中国での需要取り込みにつながるとの見解を示した。
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■足こぎ車いすをアピール
車いす分野では、日本の個性的な製品が注目を集めている。
フォトマスク事業を本業とするエスケーエレクトロニクス(京都市上京区)は、副業で手がけるヘルスケア事業を輸入博でアピール。東北大学の半田康延名誉教授が開発した足こぎ車いす「COGY(コギー)」を展示した。エスケーは、コギーの中国販売の総代理を務めている。
コギーは半身不随など歩行が困難な状態であっても、どちらかの足を少しでも動かすことができれば自力でペダルをこぐことが可能。足が不自由な人が誰かに車いすを押してもらうことなく、一人で出歩くことに役立つ製品だ。
コギーは東京パラリンピックの聖火リレーで使われたことから、日本では既に大きな注目を集めており、米国や欧州などでも販売を始めている。
エスケーの上海現地法人の原口泰佳営業経理は、中国の老人ホームの運動会などにコギーを提供した際、高齢者から大きな反響を得たと指摘。中国社会が高齢化の局面を迎えていることも踏まえると、中国の潜在的な需要は大きいとみており、輸入博を機に中国での販売拡大を狙うと意気込んだ。
エスケーは、手が不自由な人のリハビリ器具「WILMO(ウィルモ)」も展示。脳卒中などで手が不自由になった人は従来、わざわざリハビリ施設に通って手の動かし方を少しずつ習得しなければならなかったが、ウィルモを手に装着していれば、日常生活の中で手の動かし方を習得することが可能だ。
ウィルモは、エスケーが早稲田大学の村岡慶裕教授と開発に当たっており、中国では未販売。来年、中国での輸入認証を取得する見通しで、輸入博で販売業者との提携を目指す。
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習近平国家主席は4日、輸入博の式典でビデオ演説し、対外開放を堅持し、投資を歓迎するとの姿勢を示した。環太平洋連携協定(TPP)とデジタル経済連携協定(DEPA)への加盟も積極的に進めると表明した。
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