カンボジアのイエン・ソポルレット環境相がこのほどNNAの単独取材に応じ、同国が掲げる2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を42%削減する目標の達成に向け、日本企業による投資に期待を示した。同国では、農業や工業をはじめとした幅広い分野での排出削減を進めており、日本企業にとっては各種の協力を通じた商機は大きいと言えそうだ。【丹下詩織】
NNAの単独取材に応じたカンボジアのイエン・ソポルレット環境相は、「日本企業の投資を期待している」と語った=7日、カンボジア・プノンペン(NNA撮影)
——カンボジアが抱える最大の環境問題とは何か。
気候変動で天候変化が予測できず、保護区で農業に従事する住民が困難を抱えることだ。従来の農業が適切に行えず、生活様式が変化している。また熱波が干ばつや山火事を引き起こし、保護区で住民だけでなく他の生物にも害を及ぼしている。多くの近隣諸国でも熱波による死者が出ており、カンボジアもその脅威に直面している。人々が苦しまず、保護区が危険にさらされないよう意識し、行動を起こさなければならない。現在、この問題には適切に対処しており、改善の見通しを持っている。
——カンボジアの農業分野では、CO2排出量をどのように削減しようとしているか。
炭素取引市場には現在5つの分野があり、そのうち農業が最大となっている。カンボジアには農地が300万ヘクタール以上あるが、ここでのCO2削減についてはこれからだ。
ジェトロが今回、世界的な炭素取引、特に農業での炭素取引に非常に高い関心を持っている日本企業を連れてきてくれたことに感謝している。彼らがカンボジアの農業分野でCO2の排出を削減できるよう支援する用意がある。カンボジアは30年までにCO2排出量を42%削減する計画を打ち出している。
■三つの柱で環境改善へ
——数ある環境問題の中で、カンボジアで改善の兆しが見られるものは何か。
カンボジア政府が打ち出す経済成長のビジョン「五角形戦略」の中で、環境省はクリーン・グリーン・サステナブルの三つの柱からなる環境循環戦略を発表している。
「クリーン」は空気・土地・水の三面で実現を目指す。空気については「青空キャンペーン」を実施している。移動式検査装置を導入し、国内のあらゆる場所、特に隣国との国境沿いで大気の質を毎日測定するものだ。世界保健機関(WHO)の基準に適合しているか確認し、一般に公開している。
工場排気の清浄化にも取り組んでいる。(建設予定だった)発電容量700メガワットの石炭火力発電所はCO2の排出が多いので取りやめ、環境影響の少ない液化石油ガス(LPG)を利用した発電所に変更した。ほかにも、全ての工場で残留物の焼却がされていないか監視を徹底している。今後も排ガスの清浄化を確実にするため法整備をしていく予定だ。
土地に関しては、プラスチック使用量を削減するためにレジ袋不使用キャンペーンを開始した。国民の約半数が現在参加している。また、学校や病院、工場などの単位で周辺地域を週15分清掃する「クリーン・カンボジア、自分たちで」キャンペーンも、すでに国民の3分の1が参加している。目標は全国民が参加することだ。始めて1カ月もたっていないが、先週、4日間で11州を巡回したところ、路上のプラスチックごみの75%がなくなっていた。ゼロにするのに当初は5年はかかると見ていたが、前倒しで25年末までには達成しそうだ。
キャンペーンのターゲットは全国の360万人の学生で、彼らの間で習慣化し、継続的な運動となれば、将来次世代に受け継がれるというのが戦略の本質だ。
また、保護区でのエコツーリズム振興も検討している。保護区に居住する人々は経済的に弱い立場にあるため、観光客を誘致して彼らの収入につなげようと考えている。「クリーン」を保ちながら観光客を呼び込めば、持続可能なエコツーリズムを実現できる。
——ほか二つの柱については。
「グリーン」については保護と拡大の両面から対策を実施している。700万ヘクタール以上の保護区を違法伐採などから守るため、法務省と協力し天然資源に関する法律を完全に執行し、地方当局や陸軍などと協力して犯罪を防ぎ、衛星画像などから保護区の状況を毎月確認するという対策を取っている。
拡大の面では、年間100万本の植樹キャンペーンが成功している。10カ月の間に130万本の苗木を植樹に協力する地域住民に寄贈した。植樹を支援する施設を作り、住民や学生に植樹を手伝ってもらっている。森林資源に対し、「伐採するもの」から「保護するもの」へと人々の意識を変革させることができている。
カンボジア環境省は同国各地で苗木を植樹するキャンペーンを行っている(同省提供)
さらに保護区の住民の雇用創出も対策として挙げられる。彼らは樹木の伐採を生計手段とする経済的に弱い立場にあるため、カーボンクレジットを利用して生活環境を改善する支援をしなければならない。カーボンクレジット市場には、所有者、実施者、そして当該地に住む住民がいる。保護区の所有者は政府で、実施者は天然資源の流出がないよう森林を管理する第三者だ。その森林管理のために雇用が創出されれば、地元住民の収入安定化につながる。
カンボジアはCO2の主要な排出国ではない。排出量は少ないが、パリ協定の加盟国としての責任を負っているため、各国に先駆けて同協定第6条の運用マニュアルを策定した。国際基準に準拠し、透明性を持ち、説明責任を果たすものだ。われわれは、日本や欧米の高い国際基準を持つ投資家がカンボジアでビジネスを成功させることを歓迎しており、そのための協力は惜しまない。
三つ目の柱、「サステナブル」については、クリーン・グリーンの成果を継続させることだ。そのための長期戦略として、森林資源が次世代に収入をもたらすことを狙い、2050年までに国土に占める森林の割合を60%まで上げる目標を掲げている。
