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労働者該当性の判断と労働関係法令の適用範囲の概要

1.日本

(1) 労働者該当性

労働基準法(以下「労基法」といいます)は、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所…に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています(労基法9条)。

この定義から、労基法上の労働者性を判断する上では、「使用される=使用者の指揮監督下での労働であること」及び「賃金を支払われる=労働の対償として報酬を得ていること」の2点が重要とされます。

また、労働契約法(以下「労契法」といいます)は「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しているところ(労契法2条1項)、これは労基法上の「労働者」と同趣旨であると解されています。

しかし、労働者の実態は多種多様であるため、労働者性の判断は必ずしも容易ではありません。そこで、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告はそれまでの判例・学説の動向を踏まえたうえで、次の判断基準を提示しました。同報告は労働者性の判断について、契約形式の如何にかかわらず実質的に判断するとして、①「指揮監督下の労働」にあたるかは、業務の指示に対する諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、勤務場所・勤務時間に関する拘束性、他人による労務の代替性の有無等を考慮することとし、②「賃金を支払われる者」については、労務の対償性のある報酬を受け取る者をいうとしています。更に①②のみでは判断できない場合には特定の企業との専属性の有無等も考慮されます。

(2) 労働者が受けられる保護

労働者に該当する者は労働法の各種規制の対象となる者であり、法令上様々な保護が与えられています。以下では、その中から代表的なものをいくつか簡単にご紹介します。

① 賃金

賃金は原則として、①通貨で、②直接労働者に、③その全額を、④毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています(労基法24条)。「通貨」とは、日本国で強制通用力のある貨幣を意味し、外国通貨や小切手等は含まれませんが、労働協約に別段の定めがある場合等には「通貨」以外での支払いも認められます。また、全額払いについても、給与所得の源泉徴収や社会保険料の控除等の例外があります。

② 労働時間及び休憩

原則として、使用者は労働者に、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはなりません(労基法32条1項、2項)。また、労働時間が6時間を超える場合においては45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を与えなければなりません(労基法34条1項)。

③ 休日

原則として、使用者は労働者に対し、週に1日以上の休日を与えなければなりません。ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には、この原則は適用されません(労基法35条1項・2項)。

④ 休暇

法定の休暇・休業としては、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後の休業(同法65条)、生理日の休暇(同法68条)、育児休業(育児介護休業法5条以下)、介護休業(育児介護休業法11条以下)、子の看護休暇(育児介護休業法16条の2以下)があります。

年次有給休暇について、使用者は、6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日以上の有給休暇を与えなければならず、勤続年数を増すにしたがってその休暇日数は加算されていきます(労基法39条1項・2項)。

⑤ 解雇

使用者は労働者を解雇するにあたっては、少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(直前3か月間の賃金を基に算定されます)を支払わなければなりません。また、解雇理由については法令によって一定の理由による解雇が禁止されている場合があります。更に、判例上、正当な理由のない解雇は権利の濫用であり無効であるとする解雇権濫用法理が定着しており、この法理は労契法に明文化されるに至っています(労契法16条)。

2.タイ

(1) 労働者該当性

労働者とは、その名称のいかんにかかわらず、賃金を受け取り使用者のために労働することに同意した者をいうと定義されています(労働者保護法第5条、労働関係法第5条)。そのため、形式的な契約形態にかかわらず実態として当該定義にあてはまる場合には労働者に該当するものと解されます。

(2) 労働者が受けられる保護

① 賃金

賃金については、①男女平等の原則(労働者保護法53条)、②通貨(=タイバーツ)払いの原則(労働者保護法54条)、③直接払いの原則(労働者保護法55条)、④全額払いの原則(労働者保護法76条)、⑤毎月払い、一定期日払いの原則(労働者保護法70条)といった諸原則が定められています。

②については、労働者の承諾があれば手形又は外国通貨での支払いも認められています。③について、賃金は労働者の勤務場所で支払わなければなりませんが、労働者の承諾があればこの限りではなく、銀行振込による支払についても事前の承諾が必要であると解されています。

② 労働時間及び休憩

労働時間は原則として1日8時間以下、週48時間以下でなければなりません。ただし、労働者の健康と安全を害する可能性がある仕事として労働社会福祉省令で定められているものに関しては1日7時間以下、週42時間以下でなければなりません(労働者保護法23条)。

休憩については1日あたりの連続労働時間が5時間を超える前に、1時間以上の休憩時間を与えなければなりません。労働者と使用者との間で1回の休憩時間を1時間未満とする合意もできますが、その場合も1日の休憩時間の合計は1時間以上でなければなりません(労働者保護法27条)。

③ 休日

休日は原則として週に1日以上、週休日と次の週休日の間の間隔は6日以内でなければなりません(労働者保護法28条)。

使用者は原則として休日に労働者に労働をさせてはなりませんが、労働の性質上継続して行なわなければ業務に支障をきたす場合や緊急の業務の場合等は、使用者は必要範囲内で労働者に休日労働を命じることができます(労働者保護法25条)。

④ 休暇

1年間勤続した労働者については、年6日以上の年次有給休暇を取得する権利を有します。勤続年数に応じて年次有給休暇の日数が増加するような法定の制度はありませんが、年6日を超えて休暇を与えること自体は可能です。また、労働者と使用者との事前合意により、未使用の年次有給休暇を次年度に繰り越すことも可能なほか、勤続1年未満の労働者については、使用者が勤務期間に比例して年次有給休暇を決定することもできます(労働者保護法30条)。

