韓国総選挙は与党「国民の力」が選挙前の議席も割り込む大敗を喫した。一方、最大野党「共に民主党」は協力する曺国(チョ・グク)氏の新党「祖国革新党」と合わせて大きな勢力を獲得した。政権与党の大敗は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の対日政策を含めた政権運営にどのような影響を与えるのか。ソウル大学政治外交学部の康元沢(カン・ウォンテク)教授に聞いた。
ソウル大の康元沢教授=12日、ソウル市(NNA撮影)
——選挙結果をどう分析するか。
尹大統領に対する有権者の失望や怒りを映した結果だ。野党への高い支持や期待というより、「政権審判」の訴えに多くの有権者が賛同したことで野党の圧勝につながった。
今回の選挙は政策論争に全く発展しなかったことで、政権審判の意味合いが一段と強まった。こうなれば支持基盤が脆弱(ぜいじゃく)な尹政権にとっては不利となる。
政界に突如現れた尹氏は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権や2022年の大統領選挙で対決した共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表への拒否感から消去法的に大統領に選ばれた人物だ。金泳三(キム・ヨンサム)氏や、金大中(キム・デジュン)氏など熱狂的な支持層を抱えた過去の大統領とは異なるため、支持離れが急速に進んだことが選挙結果に大きく影響した。
——有権者は何に「審判」を下したのか。
国民は尹大統領と意思疎通ができないことに不満を抱えている。記者会見を開かないなど、政治的なコミュニケーションがないまま、独断的に政治を決定する姿勢が強情に映る。声を上げて何かを要求したとしても、まともに聞き入れられないという感覚が国民の中で強く持たれている。
強情な姿勢は問題解決も遅らせている。例えば、医師側との対立が続く医学部定員拡大への対応について、政策の方向性は正しいとしても、現実的で可視的な解決策をいまだ示せずにいる。妥協や譲歩といった過程を無視して目的だけを達成させようとするため、解決の糸口を見いだせずにいる。こうした政治姿勢に国民は憤りを感じている。
■レームダックは与党内から
——尹大統領はレームダック(死に体)化するのか。
レームダックと呼ぶには時期尚早だが、総選挙前と比べて政権運営が難しくなるのは間違いない。政権与党と国会多数派の「ねじれ」が続く点はこれまでと変わらないが、今回は自らが招いた「少数与党」体制だ。今後は共に民主党の李代表と協議を進めるなど、本当の意味で政治を行わなければならない。
どちらにせよ、韓国の大統領は5年任期の末期にレームダックに陥る。尹大統領の任期は残り3年で、26年の統一地方選挙までの約2年間でどこまで成果を出せるかだろう。その期間にこれまでと違った政治姿勢を示せれば求心力を高めることができる。逆に、リーダーシップのスタイルを変えれなければレームダック化も避けられない。
そもそもレームダックは、野党からの圧力よりも、与党内で離脱者が生まれたり、執権勢力が分裂したりした際に陥る現象だ。与党の国民の力としての次の目標は27年に控える大統領選挙で何としても勝利することだ。尹大統領の支持率が低く政党の助けにならないと判断すれば、与党内で尹氏を見切る動きが加速する。その時が本当のレームダックだと言える。
■不買運動の再発はない
——日韓関係に与える影響は。
外交や国防は大統領に権限があるため、対日政策の基本的な方針が変わることはない。元徴用工問題の解決策など個別の政策については、反対の声が強まり政治的な争点に浮上すれば、積極的な推進が難しくなるかもしれない。しかし、尹大統領は自由民主主義の価値を基盤に、悪化した日韓関係の改善に全力を注いできた人物で、外交政策の大枠を転換する可能性は低いとみている。
——野党が対日強硬で世論をあおることはあるか。
野党は政権を非難するため世論を利用しようとするかもしれない。ただ国民の意識はかなり変わってきた。
共に民主党は昨年、東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出について猛烈に批判し、海や水産物への汚染、健康被害を繰り返し訴えたが、国民の関心はほとんど高まらなかった。これは大きな変化と捉えている。野党がどれだけ対日強硬を強めたとしても、19年から始まった日本製品に対する不買運動のような現象は起きないだろう。
ましてや、野党は国民からの支持ではなく政権の審判票で勝利した政党だ。23年に年間700万人も日本に訪れた国民が、そのような野党の対日強硬策に動じるとは思えない。(聞き手=中村公、岡本あんな)
<プロフィル>
康元沢
