マレーシアのゴルフ用品小売り大手、MSTゴルフが東南アジア諸国連合(ASEAN)域内での展開を加速する。同社は7月20日にマレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)での新規株式公開(IPO)を予定しており、上場で調達する資金の9割を域内事業などの強化に充てる計画だ。東南アジア各国では、新型コロナウイルスの流行期に新たにプレーを始めた若年層を中心にゴルフ人口が拡大している。同社の共同創業者でもあるウン・ヤップ最高経営責任者(CEO)に今後の展望について聞いた。
上場で調達する資金の大半を東南アジア事業の強化に費やすと話すMSTゴルフのウン・ヤップCEO=6月、クアラルンプール(NNA撮影)
——7月20日にブルサ・マレーシアのメイン市場上場を予定している。
今回のIPOでは、当社の普通株式2億2,800万株を売り出し、最大1億2,960万リンギ(約40億円)を調達する見込みだ。調達額の4割強は、今後3年間の新市場開拓に充てる。
——インドネシア事業進出に向けて、このほど現地企業と合弁設立契約を結んだ。
世界第4位の人口を抱えるインドネシアは、若年層と中間層の拡大で経済成長が著しく、購買力の高さからもゴルフ用品業界にとって魅力ある市場だ。ちょうどマレーシアの20~30年前の状況に似ており、非常に伸びしろがある。
当社は長年、インドネシアでゴルフ用品の卸売りを手がけてきた。同国での卸売事業は、新型コロナ下の2021年に前年比3.8倍の大幅な成長を遂げ、22年も22.5%増と堅調な伸びを見せている。
一方、合弁相手のインドネシア企業、シナール・エカ・スララスは現地で通信機器、コンピューターなどの電気機器を取り扱う上場企業、エラジャヤ・スワスンバダの子会社だ。ライフスタイル製品の大手小売業者として、インドネシア消費者の動向をつかんでいる。
インドネシアでは24年に小売店舗を2店、25年にはインドアゴルフコースを備えた店舗「MSTゴルフ・アリーナ」を初めて開業する計画だ。26年までに同国で6店の展開を目指す。
——ASEANの成長市場について。
インドネシア以外では、タイとベトナムが有望だとみている。タイでは24年に小売店舗を2店、ベトナムでは25年に2店を開業する計画だ。
タイは東南アジアでのゴルフツーリズムの中心地として数多くのゴルフ場があり、世界中のゴルファーが集う。また、タイの人々は余暇としてだけでなく「スポーツ」としてのゴルフにも関心が高く、タイ出身の母を持つタイガー・ウッズをアイコンとして、プロゴルファーを目指す若者も多数見受けられる。
ただ、ゴルフ用品は百貨店での販売が中心で売り場がメーカー別に展開されており、ユーザーのニーズを捉え切れているとは言いがたい。数多くのブランドを取りそろえ、購入者に最適な用品をアドバイスできるMSTゴルフは、専門店としての強みを発揮できるはずだ。
一方、ベトナムは経済成長が著しく、ゴルフ場の新規開発ペースは世界有数の規模だ。政府がゴルフツーリズム振興に乗り出しており、今後に期待が持てる市場といえる。
インドネシア、タイ、ベトナムの3カ国で、26年までに合計16店の出店を目指していく。
——シンガポールとマレーシアの現状はどうか。
マレーシアでは現在35店、シンガポールでは7店を運営している。成熟した市場だが、潜在的な顧客層を開拓する余地はあると考えている。今回調達する資金の最大の用途はマレーシアおよびシンガポールでの事業拡大で、48%を占める。マレーシアの未出店エリアを中心に3年間で15店を追加し、10店を改装する予定だ。
シンガポールの店舗ではこのところ、中国から移住した新たな富裕層によって高価格帯商品の販売が急増した。同国政府は再開発のために一部ゴルフ場の閉鎖を計画しており、国境を接するマレーシアのジョホール州へゴルファーが流入する動きが強まるだろう。
潜在顧客層の掘り起こしに向けた戦略の一つが、マレーシアで進めている「MSTゴルフ・アリーナ」の開設だ。
