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【新:Kカルチャーの仕掛け人】K—POPに敏腕チーム参入 世界に通用するアイドルを

K—POP、ドラマ、ファッションにフード。アジアの若者の間で、韓国カルチャーの勢いが止まらない。強さの秘密は何か、ブームの仕掛け人たちからヒントを探る。多国籍アイドルを手がける新興芸能事務所Hi-Hat(ハイハット)のプロデューサー陣に話を聞いた。【NNAタイ 坂部哲生、NNA韓国 清水岳志、カンパサール編集 古林由香】

ハイハットのイ・ギュチャン副社長(左)と、リュ・ジェジュン代表理事CEO(右)=2023年12月、ソウル(NNA撮影)

学生街として知られるソウルのホンデ地区。昨年12月中旬、とある建物の一角で若い男女が長い行列をなしていた。「Wanna be an IDOL(アイドルになりたい)」の文字がディスプレーされた会場内には動画撮影ブースなどが並び、まるでアミューズメント施設のようなにぎわい。新興の芸能事務所、ハイハットが主催するオーディションが行われていた。
通りがかりの一般人も気軽に受けられる「ポップアップ型オーディション」だったこともあり、約2,000人もの参加者が集まった。選ばれた12人は同社が提供するトレーニングに基づきダンスや歌のスキルを磨く「練習生」となり、アイドルデビューを目指す。

ソウルで行われたオーディションの模様(ハイハットのユーチューブより)

<https://www.youtube.com/watch?v=6KtlfWYgkTM>
「脱落した参加者にとっても良い思い出になる工夫を凝らし『画期的なオーディションだった』との評価を業界内で得た。コロナ禍が終わり、韓国では百貨店などの空きスペースを活用したポップアップの需要が高まっている点も追い風になった」と語るのは代表理事CEOのリュ・ジェジュン氏。
RyuD名義で振付師兼ダンサーとして活動。世界的ブームを巻き起こしたBTSや、昨年末の紅白歌合戦に出演したSEVENTEENなど、人気K—POPグループの振り付けを数多く手かけてきた売れっ子だ。
ハイハットの事業開始は2021年。韓国の音楽配信サービス会社であるジニーミュージックの代表取締役を務め、音楽コンテンツの流通に精通したイ・スンジュ氏が立ち上げた。リュ代表は「世界に通用するアイドルを育成したい」と意気投合し、合流を決めた。
『江南スタイル』で知られる韓国人歌手PSY(サイ)の米国進出をサポートした敏腕プロデューサーのイ・ギュチャン氏(現副社長)も23年秋から加わった。韓国系米国人で、ソニー傘下のソニー・ピクチャーズエンタテインメントなどを経て複数の会社を運営するイ副社長は「自分は海外経験が豊富で、人脈も広い。韓国国内と海外のプロデューサーを結び付けて、新たな相乗効果を作っていきたい」と意欲を見せる。
従業員は29人で、マーケティングや新人開発などのチームに分かれている。韓国でトレーニング中の練習生は男女合わせて約30人。年齢は23~28歳、国籍は韓国の他、日本、タイ、カナダなど時流に沿ってグローバルだ。
■練習生の育成費用 負担なしの新方式
成長を続けるK—POP市場をけん引するのは、芸能事務所HYBE(ハイブ)、SMエンタテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントの大手4社。「ビッグ4」とも呼ばれ、資金力と企画力をバックに業績を順調に伸ばしている。24年も新人グループのローンチが複数発表されており、好調は続く見通しだ。ハイハットはこの「ビッグ4」と肩を並べることを目標に掲げる。

