イオングループ金融部門の香港法人、イオンクレジットサービス(アジア)がクレジットカードの成熟市場である香港で、市民が普段使いする「ファーストカード」になるべく奮闘を続けている。発行するカードの一つ「イオンカードJAL」では、日本への個人旅行再開に合わせて日本での消費に対して付与するJALマイレージを3倍とするなど「日本」に特化した特典で競合と差別化。会員契約数は順調に伸びており、来年には100万人に達する見通しだ。【天野友紀子】
イオンクレジットサービス(アジア)の深山友晴社長がNNAの単独取材に応じた=10月25日、尖沙咀(NNA撮影)
イオンクレアジアは1990年に設立された。深山友晴社長によると、85年設立のイオンストアーズ香港の店舗で家電などの分割払いのニーズが高かったことが法人化の決め手となった。93年にハウスカード、翌94年に米マスターカードなど国際ブランド付きのカードの発行をそれぞれ開始。現地に住む日本人ではなく地元の人に向けて海外で発行するクレジットカードとしては「日系のパイオニアだった」と深山氏は振り返る。
95年には香港証券取引所に上場し、事業を順調に拡大してきた。現在の発行枚数は約120万枚。会員契約数は約95万人で、香港の労働力人口(9月末時点で378万人余り)の25%に相当する。
■グループのシナジーが強み
英調査会社ユーロモニターなどによると、香港でクレジットカードを発行する約20社のうち、イオンクレアジアは発行枚数で10位以内に入る。競合である世界の金融大手との差別化を可能にしたのは、イオングループの相乗効果。そして何よりも、「日本関連のサービスでナンバー1」だと香港の消費者に認識してもらうための企業努力だ。
イオンカードを使ってイオンストアーズで買い物をすると月に数日、5%引きやポイントの付与が10倍になる特典がある。ポイントはたまれば商品券に交換でき、カードの引き落とし額への相殺に使うことも可能だ。香港全域に店舗を持ち、香港市民が日々利用するイオンストアーズで使うと「お得」であることから、市民に愛されるカードとなった。
イオンカードと提携する日本料理店で使うと5~10%引きやビールが1杯無料になるサービスも長年行っており、会員に好評だ。
■訪日もイオンカードで
日本円決済や日本での利用へのサービスでの差別化にも力を入れる。クレジットカードの外貨決済では通常約2%の手数料がかかるが、イオンクレアジアは日本円決済で自社の手数料を上乗せしないことで手数料を約1%に低減。そのかいあって「日本円決済ならイオンカードというイメージが顧客に浸透した」と深山氏は語る。
香港の夜景を彩る「イオンカード」の電飾広告。あえて日本語での表示も行うことで、日本のカードであることを印象づけている=11月(NNA撮影)
新型コロナウイルスが流行する前は、決済全体の5~6%を日本円が占めていた。香港が水際対策の隔離措置をまだ行っていた今年9月も、越境電子商取引(越境EC)を中心に3%を占めるなど、低い手数料で日本円決済できることが大きな魅力になっていることがうかがえる。
水際対策の廃止で訪日旅行の需要が爆発的に増えることを見越して、今年5月には、日本で使えば3%のキャッシュバックが得られる「イオンカードWAKUWAKU」の発行を新たに開始。香港政府が9月26日に入境後の隔離措置を廃止し、日本政府が10月11日に外国人の個人旅行を解禁すると、日本航空(JAL)と提携して発行するイオンカードJALでのマイレージ3倍キャンペーンを開始した。
日本で同カードを使った場合、マイレージの付与は通常6HKドル(約107円)に付き1マイルだが、10月11日から12月31日までは2HKドルにつき1マイルを付与している。
訪日旅行に呼応するキャンペーンは、通常のイオンカードと「イオンカードプレミアム」でも実施。年内は日本で消費するとポイントの付与が最大20倍となる。
■ひも付けで利用頻度高める
香港金融管理局(HKMA)によると、香港のクレジットカード流通枚数は今年6月末時点で約1,963万枚。労働力人口1人当たり5枚のカードを保有する成熟市場だ。
消費者が状況に応じて何枚ものカードを使い分けている香港では「どれだけ高頻度でイオンカードを使ってもらえるか」「どれだけ多くの顧客にイオンカードをファーストカード(普段使いカード)にしてもらえるか」が事業拡大のための目標になると深山氏。決済方法の多様化、キャッシュレスへの移行というトレンドに合わせて、小口利用を取り込むための取り組みを強化している。
香港の決済市場では近年、カード式電子マネー「八達通(オクトパス)」や電子決済アプリ「アリペイHK」などプリペイド式のツールを使った決済額が2桁成長を続けている。そこでイオンクレアジアは、プリペイド式ツールとのひも付けやキャンペーンを積極的に実施する。
決済アプリ「ウィーチャットペイHK」は通常、ノンバンクカードとのひも付けは不可だが、イオンクレアジアの交渉により今年6月1日からイオンカードのひも付けが可能になった。ポイントと商品券のキャンペーンを行ったところ、10月下旬までに3万人近くがひも付けしたという。
