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PM2.5濃度を日本並みに大気汚染、改善は長期課題(上)

タイ政府は微小粒子状物質「PM2.5」濃度(1立方メートル当たり)の環境基準値を日本と同じ「年平均15マイクログラム以下」に定め、大気汚染の改善に取り組んでいる。だが、主要汚染源である自動車の排ガスや北部・近隣国の野焼きを大幅に減らすことは容易ではなく、抜本的な改善には10年単位の時間を要する見込みだ。今年も例年同様、首都バンコクや北部チェンマイで深刻な大気汚染が頻発している。本企画では2回に分けて、現状と課題を掘り下げる。

大気汚染でかすむバンコクの空。慢性化している渋滞も、汚染を加速させている=1月、タイ・バンコク(NNA撮影)

国際協力機構(JICA)がタイの天然資源環境省公害管理局(PCD)などと共に実施する技術協力事業「持続的なPM2.5予防・軽減のための大気管理プロジェクト」のチームと、民間シンクタンクのタイ開発研究所(TDRI)で大気汚染問題の研究を続けるニポン特別研究員(ディスティングイッシュト・フェロー)に話を聞いた。
JICAプロジェクトの事業実施コンサルタントである檜枝俊輔氏によると、タイの大気汚染は2010年代後半に注目され始めた。学校が休校になるなど実生活への影響が出始め、政府は19年に「PM削減のための国家行動計画(19~24年)」を制定。対策に本腰を入れ始めた。
PM2.5濃度の環境基準値は、22年7月に「年平均25マイクログラム以下」から同15マイクログラム以下へと改定。檜枝氏は「先進国並みの基準値は、政府の本気度を示している」と話す。
■首都圏は排ガス主因
タイの大気汚染は、主に野焼き・山火事と排ガスが原因と言える。渋滞が深刻なバンコクでは排ガスの占める比重が大きい。
JICAは既往の研究を引用し、首都圏の通年のPM2.5の直接的な発生源は、約6割が排ガスなどの交通系が占めると説明する。発電を含む工業セクターが約1割と続く。ただ、モニタリングデータを解析した結果、気象条件や環境大気中での化学反応により生成されたもの(二次生成粒子)による影響が一定程度あることが確認されているほか、乾期(11~4月)は他地域で発生する野焼き・山火事による汚染物質の飛来の比重がぐっと上がる。
TDRIのニポン特別研究員は「首都圏では毎年1月と3~4月に大気汚染が深刻化する」と話す。1月は気象現象によって地上近くで排ガス由来などの汚染物質が滞留しやすくなること、3~4月は北部・近隣国での野焼きがそれぞれ主な原因だ。
排ガスは、ディーゼル車の影響が大きいとの見方を示す。バンコクのPM2.5の発生源の2割以上がディーゼルの排ガスだとするデータもあるという。バンコクでは300万台を超えるディーゼル車が登録されており、車両登録全体の27%を占めている。

■北部は死活問題
チェンマイやチェンライなど北部では、大気汚染は死活問題だ。北部の汚染は1~5月に増える野焼き・山火事が原因。特に3~4月に深刻化する。
ニポン氏は「チェンマイなどは丸2カ月間、住んでいられないような状況になる。人々は本当に苦しんでいる」と話す。呼吸器疾患など健康被害が多く報告されているほか、チェンマイに住む日本人が「2~5月はできるだけ外出を控えて過ごすことが現地の常識」だと語るほど、暮らしに影響を与えている。
昨年には汚染の深刻化で旅行者に敬遠され、観光業に数十億円規模の損失が生まれるなど、経済にも打撃を与えている。
■濃度減少傾向も「課題山積」
JICAによると、首都圏のPM2.5濃度は11年の年平均33マイクログラムから19年に同26マイクログラムへと減った。20年は同23マイクログラムと、徐々にではあるが減少傾向が継続。年式の古い自動車の減少、首都圏鉄道の拡充によるモーダルシフト(車移動のほかの交通手段への移行)の進行、野焼きしないサトウキビに対する高い買い取り価格の設定といった取り組みが、ある程度効果を発揮したためとされている。
政府は現在も◇電気自動車(EV)の導入促進◇首都への大型車の乗り入れ規制◇黒煙を出す整備違反トラックなどの取り締まり◇排ガス規制の強化◇野焼きの禁止や許可制の導入——などを行っている。
檜枝氏は「政府はできることから、地道に取り組んでいる」としながら、「年式の古い自動車が市内を走り続けており、燃料の改質なども道半ばであるなど、まだまだ課題は山積している状況だ」と話す。
ニポン氏がまとめたデータによると、バンコクの車両登録台数(約1,198万5,000台)のうち3割以上の車齢が10年を超えている。車齢11~20年が約316万3,050台で全体の26.4%、20年以上が約98万9,500台で8.3%をそれぞれ占めている。