先進国ではよく見られるビジネスモデルだが、小売店とシミュレーションゴルフとカフェ・バーを組み合わせた業態で、首都クアラルンプールの「ザ・ガーデンズ・モール」のほか、このほどペナン州でも開業した。首都圏の人気商業施設「ワンウタマ・ショッピングセンター」や商業施設運営大手のサンウエー・モールズからも引き合いがある。当社の顧客の多くはイスラム教徒(ムスリム)のマレー系で、インドアゴルフコースはムスリムにも人気だ。マレーシアで新規出店を予定している15店のうち、5店はインドアゴルフコースを備えた店舗になる。
アクセスの良いショッピングモール内にインドアゴルフコースを設けることで、ゴルフを始めようとする初心者の心理的ハードルを低くしている。シミュレーションゴルフをきっかけにゴルフの楽しさを知り、コースデビューを果たし、次第に用具にもこだわりたくなるというように、初心者から上級者まで、ひとつ屋根の下であらゆるゴルファーのニーズをかなえる店舗づくりを目指している。
——女性のゴルフ参加率は世界全体でプレーヤー全体の23%程度に過ぎない。女性の取り込みに向けた施策は。
女性ゴルファー向けに会員プログラムを提供し、ターゲットを絞った販促やトレンド分析を行っている。また、インドアゴルフコースは、日差しのきつい屋外でのプレーをためらう女性の取り込みにもつながっている。
女性向け商品を増やしてほしいという声は根強く、店頭では韓国のトレンドを参考に女性向けのゴルフアパレルや用品の売り場拡大にも取り組んでいる。当社のカスタムクラブフィッティングサービスは、女性ゴルファーが個々のスイング特性、体形、プレースタイルに合った適切なクラブを見つけることができると好評を博している。
MSTゴルフは6月28日、ブルサ上場に向けた上場目論見書を発表した=クアラルンプール(NNA撮影)
——今後の成長見通しは。
世界的な流れとして、インフルエンサーの影響を受けた若年ゴルファーが増加している。新型コロナ下でも、屋外でプレーするゴルフは社会的距離を保ちやすいとして人気を集めた。22年度の当社の売上高は前年度比45.7%増の3億88万リンギに拡大し、粗利益ベースでは53.8%増の1億2,920万リンギに達した。今後も域内各国で積極的な事業展開を続けることで、パンデミック(世界的大流行)中の勢いを維持することができると考えている。(聞き手=Charlotte Chong、降旗愛子)
<メモ> MSTゴルフ
1989年創業。米国から輸入した中古クラブの販売を皮切りに、91年にクアラルンプール市内のタマントゥンドクターイスマイル(TTDI)に1号店をオープン。ゴルフ用品販売店「MSTゴルフ」、小売店舗にインドアゴルフコースを備えた「MSTゴルフ・アリーナ」を展開している。
英国のスポーツ用品販売大手「スポーツ・ダイレクト」ともマレーシア国内の小売事業で提携している。
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今回のIPOでは、当社の普通株式2億2,800万株を売り出し、最大1億2,960万リンギ(約40億円)を調達する見込みだ。調達額の4割強は、今後3年間の新市場開拓に充てる。
——インドネシア事業進出に向けて、このほど現地企業と合弁設立契約を結んだ。
世界第4位の人口を抱えるインドネシアは、若年層と中間層の拡大で経済成長が著しく、購買力の高さからもゴルフ用品業界にとって魅力ある市場だ。ちょうどマレーシアの20~30年前の状況に似ており、非常に伸びしろがある。
当社は長年、インドネシアでゴルフ用品の卸売りを手がけてきた。同国での卸売事業は、新型コロナ下の2021年に前年比3.8倍の大幅な成長を遂げ、22年も22.5%増と堅調な伸びを見せている。
一方、合弁相手のインドネシア企業、シナール・エカ・スララスは現地で通信機器、コンピューターなどの電気機器を取り扱う上場企業、エラジャヤ・スワスンバダの子会社だ。ライフスタイル製品の大手小売業者として、インドネシア消費者の動向をつかんでいる。