アリペイHKでは11月11日のECの一大販促イベント「双十一」に合わせて、イオンカードでの支払いで特別割引が得られるキャンペーンを行った。カード大手JCB、ビザ、マスター、中国本土の銀聯のブランドが付いたイオンカードは、一部バスで運賃の支払いに使うことも可能。こういった取り組みを通じて、小口決済の利用を浸透させていきたい考えだ。
カード発行の100%デジタル化も進める。発行の申請は既にオンラインで済ませることができ、15分後にはカードが発行される仕組みだが、顧客は域内に17カ所ある支店に出向いてカードをピックアップする必要がある。システム更新により来年には、オンラインで「バーチャルカード」を受け取れるようになるという。
深山氏は「来年には契約会員数が100万人に達する見通しだ」と明らかにし、今後はインバウンド、アウトバウンドの復活で「事業にさらに弾みが付く」と明るい見通しを示した。
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95年には香港証券取引所に上場し、事業を順調に拡大してきた。現在の発行枚数は約120万枚。会員契約数は約95万人で、香港の労働力人口(9月末時点で378万人余り)の25%に相当する。
■グループのシナジーが強み
英調査会社ユーロモニターなどによると、香港でクレジットカードを発行する約20社のうち、イオンクレアジアは発行枚数で10位以内に入る。競合である世界の金融大手との差別化を可能にしたのは、イオングループの相乗効果。そして何よりも、「日本関連のサービスでナンバー1」だと香港の消費者に認識してもらうための企業努力だ。
イオンカードを使ってイオンストアーズで買い物をすると月に数日、5%引きやポイントの付与が10倍になる特典がある。ポイントはたまれば商品券に交換でき、カードの引き落とし額への相殺に使うことも可能だ。香港全域に店舗を持ち、香港市民が日々利用するイオンストアーズで使うと「お得」であることから、市民に愛されるカードとなった。
イオンカードと提携する日本料理店で使うと5~10%引きやビールが1杯無料になるサービスも長年行っており、会員に好評だ。
■訪日もイオンカードで
日本円決済や日本での利用へのサービスでの差別化にも力を入れる。クレジットカードの外貨決済では通常約2%の手数料がかかるが、イオンクレアジアは日本円決済で自社の手数料を上乗せしないことで手数料を約1%に低減。そのかいあって「日本円決済ならイオンカードというイメージが顧客に浸透した」と深山氏は語る。
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水際対策の廃止で訪日旅行の需要が爆発的に増えることを見越して、今年5月には、日本で使えば3%のキャッシュバックが得られる「イオンカードWAKUWAKU」の発行を新たに開始。香港政府が9月26日に入境後の隔離措置を廃止し、日本政府が10月11日に外国人の個人旅行を解禁すると、日本航空(JAL)と提携して発行するイオンカードJALでのマイレージ3倍キャンペーンを開始した。
日本で同カードを使った場合、マイレージの付与は通常6HKドル(約107円)に付き1マイルだが、10月11日から12月31日までは2HKドルにつき1マイルを付与している。
訪日旅行に呼応するキャンペーンは、通常のイオンカードと「イオンカードプレミアム」でも実施。年内は日本で消費するとポイントの付与が最大20倍となる。
■ひも付けで利用頻度高める
香港金融管理局(HKMA)によると、香港のクレジットカード流通枚数は今年6月末時点で約1,963万枚。労働力人口1人当たり5枚のカードを保有する成熟市場だ。
消費者が状況に応じて何枚ものカードを使い分けている香港では「どれだけ高頻度でイオンカードを使ってもらえるか」「どれだけ多くの顧客にイオンカードをファーストカード(普段使いカード)にしてもらえるか」が事業拡大のための目標になると深山氏。決済方法の多様化、キャッシュレスへの移行というトレンドに合わせて、小口利用を取り込むための取り組みを強化している。
香港の決済市場では近年、カード式電子マネー「八達通(オクトパス)」や電子決済アプリ「アリペイHK」などプリペイド式のツールを使った決済額が2桁成長を続けている。そこでイオンクレアジアは、プリペイド式ツールとのひも付けやキャンペーンを積極的に実施する。
決済アプリ「ウィーチャットペイHK」は通常、ノンバンクカードとのひも付けは不可だが、イオンクレアジアの交渉により今年6月1日からイオンカードのひも付けが可能になった。ポイントと商品券のキャンペーンを行ったところ、10月下旬までに3万人近くがひも付けしたという。
アリペイHKでは11月11日のECの一大販促イベント「双十一」に合わせて、イオンカードでの支払いで特別割引が得られるキャンペーンを行った。カード大手JCB、ビザ、マスター、中国本土の銀聯のブランドが付いたイオンカードは、一部バスで運賃の支払いに使うことも可能。こういった取り組みを通じて、小口決済の利用を浸透させていきたい考えだ。
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