凸版印刷がタイの包装材市場に商機を見いだしている。新型コロナウイルス感染症の流行で公衆衛生に対する関心が高まったことで、包装材の重要性が国民の間で認識されたことが背景にある。政策やブランドオーナーの環境意識の高まりを受け、環境適性の高い包装材への需要も拡大している。凸版印刷は従来の紙器事業に加え、フィルムなどの軟包装の活用を通じて、タイでの幅の広い包装材需要に応える考え。「世界の台所」と呼ばれるほど大きな生産量を誇るタイの食品産業を下支えする。
凸版印刷が開発したGL FILM。独自の透明蒸着加工技術とコーティング技術を活用した(同社提供)
タイでは、コロナ禍の巣ごもり消費でテイクアウトやデリバリー用の容器の需要が急激に増えた。タイ政府は包装材事業を「エッセンシャル(欠かせない)」と認識。工場の操業継続を認めた。
一方で、使用済みの容器が急増するという課題も浮き彫りになった。タイの包装材業界に対しては、環境に優しい包装材や包装された内容物の品質保持期間の延長といった要求が強くなるなど、これまで以上に社会と自社のサステナビリティー(持続可能性)を同時に実現する「サステナブル・トランスフォーメーション(SX)」が求められるようになった。
そのような中、凸版印刷は2022年に買収したタイのMajend Makcs(マジェンドマクシス=MJM)を通じて、酸素や水蒸気を通さず中身の品質を長期間保つことのできる透明蒸着フィルム「GL FILM」を活用した包材の普及に力を入れようとしている。
GL FILMは、凸版印刷が展開する総合バリアー製品ブランド「GL BARRIER」の中核的製品。真空中でフィルム上に無機蒸着層を形成し、さらに独自開発のコーティング技術で塗工した。内容物の変質を招く酸素や水蒸気の透過を防ぐバリアー性では、アルミ箔(はく)を代替できるほどだという。
GL FILMは内容物を長期保存するだけでなく、透明性も高いため、消費者にとっては内容物を確認した上で安心して購入できるという利点がある。メーカーとしても、内容物をアピールしやすくなった。非導電性であるため、電子レンジや金属探知機の使用も可能だ。
GL FILMは環境適性も高い。例えば、レトルト食品向けの包装材は一般的に特徴の異なる4種のフィルムを張り合わせた4層構成で製造されるが、同製品を活用すれば層構成を合理化することで4層から3層に削減できるという。凸版印刷のグローバルパッケージ事業部営業推進本部の本部長で、MJMの最高経営責任者(CEO)を兼務する久木田慎一氏は「プラスチックの削減や製造工程の短縮、ひいては全体の二酸化炭素(CO2)の削減にもつながる」と説明する。
タイでは日本に比べて、透明蒸着フィルムの使用量はまだ限られている。しかし、コロナ禍を一因とした公衆衛生および環境問題に対する意識が高まる中、アルミの市況の影響を受けづらいGL FILMの利点はタイでも次第に認められるようになり、ブランドオーナーなどからの問い合わせは着実に増えてきているという。久木田CEOはGL FILMについて「バリアー性は世界最高水準と自負している。安心・安全や環境負荷軽減の観点からタイでも今後の需要拡大が見込める」と期待を寄せる。
マジェンドマクシスの工場の外観(凸版印刷提供)
■新たな食文化を提供
凸版印刷はすでに、日本や米国にあるグループ内の工場で製造したGL FILMをタイに輸入し、東部ラヨーン県にあるMJMの工場で用途に応じて加工している。現在、GL FILMを使用した包装材は日本や欧米の市場向けが中心で、レトルト食品や医療医薬品、スナック菓子向けなどに幅広く採用されている。GL FILMは、透明蒸着フィルムとしては世界トップクラスのシェアを誇る。
今後はタイを始めとした東南アジア諸国連合(ASEAN)各国向けにも採用を広げるために活動していく考えだ。久木田CEOは「タイ市場において、トッパンが有するコンバーティング技術やGL FILM、日・欧米市場で培った経験を活用しつつ、消費者の暮らしをより豊かにするさまざまな視点から提案を行い、タイ市場に合致した製品を開発していきたい」とし、「顧客のニーズの掘り起こし、ひいては新しい食文化の1つへとつなげていければ」と抱負を述べた。
少子高齢化が急速に進んでいるタイでは共働きが増え、家事の時間も減少傾向にある。タイでも今後、電子レンジ調理やレトルト食品への需要が拡大する下地はある。
■紙器でも技術革新
凸版印刷はタイでは、従来の紙器の技術革新も進めている。同社のタイ合弁会社、サイアムトッパンパッケージングの河田悟社長によると、現在、内袋なしでチキンやケーキを直接包装できる紙箱の研究開発(R&D)を独自で進めているという。内袋が不要になれば、プラスチックの一層の削減につながる。
