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車業界に淘汰期到来へ複数社が経営不振、大手に集約

中国自動車メーカーの淘汰(とうた)が始まろうとしている。今年に入って複数の新興「新エネルギー車(NEV)」メーカーで、給与の支払い遅滞や自社販売店の閉鎖などが起きている。市場の競争が激しさを増す中、一部企業は販売低迷などを背景に資金繰りが悪化。向こう2~3年の間に自動車ブランドの6~7割が消滅するとの指摘もあり、今後は少数の有力ブランドが大部分のシェアを握る時代に突入する見通しだ。
今年経営問題が浮上しているのは、威馬汽車科技集団(WMモーター)、愛馳汽車(AIWAYS)、天際汽車科技集団(ENOVATE)、「自遊家(NIUTRON)」ブランドの江蘇牛創新能源科技、中国恒大新能源汽車集団(チャイナ・エバーグランデ・ニューエナジービークル・グループ、恒大汽車)、「雷丁(LETIN)」ブランドの雷丁汽車集団の少なくとも6社で、いずれも新興NEVメーカー。
中でも、威馬汽車の経営悪化は深刻になっている。第一財経日報(電子版)などによると、威馬汽車は既に海南省の4S(新車販売、アフターサービス、部品供給、情報フィードバック)店を全て閉鎖。威馬汽車の車両を持つ同省の住民2,000人余りはアフターサービスを受けられず、故障しても修理に回すことができない状態にあるという。
威馬汽車は2月に工場の稼働を停止していることが明らかになり、現在も生産を再開できていない。幹部を含む従業員の減給やリストラなどにも乗り出している。
愛馳汽車は4月まで2カ月連続で給与の支払いが遅れた。天際汽車は3月末に生産停止に追い込まれたと伝えられている。雷丁汽車は今月、破産申請が山東省の人民法院(地裁)に受理された。
これら企業の販売低迷は数字にはっきりと表れている。自動車業界団体の全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)によると、今年第1四半期(1~3月)の新車販売台数は、愛馳汽車が536台、天際汽車が237台だった。威馬汽車は1台も販売がなかった。
新興各社は生産能力の拡充や新型車種の開発など事業拡大を優先する中で赤字経営が続いている。愛馳汽車は海外市場に注力する経営スタイルを取っていたが、販売は低迷。今年初めにはインターネット配車サービス向けの販売を伸ばすことで国内市場の開拓に乗り出す青写真を描いたが、計画は軌道に乗っていない。
さらに大手自動車メーカーがNEV事業に本腰を入れていることや、今年から値下げの波が広がっていることも、資金力が劣る新興企業にとって大きな打撃となった。販売低迷が際立つ中、資金調達も一層難しくなっているという。
平安証券によると、新興NEVメーカーが研究開発(R&D)や販路開拓に資金を多く投入している現状下で、損益均衡を実現するためには年間800億元(約1兆5,700億円)の売上高が必要。新興勢の新車販売価格はおおむね20万~40万元で、年間20万~40万台を販売する必要があるが、20万台超えを果たした新興勢はこれまでにない。
重慶長安汽車の傘下NEVメーカー、深藍汽車科技のトウ承浩(トウ=登におおざと)・最高経営責任者(CEO)は、「人気車種を1~2種類抱えるだけでは、現在の競争環境で生き残ることはできない。メーカーは十分なキャッシュフローと競争に打ち勝つための手元資金を確保し、運営効率や品質を高め、規模を大きくする必要がある」と述べた。
■今年が転換期に
今年は自動車業界が淘汰期に入り、大手への集約が進むとの見方が多い。
信達証券は、今年以降の自動車市場の競争は3段階から成ると指摘した。第1段階は今年3~6月の値下げ競争で、第2段階では市場シェアが大手企業の自主ブランドとNEVブランドに集中し、2番手グループ以下のシェアが下がっていくと説明。第3段階では、2番手グループ以下のブランドが次第に淘汰されるとの見方を示した。
大胆な予測を示したのは長安汽車の朱華栄董事長。中国市場に現在展開されている自動車ブランドの60~70%は向こう2~3年以内に事業を停止し、3年後には60ブランド以下に減るとみている。
中国市場の自動車ブランド数は現在148ブランドで、このうち中国ブランドが114ブランド。過去3年間で75ブランドが事業を停止した。
理想汽車(Liオート)の李想董事長は、「23~25年は電気自動車(EV)メーカーの生き残りをかけた競争が発生し、大手は5社に集約される」との見方を示した。
■法務部門設置の動き
中国自動車業界では、社内に法務部門を設置する動きが相次いでいる。デマやフェイクニュースに対応するのが狙いだ。
比亜迪(BYD)と吉利汽車はそれぞれ現在までにフェイクニュースに対応する新部署を設置。長城汽車は3月からネット上のデマ排除に乗り出し、情報提供者などへの報奨金として1,000万元の予算を計上した。上海蔚来汽車(NIO)や浙江零ホウ科技(ホウ=足へんに包、零ホウ汽車)など大半の新興NEVメーカーも法務部門を設け、自社の声明を発表する体制を整えた。
最近はうその情報で自社の評判を傷つけられたなどとして、各社の法務部門がインフルエンサーらを訴える案件が急増。直近1年を見ても、米テスラが中国のインフルエンサーを相手取って500万元の損害賠償を求めた裁判があり、テスラ側が数十万元の賠償金を得た。BYDや長城汽車、長安汽車、蔚来汽車、零ホウ汽車なども同様に、100万~500万元の損害賠償を求める裁判を起こした。