ソウル大学政治外交部教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院修了、博士(政治学)。著書は「韓国政治論(第3版)」など多数。
<24年韓国総選挙>
定数300◇与党「国民の力」108議席◇共に民主党175議席◇祖国革新党12議席◇改革新党3議席◇新しい未来1議席◇諸派・無所属1議席——。
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今回の選挙は政策論争に全く発展しなかったことで、政権審判の意味合いが一段と強まった。こうなれば支持基盤が脆弱(ぜいじゃく)な尹政権にとっては不利となる。
政界に突如現れた尹氏は、文在寅(ムン・ジェイン)前政権や2022年の大統領選挙で対決した共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表への拒否感から消去法的に大統領に選ばれた人物だ。金泳三(キム・ヨンサム)氏や、金大中(キム・デジュン)氏など熱狂的な支持層を抱えた過去の大統領とは異なるため、支持離れが急速に進んだことが選挙結果に大きく影響した。
——有権者は何に「審判」を下したのか。
国民は尹大統領と意思疎通ができないことに不満を抱えている。記者会見を開かないなど、政治的なコミュニケーションがないまま、独断的に政治を決定する姿勢が強情に映る。声を上げて何かを要求したとしても、まともに聞き入れられないという感覚が国民の中で強く持たれている。
強情な姿勢は問題解決も遅らせている。例えば、医師側との対立が続く医学部定員拡大への対応について、政策の方向性は正しいとしても、現実的で可視的な解決策をいまだ示せずにいる。妥協や譲歩といった過程を無視して目的だけを達成させようとするため、解決の糸口を見いだせずにいる。こうした政治姿勢に国民は憤りを感じている。
■レームダックは与党内から
——尹大統領はレームダック(死に体)化するのか。
レームダックと呼ぶには時期尚早だが、総選挙前と比べて政権運営が難しくなるのは間違いない。政権与党と国会多数派の「ねじれ」が続く点はこれまでと変わらないが、今回は自らが招いた「少数与党」体制だ。今後は共に民主党の李代表と協議を進めるなど、本当の意味で政治を行わなければならない。
どちらにせよ、韓国の大統領は5年任期の末期にレームダックに陥る。尹大統領の任期は残り3年で、26年の統一地方選挙までの約2年間でどこまで成果を出せるかだろう。その期間にこれまでと違った政治姿勢を示せれば求心力を高めることができる。逆に、リーダーシップのスタイルを変えれなければレームダック化も避けられない。
そもそもレームダックは、野党からの圧力よりも、与党内で離脱者が生まれたり、執権勢力が分裂したりした際に陥る現象だ。与党の国民の力としての次の目標は27年に控える大統領選挙で何としても勝利することだ。尹大統領の支持率が低く政党の助けにならないと判断すれば、与党内で尹氏を見切る動きが加速する。その時が本当のレームダックだと言える。
■不買運動の再発はない
——日韓関係に与える影響は。
外交や国防は大統領に権限があるため、対日政策の基本的な方針が変わることはない。元徴用工問題の解決策など個別の政策については、反対の声が強まり政治的な争点に浮上すれば、積極的な推進が難しくなるかもしれない。しかし、尹大統領は自由民主主義の価値を基盤に、悪化した日韓関係の改善に全力を注いできた人物で、外交政策の大枠を転換する可能性は低いとみている。
——野党が対日強硬で世論をあおることはあるか。
野党は政権を非難するため世論を利用しようとするかもしれない。ただ国民の意識はかなり変わってきた。
共に民主党は昨年、東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出について猛烈に批判し、海や水産物への汚染、健康被害を繰り返し訴えたが、国民の関心はほとんど高まらなかった。これは大きな変化と捉えている。野党がどれだけ対日強硬を強めたとしても、19年から始まった日本製品に対する不買運動のような現象は起きないだろう。
ましてや、野党は国民からの支持ではなく政権の審判票で勝利した政党だ。23年に年間700万人も日本に訪れた国民が、そのような野党の対日強硬策に動じるとは思えない。(聞き手=中村公、岡本あんな)
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康元沢
ソウル大学政治外交部教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)大学院修了、博士(政治学)。著書は「韓国政治論(第3版)」など多数。
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