4月10日投開票まで残り2週間を切った韓国総選挙。3月に形勢が逆転し、野党優勢で最終盤を迎える。神戸大学の木村幹教授に選挙戦の現状分析と今後の展望について聞いた。
——最大野党「共に民主党」が優勢な状況になっている。
共に民主党は2月まで、李在明(イ・ジェミョン)代表が自派を優遇する公認候補選びが「不公正」という印象を国民に与えて支持率を落としていた。しかし公認候補者が確定して以降、この話題は国民の間で「飽きられた」感が強くなり、支持率に影響を与えなくなっている。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がスキャンダルへの対応に失敗したことも1つの要因だ。海兵隊兵士が殉職した事件で軍の不適切な対応の隠蔽(いんぺい)疑惑があった李鐘燮(イ・ジョンソプ)前国防相を海外に赴任させたことや、大統領室の黄相武(ファン・サンム)市民社会首席秘書官がメディアへの失言で辞任したことなど、尹政権が初期対応を誤らなければ国民からの批判を防げた可能性があった。
また、曺国(チョ・グク)元法相が率いる新党「祖国革新党」が革新派における「非李在明派」の受け皿になっていることも、野党の支持率上昇につながっているだろう。
——投開票日までこの状況は続きそうか。
この半年ほど韓国の状況を見ると、世論の政治的イシューの消費が極めて早くなっているように感じる。李前国防相などのスキャンダルの話題はピークを過ぎたとみられ、一時ブーム化した祖国革新党の支持率も低下傾向に入っている。
選挙には「負ける」という観測が流れれば、相手側が結束して支持率を盛り返すという現象がある。投開票日までの約2週間で与野党の差がかなり詰まっている可能性は大いにある。
与野党の差はかなり詰まると予想する木村幹教授(NNA撮影)
——今後、大勢に影響を及ぼしそうなイシューはあるか。
大学医学部増員を巡る問題は、選挙の動向を左右しそうだ。韓国政府は大学医学部の入学定員を2025年度の入試から2,000人増やす方針を示しているが、大韓医師協会はそれに反発して増員の撤回を求めてきた。ただ大韓医師協会は最近、「増員をゼロにしろということではない」という主張に変わってきたため、完全撤回ではなく1,000人や1,500人程度の増員で選挙前に政府と医師側が妥結したとすれば、政権の支持率は反転して、与党が野党を逆転する可能性もあるとみている。
野党側の悪材料としては、共に民主党の李在明代表と祖国革新党の曺国氏の連帯関係がどこまでうまくいくかという問題もある。李在明代表は曺国氏の過激な発言にたびたび不快の意を示しており、仮に両者のさらなる対立が表面化すれば、野党の優位は一気に失われることになるだろう。(聞き手=中村公)
<プロフィル>
木村幹
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者の人物像や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いてみせる。
受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)など。近著に『韓国愛憎—激変する隣国と私の30年』 (中公新書)や『誤解しないための日韓関係講義』(PHP新書)がある。
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——最大野党「共に民主党」が優勢な状況になっている。
共に民主党は2月まで、李在明(イ・ジェミョン)代表が自派を優遇する公認候補選びが「不公正」という印象を国民に与えて支持率を落としていた。しかし公認候補者が確定して以降、この話題は国民の間で「飽きられた」感が強くなり、支持率に影響を与えなくなっている。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権がスキャンダルへの対応に失敗したことも1つの要因だ。海兵隊兵士が殉職した事件で軍の不適切な対応の隠蔽(いんぺい)疑惑があった李鐘燮(イ・ジョンソプ)前国防相を海外に赴任させたことや、大統領室の黄相武(ファン・サンム)市民社会首席秘書官がメディアへの失言で辞任したことなど、尹政権が初期対応を誤らなければ国民からの批判を防げた可能性があった。
また、曺国(チョ・グク)元法相が率いる新党「祖国革新党」が革新派における「非李在明派」の受け皿になっていることも、野党の支持率上昇につながっているだろう。
——投開票日までこの状況は続きそうか。
この半年ほど韓国の状況を見ると、世論の政治的イシューの消費が極めて早くなっているように感じる。李前国防相などのスキャンダルの話題はピークを過ぎたとみられ、一時ブーム化した祖国革新党の支持率も低下傾向に入っている。
選挙には「負ける」という観測が流れれば、相手側が結束して支持率を盛り返すという現象がある。投開票日までの約2週間で与野党の差がかなり詰まっている可能性は大いにある。
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——今後、大勢に影響を及ぼしそうなイシューはあるか。
大学医学部増員を巡る問題は、選挙の動向を左右しそうだ。韓国政府は大学医学部の入学定員を2025年度の入試から2,000人増やす方針を示しているが、大韓医師協会はそれに反発して増員の撤回を求めてきた。ただ大韓医師協会は最近、「増員をゼロにしろということではない」という主張に変わってきたため、完全撤回ではなく1,000人や1,500人程度の増員で選挙前に政府と医師側が妥結したとすれば、政権の支持率は反転して、与党が野党を逆転する可能性もあるとみている。
野党側の悪材料としては、共に民主党の李在明代表と祖国革新党の曺国氏の連帯関係がどこまでうまくいくかという問題もある。李在明代表は曺国氏の過激な発言にたびたび不快の意を示しており、仮に両者のさらなる対立が表面化すれば、野党の優位は一気に失われることになるだろう。(聞き手=中村公)
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木村幹
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。政治的指導者の人物像や時代状況から韓国という国と韓国人を読み解いてみせる。
受賞作は『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房、第13回アジア・太平洋賞特別賞受賞)など。近著に『韓国愛憎—激変する隣国と私の30年』 (中公新書)や『誤解しないための日韓関係講義』(PHP新書)がある。"
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