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脱炭素目標の設定企業が倍増日本リード、東南アも増加傾向に

産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるとする温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に沿って、温室効果ガスの排出削減目標を設定するアジア諸国・地域の企業が増えている。企業が設定した削減目標を科学的根拠に基づいて精査する共同イニシアチブ「サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアチブ(SBTi)」から、気温上昇を抑えるに足る目標と認定を受けたアジアの主要国・地域の企業は、この1年弱で倍増した。最多の日本を含む東アジアが8割以上を占めるが、東南アジアやインドでも増え、民間での排出削減機運は高まっている。
SBTiでは、温室効果ガス排出の分類である、「スコープ1(自社が直接排出した温室効果ガス)」「スコープ2(他社から供給を受けた電力などによる間接排出した温室効果ガス)」「スコープ3(スコープ1、2以外のサプライチェーン=供給網=全体の温室効果ガス)」について、企業が設定した排出削減目標がパリ協定の1.5度目標に整合しているかどうかを、科学的知見に基づき精査している。
NNAは、SBTiが公表している認定企業の最新の数(1月20日時点)と2023年2月13日時点の数を比較した。
その結果、最新のアジア主要国・地域の認定企業数は23年2月比で2.4倍の1,299社で、世界全体(4,408社)の29%を占めた。国・地域別では、日本が817社(23年2月比で2.3倍)で最多となり、以下はインドが152社(同3.4倍)、中国が146社(2.8倍)、台湾が62社(2.1倍)などとなった。アジア主要国・地域の中では、東アジアが84%を占めた。東南アジアは、シンガポールが21社(50%増)、タイが11社(3.7倍)、マレーシアが10社(2倍)などとなった。
一方、1月20日時点で、2年以内にSBTi認定を受ける「コミットメント」を表明したアジア諸国・地域の企業数は646社あり、23年2月比で52%増えている。中国が97%増(90社増)、インドが81%増(59社増)、シンガポールが63%増(10社増)、インドネシアが61%増(11社増)などとなった。
セクター別での認定企業数は、「電気機器・機械」が181社で最多。以下、「建設・エンジニアリング」が111社、「専門サービス」が98社など。一方、認定企業が少ないセクターとしては、「鉱業(石炭)」「海運(港湾・サービス)」が認定企業ゼロで、コミットメントがそれぞれ1社、2社となっている。
SBTiの構成機関の一つである世界自然保護基金(WWF)はSBTiの認定について、東南アジアなどの途上国に多くのサプライチェーンを有する日本企業がSBTiから認定を受けることによって、こうした地域の企業の脱炭素化を促していくことにもつながると説明している。
SBTiは、WWFのほか、英国系非政府組織(NGO)のCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト、国際NGOの世界資源研究所(WRI)により、15年に設立された。

■東南アの上場企業も認定
アジアに供給網を持つ日本などの先進諸国が、温室効果ガスの削減目標を設定することで、取引先での削減も求める流れができつつある中、東南アジアの新興国においても上場大手企業が排出削減目標について、SBTiから認定を受ける動きが出ている。
この1年弱の間で、タイでは大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループや、同グループ傘下でタイ証券取引所(SET)に上場する食品最大手チャロン・ポカパン・フーズが認定されたほか、SET上場企業では、水産最大手タイ・ユニオン・グループ(TU)、素材最大手サイアム・セメント(SCG)もSBTiの認定を受けた。
インドネシアでは、インドネシア証券取引所(IDX)に上場する地場配車・インターネット通販大手GoToグループが23年12月に、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「ネットゼロ」を達成するための目標がSBTiの認定を受けた。
GoToの目標は、◇50年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロとする◇スコープ1、2の温室効果ガス排出量(絶対値)を30年までに基準年の22年比で83%削減し、スコープ3も51%削減する◇スコープ1、2の温室効果ガス排出量(絶対値)を、50年までに基準年の22年から95%削減し、スコープ3も90%削減する——とした。
GoToグループはもともと、傘下の配車サービスのゴジェックで、30年までにドライバーパートナーの車両を100%電動車として、直接・間接的な排出量をゼロとする目標を掲げるなどしてきたが、科学的根拠に基づいて50年までにネットゼロを目指す目標を設定し、SBTiから認定を受けた。
マレーシアでも、コングロマリット(複合企業)サイムダービー傘下で、マレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場するパーム農園大手サイムダービー・プランテーション(SDP)が、23年12月にパーム油会社としては世界初となる50年までにネットゼロを達成するための削減目標がSBTiに認定されたと発表した。
一方、フィリピンとカンボジアでは、23年2月以降新たにSBTi認定を受けた企業はゼロだった。

