NNAがアジアの日系企業駐在員らを対象に実施した調査で、2024年上半期(1~6月)の景気が23年下半期(7~12月)から横ばいになるとの回答が半数近くを占めた。改善を見込む回答は約35%で、悪化するとの回答を上回ったものの、世界経済に不透明感が出ているなかで明確なプラス材料がなく、景気回復は早くても24年後半になるとの声が目立った。台湾で総統選、インドネシアで大統領選、インドで総選挙が予定されていることも、慎重な見方が広がる一因になった。
24年上半期の景気が23年下半期から「横ばい」になるとの回答は44.8%だった。「緩やかに上昇」(32.0%)、「緩やかに下降」(15.1%)などを上回り最多だった。
国・地域別では、マレーシア(63.2%)、タイ(52.3%)、ベトナム(50.0%)など8カ国・地域で「横ばい」が最も多く、フィリピンも「緩やかに上昇」と同率でトップだった。
業種別で見ると、繊維と公的機関を除く全業種で「横ばい」の割合が最多だった。鉄鋼・金属(57.1%)と貿易・商社(51.1%)は半数以上を占めた。
横ばいと予測する理由では「取りあえず現状を変える明らかな要因はない」(中国/石油・化学・エネルギー)、「景気が回復する大きな根拠は見えず、製造業を中心に回復は遅れると見込んでいる」(ベトナム/その他の非製造業)と、明確なプラス材料に欠けるという意見が目立った。
今月13日に総統選を控える台湾では「台中関係は不透明感が継続」(石油・化学・エネルギー)、ジョコ大統領の任期終了に向け、2月に大統領選が実施されるインドネシアでは「大統領選挙は6月の決選投票になる可能性が高い。それまでは経済政策も定まらず、プロジェクトなどが停滞すると思われる」(鉄鋼・金属)と、新体制が確立するまでに「空白期」が生じることを警戒する声もあった。
23年5月の総選挙後に首相選出が難航し、9月にようやく新政権が発足したタイでも「政権が不安定」(小売り・卸売り)、「政策が一過性で次の施策が見えない」(四輪・二輪車・部品)といった国内政治の行方を懸念する声が聞かれた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、欧米や中国への輸出が成長エンジンになっているケースが多いことから、「中国、欧州経済が低迷。頼みの米国経済の見通しが厳しい」(ベトナム/運搬・倉庫)、「中国経済の影響を受け、ASEAN諸国の成長回復は限定的」(マレーシア/石油・化学・エネルギー)と、輸出先の経済動向を予想に織り込む姿勢も目立った。
景気の悪化を見込む「下降」と「緩やかに下降」の合計は20.4%だった。この割合は21年2月のクーデター以降に混迷が続くミャンマーで100%だったほか、オーストラリア(36.3%)、中国(29.9%)、韓国(29.4%)、インドネシア(24.5%)などが比較的高かった。
理由では「回復するためのリソースがない」(シンガポール/サービス)、「楽観視する材料が皆無」(中国/その他の製造業)など、回復の兆しが見られないという回答のほか、景気の判断材料が乏しいなかで客先の動向などから好転が見込めないと回答している向きもうかがえた。
電気自動車(EV)の普及が進む中国では、特徴的な回答として「日系車両の販売不振」(四輪・二輪車・部品)、「日系自動車メーカーの衰退と日本材の販売減が進む(現地材化)」(鉄鋼・金属)、「日系の『新エネルギー車(NEV)』のラインアップ遅れ」(四輪・二輪車・部品)と、日系自動車メーカーの事業低迷を指摘する意見が目立った。
■インドは改善見通し66%
24年上半期の景気について「緩やかに上昇」と、より楽観的な見方の「上昇」を合わせた割合は34.6%だった。同割合は、高い経済成長を維持するインドが65.8%と圧倒的に高く、台湾も53.6%と過半数を占めた。
インドは「上昇」の割合が19.5%と唯一2桁台だった。四半期ベースで7%台の高成長を維持する国内経済の好調ぶりを反映し、「海外企業の進出が増加」(サービス)、「自動車販売台数の増加」(四輪・二輪車・部品)、「主要顧客の増産ならびに投資計画」(機械・機械部品)と、景気の良いコメントが並んだ。
中国は楽観的な見方が24.9%にとどまったものの、「政府が何らかの経済刺激施策を実施すると思う」(電機・電子・半導体)、「政府の支援策が進んでおり効果が出てくる」(その他の製造業)と、23年10月に発表された1兆元(約20兆円)の特別国債発行のような景気刺激策とその効果に期待する声があった。
業種別では電子・半導体分野で、在庫消化が進み、業況が回復すると期待する声も一定数あった。
■足元の景気は悪化続く
足元の状況を表す23年下半期の景気は、23年上半期から「横ばい」が最も多い33.0%だった。「緩やかに上昇」は24.6%、「上昇」は3.9%で計28.5%。「緩やかに下降」は23.1%、「下降」は15.2%で計38.3%と、景気後退を実感する声が多かった。
足元の景気が改善したとの回答は20年12月の調査をピークに減少傾向にある。回答数が異なるため単純比較はできないが、「上昇」と「緩やかに上昇」の合計は20年12月調査で69.1%を記録して以降に低下傾向をたどり、23年6月の前回調査では33.3%にまで縮小していた。
国・地域別で見た23年下半期の景気は、中国、香港、台湾、韓国、タイ、ベトナム、マレーシアの7カ国・地域で「横ばい」が最多。インドネシアとオーストラリアは「緩やかに下降」が最も多かった。
中国では不動産業界の低迷を指摘する声のほか、「財政や失業率の悪化に加え、消費傾向の変化に伴う節約意識の強まりを至る所で聞くため」(貿易・商社)、「業務を通じて。また街中での飲食店などの状況から」(貿易・商社)と、身近なところで消費の減速を感じるとする意見も目立った。
東南アジアの二大自動車生産拠点となっているタイとインドネシアでは「自動車関連産業の動向」(タイ/石油・化学・エネルギー)、「新車需要の明らかな減退」(インドネシア/四輪・二輪車・部品)と、自動車業界の市況がそのまま足元の景況感につながっている向きも見られた。
堅調な個人消費に支えられ高成長が続くインドとフィリピンは、「上昇」と「緩やかに上昇」の合計がそれぞれ78.1%、54.6%と過半に達した。特にインドは景気が悪化したとの回答が7.3%にとどまり、コメントでは「国外からの投資もあり順調に経済が成長していると感じるため」(四輪・二輪車・部品)、「自動車業界をはじめ投資計画が活発になっている」(機械・機械部品)と、投資拡大を理由に挙げる声も多かった。
<アンケートの概要>
調査は2023年12月5日から11日にかけて、アジア太平洋地域の駐在員らにインターネットで実施し、15カ国・地域の737人が回答した。業種の内訳は製造業が47.6%、非製造業が49.3%、公的機関などその他が3.1%だった。国・地域別の内訳は中国197件、インドネシア94件、タイ88件、ベトナム60件、フィリピン44件、オーストラリア44件、台湾41件、インド41件、マレーシア38件、香港32件、シンガポール32件、韓国17件、ミャンマー5件など。
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