タイは今年、中国系メーカーによる電気自動車(EV)生産の元年を迎えた。タイ政府が優遇措置で国産化の要件を定めていることなどを背景に、EVのサプライチェーン(供給網)も徐々に構築されていく見通し。中国EV各社は、地場からの調達に前向きだ。本企画では2回に分けて、中国メーカーの現地調達に関する視点やタイ政府の要件、日系の商機・課題を紹介する。
NETAは3月、提携工場で「NETA V—2」の量産を開始した=タイ・バンコク(NETAオート・タイランド提供)
「ORA」ブランドのEVを販売する長城汽車(GWM)と合衆新能源汽車(合衆汽車)の「NETA」ブランド、上海汽車集団(SAIC)傘下の「MG」ブランドが3月までにタイでのEV生産を開始した。年央には比亜迪(BYD)や広州汽車集団(GAC)傘下の広汽埃安新能源汽車(AION)がタイ工場を稼働する見込み。重慶長安汽車(Changan)は年内の工場完工、奇瑞汽車(チェリー)は2025年の現地生産開始をそれぞれ予定する。
■各社、外資との取引「オープン」
中国各社のタイ幹部は3月末に首都バンコク近郊で開かれた「第45回バンコク国際モーターショー」で、地場など外資からの部品調達にオープンな姿勢を示した。
BYDは多くの部品を内製しているものの、アジア太平洋地区販売部門の劉学亮ゼネラルマネジャーは「タイ企業から部品を購入することは決まっている。EVによる自動車社会の構築に向けて、(他社などと)協力しあってタイでサプライチェーンを少しずつ構築していく」とコメント。日系などからの調達も含め「オープンに取り組む」と強調した。
長安汽車の東南アジア事業部門、長安オート・サウスイースト・アジアの沈興華マネジングディレクターは「既に地場部品メーカー60社以上と協議した。品質とコストの条件が合えばどんどん採用する。当社は日系、マレーシア系、ベトナム系とも取引実績があり常にオープンだ」などと述べた。
一方、保税区(フリーゾーン、FZ)の制度を利用して優遇を受けるAIONのタイ法人、AIONオートモービル・セールス(タイランド)の馬海洋(オーシャン・マー)社長は、FZ制度のルールに従って「40%の部品をタイで調達する」とコメント。ただ、当初から40%を達成するのは難しいとみており、徐々に引き上げていく可能性が高い。
GWMタイランドの崇保玉(マイケル・チョン)ゼネラルマネジャーも「地場はもちろん、適切な会社があれば日系などとも取引する」とオープンだ。タイで生産するEV「ORAグッドキャット」の現地調達率は、量産開始の時点で4割に到達。同社もFZ制度の適用を申請している。
■条件「インドネシアより緩め」
野村総合研究所(NRI)タイの山本肇プリンシパルによると、政府はタイ投資委員会(BOI)が運営するEV普及策「EV3.0」「EV3.5」と、関税局が管轄するFZの制度でEVに国産化の条件を設定している。EVハブ化でタイのライバルとされるインドネシアが「2030年までに80%国産化」を要求しているのに対し、タイの条件は「緩め」との見方だ。
EV3.0とEV3.5の優遇を受ける場合は、26年1月までに国内でバッテリー生産を開始することが義務付けられるという。バッテリーパックを組み立てるだけという選択も可能だが、その場合は30年1月までにパワーコントロールユニット(PCU)のインバーターを国内生産し、35年1月までに主要部品である(1)トラクションモーター(2)リダクションギア(3)電動コンプレッサー(4)バッテリーマネジメントシステム(BMS)(5)運転制御システム(DCU)——の5品目のうち2品目の国内生産を始めなくてはならないと山本氏は説明する。
長城汽車のタイ工場内部。EV「ORAグッドキャット」の現地調達率は4割に達している=1月、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
バッテリーの生産をモジュールの組み立てから行う場合は30年1月までにPCU向けインバーター、35年1月までに主要部品5品目中1品目の生産が義務となる。セルから生産する場合は、バッテリー以外の部品の国産化は要求されないという。
FZ制度を利用する場合は、国内調達率を40%以上とする必要がある。同制度を利用すれば「中国から部品・原材料を免税で輸入できる」ため、新規参入の中国EVメーカーの多くが「同制度を利用するだろう」と山本氏。NNAの調べではAIONとGWMのほか、BYD、MG、NETAもFZ制度を利用中または利用予定であることが分かっている。
■バッテリー投資続々、商談会も
中核部品のバッテリーは設備投資が着々と進んでいる。GWM傘下の蜂巣能源科技(Sボルト)はタイで昨年、バッテリーのモジュールと電池パックの組立工場を稼働。GWMだけでなく複数社にバッテリーを供給する。
