婦人科領域に特化したオンライン診察プラットフォームを日本で展開してきたスタートアップ、ネクイノ(大阪市)がインドネシアに進出する。東南アジアで最大の人口を擁することに加え、「性」にかかわる話題がタブー視されやすい慣習があり、ニーズが大きいと判断した。現地語の専用アプリを開発し、潜在需要を取り込む。
薬剤師の資格を持ち、医療テックの世界に飛び込んだネクイノの渡部取締役=6月、大阪市(NNA撮影)
ネクイノは2016年に創業し、18年から日本国内で婦人科領域に特化したオンライン診療サービスを開始した。生理や避妊、婦人科疾患で悩む人と医師をつなぎ、ピル(経口避妊薬)を配送するほか、助産師や薬剤師が相談を受け付ける「スマルナ医療相談室」を運営する。
専用アプリ「スマルナ」のダウンロード数は今年5月末までに80万件を超え、利用者は延べ200万人を超えた。20年からシリーズBと呼ばれる成長段階の資金調達を行い、21年までにENEOS(エネオス)などを含む投資家から合計35億円を調達した。
日本での経験を踏まえた海外展開を探り、数年前から複数国で市場調査を開始。渡部弘一取締役は東南アジア新興国に共通する課題を「身体の悩みを隠し、困っても狭く身近なコネクションでしか相談できない女性が多い。医療機関自体が少なく、通いづらいという課題もある」と指摘する。
最初の進出先として白羽の矢を立てたインドネシアで21年に子会社を立ち上げ、現地で美容サロンなどの予約サービスを行う事業者などと提携。テストマーケティングとして交流サイト(SNS)のインスタグラムを使ったプラットフォームを設けたほか、個別のオンライン医療相談を無料で受けられるようにした。
ネクイノがインドネシアで展開するインスタグラム
SNSでは、インドネシア人医師の監修の上、生理の期間に生じる身体の変調や特有の症状への対応などをイラストや写真付きでまとめたミニニュースを週1回程度投稿し、医師と直接話せる交流イベントを設けている。フォロワーは今年6月までの約半年で1万1,000人に達し、個別で医師に持ちかけられた相談は500件を超えた。「新たなサービスとして認知され、十分な反応を得られた」(渡部氏)とみて、7月から「スマルナ健康管理手帳」と称した専用アプリを本格的にリリースする。
■「医師にかかるべきか」悩む
相談は10~40代の女性からで「娘の生理が不規則だが、望む妊娠ができるか」「性交渉で下腹部に痛みがあるが、医師にかかるべきか」「数カ月生理が来ない」「かゆみがあるが、洗浄すべきか」——といった素朴で赤裸々な内容だ。
医療相談に応じるインドネシア人のオリビア・ウィダヤンティ・ブディマン医師によると、同国で最も多い人口のイスラム教徒(ムスリム)には、未婚の女性が性交渉や生理などについて公然と話すのは望ましくないという教えがあり、大半の学校で性教育が行われていない。
オリビア医師は「特に(知識の浅いまま生理に向き合う)10代の女性にとって、他人に知られず性について問いかけられることは、(病気などの)問題の良い解決策になる」とオンライン相談の意義を評価する。
アプリにはオンライン医療相談、情報発信に加え、生理日を自身でチェックし、次の生理日を予測できるカレンダー、日々の健康チェックができる問診票などの機能も搭載。今後は現地の医療機関や女性向けビジネスを行う企業との提携を進め、マネタイズを図る。
ネクイノのように女性が抱える健康上の問題を技術で解決する商品・サービスは「フェムテック」と呼ばれ、ヘルスケアにIT技術を取り入れる医療テックの一翼として、国際的に注目されている。欧米のベンチャーキャピタル「コヨーテベンチャー」などが21年に出した予測によれば、フェムテックの国際市場は27年までに1兆1,860億米ドル(約163兆円)規模に伸びる見通し。
■フェムテックの潜在市場
インドネシア現地でもフェムテックの地場スタートアップが顕在化している。現地の女性2人が立ち上げた「ノナ・ウーマン」はSNSの情報発信と現地人専門医とのオンライン交流イベントを行うスキームをつくり、ユーザーを獲得。一方のネクイノは、日本で培ったオンライン医療相談のノウハウをインドネシア現地人医師に共有し、「より信頼度の高いサービスを行う」ことを強みとする。
