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中国製が席巻、産業集積弱く伝統織物から見るミャンマー(1)

ミャンマー中部マンダレー地域に集積する伝統織物は、同国の産業開発から取り残されてきた。中心となるマンダレー市郊外に民族衣装「ロンジー」の名産地アマラプラがあるが、糸や布地などのサプライチェーン(供給網)は中国から流入する安価な製品に依存する。近年は新型コロナウイルス禍と2021年2月のクーデター後の混乱が産業に打撃を与えており、人材開発や海外市場の開拓の長期停滞が懸念される。伝統織物の現状が映すミャンマーの今を3回に分けて伝える。【小故島弘善】

中国製を取り扱うゼージョー市場の生地販売店=11日、ミャンマー・マンダレー(NNA)

「貧乏な国だから仕方ない」——。マンダレー市内最大の市場であるゼージョー市場で生地を販売する店の店主は、取り扱う商品が全て中国製だと打ち明けつつ、こうこぼした。20年以上にわたり店の経営を続けているが、創業時から価格競争力のある中国製を販売してきた。一般的なミャンマー人にとって、販売価格が高いミャンマー製はさばくことが難しかった。当初はタイ製も置いていたが、自然と中国製のみになったのだという。
市場内のある民族衣装専門店では、ロンジーやインドネシアの「バティック」が並ぶ。多くはプリント柄の中国製だ。中国製は単純に安く、現地の消費者も中国製に手が伸びる。バティックの中には、「メード・アズ・インドネシア」とうたうものもあるが、店員は「ミャンマー人ならば誰もがこれが中国製だと知っているが、手頃さから気楽に着られる」と説明した。
一方、アマラプラの機械織り工房の関係者は、「中国製の大量流入は脅威だ」と話す。アマラプラは、同じくマンダレー地域内にあるウンドウィンと並ぶロンジーの主要生産地。北部のカチン民族や東部のモン民族など民族によって異なる模様や柄の嗜好(しこう)に沿ったデザインの織物を生産し、供給してきた。近年は廉価な模造品が出回り、低価格帯のロンジーでは対抗できなくなっているという。
■遠のく国産体制の整備
アマラプラの就業者の8割は繊維関連産業に従事するとされる。現地の関係者に聞くと、原材料の調達で中国に依存する状況が数十年続いており、中国の影響力が年々増していることを脅威とみる傾向があった。

ゼージョー市場で売られる中国製のバティック=11日、ミャンマー・マンダレー(NNA)

小規模な撚糸(ねんし)工場を夫婦で経営する40代の女性は「なるべく国産の綿花で作った原糸を調達して加工したいが、供給が安定しないことが最大の経営課題の一つだ」と話した。マンダレー周辺の綿花農家は、より高く値付けする中国からのバイヤーに売ってしまう。数少ない国内の紡績工場は中国系や華僑系の「合弁会社」が牛耳っている。資金力が乏しい内資企業は、織りを中心とする川中と呼ばれる工程で勝負するしかない状況だという。
政変後は「(マンダレーに隣接する)北西部ザガイン地域の農村部で紛争が激化して綿花生産が困難となっており、電力供給の不安定化は工場の生産効率を悪化させている」(アマラプラの織り工房経営者)状況。国内生産体制の整備は遠のく一方だ。アマラプラには糸加工や生地製造、染色加工を手がける零細・中小企業が数百軒存在する。だが、老朽化した設備の刷新や事業拡大、関連産業への新規進出への意欲は低い。

撚糸工場の作業風景=11日、ミャンマー・アマラプラ(NNA)

各事業者は産業改革の必要性を感じており、10年代後半には模倣品に対抗するための協会設立の動きもあったが、「それぞれの経営方針や伝統が壁となり、統合や再編の動きはない」(織り工房経営・30代女性)のが実情だ。地域コミュニティーレベルの緩やかな連携にとどまり団結はできず、「不景気な現状、ただ耐え忍ぶしかない」(撚糸工場経営・40代男性)という。
■国際的な供給網に食い込めず
ミャンマーは旧軍政下の1990年代以降、CMP(裁断・縫製・梱包=こんぽう)受託方式の輸出加工拠点として台頭してきたが、港湾がある最大都市ヤンゴン近郊が中心。マンダレーの伝統織物との連携は希薄だ。

機械織りでロンジーの生地を生産する様子=11日、ミャンマー・アマラプラ(NNA)