年次有給休暇のほかには、病気休暇、出産休暇、不妊手術休暇、用事休暇、兵役休暇、研修休暇等が法定されています。

⑤ 解雇

使用者が労働者を解雇する場合には原則として、①1給与期間前までに解雇予告をおこなったこと(期限の定めのない雇用の場合)(労働者保護法17条)、②法定の解雇補償金を支払ったこと(労働者保護法118条)、③年次有給休暇の買取り(労働者保護法67条)を要するほか、④解雇禁止事由(明文規定による個別の解雇禁止事由または不公正解雇)に当たらないことが求められます。

3.マレーシア

(1) 概要

マレーシアでは、2022年3月に、46条からなる雇用法(The Employment Act 1955)改正案が連邦議会で可決(以下「改正雇用法」といいます。)、2023年1月1日に施行されました。これにより、雇用法の適用対象となる労働者(Employee)の範囲が拡充されています。

そこで企業としては、既存の雇用契約や従業規則が改正雇用法に準拠しているかどうかを確認することが重要です。

(2) 雇用法(The Employment Act 1955)の適用対象

従前、適用対象となる労働者は、賃金が一定額以下(月額RM2,000以下)の労働者及び肉体労働者等に限定されていましたが、改正雇用法施行により、同法の適用対象者は、月給にかかわらず、雇用契約に基づき役務提供を行う全ての者に拡張されることになりました。

なお、当該役務提供契約が雇用契約であるか否かは別途検討する必要となります。そして、当該契約が雇用契約であるか否かは、指揮命令関係の有無や報酬体系等の実質的な要素を考慮して判断されることになります。

(3) 雇用法による労働者保護の内容

雇用法は、雇用契約の条件及び使用者と労働者の法律関係を規律し、残業や休暇、懲戒についての規定も含まれています。

雇用法による労働者保護の内容としては、例えば、同法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、当該無効部分は、雇用法で定める基準によることになります。

さらに、改正雇用法には、週の労働時間上限48時間から45時間への短縮や、月の一部のみ勤務した労働者の給与計算方法、産休の延長、既婚男性労働者に対する育児休暇の付与、フレックス制度の運用、雇用法違反に課する罰金の引き上げ等が盛り込まれました。他方、月給4,000リンギを超える労働者には、原則として残業代を支給する必要はないとされている等、労働者の属性によりその適用が除外される条項も存在します。

(4) 東マレーシアにおける特例

東マレーシアにおいては、前記(2)の「労働者」であっても、雇用法の適用はなく、代わりにサバ州労働令(Labour Ordinance(Sabah)Cap.67)又はサラワク州労働令(Labour Ordinance(Sarawak)Cap.76)が適用されることになります。

4.ミャンマー

(1) 労働者該当性の判断と労働関係法令の適用範囲

ミャンマーにおいては、統一された1つの労働法が存在するわけではないため、法律ごとに労働者の規定が少しずつ異なります。例えば、最低賃金法においては、「労働者」とは、あらゆる営利事業、製造及びサービス、農業並びに畜産業で働くことを使用者と雇用契約で合意することにより、身体的又は知的能力を利用して無期限雇用若しくは臨時雇用としての労働によって得られる賃金によって生計を立てている者を意味する。この表現は、見習い及び研修員、事務職員、外部の労働者、家政婦並びに運転手、警備員、門番並びに清掃作業員並びに職員を含むと規定されています。

したがって、適用可能性のある法律ごとに労働者該当性を判断することとなります。

5.メキシコ

(1) 労働者該当性

メキシコでは、労使関係を規定する法律として、連邦労働法(Ley Fedral del Trabajo)が挙げられる。連邦労働法によると、労働者(Tranajador)は、「他者(法人か自然人かを問わない)に対して、従属的で個人的な仕事を提供する自然人である。この場合、「仕事」とは、専門職や職種に必要とされる技術的水準に関わらず、人的な、知的な、あるいは肉体的な活動と解される」と定義されています。従って、雇用の形態に関わらず、使用者との間に従属的な関係があり、労働を提供している人は労働者と考えられ、連邦労働法の規定が適用されます。

(2) 労働者の保護

連邦労働法には、雇用期間に関する規定、雇用関係の終了に関する規定、賃金や労働時間、休日や有給休暇などの労働条件に関する規定、労働者の権利や義務に関する規定などが定められており、労働者はこれらの規定に保護されることとなります。

なお、労働者のうち、管理や監査、監督などの職責を担う人や事業所内における使用者自身の業務を担う人は、「信任労働者(trabajador de confianza)」と定義されており、労働組合の組合員になれないなど、一定の制限を受けます。

その他、船員(Trabajadores de los buques)、航空機乗務員(Trabajadores de las tripulaciones aeronáuticas)、鉄道乗務員(Trabajadores ferrocarrileros)、自動車輸送乗務員(Trabajadores de autotransportes)、農・畜・水産業労働者(Trabajadores del campo)、俳優・音楽家(Trabajadores actores y a los músicos)、家事労働者(代行者)(Trabajadoras del hogar)、鉱山労働者(Trabajadores de mina)、ホテル・レストラン・バー等の労働者(Trabajadores en hoteles, restaurantes, bares y otros establecimientos análogos)、専門医科研修中の研修医(Médicos residentes en período de adiestramiento en una especialidad)、テレワーク労働者(Trabajadores bajo la modalidad de teletrabajo)などの労働者に対し、例えば労働時間や休日の取得について柔軟な取得を認める、他の労働者との平等が保てるよう使用者に義務を課すなど、特別な配慮を行う規定が設けられています。