インドネシアでは24年に小売店舗を2店、25年にはインドアゴルフコースを備えた店舗「MSTゴルフ・アリーナ」を初めて開業する計画だ。26年までに同国で6店の展開を目指す。
——ASEANの成長市場について。
インドネシア以外では、タイとベトナムが有望だとみている。タイでは24年に小売店舗を2店、ベトナムでは25年に2店を開業する計画だ。
タイは東南アジアでのゴルフツーリズムの中心地として数多くのゴルフ場があり、世界中のゴルファーが集う。また、タイの人々は余暇としてだけでなく「スポーツ」としてのゴルフにも関心が高く、タイ出身の母を持つタイガー・ウッズをアイコンとして、プロゴルファーを目指す若者も多数見受けられる。
ただ、ゴルフ用品は百貨店での販売が中心で売り場がメーカー別に展開されており、ユーザーのニーズを捉え切れているとは言いがたい。数多くのブランドを取りそろえ、購入者に最適な用品をアドバイスできるMSTゴルフは、専門店としての強みを発揮できるはずだ。
一方、ベトナムは経済成長が著しく、ゴルフ場の新規開発ペースは世界有数の規模だ。政府がゴルフツーリズム振興に乗り出しており、今後に期待が持てる市場といえる。
インドネシア、タイ、ベトナムの3カ国で、26年までに合計16店の出店を目指していく。
——シンガポールとマレーシアの現状はどうか。
マレーシアでは現在35店、シンガポールでは7店を運営している。成熟した市場だが、潜在的な顧客層を開拓する余地はあると考えている。今回調達する資金の最大の用途はマレーシアおよびシンガポールでの事業拡大で、48%を占める。マレーシアの未出店エリアを中心に3年間で15店を追加し、10店を改装する予定だ。
シンガポールの店舗ではこのところ、中国から移住した新たな富裕層によって高価格帯商品の販売が急増した。同国政府は再開発のために一部ゴルフ場の閉鎖を計画しており、国境を接するマレーシアのジョホール州へゴルファーが流入する動きが強まるだろう。
潜在顧客層の掘り起こしに向けた戦略の一つが、マレーシアで進めている「MSTゴルフ・アリーナ」の開設だ。
先進国ではよく見られるビジネスモデルだが、小売店とシミュレーションゴルフとカフェ・バーを組み合わせた業態で、首都クアラルンプールの「ザ・ガーデンズ・モール」のほか、このほどペナン州でも開業した。首都圏の人気商業施設「ワンウタマ・ショッピングセンター」や商業施設運営大手のサンウエー・モールズからも引き合いがある。当社の顧客の多くはイスラム教徒(ムスリム)のマレー系で、インドアゴルフコースはムスリムにも人気だ。マレーシアで新規出店を予定している15店のうち、5店はインドアゴルフコースを備えた店舗になる。
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——女性のゴルフ参加率は世界全体でプレーヤー全体の23%程度に過ぎない。女性の取り込みに向けた施策は。
女性ゴルファー向けに会員プログラムを提供し、ターゲットを絞った販促やトレンド分析を行っている。また、インドアゴルフコースは、日差しのきつい屋外でのプレーをためらう女性の取り込みにもつながっている。
女性向け商品を増やしてほしいという声は根強く、店頭では韓国のトレンドを参考に女性向けのゴルフアパレルや用品の売り場拡大にも取り組んでいる。当社のカスタムクラブフィッティングサービスは、女性ゴルファーが個々のスイング特性、体形、プレースタイルに合った適切なクラブを見つけることができると好評を博している。
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1989年創業。米国から輸入した中古クラブの販売を皮切りに、91年にクアラルンプール市内のタマントゥンドクターイスマイル(TTDI)に1号店をオープン。ゴルフ用品販売店「MSTゴルフ」、小売店舗にインドアゴルフコースを備えた「MSTゴルフ・アリーナ」を展開している。
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