タイ人はモノを大事にし、壊れても修理して使い続ける。市内ではかなり老朽化したバスが現役で走り続けるなど、車も大事にされていることがうかがえる。本来ならサステナブルだと評価される気質だが、排ガス汚染に関してはあだとなっている状況だ。
排ガス規制の強化では、政府は1月から欧州の「ユーロ5」への準拠を義務化した。JICAによると、欧州委員会の規制値比で、ユーロ4からの移行によりディーゼル車の粒子状物質(PM)が8割、窒素酸化物(NOx)が2割それぞれ削減される。新車に対する義務化のため、完全な移行には10年単位の時間がかかるが、導入が進むにつれて効果が現れ始めると期待される。

タイの首都バンコクでは電動バスの導入が進む一方で、エアコンが付いていない旧式バスも多くが現役で走っている=2月(NNA撮影)

■日本も達成に11年、分析が第一歩
野焼き・山火事による汚染源の削減は、排ガス以上にハードルが高い。カンボジアやミャンマー、ラオスといった周辺国で自国以上に頻発しているとみられ、周辺国と一丸となって取り組む必要があるためだ。
檜枝氏は「日本の大気汚染も中国・朝鮮半島からの汚染物質の飛来が発生源の50%以上を占めていた。日本も、基準値達成には11年を要した」と話す。日本は、PM2.5の年平均濃度を15マイクログラム以下とする目標の達成率が10年時点で30%程度だったが、21年に100%を実現した。国内の自動車の性能が急速に上がりハイブリッド車(HV)が普及したことなども主要因だが、「中国が22年の北京冬季五輪を前に規制を強化して大気汚染を改善させたことが大きかった」という。
タイも「ASEAN越境ヘイズ汚染協定」(03年発効)などの枠組みで周辺国と連携しているが、踏み込んだ協力体制の構築が不可欠だ。大幅な改善には日本同様、10年単位の時間が必要とみられる。
■分析が第一歩
ニポン氏は、現状では各国からどの程度の汚染物質が飛来しているかすら判明していないため、「リサーチと分析が対策の第一歩になる」と指摘する。タイ政府は大気汚染対策への融資実績が豊富な世界銀行から融資を受け、技術支援を受けることが好ましいと話した。
一方、JICAは技術協力事業を通じて、バンコク首都圏の汚染発生源の分析や汚染構造の評価に取り組んでいる。25年7月の事業完了より前に、分析・評価に基づいた現実的なPM2.5対策を打ち出す予定。対策は、PCDと共同で検討している。
13日付では、タイ政府が制定準備中の「大気浄化法(CAA)」やカーボンクレジットへの期待、野焼き防止につながる民間企業の取り組みなどを紹介する。

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JICAプロジェクトの事業実施コンサルタントである檜枝俊輔氏によると、タイの大気汚染は2010年代後半に注目され始めた。学校が休校になるなど実生活への影響が出始め、政府は19年に「PM削減のための国家行動計画(19~24年)」を制定。対策に本腰を入れ始めた。
PM2.5濃度の環境基準値は、22年7月に「年平均25マイクログラム以下」から同15マイクログラム以下へと改定。檜枝氏は「先進国並みの基準値は、政府の本気度を示している」と話す。
■首都圏は排ガス主因
タイの大気汚染は、主に野焼き・山火事と排ガスが原因と言える。渋滞が深刻なバンコクでは排ガスの占める比重が大きい。
JICAは既往の研究を引用し、首都圏の通年のPM2.5の直接的な発生源は、約6割が排ガスなどの交通系が占めると説明する。発電を含む工業セクターが約1割と続く。ただ、モニタリングデータを解析した結果、気象条件や環境大気中での化学反応により生成されたもの(二次生成粒子)による影響が一定程度あることが確認されているほか、乾期(11~4月)は他地域で発生する野焼き・山火事による汚染物質の飛来の比重がぐっと上がる。
TDRIのニポン特別研究員は「首都圏では毎年1月と3~4月に大気汚染が深刻化する」と話す。1月は気象現象によって地上近くで排ガス由来などの汚染物質が滞留しやすくなること、3~4月は北部・近隣国での野焼きがそれぞれ主な原因だ。
排ガスは、ディーゼル車の影響が大きいとの見方を示す。バンコクのPM2.5の発生源の2割以上がディーゼルの排ガスだとするデータもあるという。バンコクでは300万台を超えるディーゼル車が登録されており、車両登録全体の27%を占めている。

