ベトナムで海外直接投資(FDI)の誘致政策を取りまとめる計画投資省外国投資局(FIA)のドー・ニャット・ホアン局長はNNAとの単独インタビューで、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーなど脱炭素化に寄与する新分野への日本からの投資に期待を表明した。許認可などの行政手続きが停滞し外資系企業の不満が高まっていることについては「外国企業の心理に悪影響を与えていることは認識している」として、政府として手続きの簡素化や関連法令の改正に取り組んでいることを強調した。
NNAとのインタビューで裾野産業に対する日本からの投資拡大に期待を示すホアン氏=6月29日、ハノイ
2023年は日本とベトナムが外交関係を樹立してから50周年の節目に当たる。ホアン氏はそれを機にインタビューに応じ、日本企業の役割に期待を示した。主なやりとりは次の通り。
■「プラスワン」の受け皿に
——近年ベトナムは日本企業の有望な投資先として常に上位に位置している。日本企業の期待の要因を、ベトナム側はどう認識しているか。
非常に良好な日越の外交関係に支えられ、日本企業が安心して事業を展開できていることが大きな要因だ。ベトナム政府としては日本企業に敬意を払い、投資環境の改善に向けた努力を続けてきた。
ベトナムの投資先としての魅力は政治の安定、豊富な労働力に支えられた生産コストの優位性、中間層の増加による国内市場の発展、(自由貿易協定=FTAなどを通じた)世界経済への統合の進展、市場開放政策や投資優遇策の実施、中国と東南アジアを結ぶ地理的な優位性と数多くある。
——中国の周辺国へ分散投資する経営戦略「チャイナプラスワン」の動きが欧米や日本企業の間で活発だ。ベトナムの海外直接投資にどの程度の影響を及ぼしているか。
14億人の人口を持つ中国が企業にとって有望な巨大市場であることに変わりはない。ただ近年は、貿易摩擦の激化やコロナ禍によるサプライチェーン(供給網)の分断、中国での人件費上昇などの影響で、多国籍企業の間で事業の多角化や柔軟性の強化を目的としたチャイナプラスワンの動きが広がっている。
ベトナムは中国の隣国という地理的優位性があり、近年さまざまな改革を実施してきた。サプライチェーンを中国からベトナムに拡大して最適化しようとするチャイナプラスワンは、適切な戦略だと考えている。
■手続き簡素化、首相が指導
——行政手続きの遅れが深刻化しているとの懸念が日本だけでなく多くの外資企業の間で高まっている。日本の円借款で建設が進むホーチミン市の都市鉄道1号線の開通見込みが当初の予定から10年近く遅れているのが典型だ。遅れの原因は何か。また政府としてどのような対応を進めるつもりか。
ホーチミン都市鉄道1号線の建設はホーチミン市当局が所管しており、FIAは管轄外だが、幅広い分野で手続きの遅れが企業に悪い影響を与えていることは認識している。原因についてはさまざまだ。一部の分野では、外資を呼び込むための法令が未整備なために関係省庁の協議が必要となり、手続きに時間がかかっている。規制を急に変更して投資家を困惑させていることもある。建築物の防火・防災基準や外国人の労働許可証(ワークパーミット)の発給基準が厳格過ぎる問題も指摘されている。
こうした課題を解決するため、ファム・ミン・チン首相は法令改正による重複部分の整理や手続きの簡略化、オンライン化の推進を指示している。防火・防災基準を実情に合わせて緩和する指示もあった。労働許可証の手続き改正も現在検討を進めている。
ベトナム政府は企業の声を聞くため、中央・地方レベルで定期的に対話を行っている。日本企業との間ではベトナムの投資環境整備のための対話枠組み「日越共同イニシアチブ」を活用して、政策課題を把握して問題解決に取り組んでいる。
■裾野産業への進出に期待
——今後、日本企業に投資を期待する分野は。
政府の基本的方針として、ハイテクやクリーン技術、国内企業に波及効果がある事業などを選択的に誘致している。ベトナムがグローバルなバリューチェーンに参入するのに資する案件を歓迎している。
日本の企業の強みは、製造業や裾野産業、電子、デジタル、環境、スマートシティーなどだと認識している。こうした分野にぜひ進出してほしい。
——裾野産業とは具体的にどの分野か。日本企業は自動車分野では既にタイやインドネシアでサプライチェーンを形成している。
裾野産業は全ての産業の基盤だ。(ベトナムが得意とする)電子や機械製造分野で、組み立てだけでなく裾野産業を育成する必要がある。
今後はEVや再生可能エネルギー分野の裾野産業が重要になる。EV化や再エネ化という世界の大きな流れにベトナムも乗ろうとしている。政府は50年までのカーボンニュートラル(炭素中立)を国際公約にしている。実現のためにもEVや蓄電池、太陽光パネルや風力発電設備の部品を供給する裾野産業が求められてくる。
■国際最低税率、対応策を10月国会に提案へ
——多国籍企業を対象にした国際最低税率課税(グローバルミニマム課税)制度の適用が24年から始まる。制度が最低税率として定める15%以上に税率を引き上げれば、税制優遇を活用した外資誘致に影響が出かねない。政府はどのような対策を考えているか。