最低賃金についても、専門職62種それぞれに一般最低賃金とは異なる額の最低賃金額が定められています。

(3) 使用者の責任

使用者が自身の労働者に対して、使用者としての責任を負うことは当然ですが、メキシコにおいては、労働者派遣(subcontratación de personal、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、もしくは提供すること」)を利用する場合、派遣先企業も、派遣元企業と連帯し責任を負うことと規定されていることから、派遣元企業に不遵守があった場合、派遣先企業は、自身の労働者と同様に派遣労働者に対しても責任を負う場合が生じ得ます。

6.バングラデシュ

バングラデシュで、労務に関する主な法令は、2006年バングラデシュ労働法、2015年バングラデシュ労働規則、2019年EPZ労働法、2022年EPZ労働規則であり、これらの法令の適用対象となる労働者(worker)は労働法に基づき、その権利が保護され、適用対象とならない労働者は、当事者間の契約にて労働条件が定められます。

(1) 労働法における「労働者」の定義

労働者の定義は労働法の適用性の判断において重要な基準になります。

労働法2条(65)によれば、労働者は、「雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、売買、事務の業務をするために直接または間接的に事業所または産業に雇用された者で見習いを含む。なお、主に管理、経営、監督の業務に雇用された者は含まない」とされています。

輸出加工区内の企業にのみ適用されるEPZ労働法も同様に定義しており、同法2条(48)では、労働者は、「工業の雇用者を除き、輸出加工区内で直接またはその他の方法で雇用されている、雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、事務の業務をするために事業所または工業に雇用された成人(見習いを含む)である。なお、最高経営責任者、事業の執行、管理の業務のために雇用された者、工業の監督及び管理について責任を負う者は含まない。」とされています。

労働法は、その適用対象として、工場などの産業に従事する労働者を想定しており、経営(administrative)、管理(management)、監督(supervisory)の地位にある者は適用しないと規定していますが、これらの経営、管理、監督の職位体を具体的または明確に定義していません。たとえ経営者という地位であっても、その労働者の業務、義務、その他の要素を考慮して、労働法が適用される労働者か否かが判断されます。また、労働者側が、自身を労働者であるとして労働法に規定される権利を求めて訴訟に発展した場合、労働者側の権利が認められる傾向にあります。

(2) 労働者に該当しない者に対する規制

労働法の適用対象となる「労働者(worker)」に該当しない者の勤務条件などは、明示的か黙示的かを問わず、雇用契約書または任命書によって決定されます。
企業は、雇用を管理する独自の就業規則(Service rule)を設けることができますが、独自の就業規則は労働法に基づいて規定されている基準よりも労働者の不利にしてはならず、工場・事業所検査局(DIFE)の承認がなければ法的効力は発生しないと解されます。

7. フィリピン

(1) フィリピン労働法における「労働者」の定義

フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護するための条項が規定されています。

フィリピン労働法においては、労働者に位置付けられる“Employee”(より広義の“Worker”とは異なります。)が定義されており、「使用者に雇用されている者」と説明されています。本稿においては、使用者に雇用されている者を「労働者」といい、以下では労働者該当性について解説いたします。

(2) フィリピン労働法における労働者該当性の判断

労働者に該当する場合は、フィリピン労働法における労働者保護の規定が適用されるため、労働者に該当するかどうかは、企業が事業運営のために人員を確保する場面において重要な事項といえます。この労働者該当性については、フィリピンの裁判所は一貫して“four-fold test”と呼ばれる基準を適用しており、以下の4つの要素を基準に判断しているとされています(Parayday v. Shogun Shipping Co., Inc., G.R. No. 204555, July 6, 2020)。

① 使用者が対象者の選考及び採用を行ったかどうか
② 使用者から賃金の支払いがあるかどうか
③ 使用者が対象者を解雇する権限を有しているかどうか
④ 使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか

これらのうち、④の「使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか」が最も重要な要素であるとされており、使用者が、仕事の結果だけではなく、結果を出すための手段や過程においても管理する権限を有していたかどうかが検討されます。

(3) 労働者該当性に関して企業が注意すべき点

企業が事業運営のため、人員を確保する際に、注意すべき事項について説明します。

労働者該当性は、先に述べた要素からも分かるように、形式的な面のみならず、実質的な面についても判断されます。仮に対象者との契約書において「労働者」という文言が使用されていない場合であっても、“four-fold test”の基準に照らして検討した場合に、労働者に該当すると判断される場合があります。労働者に当たらない典型例としては、取締役等の役員が挙げられますが、肩書きが役員である場合であっても、“four-fold test”に照らして労働者としての実態がある場合には、労働者に該当し、労働法の保護が適用される余地があることに注意が必要です。

8. ベトナム

ベトナムの現行労働法第2条によると、労働法の適用対象は、i) 全ての労働者、職業学習生、職業実習生、労使関係を持たずに働く者、ii) 使用者、iii) ベトナム国内で働く外国人労働者、iv) 労使関係に直接関係するその他の機関、組織、個人とされています。このうち、労働者とは、使用者のために合意に基づいて働き、賃金の支払いを受け、使用者によって管理、指揮、監督される者をいうとされています(労働法3条1項)。労働者の最低就労年齢は、原則として15歳以上とされています。また、「職業学習生」とは、職場で職業訓練を行うために使用者が採用する個人のこと、「職業実習生」とは、職場で特定の職務上の地位に応じた業務の実習や専門的な実践を行うために使用者が採用する個人のことをいうとされ、いずれも原則として14歳以上でなければならず、職業学習、職業実習を受けるために適した健康状態を有していなければなりません。

