タイの脱炭素化に向けて、日タイ企業間の協力の動きが加速している。今月12日には石炭火力発電所におけるアンモニア混焼や、セメント工場における二酸化炭素(CO2)分離回収に関する検討など、4件の覚書が交わされた。事業化に当たっては、日本政府が財政面での支援を表明している。欧州主導での脱炭素の動きが進む中、アジアの実情に即したエネルギートランジションに向け、日本は官民を挙げてリーダーシップを発揮したい意向だ。
タイ発電公団(EGAT)が脱炭素化で日本との協業を期待しているメーモ石炭火力発電所=タイ・ランパン県(EGAT提供)
世界的に脱炭素の動きが加速する中、日本政府はアジアの取り組みについて、先行する欧州とは異なる独自のアプローチの必要性を訴えている。経済成長が続く東南アジアでは、今後もエネルギー需要の拡大が続くとみられる。国際エネルギー機関(IEA)は、東南アジアでは、2050年までに石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽などの加工されない状態で供給される一次エネルギーに対する需要が現行に比べて5割程度増加すると予想。このうち約7~8割を石油や石炭の化石燃料が占めるとみている。安価な電気を必要とする東南アジアでは、今後も化石燃料に頼らざるを得ないのが実情だ。
日本政府は21年5月、アジア各国の実情を踏まえた現実的なトランジションに向けた支援パッケージとして、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を提案。アジア各国のエネルギートランジションに向けたロードマップ(行程表)策定の支援や、再エネ・省エネ、水素、アンモニア、液化天然ガス(LNG)、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)などのプロジェクトに対して、総額100億米ドル(約1兆2,960億円)のファイナンス支援が柱だ。
タイ政府は、50年の炭素中立および65年のネットゼロ達成を宣言しており、経済成長を維持しつつ、脱炭素を進めるため、水素や燃料アンモニアをはじめとする脱炭素技術に関する日本との協力の強化が期待されている。日系企業が約6,000社進出するなど、日本との関係の深いタイは、重要なパートナー国であり、AETIにおけるロードマップ策定支援の次の段階である「官民ビジネスマッチング」に初めて到達した国でもある。昨年10月には、タイの首都バンコクで日本の経済産業省とタイのエネルギー省の主催による「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」を開催。こうしたイベントは初めての開催であり、経産省資源エネルギー庁の担当者は、「アジアの脱炭素化を進める上で、日本がタイをいかに重要視しているかの表れと言える」と話した。
■アンモニア混焼などで4件の覚書
タイとの官民ビジネスマッチングへの到達を受けて、昨年以降、企業間の協力の動きが加速している。
今月12日には、カーボンニュートラルに向けた4件の協力覚書がバンコクで交わされた。署名された覚書は、◇民間発電会社エレクトリシティー・ジェネレーティング(EGCO)の脱炭素化に向けたロードマップ策定やアンモニア混焼の共同検討開始◇BLCP石炭火力発電所におけるアンモニア混焼に向けた技術適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討◇同発電所におけるCO2分離回収・利用技術の適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討◇セメント工場排ガスからのCO2分離回収・利用技術の導入に向けた協業——の4件。
このうち、「BLCP石炭火力発電所におけるアンモニア混焼に向けた技術適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討」では、東部ラヨーン県のBLCP石炭火力発電所(出力1,434メガワット)における最大20%の混焼に向けて、技術適用や経済性評価、CO2削減計画などを検討する。
三菱重工がアンモニア混焼に必要なアンモニアバーナーをはじめとするボイラーの装置・機器の検討、供給に関する調査を担う。JERAは燃料アンモニアの調達・搬送、JERAと三菱商事が港湾設備・アンモニア受け入れ・貯蔵設備などについて検討を行うことで、燃料の調達から活用までの一連のバリューチェーン構築を視野に事業化調査(FS)を進めることになっている。
一方、「セメント工場排ガスからのCO2分離回収・利用技術の導入に向けた協業」では、日鉄エンジニアリングが素材最大手サイアム・セメント(SCG)などと、タイ国内および東南アジア周辺国のセメント工場排ガスからのCCUS導入に向けて協力する。SCGが保有するセメント工場に、日鉄エンジニアリングのCO2回収技術「ESCAP」を導入。セメントキルン(回転式の窯)の排ガスから分離回収したCO2を、水電解装置で製造した水素と反応させることで、合成メタンを製造し、セメント工場内で石炭燃料の代替エネルギーとして利用することを目指す。
■自動車産業でも連携の動き
脱炭素化に向けた日タイ間の連携の動きは、自動車産業でも進んでいる。日産自動車のタイ法人、タイ日産自動車(NMT)は昨年10月、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術「Vehicle to Grid(V2G)」に関する実証で、タイ発電公団(EGAT)と協力覚書を交わした。
日産のEV「リーフ」とEGATが設置する充放電スタンドを使って、日射量の多い昼間など、再生可能エネルギーの発電量が多くなる時間帯には、EVの蓄電池に充電し、夕方など電力需要が伸びる時間帯には、蓄電池から放電することで、EVの蓄電池を使った電力需給バランス調整機能としての実現可能性を検証する。40キロワット時(kWh)バッテリーを搭載するリーフは、フル充電で一般世帯の2~3日分の電力を供給することができる。
タイ日産自動車は電気自動車などの蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術の実証でタイ発電公団(EGAT)と協力している(同社提供)
一方、昨年12月には、トヨタ自動車の豊田章男社長がタイを訪れ、タイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループとカーボンニュートラルの達成に向けた協力覚書を交わした。両社は、◇家畜のふん尿などからのバイオガスを活用した水素生産◇CPグループの輸送用トラックへの燃料電池車(FCV)を始めとした環境車の積極的な導入◇コネクティビティー技術を使った運送ルートの最適化による物流の効率化——で協力する。これらの取り組みを相互に関連させることで、エネルギーを「つくる」「はこぶ」「つかう」のプロセス全体の一気通貫でCO2削減を進めるとしている。