NEV市場が成長するにつれ、業界を代表する企業への注目度は上昇。自身のファンを増やそうと、虚偽でも刺激的な内容を交流サイト(SNS)に投稿するインフルエンサーが増えているという。企業側も市場競争が激化する中で、消費者の自社離れを防ごうとブランドイメージを守る動きを強めている。
中国自動車工業協会は3月、他社に関するデマの流布とネガティブキャンペーンを行わないよう提唱する決議を採択。会員のメーカー14社が決議に賛同した。

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今年経営問題が浮上しているのは、威馬汽車科技集団(WMモーター)、愛馳汽車(AIWAYS)、天際汽車科技集団(ENOVATE)、「自遊家(NIUTRON)」ブランドの江蘇牛創新能源科技、中国恒大新能源汽車集団(チャイナ・エバーグランデ・ニューエナジービークル・グループ、恒大汽車)、「雷丁(LETIN)」ブランドの雷丁汽車集団の少なくとも6社で、いずれも新興NEVメーカー。
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威馬汽車は2月に工場の稼働を停止していることが明らかになり、現在も生産を再開できていない。幹部を含む従業員の減給やリストラなどにも乗り出している。
愛馳汽車は4月まで2カ月連続で給与の支払いが遅れた。天際汽車は3月末に生産停止に追い込まれたと伝えられている。雷丁汽車は今月、破産申請が山東省の人民法院(地裁)に受理された。
これら企業の販売低迷は数字にはっきりと表れている。自動車業界団体の全国乗用車市場信息聯席会(CPCA)によると、今年第1四半期(1~3月)の新車販売台数は、愛馳汽車が536台、天際汽車が237台だった。威馬汽車は1台も販売がなかった。
新興各社は生産能力の拡充や新型車種の開発など事業拡大を優先する中で赤字経営が続いている。愛馳汽車は海外市場に注力する経営スタイルを取っていたが、販売は低迷。今年初めにはインターネット配車サービス向けの販売を伸ばすことで国内市場の開拓に乗り出す青写真を描いたが、計画は軌道に乗っていない。
さらに大手自動車メーカーがNEV事業に本腰を入れていることや、今年から値下げの波が広がっていることも、資金力が劣る新興企業にとって大きな打撃となった。販売低迷が際立つ中、資金調達も一層難しくなっているという。
平安証券によると、新興NEVメーカーが研究開発(R&D)や販路開拓に資金を多く投入している現状下で、損益均衡を実現するためには年間800億元(約1兆5,700億円)の売上高が必要。新興勢の新車販売価格はおおむね20万~40万元で、年間20万~40万台を販売する必要があるが、20万台超えを果たした新興勢はこれまでにない。
重慶長安汽車の傘下NEVメーカー、深藍汽車科技のトウ承浩(トウ=登におおざと)・最高経営責任者(CEO)は、「人気車種を1~2種類抱えるだけでは、現在の競争環境で生き残ることはできない。メーカーは十分なキャッシュフローと競争に打ち勝つための手元資金を確保し、運営効率や品質を高め、規模を大きくする必要がある」と述べた。
■今年が転換期に
今年は自動車業界が淘汰期に入り、大手への集約が進むとの見方が多い。
信達証券は、今年以降の自動車市場の競争は3段階から成ると指摘した。第1段階は今年3~6月の値下げ競争で、第2段階では市場シェアが大手企業の自主ブランドとNEVブランドに集中し、2番手グループ以下のシェアが下がっていくと説明。第3段階では、2番手グループ以下のブランドが次第に淘汰されるとの見方を示した。
大胆な予測を示したのは長安汽車の朱華栄董事長。中国市場に現在展開されている自動車ブランドの60~70%は向こう2~3年以内に事業を停止し、3年後には60ブランド以下に減るとみている。
中国市場の自動車ブランド数は現在148ブランドで、このうち中国ブランドが114ブランド。過去3年間で75ブランドが事業を停止した。
理想汽車(Liオート)の李想董事長は、「23~25年は電気自動車(EV)メーカーの生き残りをかけた競争が発生し、大手は5社に集約される」との見方を示した。
■法務部門設置の動き
中国自動車業界では、社内に法務部門を設置する動きが相次いでいる。デマやフェイクニュースに対応するのが狙いだ。
比亜迪(BYD)と吉利汽車はそれぞれ現在までにフェイクニュースに対応する新部署を設置。長城汽車は3月からネット上のデマ排除に乗り出し、情報提供者などへの報奨金として1,000万元の予算を計上した。上海蔚来汽車(NIO)や浙江零ホウ科技(ホウ=足へんに包、零ホウ汽車)など大半の新興NEVメーカーも法務部門を設け、自社の声明を発表する体制を整えた。
最近はうその情報で自社の評判を傷つけられたなどとして、各社の法務部門がインフルエンサーらを訴える案件が急増。直近1年を見ても、米テスラが中国のインフルエンサーを相手取って500万元の損害賠償を求めた裁判があり、テスラ側が数十万元の賠償金を得た。BYDや長城汽車、長安汽車、蔚来汽車、零ホウ汽車なども同様に、100万~500万元の損害賠償を求める裁判を起こした。
NEV市場が成長するにつれ、業界を代表する企業への注目度は上昇。自身のファンを増やそうと、虚偽でも刺激的な内容を交流サイト(SNS)に投稿するインフルエンサーが増えているという。企業側も市場競争が激化する中で、消費者の自社離れを防ごうとブランドイメージを守る動きを強めている。
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