BYDは、タイでバッテリー工場への投資も決めている。MGも、整備中のバッテリー工場を年内に稼働する見込みだ。またBOIは、中国のEVバッテリー大手2社の電池セル工場整備の計画が年内に明らかになると発表。投資額は2社合わせて300億バーツ(約1,255億円)超で、「2年後には国内に巨大なセル工場が誕生する」としている。
BOIは、中国EVメーカーと国内の部品メーカーのマッチングにも積極的に取り組む。昨年7月にBYD、9月にNETA、今月にMGブランドと部品メーカーの商談会をそれぞれ開催。延べ450社以上が参加し、バッテリーやパワートレイン、内装品、ワイヤーハーネスなどの取引が成立した。
26日付では、日系部品メーカーが中国完成車と取引する上での課題や懸念事項を掘り下げる。
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■各社、外資との取引「オープン」
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BYDは多くの部品を内製しているものの、アジア太平洋地区販売部門の劉学亮ゼネラルマネジャーは「タイ企業から部品を購入することは決まっている。EVによる自動車社会の構築に向けて、(他社などと)協力しあってタイでサプライチェーンを少しずつ構築していく」とコメント。日系などからの調達も含め「オープンに取り組む」と強調した。
長安汽車の東南アジア事業部門、長安オート・サウスイースト・アジアの沈興華マネジングディレクターは「既に地場部品メーカー60社以上と協議した。品質とコストの条件が合えばどんどん採用する。当社は日系、マレーシア系、ベトナム系とも取引実績があり常にオープンだ」などと述べた。
一方、保税区(フリーゾーン、FZ)の制度を利用して優遇を受けるAIONのタイ法人、AIONオートモービル・セールス(タイランド)の馬海洋(オーシャン・マー)社長は、FZ制度のルールに従って「40%の部品をタイで調達する」とコメント。ただ、当初から40%を達成するのは難しいとみており、徐々に引き上げていく可能性が高い。
GWMタイランドの崇保玉(マイケル・チョン)ゼネラルマネジャーも「地場はもちろん、適切な会社があれば日系などとも取引する」とオープンだ。タイで生産するEV「ORAグッドキャット」の現地調達率は、量産開始の時点で4割に到達。同社もFZ制度の適用を申請している。
■条件「インドネシアより緩め」
野村総合研究所(NRI)タイの山本肇プリンシパルによると、政府はタイ投資委員会(BOI)が運営するEV普及策「EV3.0」「EV3.5」と、関税局が管轄するFZの制度でEVに国産化の条件を設定している。EVハブ化でタイのライバルとされるインドネシアが「2030年までに80%国産化」を要求しているのに対し、タイの条件は「緩め」との見方だ。
EV3.0とEV3.5の優遇を受ける場合は、26年1月までに国内でバッテリー生産を開始することが義務付けられるという。バッテリーパックを組み立てるだけという選択も可能だが、その場合は30年1月までにパワーコントロールユニット(PCU)のインバーターを国内生産し、35年1月までに主要部品である(1)トラクションモーター(2)リダクションギア(3)電動コンプレッサー(4)バッテリーマネジメントシステム(BMS)(5)運転制御システム(DCU)——の5品目のうち2品目の国内生産を始めなくてはならないと山本氏は説明する。
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FZ制度を利用する場合は、国内調達率を40%以上とする必要がある。同制度を利用すれば「中国から部品・原材料を免税で輸入できる」ため、新規参入の中国EVメーカーの多くが「同制度を利用するだろう」と山本氏。NNAの調べではAIONとGWMのほか、BYD、MG、NETAもFZ制度を利用中または利用予定であることが分かっている。
■バッテリー投資続々、商談会も
中核部品のバッテリーは設備投資が着々と進んでいる。GWM傘下の蜂巣能源科技(Sボルト)はタイで昨年、バッテリーのモジュールと電池パックの組立工場を稼働。GWMだけでなく複数社にバッテリーを供給する。
BYDは、タイでバッテリー工場への投資も決めている。MGも、整備中のバッテリー工場を年内に稼働する見込みだ。またBOIは、中国のEVバッテリー大手2社の電池セル工場整備の計画が年内に明らかになると発表。投資額は2社合わせて300億バーツ(約1,255億円)超で、「2年後には国内に巨大なセル工場が誕生する」としている。
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