取り組みには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の社会実装・普及を加速させるために、トヨタのほか、いすゞ自動車、スズキ、ダイハツ工業が設立した合弁会社「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」も参画する。
昨年から本格化したタイの脱炭素化に向けた日タイ企業間の協力の動きについて、資源エネルギー庁の担当者は「今後さらにタイや東南アジア諸国連合(ASEAN)地域における日本企業と現地企業の具体的な協力案件が創出されることを期待している」と話した。
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世界的に脱炭素の動きが加速する中、日本政府はアジアの取り組みについて、先行する欧州とは異なる独自のアプローチの必要性を訴えている。経済成長が続く東南アジアでは、今後もエネルギー需要の拡大が続くとみられる。国際エネルギー機関(IEA)は、東南アジアでは、2050年までに石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽などの加工されない状態で供給される一次エネルギーに対する需要が現行に比べて5割程度増加すると予想。このうち約7~8割を石油や石炭の化石燃料が占めるとみている。安価な電気を必要とする東南アジアでは、今後も化石燃料に頼らざるを得ないのが実情だ。
日本政府は21年5月、アジア各国の実情を踏まえた現実的なトランジションに向けた支援パッケージとして、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)」を提案。アジア各国のエネルギートランジションに向けたロードマップ(行程表)策定の支援や、再エネ・省エネ、水素、アンモニア、液化天然ガス(LNG)、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)などのプロジェクトに対して、総額100億米ドル(約1兆2,960億円)のファイナンス支援が柱だ。
タイ政府は、50年の炭素中立および65年のネットゼロ達成を宣言しており、経済成長を維持しつつ、脱炭素を進めるため、水素や燃料アンモニアをはじめとする脱炭素技術に関する日本との協力の強化が期待されている。日系企業が約6,000社進出するなど、日本との関係の深いタイは、重要なパートナー国であり、AETIにおけるロードマップ策定支援の次の段階である「官民ビジネスマッチング」に初めて到達した国でもある。昨年10月には、タイの首都バンコクで日本の経済産業省とタイのエネルギー省の主催による「日タイエネルギー官民ビジネスフォーラム」を開催。こうしたイベントは初めての開催であり、経産省資源エネルギー庁の担当者は、「アジアの脱炭素化を進める上で、日本がタイをいかに重要視しているかの表れと言える」と話した。
■アンモニア混焼などで4件の覚書
タイとの官民ビジネスマッチングへの到達を受けて、昨年以降、企業間の協力の動きが加速している。
今月12日には、カーボンニュートラルに向けた4件の協力覚書がバンコクで交わされた。署名された覚書は、◇民間発電会社エレクトリシティー・ジェネレーティング(EGCO)の脱炭素化に向けたロードマップ策定やアンモニア混焼の共同検討開始◇BLCP石炭火力発電所におけるアンモニア混焼に向けた技術適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討◇同発電所におけるCO2分離回収・利用技術の適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討◇セメント工場排ガスからのCO2分離回収・利用技術の導入に向けた協業——の4件。
このうち、「BLCP石炭火力発電所におけるアンモニア混焼に向けた技術適用や経済性評価、CO2削減計画などの検討」では、東部ラヨーン県のBLCP石炭火力発電所(出力1,434メガワット)における最大20%の混焼に向けて、技術適用や経済性評価、CO2削減計画などを検討する。
三菱重工がアンモニア混焼に必要なアンモニアバーナーをはじめとするボイラーの装置・機器の検討、供給に関する調査を担う。JERAは燃料アンモニアの調達・搬送、JERAと三菱商事が港湾設備・アンモニア受け入れ・貯蔵設備などについて検討を行うことで、燃料の調達から活用までの一連のバリューチェーン構築を視野に事業化調査(FS)を進めることになっている。
一方、「セメント工場排ガスからのCO2分離回収・利用技術の導入に向けた協業」では、日鉄エンジニアリングが素材最大手サイアム・セメント(SCG)などと、タイ国内および東南アジア周辺国のセメント工場排ガスからのCCUS導入に向けて協力する。SCGが保有するセメント工場に、日鉄エンジニアリングのCO2回収技術「ESCAP」を導入。セメントキルン(回転式の窯)の排ガスから分離回収したCO2を、水電解装置で製造した水素と反応させることで、合成メタンを製造し、セメント工場内で石炭燃料の代替エネルギーとして利用することを目指す。
■自動車産業でも連携の動き
脱炭素化に向けた日タイ間の連携の動きは、自動車産業でも進んでいる。日産自動車のタイ法人、タイ日産自動車(NMT)は昨年10月、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術「Vehicle to Grid(V2G)」に関する実証で、タイ発電公団(EGAT)と協力覚書を交わした。
日産のEV「リーフ」とEGATが設置する充放電スタンドを使って、日射量の多い昼間など、再生可能エネルギーの発電量が多くなる時間帯には、EVの蓄電池に充電し、夕方など電力需要が伸びる時間帯には、蓄電池から放電することで、EVの蓄電池を使った電力需給バランス調整機能としての実現可能性を検証する。40キロワット時(kWh)バッテリーを搭載するリーフは、フル充電で一般世帯の2~3日分の電力を供給することができる。
[caption id="attachment_11339" align="aligncenter" width="620"]タイ日産自動車は電気自動車などの蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術の実証でタイ発電公団(EGAT)と協力している(同社提供)[/caption]
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取り組みには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の社会実装・普及を加速させるために、トヨタのほか、いすゞ自動車、スズキ、ダイハツ工業が設立した合弁会社「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT)」も参画する。
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