アマラプラの工房関係者は「外資企業は奪っていくだけで、われわれが何かを得たことはない」と不満をこぼす。CMP大手に生地を供給したことはなく、連携したという話も聞いたことがないという。ミャンマー縫製業者協会(MGMA)によると、8月時点で操業している加盟企業の工場の約6割が中国系。韓国と日本からの投資もある。
ただ、政変後に受託工場での人権問題に対する国際批判が強まり、国際衣料品大手がミャンマーからの調達停止を相次ぎ発表していることに関しては危機感を募らせている。工房関係者は、「ミャンマーの雇用喪失に拍車がかかってしまう。安易な撤退がミャンマー人の生活を苦しくする」と話した。

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「貧乏な国だから仕方ない」——。マンダレー市内最大の市場であるゼージョー市場で生地を販売する店の店主は、取り扱う商品が全て中国製だと打ち明けつつ、こうこぼした。20年以上にわたり店の経営を続けているが、創業時から価格競争力のある中国製を販売してきた。一般的なミャンマー人にとって、販売価格が高いミャンマー製はさばくことが難しかった。当初はタイ製も置いていたが、自然と中国製のみになったのだという。
市場内のある民族衣装専門店では、ロンジーやインドネシアの「バティック」が並ぶ。多くはプリント柄の中国製だ。中国製は単純に安く、現地の消費者も中国製に手が伸びる。バティックの中には、「メード・アズ・インドネシア」とうたうものもあるが、店員は「ミャンマー人ならば誰もがこれが中国製だと知っているが、手頃さから気楽に着られる」と説明した。
一方、アマラプラの機械織り工房の関係者は、「中国製の大量流入は脅威だ」と話す。アマラプラは、同じくマンダレー地域内にあるウンドウィンと並ぶロンジーの主要生産地。北部のカチン民族や東部のモン民族など民族によって異なる模様や柄の嗜好(しこう)に沿ったデザインの織物を生産し、供給してきた。近年は廉価な模造品が出回り、低価格帯のロンジーでは対抗できなくなっているという。
■遠のく国産体制の整備
アマラプラの就業者の8割は繊維関連産業に従事するとされる。現地の関係者に聞くと、原材料の調達で中国に依存する状況が数十年続いており、中国の影響力が年々増していることを脅威とみる傾向があった。[caption id="attachment_15714" align="aligncenter" width="620"]ゼージョー市場で売られる中国製のバティック=11日、ミャンマー・マンダレー(NNA) [/caption]
小規模な撚糸(ねんし)工場を夫婦で経営する40代の女性は「なるべく国産の綿花で作った原糸を調達して加工したいが、供給が安定しないことが最大の経営課題の一つだ」と話した。マンダレー周辺の綿花農家は、より高く値付けする中国からのバイヤーに売ってしまう。数少ない国内の紡績工場は中国系や華僑系の「合弁会社」が牛耳っている。資金力が乏しい内資企業は、織りを中心とする川中と呼ばれる工程で勝負するしかない状況だという。
政変後は「(マンダレーに隣接する)北西部ザガイン地域の農村部で紛争が激化して綿花生産が困難となっており、電力供給の不安定化は工場の生産効率を悪化させている」(アマラプラの織り工房経営者)状況。国内生産体制の整備は遠のく一方だ。アマラプラには糸加工や生地製造、染色加工を手がける零細・中小企業が数百軒存在する。だが、老朽化した設備の刷新や事業拡大、関連産業への新規進出への意欲は低い。[caption id="attachment_15715" align="aligncenter" width="620"]撚糸工場の作業風景=11日、ミャンマー・アマラプラ(NNA)[/caption]
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■国際的な供給網に食い込めず
ミャンマーは旧軍政下の1990年代以降、CMP(裁断・縫製・梱包=こんぽう)受託方式の輸出加工拠点として台頭してきたが、港湾がある最大都市ヤンゴン近郊が中心。マンダレーの伝統織物との連携は希薄だ。[caption id="attachment_15716" align="aligncenter" width="620"]機械織りでロンジーの生地を生産する様子=11日、ミャンマー・アマラプラ(NNA)[/caption]
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ただ、政変後に受託工場での人権問題に対する国際批判が強まり、国際衣料品大手がミャンマーからの調達停止を相次ぎ発表していることに関しては危機感を募らせている。工房関係者は、「ミャンマーの雇用喪失に拍車がかかってしまう。安易な撤退がミャンマー人の生活を苦しくする」と話した。
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