また、労働法は「ベトナム国内で働く外国人労働者」も適用対象とされていますが、ベトナム人と異なり、年齢は18歳以上でなければならないこと、一定の専門・技術水準、技能、実務経験を有すること、一定の健康状態を有すること、原則として労働許可証を取得しなければないことなど、さまざまな条件が課されています。

9.インド

インドでは産業分野ごとや規制内容ごとに多くの連邦法及び州法が存在し、全ての労働関係法令において労働者該当性の判断基準が統一されているわけではありません。なかでも解雇規制など労使関係において重要な規制を設ける産業紛争法(Industrial Disputes Act,1947)の労働者該当性の判断基準について確認しておくことが重要となります。なお、産業紛争法及び後述する産業雇用就業規則法は、労使関係法典(未施行)に統廃合されますが、労働者(Workman)の判断基準は基本的に変わりません。

(1) 労働者該当性の判断について

産業紛争法では、「労働者(Workman)」とは、雇用条件が明示的であるか黙示的であるかを問わず、賃金又は報酬のために、手作業、非熟練労働、熟練労働、技術的、作業的、事務的、又は監督的業務を行うためにあらゆる産業で雇用される者(見習いを含む)と定義されています(産業紛争法2条(s))。また、同条は、監督的立場で雇用され月額INR1万以上を超える賃金を受け取る者で、かつ、職務の性質上、又は与えられた権限により、主に管理的な性質を持つ職務を遂行する者は、労働者に該当しないと規定しています。

また、裁判例では、賃金か報酬かにかかわらず、直接又は代理機関を通じて、雇用されている人を意味し、主人(Master)と使用人(Servant)の関係が存在し、主人は使用人が行う仕事を監督し、管理するものとし、使用人がどのような仕事をするかを指示するだけでなく、使用人がどのように行うかについても監督しなければならないとの判断基準を示しています。

したがって、インドにおいては労働者該当性の判断は、雇用契約書に記載される業務内容など形式的な肩書等だけでなく実際に問題となる従業員が行う業務や監督的立場の有無又は業務遂行についてどのように監督されるか等の事情を総合的に判断する必要があります。そして、当該従業員が使用者から業務遂行方法についてまで指示がなされている場合は労働者に該当する可能性が高くなります。

(2) 労働関係法令の適用範囲について

産業紛争法上の労働者(Workman)に該当する者については、産業紛争法の解雇規制が適用され、法令の規制に基づき解雇手続を進める必要があります。また、解雇について紛争が生じた場合には、調停官による調停や労働裁判といった産業紛争法で規定される手続に従うことになります。

また、産業雇用就業規則法では、産業紛争法の労働者と同じ判断基準を利用しているため前記労働者に該当する者の事業場については、産業雇用就業規則法に基づき就業規則を策定運用する必要があります。もっとも、産業紛争法の解雇規制は労働者が50人以上いる事業場に適用され、産業雇用就業規則法の就業規則に関する規定は一部の州を除き労働者が100人以上いる事業場に適用されます。

労働者に該当しないノン・ワークマン(Non-Workman)については、契約解除の方法等の労働条件については、州ごとの店舗施設法の規定に反しない限り労使間の雇用契約に従うことになります。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。

(1) 労働者該当性

「労働者」とは、雇用者の監督および指示の下で、UAE内で人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)からライセンスを取得した企業の1つのために働くことを認められた自然人、「雇用者」とは、賃金を対価として1人以上の労働者を雇用する自然人または法人、と定義されています(連邦労働法第1条)。

連邦労働法第6条第1項は、労働行為並びに雇用者による労働者の採用及び雇用には、連邦労働法及びその施行規則に基づきMoHREからの就労許可(work permit)を取得しなければならない、と規定しています。このように、労働のためには就労許可が必要とされ、企業が労働者を雇用するには、労働者がUAE国民か外国人であるかを問わず、原則として、雇用者が就労許可を取得しなければなりません。

ただし、就労許可の1種であるフリーランス許可については、特定の企業・団体をスポンサーとせず、有効な労働契約の締結を前提とせず、企業又は個人に対して、限定された期間、ある任務の遂行、または特定の業務について、その役務を提供することで報酬を得る独立した自営業を営む個人に対して発給されます(施行規則第6条)。フリーランスで役務を提供する自然人は、役務提供相手たる企業または個人の労働者ではありません(施行規則第6条及び8条)。

(2) 労働者保護規定からの除外

連邦労働法は、雇用契約の締結(第8条)、就労時間(第17~19条)、休祝日(第21、28条)、年次有給休暇(第29条)、出産等各種休業(第30~32条)、労働争議にかかる訴訟費用の免除(第55条)等の労働者を保護する規定を置いています。ただし、就労時間に関しては、労働者が、①取締役会の議長及びその構成員、②雇用者の権限を与えられている監督的地位を占める者、③その労働の性質上特別な条件を享受している艦艇乗組員及び船員、の場合には適用除外されます(施行規則第15条第4項)。

