タイで日本型高等専門学校(高専)の教育制度を初めて導入したモンクット王工科大学ラカバン校付属高等専門学校(KOSEN—KMITL)が、エンジニアの育成に本腰を入れる。人工知能(AI)を使った画像・映像解析を手がけるスタートアップ企業、ニューラルポケット(東京都千代田区)と連携し、AIエンジニアやデータサイエンティストを養成する。タイ政府肝いりの産業高度化政策「タイランド4.0」を人材面で支援する。
KOSEN—KMITLとニューラルグループ(タイランド)は連携協定を結んだ。右が竹中CEO=4月27日、タイ・バンコク(NNA撮影)
KOSEN—KMITLは4月27日、ニューラルポケットの海外連結子会社「ニューラルグループ(タイランド)」と連携協定を結んだ。ニューラルグループ(タイランド)が、同校で21年に設立されたばかりのコンピューター工学科の学生を対象に、3年生と4年生の課題研究のサポートや4年生のインターンの受け入れを実施する。同学科が民間企業と連携協定を結んだのは同社が初めて。
ニューラルポケットは、エッジと呼ばれる小さな端末でAI解析をおこなう「エッジAI」技術に強みを持つ。ニューラルグループ(タイランド)の竹中一真最高経営責任者(CEO)によると、課題研究では3年生43人が8つのチームに分かれ、半年かけて画像解析AIを活用した授業出席確認システムを各チームで考えた手法で開発するという。6週間ごとにプレゼンテーションがあり、同社の最高技術責任者(CTO)が唯一の外部アドバイザーとして出席して助言する予定だ。
竹中CEOはKOSEN—KMITLの学生について「レベルは予想以上に高い」と話す。今回の提携に先立ち、同CTOが3月に特別講義を実施したところ、参加した学生からは専門的な質問が多く寄せられたという。
■ODAの理想の形
タイ政府は、国際協力機構(JICA)との「産業人材育成事業」を対象とする円借款契約に基づいて、バンコクに高専を2校開校した。
KOSEN—KMITLはタイ初の高専として2019年に開校。卒業までの5年間、日本の高専と同水準の教育を受けることができる。学生全員がタイ政府からの奨学金を受給し、授業料や寮費、日本への留学費用などが無料となる。授業は全て英語で行う。
日本全国の高専を設置・運営する国立高等専門学校機構(東京都八王子市)から派遣された教員がタイ高専の運営と教育の支援を行っている。プロジェクト・プログラムマネジャーを務める高嶋孝明教授は「卒業時には大学の工学部レベルの専門知識を身に付けることができる」と話す。高専プロジェクトは日本政府関係者の間でも「政府開発援助(ODA)の理想の形」と評価されており、22年5月に訪タイした岸田文雄首相が唯一外部訪問した施設がKOSEN—KMITLだった。
「タイ高専はトップエリートを育成する」と話す高嶋教授(左)とコンピューター工学科の小林秀幸准教授=4月27日、タイ・バンコク(NNA撮影)
期待の大きいタイ高専だが、課題もある。高専の卒業生に与えられる学位は「短期大学士(準学士号)」であるため、学歴社会のタイでは子どもを高専に送ることに対して難色を示す父母も少なくない。さらに卒業後の進路でも学生の間では会計や法務などの「ホワイトカラー(事務職)」が好まれ、現場で汗を流すイメージの強いエンジニアは必ずしも人気の高い職種にはなっていないという。
KOSEN—KMITLに求められるのは卒業生の就職実績づくりだ。24年3月にメカトロニクス工学科の最初の卒業生が誕生する。高嶋教授が最初の受け入れ先として期待を寄せているのがタイの日系企業。高嶋教授は「製造業の集積地であるタイの日系企業の多くは日本で高専卒業生を採用している。駐在員にも高専出身者が少なくないこともあり、受け入れには前向き」と手応えを感じている様子。
タイは、労働集約的な産業ではより人件費の安い後発新興国に追い上げられている。経済成長率が鈍る「中進国の罠(わな)」からの脱却に向けては、研究開発(R&D)を担う高度なエンジニアリング人材の育成が鍵を握る。日系の製造現場からも即戦力となり、さらに将来の研究開発を担える人材としてタイ高専卒業生に対する期待が高まっているという。
ニューラルグループ(タイランド)でも今後、KOSEN—KMITLの卒業生をエンジニアとして積極的に採用していく考え。そして「採用したエンジニアが母校の後輩を指導するという、エンジニア養成のための生態系(エコシステム)を作っていきたい」(竹中CEO)という。
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ニューラルポケットは、エッジと呼ばれる小さな端末でAI解析をおこなう「エッジAI」技術に強みを持つ。ニューラルグループ(タイランド)の竹中一真最高経営責任者(CEO)によると、課題研究では3年生43人が8つのチームに分かれ、半年かけて画像解析AIを活用した授業出席確認システムを各チームで考えた手法で開発するという。6週間ごとにプレゼンテーションがあり、同社の最高技術責任者(CTO)が唯一の外部アドバイザーとして出席して助言する予定だ。
竹中CEOはKOSEN—KMITLの学生について「レベルは予想以上に高い」と話す。今回の提携に先立ち、同CTOが3月に特別講義を実施したところ、参加した学生からは専門的な質問が多く寄せられたという。
■ODAの理想の形
タイ政府は、国際協力機構(JICA)との「産業人材育成事業」を対象とする円借款契約に基づいて、バンコクに高専を2校開校した。
KOSEN—KMITLはタイ初の高専として2019年に開校。卒業までの5年間、日本の高専と同水準の教育を受けることができる。学生全員がタイ政府からの奨学金を受給し、授業料や寮費、日本への留学費用などが無料となる。授業は全て英語で行う。
日本全国の高専を設置・運営する国立高等専門学校機構(東京都八王子市)から派遣された教員がタイ高専の運営と教育の支援を行っている。プロジェクト・プログラムマネジャーを務める高嶋孝明教授は「卒業時には大学の工学部レベルの専門知識を身に付けることができる」と話す。高専プロジェクトは日本政府関係者の間でも「政府開発援助(ODA)の理想の形」と評価されており、22年5月に訪タイした岸田文雄首相が唯一外部訪問した施設がKOSEN—KMITLだった。[caption id="attachment_13186" align="aligncenter" width="620"]「タイ高専はトップエリートを育成する」と話す高嶋教授(左)とコンピューター工学科の小林秀幸准教授=4月27日、タイ・バンコク(NNA撮影)[/caption]
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KOSEN—KMITLに求められるのは卒業生の就職実績づくりだ。24年3月にメカトロニクス工学科の最初の卒業生が誕生する。高嶋教授が最初の受け入れ先として期待を寄せているのがタイの日系企業。高嶋教授は「製造業の集積地であるタイの日系企業の多くは日本で高専卒業生を採用している。駐在員にも高専出身者が少なくないこともあり、受け入れには前向き」と手応えを感じている様子。
タイは、労働集約的な産業ではより人件費の安い後発新興国に追い上げられている。経済成長率が鈍る「中進国の罠(わな)」からの脱却に向けては、研究開発(R&D)を担う高度なエンジニアリング人材の育成が鍵を握る。日系の製造現場からも即戦力となり、さらに将来の研究開発を担える人材としてタイ高専卒業生に対する期待が高まっているという。
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