サイアムトッパンパッケージングは12年、バンコク東郊サムットプラカン県の同社工場がタイの紙器工場として初めて、食品安全の国際規格「BRC/IOP認証(カテゴリー1)」を取得。タイで最初に食品に直接触れる一次包材の生産を始めた実績がある。
凸版印刷はタイでは、プラスチック容器の設計・製造を手がける企業にも出資しており、「紙器からプラスチック容器、軟包装とあらゆる包装需要に対応できる『全方位外交』体制を構築した」(河田社長)。
調査会社モードーインテリジェンスによると、プラスチックや紙、アルミを原料とするタイの包装市場は27年に60億2,990万米ドル(約8,830億円)と、21年以降年6.2%のペースで成長する見込みだ。
サイアムトッパンパッケージングの工場の外観(凸版印刷提供)
■DXとSXを推進
凸版印刷はタイでは、19年設立の現地法人、トッパンタイランドを通じて、モノのインターネット(IoT)やID認証といったデジタル技術を活用してオフィスや工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)も手がけている。デジタルサイネージなどを活用したセールスプロモーション事業も行っており、包装事業と連係すれば、新たなビジネスモデルを創造できそうだ。
久木田CEOは、「トッパンにとってタイはリソースが集約されており、SXとDXを同時に推進することのできるまれなエリアであり、重要と考えている」とし、タイ市場の重要性を強調した。
インタビューに答える河田社長(左)と久木田CEO=7月21日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
<メモ>
マジェンドマクシス:
02年にタイで創業し、22年5月にトッパングループに加わった。各種食品や消費財・メディカル向けの軟包装を製造・販売している。
サイアムトッパンパッケージング:
タイを代表する紙器製造会社で、凸版印刷とタイのサイアムセメントグループによる合弁企業。主に電化製品やスイーツ、玩具、化粧品、食料品、日用品向けの高級パッケージを製造。最終製品の仕向け地は日本や欧米、ASEANと世界中にわたる。
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一方で、使用済みの容器が急増するという課題も浮き彫りになった。タイの包装材業界に対しては、環境に優しい包装材や包装された内容物の品質保持期間の延長といった要求が強くなるなど、これまで以上に社会と自社のサステナビリティー(持続可能性)を同時に実現する「サステナブル・トランスフォーメーション(SX)」が求められるようになった。
そのような中、凸版印刷は2022年に買収したタイのMajend Makcs(マジェンドマクシス=MJM)を通じて、酸素や水蒸気を通さず中身の品質を長期間保つことのできる透明蒸着フィルム「GL FILM」を活用した包材の普及に力を入れようとしている。
GL FILMは、凸版印刷が展開する総合バリアー製品ブランド「GL BARRIER」の中核的製品。真空中でフィルム上に無機蒸着層を形成し、さらに独自開発のコーティング技術で塗工した。内容物の変質を招く酸素や水蒸気の透過を防ぐバリアー性では、アルミ箔(はく)を代替できるほどだという。
GL FILMは内容物を長期保存するだけでなく、透明性も高いため、消費者にとっては内容物を確認した上で安心して購入できるという利点がある。メーカーとしても、内容物をアピールしやすくなった。非導電性であるため、電子レンジや金属探知機の使用も可能だ。
GL FILMは環境適性も高い。例えば、レトルト食品向けの包装材は一般的に特徴の異なる4種のフィルムを張り合わせた4層構成で製造されるが、同製品を活用すれば層構成を合理化することで4層から3層に削減できるという。凸版印刷のグローバルパッケージ事業部営業推進本部の本部長で、MJMの最高経営責任者(CEO)を兼務する久木田慎一氏は「プラスチックの削減や製造工程の短縮、ひいては全体の二酸化炭素(CO2)の削減にもつながる」と説明する。
タイでは日本に比べて、透明蒸着フィルムの使用量はまだ限られている。しかし、コロナ禍を一因とした公衆衛生および環境問題に対する意識が高まる中、アルミの市況の影響を受けづらいGL FILMの利点はタイでも次第に認められるようになり、ブランドオーナーなどからの問い合わせは着実に増えてきているという。久木田CEOはGL FILMについて「バリアー性は世界最高水準と自負している。安心・安全や環境負荷軽減の観点からタイでも今後の需要拡大が見込める」と期待を寄せる。