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1.日本

(1) 労働者該当性 労働基準法(以下「労基法」といいます)は、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所…に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています(労基法9条)。 この定義から、労基法上の労働者性を判断する上では、「使用される=使用者の指揮監督下での労働であること」及び「賃金を支払われる=労働の対償として報酬を得ていること」の2点が重要とされます。 また、労働契約法(以下「労契法」といいます)は「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義しているところ(労契法2条1項)、これは労基法上の「労働者」と同趣旨であると解されています。 しかし、労働者の実態は多種多様であるため、労働者性の判断は必ずしも容易ではありません。そこで、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告はそれまでの判例・学説の動向を踏まえたうえで、次の判断基準を提示しました。同報告は労働者性の判断について、契約形式の如何にかかわらず実質的に判断するとして、①「指揮監督下の労働」にあたるかは、業務の指示に対する諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、勤務場所・勤務時間に関する拘束性、他人による労務の代替性の有無等を考慮することとし、②「賃金を支払われる者」については、労務の対償性のある報酬を受け取る者をいうとしています。更に①②のみでは判断できない場合には特定の企業との専属性の有無等も考慮されます。 (2) 労働者が受けられる保護 労働者に該当する者は労働法の各種規制の対象となる者であり、法令上様々な保護が与えられています。以下では、その中から代表的なものをいくつか簡単にご紹介します。 ① 賃金 賃金は原則として、①通貨で、②直接労働者に、③その全額を、④毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないとされています(労基法24条)。「通貨」とは、日本国で強制通用力のある貨幣を意味し、外国通貨や小切手等は含まれませんが、労働協約に別段の定めがある場合等には「通貨」以外での支払いも認められます。また、全額払いについても、給与所得の源泉徴収や社会保険料の控除等の例外があります。 ② 労働時間及び休憩 原則として、使用者は労働者に、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはなりません(労基法32条1項、2項)。また、労働時間が6時間を超える場合においては45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩時間を与えなければなりません(労基法34条1項)。 ③ 休日 原則として、使用者は労働者に対し、週に1日以上の休日を与えなければなりません。ただし、4週間を通じて4日以上の休日を与える場合には、この原則は適用されません(労基法35条1項・2項)。 ④ 休暇 法定の休暇・休業としては、年次有給休暇(労基法39条)、産前産後の休業(同法65条)、生理日の休暇(同法68条)、育児休業(育児介護休業法5条以下)、介護休業(育児介護休業法11条以下)、子の看護休暇(育児介護休業法16条の2以下)があります。 年次有給休暇について、使用者は、6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日以上の有給休暇を与えなければならず、勤続年数を増すにしたがってその休暇日数は加算されていきます(労基法39条1項・2項)。 ⑤ 解雇 使用者は労働者を解雇するにあたっては、少なくとも30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(直前3か月間の賃金を基に算定されます)を支払わなければなりません。また、解雇理由については法令によって一定の理由による解雇が禁止されている場合があります。更に、判例上、正当な理由のない解雇は権利の濫用であり無効であるとする解雇権濫用法理が定着しており、この法理は労契法に明文化されるに至っています(労契法16条)。

2.タイ

(1) 労働者該当性 労働者とは、その名称のいかんにかかわらず、賃金を受け取り使用者のために労働することに同意した者をいうと定義されています(労働者保護法第5条、労働関係法第5条)。そのため、形式的な契約形態にかかわらず実態として当該定義にあてはまる場合には労働者に該当するものと解されます。 (2) 労働者が受けられる保護 ① 賃金 賃金については、①男女平等の原則(労働者保護法53条)、②通貨(=タイバーツ)払いの原則(労働者保護法54条)、③直接払いの原則(労働者保護法55条)、④全額払いの原則(労働者保護法76条)、⑤毎月払い、一定期日払いの原則(労働者保護法70条)といった諸原則が定められています。 ②については、労働者の承諾があれば手形又は外国通貨での支払いも認められています。③について、賃金は労働者の勤務場所で支払わなければなりませんが、労働者の承諾があればこの限りではなく、銀行振込による支払についても事前の承諾が必要であると解されています。 ② 労働時間及び休憩 労働時間は原則として1日8時間以下、週48時間以下でなければなりません。ただし、労働者の健康と安全を害する可能性がある仕事として労働社会福祉省令で定められているものに関しては1日7時間以下、週42時間以下でなければなりません(労働者保護法23条)。 休憩については1日あたりの連続労働時間が5時間を超える前に、1時間以上の休憩時間を与えなければなりません。労働者と使用者との間で1回の休憩時間を1時間未満とする合意もできますが、その場合も1日の休憩時間の合計は1時間以上でなければなりません(労働者保護法27条)。 ③ 休日 休日は原則として週に1日以上、週休日と次の週休日の間の間隔は6日以内でなければなりません(労働者保護法28条)。 使用者は原則として休日に労働者に労働をさせてはなりませんが、労働の性質上継続して行なわなければ業務に支障をきたす場合や緊急の業務の場合等は、使用者は必要範囲内で労働者に休日労働を命じることができます(労働者保護法25条)。 ④ 休暇 1年間勤続した労働者については、年6日以上の年次有給休暇を取得する権利を有します。勤続年数に応じて年次有給休暇の日数が増加するような法定の制度はありませんが、年6日を超えて休暇を与えること自体は可能です。また、労働者と使用者との事前合意により、未使用の年次有給休暇を次年度に繰り越すことも可能なほか、勤続1年未満の労働者については、使用者が勤務期間に比例して年次有給休暇を決定することもできます(労働者保護法30条)。 年次有給休暇のほかには、病気休暇、出産休暇、不妊手術休暇、用事休暇、兵役休暇、研修休暇等が法定されています。 ⑤ 解雇 使用者が労働者を解雇する場合には原則として、①1給与期間前までに解雇予告をおこなったこと(期限の定めのない雇用の場合)(労働者保護法17条)、②法定の解雇補償金を支払ったこと(労働者保護法118条)、③年次有給休暇の買取り(労働者保護法67条)を要するほか、④解雇禁止事由(明文規定による個別の解雇禁止事由または不公正解雇)に当たらないことが求められます。