■北部は死活問題
チェンマイやチェンライなど北部では、大気汚染は死活問題だ。北部の汚染は1~5月に増える野焼き・山火事が原因。特に3~4月に深刻化する。
ニポン氏は「チェンマイなどは丸2カ月間、住んでいられないような状況になる。人々は本当に苦しんでいる」と話す。呼吸器疾患など健康被害が多く報告されているほか、チェンマイに住む日本人が「2~5月はできるだけ外出を控えて過ごすことが現地の常識」だと語るほど、暮らしに影響を与えている。
昨年には汚染の深刻化で旅行者に敬遠され、観光業に数十億円規模の損失が生まれるなど、経済にも打撃を与えている。
■濃度減少傾向も「課題山積」
JICAによると、首都圏のPM2.5濃度は11年の年平均33マイクログラムから19年に同26マイクログラムへと減った。20年は同23マイクログラムと、徐々にではあるが減少傾向が継続。年式の古い自動車の減少、首都圏鉄道の拡充によるモーダルシフト(車移動のほかの交通手段への移行)の進行、野焼きしないサトウキビに対する高い買い取り価格の設定といった取り組みが、ある程度効果を発揮したためとされている。
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檜枝氏は「政府はできることから、地道に取り組んでいる」としながら、「年式の古い自動車が市内を走り続けており、燃料の改質なども道半ばであるなど、まだまだ課題は山積している状況だ」と話す。
ニポン氏がまとめたデータによると、バンコクの車両登録台数(約1,198万5,000台)のうち3割以上の車齢が10年を超えている。車齢11~20年が約316万3,050台で全体の26.4%、20年以上が約98万9,500台で8.3%をそれぞれ占めている。

タイ人はモノを大事にし、壊れても修理して使い続ける。市内ではかなり老朽化したバスが現役で走り続けるなど、車も大事にされていることがうかがえる。本来ならサステナブルだと評価される気質だが、排ガス汚染に関してはあだとなっている状況だ。
排ガス規制の強化では、政府は1月から欧州の「ユーロ5」への準拠を義務化した。JICAによると、欧州委員会の規制値比で、ユーロ4からの移行によりディーゼル車の粒子状物質(PM)が8割、窒素酸化物(NOx)が2割それぞれ削減される。新車に対する義務化のため、完全な移行には10年単位の時間がかかるが、導入が進むにつれて効果が現れ始めると期待される。
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檜枝氏は「日本の大気汚染も中国・朝鮮半島からの汚染物質の飛来が発生源の50%以上を占めていた。日本も、基準値達成には11年を要した」と話す。日本は、PM2.5の年平均濃度を15マイクログラム以下とする目標の達成率が10年時点で30%程度だったが、21年に100%を実現した。国内の自動車の性能が急速に上がりハイブリッド車(HV)が普及したことなども主要因だが、「中国が22年の北京冬季五輪を前に規制を強化して大気汚染を改善させたことが大きかった」という。
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■分析が第一歩
ニポン氏は、現状では各国からどの程度の汚染物質が飛来しているかすら判明していないため、「リサーチと分析が対策の第一歩になる」と指摘する。タイ政府は大気汚染対策への融資実績が豊富な世界銀行から融資を受け、技術支援を受けることが好ましいと話した。
一方、JICAは技術協力事業を通じて、バンコク首都圏の汚染発生源の分析や汚染構造の評価に取り組んでいる。25年7月の事業完了より前に、分析・評価に基づいた現実的なPM2.5対策を打ち出す予定。対策は、PCDと共同で検討している。
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