オフィスの場所は、富裕層の街として知られる江南区。練習生用トレーニング施設として、ダンスや歌のレッスンを行うスタジオを完備する。
「ハイハットほどの資金力やインフラを備えた新興芸能プロダクションは存在しない」とリュ代表は自信をのぞかせる。
韓国の芸能事務所は、練習生への「投資先行」としてレッスンの他、場合によっては寮なども無料提供するのが一般的。前出のYGエンタは過去、ボーイズグループの選抜模様を追った配信コンテンツで「練習生1人に対する投資は年間1億ウォン(約1,110万円)」と明かし、金額の大きさが話題になった。
ただし、経費はデビュー後に売り上げから回収され、アイドルはいわば借金を背負って活動する形となるのが特徴。その清算を巡り、事務所とアイドル間で訴訟沙汰になることも少なくない。
一方ハイハットは「会社が費用を全額負担する真逆のシステムを採用している」と両氏は胸を張る。
「練習生が歌やダンスに集中できる環境を作ってあげたい。教育面では、自分の頭で考える力を養うレッスンも行っている。(K—POPアイドルは)ストレスが多い職業で、自ら命を絶ってしまうケースもある。そういった環境を改善し、事業を通じてよい文化を作りたい」(リュ代表)
デビューを目指すグループへの多額の投資は、コンサート、音源販売、イベント、広告の他、ユーチューブの配信収入などで回収し、25年下期以降に黒字転換する見通しだと説明する。

ダンスなどのレッスンを行う練習室(ハイハット提供)

広々とした休憩スペース(ハイハット提供)

■世界進出の鍵は日本とタイ市場
「世界進出を考える際に、K—POPの市場規模が大きい日本は無視できない」とし、日本各地のダンススクールと提携し、人材発掘を行ってきたハイハット。今年中にデビューを計画している同社初のグループは、日本人を含む多国籍チームとなる予定。本格的な日本進出を見据えて、現在は協業パートナーを探している。
「日韓は政治、歴史的にはさまざまな葛藤があるが、若い世代の交流は活発だ。また、K—POPや韓流ドラマは日本から多くのアイデアを得た面もあり、日韓は協業できる部分が多い」とイ副社長。コロナ禍の打撃から回復途上にあるこのタイミングで、日本市場を捉えたいと気迫を見せる。
「多国籍」が生み出す相乗効果を期待し、東南アジアでも人材発掘に力を注ぐ。特に注目しているのがタイ。世界的ガールズグループBLACKPINKのメンバー、リサの出身国でKカルチャーが幅広く受け入れられている。
すでに現地のK—POP系ダンススクールでオーディションを行い、2人を練習生として採用。年齢が若いため、韓国ではなく現地スクールに委託して育成中で「次期チームの候補に考えている」とリュ代表。第二のリサにしたいと燃えている。
「韓国人以外の人々が韓国のコンテンツで世界進出することは、私たちにとっても誇らしいことだ」(イ副社長)

BLACKPINKのメンバー、リサを起用した広告。K−POP界で成功した自国のスターとして、タイでは国民的人気を誇る=1月24日、バンコク(NNA撮影)

※アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2024年2月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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通りがかりの一般人も気軽に受けられる「ポップアップ型オーディション」だったこともあり、約2,000人もの参加者が集まった。選ばれた12人は同社が提供するトレーニングに基づきダンスや歌のスキルを磨く「練習生」となり、アイドルデビューを目指す。
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「脱落した参加者にとっても良い思い出になる工夫を凝らし『画期的なオーディションだった』との評価を業界内で得た。コロナ禍が終わり、韓国では百貨店などの空きスペースを活用したポップアップの需要が高まっている点も追い風になった」と語るのは代表理事CEOのリュ・ジェジュン氏。
RyuD名義で振付師兼ダンサーとして活動。世界的ブームを巻き起こしたBTSや、昨年末の紅白歌合戦に出演したSEVENTEENなど、人気K—POPグループの振り付けを数多く手かけてきた売れっ子だ。
ハイハットの事業開始は2021年。韓国の音楽配信サービス会社であるジニーミュージックの代表取締役を務め、音楽コンテンツの流通に精通したイ・スンジュ氏が立ち上げた。リュ代表は「世界に通用するアイドルを育成したい」と意気投合し、合流を決めた。
『江南スタイル』で知られる韓国人歌手PSY(サイ)の米国進出をサポートした敏腕プロデューサーのイ・ギュチャン氏(現副社長)も23年秋から加わった。韓国系米国人で、ソニー傘下のソニー・ピクチャーズエンタテインメントなどを経て複数の会社を運営するイ副社長は「自分は海外経験が豊富で、人脈も広い。韓国国内と海外のプロデューサーを結び付けて、新たな相乗効果を作っていきたい」と意欲を見せる。
従業員は29人で、マーケティングや新人開発などのチームに分かれている。韓国でトレーニング中の練習生は男女合わせて約30人。年齢は23~28歳、国籍は韓国の他、日本、タイ、カナダなど時流に沿ってグローバルだ。
■練習生の育成費用 負担なしの新方式
成長を続けるK—POP市場をけん引するのは、芸能事務所HYBE(ハイブ)、SMエンタテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントの大手4社。「ビッグ4」とも呼ばれ、資金力と企画力をバックに業績を順調に伸ばしている。24年も新人グループのローンチが複数発表されており、好調は続く見通しだ。ハイハットはこの「ビッグ4」と肩を並べることを目標に掲げる。