3.マレーシア

(1) 概要 マレーシアでは、2022年3月に、46条からなる雇用法(The Employment Act 1955)改正案が連邦議会で可決(以下「改正雇用法」といいます。)、2023年1月1日に施行されました。これにより、雇用法の適用対象となる労働者(Employee)の範囲が拡充されています。 そこで企業としては、既存の雇用契約や従業規則が改正雇用法に準拠しているかどうかを確認することが重要です。 (2) 雇用法(The Employment Act 1955)の適用対象 従前、適用対象となる労働者は、賃金が一定額以下(月額RM2,000以下)の労働者及び肉体労働者等に限定されていましたが、改正雇用法施行により、同法の適用対象者は、月給にかかわらず、雇用契約に基づき役務提供を行う全ての者に拡張されることになりました。 なお、当該役務提供契約が雇用契約であるか否かは別途検討する必要となります。そして、当該契約が雇用契約であるか否かは、指揮命令関係の有無や報酬体系等の実質的な要素を考慮して判断されることになります。 (3) 雇用法による労働者保護の内容 雇用法は、雇用契約の条件及び使用者と労働者の法律関係を規律し、残業や休暇、懲戒についての規定も含まれています。 雇用法による労働者保護の内容としては、例えば、同法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、当該無効部分は、雇用法で定める基準によることになります。 さらに、改正雇用法には、週の労働時間上限48時間から45時間への短縮や、月の一部のみ勤務した労働者の給与計算方法、産休の延長、既婚男性労働者に対する育児休暇の付与、フレックス制度の運用、雇用法違反に課する罰金の引き上げ等が盛り込まれました。他方、月給4,000リンギを超える労働者には、原則として残業代を支給する必要はないとされている等、労働者の属性によりその適用が除外される条項も存在します。 (4) 東マレーシアにおける特例 東マレーシアにおいては、前記(2)の「労働者」であっても、雇用法の適用はなく、代わりにサバ州労働令(Labour Ordinance(Sabah)Cap.67)又はサラワク州労働令(Labour Ordinance(Sarawak)Cap.76)が適用されることになります。

4.ミャンマー

(1) 労働者該当性の判断と労働関係法令の適用範囲 ミャンマーにおいては、統一された1つの労働法が存在するわけではないため、法律ごとに労働者の規定が少しずつ異なります。例えば、最低賃金法においては、「労働者」とは、あらゆる営利事業、製造及びサービス、農業並びに畜産業で働くことを使用者と雇用契約で合意することにより、身体的又は知的能力を利用して無期限雇用若しくは臨時雇用としての労働によって得られる賃金によって生計を立てている者を意味する。この表現は、見習い及び研修員、事務職員、外部の労働者、家政婦並びに運転手、警備員、門番並びに清掃作業員並びに職員を含むと規定されています。 したがって、適用可能性のある法律ごとに労働者該当性を判断することとなります。

5.メキシコ

(1) 労働者該当性 メキシコでは、労使関係を規定する法律として、連邦労働法(Ley Fedral del Trabajo)が挙げられる。連邦労働法によると、労働者(Tranajador)は、「他者(法人か自然人かを問わない)に対して、従属的で個人的な仕事を提供する自然人である。この場合、「仕事」とは、専門職や職種に必要とされる技術的水準に関わらず、人的な、知的な、あるいは肉体的な活動と解される」と定義されています。従って、雇用の形態に関わらず、使用者との間に従属的な関係があり、労働を提供している人は労働者と考えられ、連邦労働法の規定が適用されます。 (2) 労働者の保護 連邦労働法には、雇用期間に関する規定、雇用関係の終了に関する規定、賃金や労働時間、休日や有給休暇などの労働条件に関する規定、労働者の権利や義務に関する規定などが定められており、労働者はこれらの規定に保護されることとなります。 なお、労働者のうち、管理や監査、監督などの職責を担う人や事業所内における使用者自身の業務を担う人は、「信任労働者(trabajador de confianza)」と定義されており、労働組合の組合員になれないなど、一定の制限を受けます。 その他、船員(Trabajadores de los buques)、航空機乗務員(Trabajadores de las tripulaciones aeronáuticas)、鉄道乗務員(Trabajadores ferrocarrileros)、自動車輸送乗務員(Trabajadores de autotransportes)、農・畜・水産業労働者(Trabajadores del campo)、俳優・音楽家(Trabajadores actores y a los músicos)、家事労働者(代行者)(Trabajadoras del hogar)、鉱山労働者(Trabajadores de mina)、ホテル・レストラン・バー等の労働者(Trabajadores en hoteles, restaurantes, bares y otros establecimientos análogos)、専門医科研修中の研修医(Médicos residentes en período de adiestramiento en una especialidad)、テレワーク労働者(Trabajadores bajo la modalidad de teletrabajo)などの労働者に対し、例えば労働時間や休日の取得について柔軟な取得を認める、他の労働者との平等が保てるよう使用者に義務を課すなど、特別な配慮を行う規定が設けられています。 最低賃金についても、専門職62種それぞれに一般最低賃金とは異なる額の最低賃金額が定められています。 (3) 使用者の責任 使用者が自身の労働者に対して、使用者としての責任を負うことは当然ですが、メキシコにおいては、労働者派遣(subcontratación de personal、「自身の労働者を他者の利益のために利用可能とし、もしくは提供すること」)を利用する場合、派遣先企業も、派遣元企業と連帯し責任を負うことと規定されていることから、派遣元企業に不遵守があった場合、派遣先企業は、自身の労働者と同様に派遣労働者に対しても責任を負う場合が生じ得ます。

