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EUのEV関税、影響限定的価格競争力の維持可能、輸出増も

欧州連合(EU)欧州委員会が12日に中国製電気自動車(EV)に最大38.1%の追加関税を課す方針を示したことについて、日本人識者は「中国自動車業界への影響は大きくない」との見方を示した。中国製EVの価格競争力が大きくそがれるほどの税率ではないとみており、中国の欧州へのEV輸出は今後も増え続ける可能性があると見通した。【吉田峻輔】
欧州委員会は、「中国当局との協議が有力な結論に至らなければ、7月4日より暫定的な相殺関税が導入される」と発表。欧州委員会の規定では、暫定的な関税を課してから4カ月以内に確定的措置を取ることになっている。11月4日までに中欧間の妥結がなければ、その後、継続的に追加関税を課すことになる。
欧州委員会は、「中国EV産業は同国政府から不当な補助金を受けており、それがEUのEVメーカーに経済的な脅威をもたらしている」と説明した。同委員会は昨年10月から、中国製EVがEU圏のEV産業に与えている影響を調査していた。
追加関税率については、◇比亜迪(BYD)の製品:17.4%◇浙江吉利控股集団の製品:20.0%◇上海汽車集団の製品:38.1%——と設定した。他社の税率は発表しなかったが、欧州委員会の調査に協力した企業の製品に対する税率は平均21.0%となり、協力しなかった企業の製品に対する税率は38.1%になると明らかにした。これらの税率は従来の税率10%に上乗せされる。
■コスト削減で対応可能
中国自動車業界は、ロシアやメキシコといった新興国に内燃機関車(ICE車)を積極的に輸出し、欧州などにはEVを主に輸出している。中国著名自動車アナリストの崔東樹氏がまとめた統計によると、2023年に中国から欧州(英国などEU圏以外の国も含む)に輸出されたEVは65万6,000台だった。前年比では約4割増、21年比では約2.6倍。23年の中国のEV輸出全体の4割強を占めた。
中国はEVの主要輸出先から追加関税をかけられた格好で、国内では動揺が広がった。中国メディアによると、中国自動車工業協会は12日に「深い遺憾の念を覚え、(欧州委員会の措置を)断固受け入れない意思を示す」とする声明を発表した。
だが、欧州委員会の措置を冷静に分析すると、中国自動車業界への影響は大きくない。そう指摘するのは、岡三証券の久保和貴シニアエコノミスト(同社上海代表処の首席代表)だ。
久保氏は、最大税率の38.1%に注目すれば影響が大きいように見えるが、同税率は一部の企業に課せられるだけで、中国EV最大手のBYDは17.4%にとどまると指摘。多くの中国車は価格競争力を大きくそがれずに済むとの見方を示した。BYDは欧州輸出事業に関して、販売価格を大きく変えず、コストを削ることで税率上昇に対応できるとみている。
その上で、中国の欧州へのEV輸出は「減るどころか、引き続き増える可能性もある」と述べた。今年は欧州で金利が下がり始めており、オートローンの金利低下を追い風に、自動車市場の拡大が見込めることを理由に挙げた。
■対中姿勢、米国よりはソフト
先月は米国政府が中国製EVに対する追加関税率を年内に25%から100%に引き上げると発表した。米国は中国製EVをほとんど輸入していないため、同措置が直ちに中国に大きな影響を及ぼすことはない。ただ、100%の税率は中国製EVの価格競争力をそぐには強力で、将来的な中国製EVの流入に対して、欧州とは対照的に強気な姿勢を示したといえる。
久保氏は、EUは中国と貿易や投資を通じた結びつきが深く、米国ほど強硬な対中姿勢を取りにくいと指摘した。
加えて、EUの環境問題への意識は米国とは大きな違いがあるとの考え。「海面上昇で国土が大きく失われる国々も多く、米国とは環境問題への危機意識が違う。脱炭素化への取り組みも簡単に撤回することはなく、中国製EVやプラグインハイブリッド車(PHV)を完全に締め出すことはないだろう」と説明した。
中国政府の今後の動きについては、報復的に欧州製品への関税率を引き上げる可能性はあるが、中欧関係が過度に悪化しないよう、影響が小さい製品を選ぶのではないかと見通した。

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欧州委員会は、「中国EV産業は同国政府から不当な補助金を受けており、それがEUのEVメーカーに経済的な脅威をもたらしている」と説明した。同委員会は昨年10月から、中国製EVがEU圏のEV産業に与えている影響を調査していた。
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■コスト削減で対応可能
中国自動車業界は、ロシアやメキシコといった新興国に内燃機関車(ICE車)を積極的に輸出し、欧州などにはEVを主に輸出している。中国著名自動車アナリストの崔東樹氏がまとめた統計によると、2023年に中国から欧州(英国などEU圏以外の国も含む)に輸出されたEVは65万6,000台だった。前年比では約4割増、21年比では約2.6倍。23年の中国のEV輸出全体の4割強を占めた。
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だが、欧州委員会の措置を冷静に分析すると、中国自動車業界への影響は大きくない。そう指摘するのは、岡三証券の久保和貴シニアエコノミスト(同社上海代表処の首席代表)だ。
久保氏は、最大税率の38.1%に注目すれば影響が大きいように見えるが、同税率は一部の企業に課せられるだけで、中国EV最大手のBYDは17.4%にとどまると指摘。多くの中国車は価格競争力を大きくそがれずに済むとの見方を示した。BYDは欧州輸出事業に関して、販売価格を大きく変えず、コストを削ることで税率上昇に対応できるとみている。
その上で、中国の欧州へのEV輸出は「減るどころか、引き続き増える可能性もある」と述べた。今年は欧州で金利が下がり始めており、オートローンの金利低下を追い風に、自動車市場の拡大が見込めることを理由に挙げた。
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先月は米国政府が中国製EVに対する追加関税率を年内に25%から100%に引き上げると発表した。米国は中国製EVをほとんど輸入していないため、同措置が直ちに中国に大きな影響を及ぼすことはない。ただ、100%の税率は中国製EVの価格競争力をそぐには強力で、将来的な中国製EVの流入に対して、欧州とは対照的に強気な姿勢を示したといえる。
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