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【年始インタビュー】現地人材の採用本格化日系企業、交流サイトも活用

シンガポールで現地人材の採用活動を本格化する日系企業が増えている。外国人の就労ビザ取得要件が厳しくなっていることが背景にある。給与や能力開発など待遇面での見直しのほか、交流サイト(SNS)を通じて企業が候補者に直接アプローチするなど新たな施策での採用活動が鍵を握ると語る人材紹介会社リーラコーエンのシンガポール法人の副島康介リージョナルカントリーマネジャーに、2024年の雇用市場の見通しを聞いた。

リーラコーエンシンガポール法人の副島康介リージョナルカントリーマネジャー=シンガポール中心部(NNA撮影)

——日系企業での人材需要の動向は。
シンガポール国民と永住権(PR)保持者などの現地人材、特に即戦力となる業界経験者が求められている。政府が23年9月から専門職向けの就労ビザ(EP)の発給にポイント制度「補完性評価フレームワーク(コンパス)」を導入したことによる影響が大きい。本制度の下で日本人を採用できない日系企業が、より本気で人材を現地化していかなければならない状況になったためだ。
弊社が実施した「今後の採用計画」に関する最新の調査結果では、日系企業の7割が現地人スタッフを採用したいと回答。現地人の新卒を採用したい企業の割合も前回調査(23年7月)の7%から10%と伸びた。これまでトップ3に入っていた日本人の現地採用は5位以下にまで落ちた。
職種別では、営業やマーケティングの増員、バックオフィス関連人材の欠員補充の需要が高い。サステナビリティー(持続可能性)の分野にたけた人材の需要も見られるようになり、企業の脱炭素化を支援するサステナブルコンサルタントなどの募集も出てきている。
——人材獲得の課題は。
最大の課題は給与だ。日本本社の人事制度を現地法人にもそのまま適用し、給与体系も長期間更新していない保守的な企業も多い。調査結果では日系企業の6割が給与面で現地企業に追いついていないと回答している。課題は分かっているものの、9割の企業が制度変更の予定はないと答えている。
給与面では欧米系企業に劣る上、現地企業や中国系企業の台頭で日系企業の存在感も10~20年前と比べると決して高くはないのが現実だ。そこに向き合い最大限改善するか、営業・生産拠点のみを他国へ移すのかなどの決断を迫られる企業も出てきている。他国への移転や拠点の閉鎖を検討している企業は4%で、商社や建設が多かった。
近年は日本のコンサルティング会社やIT企業、スタートアップの進出も増えている。こうした企業の日本の本社自体が先進的な人事制度をとる企業や、日本で多額の資金調達をして海外進出を果たしたベンチャー企業では給与面などでも人材採用に優位だ。ただ採用後の人材育成面での課題はある。
——求職者側の新たなトレンドは。
給与、休暇、賞与などの要件と同様に、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド勤務を重要視している求職者が多い。
——採用する側の新たなトレンドは。
日本国内と同様、シンガポールの日系各社も候補者に直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」に力を入れ始めている。ビジネス向けSNS「リンクトイン(LinkedIn)」など能動的に動けば採用できるチャネルが増えていることが背景にある。
求人広告を掲載して待つだけではなく、自ら市場へ呼びかけていく企業が増えてきており、そうしていかないと今後、需要の高い人材の採用はますます難しくなるだろう。日系以外の現地企業では退職した社員を再雇用する「アルムナイ(卒業生)採用」もトレンドとなっている。
——24年の雇用市場の見通しは。
弊社の調査結果では、人員を増やすと回答した日系企業は前回調査(23年7月)の31%から24%へ減少した。7割以上が現状維持と答えていることからも、ここ数年続いていた求職者優位の状況が、徐々に緩和してくるだろう。企業は引き続き給与体系や人事制度の見直し、既存社員の定着率を高めるための取り組みを強化する必要がある。
——日系企業が優秀な従業員を引き付け、維持するためにはどうすればよいのか。
相場に見合った給与と待遇、福利厚生のほか、将来のキャリア形成につながる経験や学習機会などの能力開発も重要だ。
米国の心理学者マズローは人間の欲求を生理的欲求、安全・安定の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階に分類しているが、シンガポール人も日本人と同様に承認や自己実現の欲求が高い傾向にある。
このため、いかに現職の職務を通じて技能を取得できるか、能力向上の機会があるかが重要視されている。現地人社員が日本人社員のアシスタント業務を担うことや、管理職以上が全員日本人といった体制は現地人材にとってあまり好ましくない。

現地人材の獲得に向けて採用活動を本格化する日系企業が増えている=シンガポール中心部(NNA撮影)

——シンガポールではどのような報酬プログラム(従業員のモチベーションや積極性を引き出すため、インセンティブなどを付与するプログラム)が人気なのか。
「フレキシブル・ベネフィット」など自由に使える選択型の福利厚生制度を設けている企業が増え始めている。新型コロナウイルス禍の追い風も弱まり、23年の業績が前年比で低下したという企業が多いため、昇給、賞与の上昇率が鈍化することも予想される。昨年と同水準での支給を期待していた社員が今年の報酬が少なくて辞めていくこともあるので、いつも以上に丁寧にケアし、背景を伝えていくことが大切だ。(聞き手:藤原絵美)
<プロフィル>
副島康介氏
リーラコーエンシンガポール法人、リージョナルカントリーマネジャー
15年、ネオキャリア(海外ではリーラコーエン)に入社。フィリピン拠点の立ち上げに従事した。16年にシンガポール拠点に異動し、17年より同拠点の責任者に就任。現在はシンガポール、フィリピン2カ国の統括責任者として会社経営に携わる。