6.バングラデシュ

バングラデシュで、労務に関する主な法令は、2006年バングラデシュ労働法、2015年バングラデシュ労働規則、2019年EPZ労働法、2022年EPZ労働規則であり、これらの法令の適用対象となる労働者(worker)は労働法に基づき、その権利が保護され、適用対象とならない労働者は、当事者間の契約にて労働条件が定められます。 (1) 労働法における「労働者」の定義 労働者の定義は労働法の適用性の判断において重要な基準になります。 労働法2条(65)によれば、労働者は、「雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、売買、事務の業務をするために直接または間接的に事業所または産業に雇用された者で見習いを含む。なお、主に管理、経営、監督の業務に雇用された者は含まない」とされています。 輸出加工区内の企業にのみ適用されるEPZ労働法も同様に定義しており、同法2条(48)では、労働者は、「工業の雇用者を除き、輸出加工区内で直接またはその他の方法で雇用されている、雇用条件が明示または黙示されており、雇用または報酬のために熟練、非熟練、マニュアル作業、技術的、事務の業務をするために事業所または工業に雇用された成人(見習いを含む)である。なお、最高経営責任者、事業の執行、管理の業務のために雇用された者、工業の監督及び管理について責任を負う者は含まない。」とされています。 労働法は、その適用対象として、工場などの産業に従事する労働者を想定しており、経営(administrative)、管理(management)、監督(supervisory)の地位にある者は適用しないと規定していますが、これらの経営、管理、監督の職位体を具体的または明確に定義していません。たとえ経営者という地位であっても、その労働者の業務、義務、その他の要素を考慮して、労働法が適用される労働者か否かが判断されます。また、労働者側が、自身を労働者であるとして労働法に規定される権利を求めて訴訟に発展した場合、労働者側の権利が認められる傾向にあります。 (2) 労働者に該当しない者に対する規制 労働法の適用対象となる「労働者(worker)」に該当しない者の勤務条件などは、明示的か黙示的かを問わず、雇用契約書または任命書によって決定されます。 企業は、雇用を管理する独自の就業規則(Service rule)を設けることができますが、独自の就業規則は労働法に基づいて規定されている基準よりも労働者の不利にしてはならず、工場・事業所検査局(DIFE)の承認がなければ法的効力は発生しないと解されます。

7. フィリピン

(1) フィリピン労働法における「労働者」の定義 フィリピンにおいては、Labor. Code of The Philippines(以下「フィリピン労働法」といいます。)という日本における労働法に位置付けられる法令が定められており、労働者の健康や福祉を守りつつ、使用者との間における公平な立場を保護するための条項が規定されています。 フィリピン労働法においては、労働者に位置付けられる“Employee”(より広義の“Worker”とは異なります。)が定義されており、「使用者に雇用されている者」と説明されています。本稿においては、使用者に雇用されている者を「労働者」といい、以下では労働者該当性について解説いたします。 (2) フィリピン労働法における労働者該当性の判断 労働者に該当する場合は、フィリピン労働法における労働者保護の規定が適用されるため、労働者に該当するかどうかは、企業が事業運営のために人員を確保する場面において重要な事項といえます。この労働者該当性については、フィリピンの裁判所は一貫して“four-fold test”と呼ばれる基準を適用しており、以下の4つの要素を基準に判断しているとされています(Parayday v. Shogun Shipping Co., Inc., G.R. No. 204555, July 6, 2020)。 ① 使用者が対象者の選考及び採用を行ったかどうか ② 使用者から賃金の支払いがあるかどうか ③ 使用者が対象者を解雇する権限を有しているかどうか ④ 使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか これらのうち、④の「使用者が対象者の行動を管理する権限を有しているかどうか」が最も重要な要素であるとされており、使用者が、仕事の結果だけではなく、結果を出すための手段や過程においても管理する権限を有していたかどうかが検討されます。 (3) 労働者該当性に関して企業が注意すべき点 企業が事業運営のため、人員を確保する際に、注意すべき事項について説明します。 労働者該当性は、先に述べた要素からも分かるように、形式的な面のみならず、実質的な面についても判断されます。仮に対象者との契約書において「労働者」という文言が使用されていない場合であっても、“four-fold test”の基準に照らして検討した場合に、労働者に該当すると判断される場合があります。労働者に当たらない典型例としては、取締役等の役員が挙げられますが、肩書きが役員である場合であっても、“four-fold test”に照らして労働者としての実態がある場合には、労働者に該当し、労働法の保護が適用される余地があることに注意が必要です。

8. ベトナム

ベトナムの現行労働法第2条によると、労働法の適用対象は、i) 全ての労働者、職業学習生、職業実習生、労使関係を持たずに働く者、ii) 使用者、iii) ベトナム国内で働く外国人労働者、iv) 労使関係に直接関係するその他の機関、組織、個人とされています。このうち、労働者とは、使用者のために合意に基づいて働き、賃金の支払いを受け、使用者によって管理、指揮、監督される者をいうとされています(労働法3条1項)。労働者の最低就労年齢は、原則として15歳以上とされています。また、「職業学習生」とは、職場で職業訓練を行うために使用者が採用する個人のこと、「職業実習生」とは、職場で特定の職務上の地位に応じた業務の実習や専門的な実践を行うために使用者が採用する個人のことをいうとされ、いずれも原則として14歳以上でなければならず、職業学習、職業実習を受けるために適した健康状態を有していなければなりません。 また、労働法は「ベトナム国内で働く外国人労働者」も適用対象とされていますが、ベトナム人と異なり、年齢は18歳以上でなければならないこと、一定の専門・技術水準、技能、実務経験を有すること、一定の健康状態を有すること、原則として労働許可証を取得しなければないことなど、さまざまな条件が課されています。