アジアでは近年、「生理」という女性の当たり前の現象に伴う困りごとが公衆に受け入れられる機運が出てきており、フェムテックの潜在市場として注目を浴びる。生理用品を買えない貧困女性が多いインドでは18年、妻のために生理用ナプキンを作る夫を描いた映画「パットマン」が大ヒットし、慣習を覆す作品として話題になった。ネクイノは、パットマンの上映年にインドのスタートアップフェアに参加し、自社の取り組みを参加者に周知した。現地の提携先を探っている。
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専用アプリ「スマルナ」のダウンロード数は今年5月末までに80万件を超え、利用者は延べ200万人を超えた。20年からシリーズBと呼ばれる成長段階の資金調達を行い、21年までにENEOS(エネオス)などを含む投資家から合計35億円を調達した。
日本での経験を踏まえた海外展開を探り、数年前から複数国で市場調査を開始。渡部弘一取締役は東南アジア新興国に共通する課題を「身体の悩みを隠し、困っても狭く身近なコネクションでしか相談できない女性が多い。医療機関自体が少なく、通いづらいという課題もある」と指摘する。
最初の進出先として白羽の矢を立てたインドネシアで21年に子会社を立ち上げ、現地で美容サロンなどの予約サービスを行う事業者などと提携。テストマーケティングとして交流サイト(SNS)のインスタグラムを使ったプラットフォームを設けたほか、個別のオンライン医療相談を無料で受けられるようにした。[caption id="attachment_5473" align="aligncenter" width="620"]ネクイノがインドネシアで展開するインスタグラム[/caption]
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■「医師にかかるべきか」悩む
相談は10~40代の女性からで「娘の生理が不規則だが、望む妊娠ができるか」「性交渉で下腹部に痛みがあるが、医師にかかるべきか」「数カ月生理が来ない」「かゆみがあるが、洗浄すべきか」——といった素朴で赤裸々な内容だ。
医療相談に応じるインドネシア人のオリビア・ウィダヤンティ・ブディマン医師によると、同国で最も多い人口のイスラム教徒(ムスリム)には、未婚の女性が性交渉や生理などについて公然と話すのは望ましくないという教えがあり、大半の学校で性教育が行われていない。
オリビア医師は「特に(知識の浅いまま生理に向き合う)10代の女性にとって、他人に知られず性について問いかけられることは、(病気などの)問題の良い解決策になる」とオンライン相談の意義を評価する。
アプリにはオンライン医療相談、情報発信に加え、生理日を自身でチェックし、次の生理日を予測できるカレンダー、日々の健康チェックができる問診票などの機能も搭載。今後は現地の医療機関や女性向けビジネスを行う企業との提携を進め、マネタイズを図る。
ネクイノのように女性が抱える健康上の問題を技術で解決する商品・サービスは「フェムテック」と呼ばれ、ヘルスケアにIT技術を取り入れる医療テックの一翼として、国際的に注目されている。欧米のベンチャーキャピタル「コヨーテベンチャー」などが21年に出した予測によれば、フェムテックの国際市場は27年までに1兆1,860億米ドル(約163兆円)規模に伸びる見通し。
■フェムテックの潜在市場
インドネシア現地でもフェムテックの地場スタートアップが顕在化している。現地の女性2人が立ち上げた「ノナ・ウーマン」はSNSの情報発信と現地人専門医とのオンライン交流イベントを行うスキームをつくり、ユーザーを獲得。一方のネクイノは、日本で培ったオンライン医療相談のノウハウをインドネシア現地人医師に共有し、「より信頼度の高いサービスを行う」ことを強みとする。
アジアでは近年、「生理」という女性の当たり前の現象に伴う困りごとが公衆に受け入れられる機運が出てきており、フェムテックの潜在市場として注目を浴びる。生理用品を買えない貧困女性が多いインドでは18年、妻のために生理用ナプキンを作る夫を描いた映画「パットマン」が大ヒットし、慣習を覆す作品として話題になった。ネクイノは、パットマンの上映年にインドのスタートアップフェアに参加し、自社の取り組みを参加者に周知した。現地の提携先を探っている。"
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