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弊社が実施した「今後の採用計画」に関する最新の調査結果では、日系企業の7割が現地人スタッフを採用したいと回答。現地人の新卒を採用したい企業の割合も前回調査(23年7月)の7%から10%と伸びた。これまでトップ3に入っていた日本人の現地採用は5位以下にまで落ちた。
職種別では、営業やマーケティングの増員、バックオフィス関連人材の欠員補充の需要が高い。サステナビリティー(持続可能性)の分野にたけた人材の需要も見られるようになり、企業の脱炭素化を支援するサステナブルコンサルタントなどの募集も出てきている。
——人材獲得の課題は。
最大の課題は給与だ。日本本社の人事制度を現地法人にもそのまま適用し、給与体系も長期間更新していない保守的な企業も多い。調査結果では日系企業の6割が給与面で現地企業に追いついていないと回答している。課題は分かっているものの、9割の企業が制度変更の予定はないと答えている。
給与面では欧米系企業に劣る上、現地企業や中国系企業の台頭で日系企業の存在感も10~20年前と比べると決して高くはないのが現実だ。そこに向き合い最大限改善するか、営業・生産拠点のみを他国へ移すのかなどの決断を迫られる企業も出てきている。他国への移転や拠点の閉鎖を検討している企業は4%で、商社や建設が多かった。
近年は日本のコンサルティング会社やIT企業、スタートアップの進出も増えている。こうした企業の日本の本社自体が先進的な人事制度をとる企業や、日本で多額の資金調達をして海外進出を果たしたベンチャー企業では給与面などでも人材採用に優位だ。ただ採用後の人材育成面での課題はある。
——求職者側の新たなトレンドは。
給与、休暇、賞与などの要件と同様に、リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド勤務を重要視している求職者が多い。
——採用する側の新たなトレンドは。
日本国内と同様、シンガポールの日系各社も候補者に直接アプローチする「ダイレクトリクルーティング」に力を入れ始めている。ビジネス向けSNS「リンクトイン(LinkedIn)」など能動的に動けば採用できるチャネルが増えていることが背景にある。
求人広告を掲載して待つだけではなく、自ら市場へ呼びかけていく企業が増えてきており、そうしていかないと今後、需要の高い人材の採用はますます難しくなるだろう。日系以外の現地企業では退職した社員を再雇用する「アルムナイ(卒業生)採用」もトレンドとなっている。
——24年の雇用市場の見通しは。
弊社の調査結果では、人員を増やすと回答した日系企業は前回調査(23年7月)の31%から24%へ減少した。7割以上が現状維持と答えていることからも、ここ数年続いていた求職者優位の状況が、徐々に緩和してくるだろう。企業は引き続き給与体系や人事制度の見直し、既存社員の定着率を高めるための取り組みを強化する必要がある。
——日系企業が優秀な従業員を引き付け、維持するためにはどうすればよいのか。
相場に見合った給与と待遇、福利厚生のほか、将来のキャリア形成につながる経験や学習機会などの能力開発も重要だ。
米国の心理学者マズローは人間の欲求を生理的欲求、安全・安定の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階に分類しているが、シンガポール人も日本人と同様に承認や自己実現の欲求が高い傾向にある。
このため、いかに現職の職務を通じて技能を取得できるか、能力向上の機会があるかが重要視されている。現地人社員が日本人社員のアシスタント業務を担うことや、管理職以上が全員日本人といった体制は現地人材にとってあまり好ましくない。
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——シンガポールではどのような報酬プログラム(従業員のモチベーションや積極性を引き出すため、インセンティブなどを付与するプログラム)が人気なのか。
「フレキシブル・ベネフィット」など自由に使える選択型の福利厚生制度を設けている企業が増え始めている。新型コロナウイルス禍の追い風も弱まり、23年の業績が前年比で低下したという企業が多いため、昇給、賞与の上昇率が鈍化することも予想される。昨年と同水準での支給を期待していた社員が今年の報酬が少なくて辞めていくこともあるので、いつも以上に丁寧にケアし、背景を伝えていくことが大切だ。(聞き手:藤原絵美)
<プロフィル>
副島康介氏
リーラコーエンシンガポール法人、リージョナルカントリーマネジャー
15年、ネオキャリア(海外ではリーラコーエン)に入社。フィリピン拠点の立ち上げに従事した。16年にシンガポール拠点に異動し、17年より同拠点の責任者に就任。現在はシンガポール、フィリピン2カ国の統括責任者として会社経営に携わる。" ["post_title"]=> string(99) "【年始インタビュー】現地人材の採用本格化日系企業、交流サイトも活用" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%80%90%e5%b9%b4%e5%a7%8b%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%93%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%80%91%e7%8f%be%e5%9c%b0%e4%ba%ba%e6%9d%90%e3%81%ae%e6%8e%a1%e7%94%a8%e6%9c%ac%e6%a0%bc%e5%8c%96%e6%97%a5%e7%b3%bb" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-01-30 04:00:09" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-01-29 19:00:09" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=18045" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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