9.インド

インドでは産業分野ごとや規制内容ごとに多くの連邦法及び州法が存在し、全ての労働関係法令において労働者該当性の判断基準が統一されているわけではありません。なかでも解雇規制など労使関係において重要な規制を設ける産業紛争法(Industrial Disputes Act,1947)の労働者該当性の判断基準について確認しておくことが重要となります。なお、産業紛争法及び後述する産業雇用就業規則法は、労使関係法典(未施行)に統廃合されますが、労働者(Workman)の判断基準は基本的に変わりません。 (1) 労働者該当性の判断について 産業紛争法では、「労働者(Workman)」とは、雇用条件が明示的であるか黙示的であるかを問わず、賃金又は報酬のために、手作業、非熟練労働、熟練労働、技術的、作業的、事務的、又は監督的業務を行うためにあらゆる産業で雇用される者(見習いを含む)と定義されています(産業紛争法2条(s))。また、同条は、監督的立場で雇用され月額INR1万以上を超える賃金を受け取る者で、かつ、職務の性質上、又は与えられた権限により、主に管理的な性質を持つ職務を遂行する者は、労働者に該当しないと規定しています。 また、裁判例では、賃金か報酬かにかかわらず、直接又は代理機関を通じて、雇用されている人を意味し、主人(Master)と使用人(Servant)の関係が存在し、主人は使用人が行う仕事を監督し、管理するものとし、使用人がどのような仕事をするかを指示するだけでなく、使用人がどのように行うかについても監督しなければならないとの判断基準を示しています。 したがって、インドにおいては労働者該当性の判断は、雇用契約書に記載される業務内容など形式的な肩書等だけでなく実際に問題となる従業員が行う業務や監督的立場の有無又は業務遂行についてどのように監督されるか等の事情を総合的に判断する必要があります。そして、当該従業員が使用者から業務遂行方法についてまで指示がなされている場合は労働者に該当する可能性が高くなります。 (2) 労働関係法令の適用範囲について 産業紛争法上の労働者(Workman)に該当する者については、産業紛争法の解雇規制が適用され、法令の規制に基づき解雇手続を進める必要があります。また、解雇について紛争が生じた場合には、調停官による調停や労働裁判といった産業紛争法で規定される手続に従うことになります。 また、産業雇用就業規則法では、産業紛争法の労働者と同じ判断基準を利用しているため前記労働者に該当する者の事業場については、産業雇用就業規則法に基づき就業規則を策定運用する必要があります。もっとも、産業紛争法の解雇規制は労働者が50人以上いる事業場に適用され、産業雇用就業規則法の就業規則に関する規定は一部の州を除き労働者が100人以上いる事業場に適用されます。 労働者に該当しないノン・ワークマン(Non-Workman)については、契約解除の方法等の労働条件については、州ごとの店舗施設法の規定に反しない限り労使間の雇用契約に従うことになります。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。 (1) 労働者該当性 「労働者」とは、雇用者の監督および指示の下で、UAE内で人的資源・自国民化省(Ministry of Human Resources and Emiratisation。以下「MoHRE」と言います。)からライセンスを取得した企業の1つのために働くことを認められた自然人、「雇用者」とは、賃金を対価として1人以上の労働者を雇用する自然人または法人、と定義されています(連邦労働法第1条)。 連邦労働法第6条第1項は、労働行為並びに雇用者による労働者の採用及び雇用には、連邦労働法及びその施行規則に基づきMoHREからの就労許可(work permit)を取得しなければならない、と規定しています。このように、労働のためには就労許可が必要とされ、企業が労働者を雇用するには、労働者がUAE国民か外国人であるかを問わず、原則として、雇用者が就労許可を取得しなければなりません。 ただし、就労許可の1種であるフリーランス許可については、特定の企業・団体をスポンサーとせず、有効な労働契約の締結を前提とせず、企業又は個人に対して、限定された期間、ある任務の遂行、または特定の業務について、その役務を提供することで報酬を得る独立した自営業を営む個人に対して発給されます(施行規則第6条)。フリーランスで役務を提供する自然人は、役務提供相手たる企業または個人の労働者ではありません(施行規則第6条及び8条)。 (2) 労働者保護規定からの除外 連邦労働法は、雇用契約の締結(第8条)、就労時間(第17~19条)、休祝日(第21、28条)、年次有給休暇(第29条)、出産等各種休業(第30~32条)、労働争議にかかる訴訟費用の免除(第55条)等の労働者を保護する規定を置いています。ただし、就労時間に関しては、労働者が、①取締役会の議長及びその構成員、②雇用者の権限を与えられている監督的地位を占める者、③その労働の性質上特別な条件を享受している艦艇乗組員及び船員、の場合には適用除外されます(施行規則第15条第4項)。" ["post_title"]=> string(72) "労働者該当性の判断と労働関係法令の適用範囲の概要" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e5%8a%b4%e5%83%8d%e8%80%85%e8%a9%b2%e5%bd%93%e6%80%a7%e3%81%ae%e5%88%a4%e6%96%ad%e3%81%a8%e5%8a%b4%e5%83%8d%e9%96%a2%e4%bf%82%e6%b3%95%e4%bb%a4%e3%81%ae%e9%81%a9%e7%94%a8%e7%af%84%e5%9b%b2%e3%81%ae" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-02-05 19:14:19" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-02-05 10:14:19" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=18191" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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ティエヌワイコクサイホウリツジムショ TNY国際法律事務所
世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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