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最低賃金、内閣が原案を却下政権発足100日、看板政策が難航

タイ政府は12日午後の閣議で、国家賃金委員会が8日に発表した最低賃金の引き上げ案について、再考を要請した。同委員会は8日、1日あたりの最低賃金を2.4%引き上げると発表。これにセーター首相が不満を表明し、変更が要請される異例の展開となった。13日が発足から100日目となるセーター政権は、デジタル通貨の配布でも調整が難航しており、「看板政策」の実現に向け難しい舵取りを迫られている。

タイのセーター首相は看板政策として1万バーツの配布や最低賃金の大幅な引き上げを掲げているが、実現に向けて調整が難航しているもようだ=11月、タイ・バンコク(NNA撮影)

12日の閣議では、労働省や経済団体、労働組合の代表などで構成される国家賃金委員会による最低賃金の引き上げ案について、「内閣は承認や否決をする権限を持たない」としながらも、「賃金の引き上げ幅は、過去5年間の経済規模や物価、生産コストなどが勘案されて計算されるべきだが、今回の案は新型コロナの影響で経済が大きく落ち込んだ2020~21年の数値が入っている」と指摘。同委員会は、こうした「異常値」を除いた上で再度適切な賃上げ幅を算出し、年内に新しい案を内閣に提出し直すよう要請した。
連立与党の中核を担うタイ貢献党は選挙戦で、最低賃金を1日あたり400バーツ(約1,640円)に引き上げる公約を掲げた。セーター氏も、「27年までにタイを高所得国にする」と宣言し、政権発足後から最低賃金を引き上げることの重要性を繰り返し強調してきた。ただ、急速な賃金の引き上げに対しては、経済界からの警戒が根強い。在タイ日系企業の間でも、「最低賃金が急速に上がれば、新しく雇う社員と既存の社員の間で賃金を調整する必要が出てくる。労働集約型の産業だけでなくサービス業にも影響は出る」といった声や、「タイの労働組合は会社の業績が下がっても大幅な賃上げや賞与の増額を要求してくる傾向があるので、最低賃金がさらに上がれば一層強気になる恐れがある」と懸念する声は多い。
タイ工業連盟(FTI)やタイ貿易・産業雇用者連盟(ECONTHAI)をはじめとする経済団体は、「引き上げ幅の民間の許容範囲は3~5%」「中小企業に打撃を与える」「タイ国外への投資が促進される」などと発言し、セーター氏をけん制してきた。ピパット労働相は11月、最低賃金は引き上げるものの、400バーツ未満になるとコメントし、経済界の懸念に理解を示す姿勢を見せていた。
国家賃金委員会は8日、最低賃金を24年1月から2.4%引き上げて中央値を345バーツにすると発表。全国77都県を17区分に分け、地域ごとに2~16バーツ引き上げる。最高はプーケット県の370バーツ(現状354バーツ)、最低は深南部3県(ヤラー、パッタニ、ナラティワート)の330バーツ(同328バーツ)となる。バンコク首都圏(バンコク、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、サムットプラカン、サムットサコン)は353バーツから363バーツに引き上げるとした。小幅な引き上げにとどまったことで、タイ商工会議所(TCC)なども「新たな最低賃金の引き上げ幅を支持する」と歓迎する姿勢を見せた。一方、セーター氏は翌日の9日に「引き上げ幅が小さ過ぎる」と不満を表明。ピパット氏も「引き上げ案には合意しない。再考される必要がある」と指摘していた。

■投資誘致では成果も
経済界の出身で、政治的な基盤は弱いとされるセーター氏だが、直近の世論調査では高い評価を得ている。メディア大手ネーション・グループ(タイランド)と未来教育開発研究所(IFD)による世論調査では、55%が発足から3カ月たったセーター政権を「評価する」とした。電気・ガス・ガソリン料金の引き下げ(56.5%)や1万バーツの給付(40.9%)に対する評価が高いようだ。投資誘致の面を中心とした外交でも、セーター氏は米電気自動車(EV)大手テスラとの合意に自信を見せるなど、一定の成果を出しているといえる。
一方、最低賃金と並ぶ看板政策であるデジタル通貨1万バーツの配布の先行きについても不透明感が強い。セーター氏は1万バーツの配布を来年5月にも開始すると発表。受給の条件は、16歳以上で、月収が7万バーツ未満などとなる。財源の5,000億バーツについては借り入れで賄うとしている。ただ、22年の国内総生産(GDP)比で約3%にあたる借り入れについてはインフレを引き起こす懸念や、財政規律の面から疑問の声が上がっているのが現状。借り入れがスムーズに進まず、選挙公約を実現できない事態になれば、「政局不安が高まり、内閣改造や政権交代につながる可能性がある」(FTIのクリアンクライ会長)との予測まで飛び出している。

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国家賃金委員会は8日、最低賃金を24年1月から2.4%引き上げて中央値を345バーツにすると発表。全国77都県を17区分に分け、地域ごとに2~16バーツ引き上げる。最高はプーケット県の370バーツ(現状354バーツ)、最低は深南部3県(ヤラー、パッタニ、ナラティワート)の330バーツ(同328バーツ)となる。バンコク首都圏(バンコク、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、サムットプラカン、サムットサコン)は353バーツから363バーツに引き上げるとした。小幅な引き上げにとどまったことで、タイ商工会議所(TCC)なども「新たな最低賃金の引き上げ幅を支持する」と歓迎する姿勢を見せた。一方、セーター氏は翌日の9日に「引き上げ幅が小さ過ぎる」と不満を表明。ピパット氏も「引き上げ案には合意しない。再考される必要がある」と指摘していた。

■投資誘致では成果も
経済界の出身で、政治的な基盤は弱いとされるセーター氏だが、直近の世論調査では高い評価を得ている。メディア大手ネーション・グループ(タイランド)と未来教育開発研究所(IFD)による世論調査では、55%が発足から3カ月たったセーター政権を「評価する」とした。電気・ガス・ガソリン料金の引き下げ(56.5%)や1万バーツの給付(40.9%)に対する評価が高いようだ。投資誘致の面を中心とした外交でも、セーター氏は米電気自動車(EV)大手テスラとの合意に自信を見せるなど、一定の成果を出しているといえる。
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