オフィスの場所は、富裕層の街として知られる江南区。練習生用トレーニング施設として、ダンスや歌のレッスンを行うスタジオを完備する。
「ハイハットほどの資金力やインフラを備えた新興芸能プロダクションは存在しない」とリュ代表は自信をのぞかせる。
韓国の芸能事務所は、練習生への「投資先行」としてレッスンの他、場合によっては寮なども無料提供するのが一般的。前出のYGエンタは過去、ボーイズグループの選抜模様を追った配信コンテンツで「練習生1人に対する投資は年間1億ウォン(約1,110万円)」と明かし、金額の大きさが話題になった。
ただし、経費はデビュー後に売り上げから回収され、アイドルはいわば借金を背負って活動する形となるのが特徴。その清算を巡り、事務所とアイドル間で訴訟沙汰になることも少なくない。
一方ハイハットは「会社が費用を全額負担する真逆のシステムを採用している」と両氏は胸を張る。
「練習生が歌やダンスに集中できる環境を作ってあげたい。教育面では、自分の頭で考える力を養うレッスンも行っている。(K—POPアイドルは)ストレスが多い職業で、自ら命を絶ってしまうケースもある。そういった環境を改善し、事業を通じてよい文化を作りたい」(リュ代表)
デビューを目指すグループへの多額の投資は、コンサート、音源販売、イベント、広告の他、ユーチューブの配信収入などで回収し、25年下期以降に黒字転換する見通しだと説明する。
[caption id="attachment_18255" align="aligncenter" width="620"]ダンスなどのレッスンを行う練習室(ハイハット提供) [/caption]
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「世界進出を考える際に、K—POPの市場規模が大きい日本は無視できない」とし、日本各地のダンススクールと提携し、人材発掘を行ってきたハイハット。今年中にデビューを計画している同社初のグループは、日本人を含む多国籍チームとなる予定。本格的な日本進出を見据えて、現在は協業パートナーを探している。
「日韓は政治、歴史的にはさまざまな葛藤があるが、若い世代の交流は活発だ。また、K—POPや韓流ドラマは日本から多くのアイデアを得た面もあり、日韓は協業できる部分が多い」とイ副社長。コロナ禍の打撃から回復途上にあるこのタイミングで、日本市場を捉えたいと気迫を見せる。
「多国籍」が生み出す相乗効果を期待し、東南アジアでも人材発掘に力を注ぐ。特に注目しているのがタイ。世界的ガールズグループBLACKPINKのメンバー、リサの出身国でKカルチャーが幅広く受け入れられている。
すでに現地のK—POP系ダンススクールでオーディションを行い、2人を練習生として採用。年齢が若いため、韓国ではなく現地スクールに委託して育成中で「次期チームの候補に考えている」とリュ代表。第二のリサにしたいと燃えている。
「韓国人以外の人々が韓国のコンテンツで世界進出することは、私たちにとっても誇らしいことだ」(イ副社長)
[caption id="attachment_18257" align="aligncenter" width="620"]BLACKPINKのメンバー、リサを起用した広告。K−POP界で成功した自国のスターとして、タイでは国民的人気を誇る=1月24日、バンコク(NNA撮影)[/caption]
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