[caption id="attachment_15048" align="aligncenter" width="620"]マジェンドマクシスの工場の外観(凸版印刷提供)[/caption]
■新たな食文化を提供
凸版印刷はすでに、日本や米国にあるグループ内の工場で製造したGL FILMをタイに輸入し、東部ラヨーン県にあるMJMの工場で用途に応じて加工している。現在、GL FILMを使用した包装材は日本や欧米の市場向けが中心で、レトルト食品や医療医薬品、スナック菓子向けなどに幅広く採用されている。GL FILMは、透明蒸着フィルムとしては世界トップクラスのシェアを誇る。
今後はタイを始めとした東南アジア諸国連合(ASEAN)各国向けにも採用を広げるために活動していく考えだ。久木田CEOは「タイ市場において、トッパンが有するコンバーティング技術やGL FILM、日・欧米市場で培った経験を活用しつつ、消費者の暮らしをより豊かにするさまざまな視点から提案を行い、タイ市場に合致した製品を開発していきたい」とし、「顧客のニーズの掘り起こし、ひいては新しい食文化の1つへとつなげていければ」と抱負を述べた。
少子高齢化が急速に進んでいるタイでは共働きが増え、家事の時間も減少傾向にある。タイでも今後、電子レンジ調理やレトルト食品への需要が拡大する下地はある。
■紙器でも技術革新
凸版印刷はタイでは、従来の紙器の技術革新も進めている。同社のタイ合弁会社、サイアムトッパンパッケージングの河田悟社長によると、現在、内袋なしでチキンやケーキを直接包装できる紙箱の研究開発(R&D)を独自で進めているという。内袋が不要になれば、プラスチックの一層の削減につながる。
サイアムトッパンパッケージングは12年、バンコク東郊サムットプラカン県の同社工場がタイの紙器工場として初めて、食品安全の国際規格「BRC/IOP認証(カテゴリー1)」を取得。タイで最初に食品に直接触れる一次包材の生産を始めた実績がある。
凸版印刷はタイでは、プラスチック容器の設計・製造を手がける企業にも出資しており、「紙器からプラスチック容器、軟包装とあらゆる包装需要に対応できる『全方位外交』体制を構築した」(河田社長)。
調査会社モードーインテリジェンスによると、プラスチックや紙、アルミを原料とするタイの包装市場は27年に60億2,990万米ドル(約8,830億円)と、21年以降年6.2%のペースで成長する見込みだ。
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■DXとSXを推進
凸版印刷はタイでは、19年設立の現地法人、トッパンタイランドを通じて、モノのインターネット(IoT)やID認証といったデジタル技術を活用してオフィスや工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)も手がけている。デジタルサイネージなどを活用したセールスプロモーション事業も行っており、包装事業と連係すれば、新たなビジネスモデルを創造できそうだ。
久木田CEOは、「トッパンにとってタイはリソースが集約されており、SXとDXを同時に推進することのできるまれなエリアであり、重要と考えている」とし、タイ市場の重要性を強調した。
[caption id="attachment_15047" align="aligncenter" width="620"]インタビューに答える河田社長(左)と久木田CEO=7月21日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)[/caption]
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マジェンドマクシス:
02年にタイで創業し、22年5月にトッパングループに加わった。各種食品や消費財・メディカル向けの軟包装を製造・販売している。
サイアムトッパンパッケージング:
タイを代表する紙器製造会社で、凸版印刷とタイのサイアムセメントグループによる合弁企業。主に電化製品やスイーツ、玩具、化粧品、食料品、日用品向けの高級パッケージを製造。最終製品の仕向け地は日本や欧米、ASEANと世界中にわたる。"
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