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SBTiでは、温室効果ガス排出の分類である、「スコープ1(自社が直接排出した温室効果ガス)」「スコープ2(他社から供給を受けた電力などによる間接排出した温室効果ガス)」「スコープ3(スコープ1、2以外のサプライチェーン=供給網=全体の温室効果ガス)」について、企業が設定した排出削減目標がパリ協定の1.5度目標に整合しているかどうかを、科学的知見に基づき精査している。
NNAは、SBTiが公表している認定企業の最新の数(1月20日時点)と2023年2月13日時点の数を比較した。
その結果、最新のアジア主要国・地域の認定企業数は23年2月比で2.4倍の1,299社で、世界全体(4,408社)の29%を占めた。国・地域別では、日本が817社(23年2月比で2.3倍)で最多となり、以下はインドが152社(同3.4倍)、中国が146社(2.8倍)、台湾が62社(2.1倍)などとなった。アジア主要国・地域の中では、東アジアが84%を占めた。東南アジアは、シンガポールが21社(50%増)、タイが11社(3.7倍)、マレーシアが10社(2倍)などとなった。
一方、1月20日時点で、2年以内にSBTi認定を受ける「コミットメント」を表明したアジア諸国・地域の企業数は646社あり、23年2月比で52%増えている。中国が97%増(90社増)、インドが81%増(59社増)、シンガポールが63%増(10社増)、インドネシアが61%増(11社増)などとなった。
セクター別での認定企業数は、「電気機器・機械」が181社で最多。以下、「建設・エンジニアリング」が111社、「専門サービス」が98社など。一方、認定企業が少ないセクターとしては、「鉱業(石炭)」「海運(港湾・サービス)」が認定企業ゼロで、コミットメントがそれぞれ1社、2社となっている。
SBTiの構成機関の一つである世界自然保護基金(WWF)はSBTiの認定について、東南アジアなどの途上国に多くのサプライチェーンを有する日本企業がSBTiから認定を受けることによって、こうした地域の企業の脱炭素化を促していくことにもつながると説明している。
SBTiは、WWFのほか、英国系非政府組織(NGO)のCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、国連グローバル・コンパクト、国際NGOの世界資源研究所(WRI)により、15年に設立された。

■東南アの上場企業も認定
アジアに供給網を持つ日本などの先進諸国が、温室効果ガスの削減目標を設定することで、取引先での削減も求める流れができつつある中、東南アジアの新興国においても上場大手企業が排出削減目標について、SBTiから認定を受ける動きが出ている。
この1年弱の間で、タイでは大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループや、同グループ傘下でタイ証券取引所(SET)に上場する食品最大手チャロン・ポカパン・フーズが認定されたほか、SET上場企業では、水産最大手タイ・ユニオン・グループ(TU)、素材最大手サイアム・セメント(SCG)もSBTiの認定を受けた。
インドネシアでは、インドネシア証券取引所(IDX)に上場する地場配車・インターネット通販大手GoToグループが23年12月に、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「ネットゼロ」を達成するための目標がSBTiの認定を受けた。
GoToの目標は、◇50年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロとする◇スコープ1、2の温室効果ガス排出量(絶対値)を30年までに基準年の22年比で83%削減し、スコープ3も51%削減する◇スコープ1、2の温室効果ガス排出量(絶対値)を、50年までに基準年の22年から95%削減し、スコープ3も90%削減する——とした。
GoToグループはもともと、傘下の配車サービスのゴジェックで、30年までにドライバーパートナーの車両を100%電動車として、直接・間接的な排出量をゼロとする目標を掲げるなどしてきたが、科学的根拠に基づいて50年までにネットゼロを目指す目標を設定し、SBTiから認定を受けた。
マレーシアでも、コングロマリット(複合企業)サイムダービー傘下で、マレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場するパーム農園大手サイムダービー・プランテーション(SDP)が、23年12月にパーム油会社としては世界初となる50年までにネットゼロを達成するための削減目標がSBTiに認定されたと発表した。
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