計画投資省と財務省が協力して対応を検討している。投資家や国家の利益を守りながら、制度の規定に違反しない範囲で取れる対策案を今年10月に始まる国会に提出する予定だ。
<プロフィル>
ドー・ニャット・ホアン(Do Nhat Hoang) 法学博士。計画投資省法務部次長などを経て2010年からFIA局長。国内外でベトナムへの投資誘致活動を進めるとともに、外資との積極的な対話を通じて投資環境の改善に取り組んでいる。57歳。
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——近年ベトナムは日本企業の有望な投資先として常に上位に位置している。日本企業の期待の要因を、ベトナム側はどう認識しているか。
非常に良好な日越の外交関係に支えられ、日本企業が安心して事業を展開できていることが大きな要因だ。ベトナム政府としては日本企業に敬意を払い、投資環境の改善に向けた努力を続けてきた。
ベトナムの投資先としての魅力は政治の安定、豊富な労働力に支えられた生産コストの優位性、中間層の増加による国内市場の発展、(自由貿易協定=FTAなどを通じた)世界経済への統合の進展、市場開放政策や投資優遇策の実施、中国と東南アジアを結ぶ地理的な優位性と数多くある。
——中国の周辺国へ分散投資する経営戦略「チャイナプラスワン」の動きが欧米や日本企業の間で活発だ。ベトナムの海外直接投資にどの程度の影響を及ぼしているか。
14億人の人口を持つ中国が企業にとって有望な巨大市場であることに変わりはない。ただ近年は、貿易摩擦の激化やコロナ禍によるサプライチェーン(供給網)の分断、中国での人件費上昇などの影響で、多国籍企業の間で事業の多角化や柔軟性の強化を目的としたチャイナプラスワンの動きが広がっている。
ベトナムは中国の隣国という地理的優位性があり、近年さまざまな改革を実施してきた。サプライチェーンを中国からベトナムに拡大して最適化しようとするチャイナプラスワンは、適切な戦略だと考えている。
■手続き簡素化、首相が指導
——行政手続きの遅れが深刻化しているとの懸念が日本だけでなく多くの外資企業の間で高まっている。日本の円借款で建設が進むホーチミン市の都市鉄道1号線の開通見込みが当初の予定から10年近く遅れているのが典型だ。遅れの原因は何か。また政府としてどのような対応を進めるつもりか。
ホーチミン都市鉄道1号線の建設はホーチミン市当局が所管しており、FIAは管轄外だが、幅広い分野で手続きの遅れが企業に悪い影響を与えていることは認識している。原因についてはさまざまだ。一部の分野では、外資を呼び込むための法令が未整備なために関係省庁の協議が必要となり、手続きに時間がかかっている。規制を急に変更して投資家を困惑させていることもある。建築物の防火・防災基準や外国人の労働許可証(ワークパーミット)の発給基準が厳格過ぎる問題も指摘されている。
こうした課題を解決するため、ファム・ミン・チン首相は法令改正による重複部分の整理や手続きの簡略化、オンライン化の推進を指示している。防火・防災基準を実情に合わせて緩和する指示もあった。労働許可証の手続き改正も現在検討を進めている。
ベトナム政府は企業の声を聞くため、中央・地方レベルで定期的に対話を行っている。日本企業との間ではベトナムの投資環境整備のための対話枠組み「日越共同イニシアチブ」を活用して、政策課題を把握して問題解決に取り組んでいる。
■裾野産業への進出に期待
——今後、日本企業に投資を期待する分野は。
政府の基本的方針として、ハイテクやクリーン技術、国内企業に波及効果がある事業などを選択的に誘致している。ベトナムがグローバルなバリューチェーンに参入するのに資する案件を歓迎している。
日本の企業の強みは、製造業や裾野産業、電子、デジタル、環境、スマートシティーなどだと認識している。こうした分野にぜひ進出してほしい。
——裾野産業とは具体的にどの分野か。日本企業は自動車分野では既にタイやインドネシアでサプライチェーンを形成している。
裾野産業は全ての産業の基盤だ。(ベトナムが得意とする)電子や機械製造分野で、組み立てだけでなく裾野産業を育成する必要がある。
今後はEVや再生可能エネルギー分野の裾野産業が重要になる。EV化や再エネ化という世界の大きな流れにベトナムも乗ろうとしている。政府は50年までのカーボンニュートラル(炭素中立)を国際公約にしている。実現のためにもEVや蓄電池、太陽光パネルや風力発電設備の部品を供給する裾野産業が求められてくる。
■国際最低税率、対応策を10月国会に提案へ
——多国籍企業を対象にした国際最低税率課税(グローバルミニマム課税)制度の適用が24年から始まる。制度が最低税率として定める15%以上に税率を引き上げれば、税制優遇を活用した外資誘致に影響が出かねない。政府はどのような対策を考えているか。
計画投資省と財務省が協力して対応を検討している。投資家や国家の利益を守りながら、制度の規定に違反しない範囲で取れる対策案を今年10月に始まる国会に提出する予定だ。
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