■日本企業の投資を期待
——脱炭素ビジネスにおいて、日本企業に最も期待することは。
カーボンクレジット市場についてはカンボジアにはクリーンな投資環境がある。農業、工業、林業、エネルギー、廃棄物の5分野で投資が可能で、制度上の手続きも整備した。日本企業の投資を期待している。
——カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)や世界におけるカーボンクレジットビジネスで、どのような地位の確立を目指すか。
持続可能な仕組みを作るには、まず国内からだ。その後、地域、世界へと移行していく。持続可能な社会を実現するために、例えばグリーン経済を国内で始める必要がある。その後、地域で共通の目標に向けて協力する。まずは国内での努力が必要だと考えている。
——脱炭素を実現する技術に関して、特に興味を持っている技術はあるか。
先ほど五つの分野について述べたように、脱炭素については各分野でさまざまな技術を活用できる。どのような技術を利用するかは詳細に検討する必要があるが、その判断は実業家たちが秀でている。我々は政策面で彼らを支え、必要とするものは何でも支援してきた。収入を得たり、問題を解決したりすることは、経済団体オクニャ協会のメンバーが得意とすることなので、彼らに任せている。
環境省はカーボンクレジットビジネスや環境問題に関して常にオープンな姿勢を取っており、環境に貢献したいと考えるあらゆるステークホルダーと協力する用意がある。
※関連記事:カンボジアでの宇宙と脱炭素技術で協業図る
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気候変動で天候変化が予測できず、保護区で農業に従事する住民が困難を抱えることだ。従来の農業が適切に行えず、生活様式が変化している。また熱波が干ばつや山火事を引き起こし、保護区で住民だけでなく他の生物にも害を及ぼしている。多くの近隣諸国でも熱波による死者が出ており、カンボジアもその脅威に直面している。人々が苦しまず、保護区が危険にさらされないよう意識し、行動を起こさなければならない。現在、この問題には適切に対処しており、改善の見通しを持っている。
——カンボジアの農業分野では、CO2排出量をどのように削減しようとしているか。
炭素取引市場には現在5つの分野があり、そのうち農業が最大となっている。カンボジアには農地が300万ヘクタール以上あるが、ここでのCO2削減についてはこれからだ。
ジェトロが今回、世界的な炭素取引、特に農業での炭素取引に非常に高い関心を持っている日本企業を連れてきてくれたことに感謝している。彼らがカンボジアの農業分野でCO2の排出を削減できるよう支援する用意がある。カンボジアは30年までにCO2排出量を42%削減する計画を打ち出している。
■三つの柱で環境改善へ
——数ある環境問題の中で、カンボジアで改善の兆しが見られるものは何か。
カンボジア政府が打ち出す経済成長のビジョン「五角形戦略」の中で、環境省はクリーン・グリーン・サステナブルの三つの柱からなる環境循環戦略を発表している。
「クリーン」は空気・土地・水の三面で実現を目指す。空気については「青空キャンペーン」を実施している。移動式検査装置を導入し、国内のあらゆる場所、特に隣国との国境沿いで大気の質を毎日測定するものだ。世界保健機関(WHO)の基準に適合しているか確認し、一般に公開している。
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土地に関しては、プラスチック使用量を削減するためにレジ袋不使用キャンペーンを開始した。国民の約半数が現在参加している。また、学校や病院、工場などの単位で周辺地域を週15分清掃する「クリーン・カンボジア、自分たちで」キャンペーンも、すでに国民の3分の1が参加している。目標は全国民が参加することだ。始めて1カ月もたっていないが、先週、4日間で11州を巡回したところ、路上のプラスチックごみの75%がなくなっていた。ゼロにするのに当初は5年はかかると見ていたが、前倒しで25年末までには達成しそうだ。
キャンペーンのターゲットは全国の360万人の学生で、彼らの間で習慣化し、継続的な運動となれば、将来次世代に受け継がれるというのが戦略の本質だ。
また、保護区でのエコツーリズム振興も検討している。保護区に居住する人々は経済的に弱い立場にあるため、観光客を誘致して彼らの収入につなげようと考えている。「クリーン」を保ちながら観光客を呼び込めば、持続可能なエコツーリズムを実現できる。
——ほか二つの柱については。
「グリーン」については保護と拡大の両面から対策を実施している。700万ヘクタール以上の保護区を違法伐採などから守るため、法務省と協力し天然資源に関する法律を完全に執行し、地方当局や陸軍などと協力して犯罪を防ぎ、衛星画像などから保護区の状況を毎月確認するという対策を取っている。
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——脱炭素ビジネスにおいて、日本企業に最も期待することは。
カーボンクレジット市場についてはカンボジアにはクリーンな投資環境がある。農業、工業、林業、エネルギー、廃棄物の5分野で投資が可能で、制度上の手続きも整備した。日本企業の投資を期待している。
——カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)や世界におけるカーボンクレジットビジネスで、どのような地位の確立を目指すか。
持続可能な仕組みを作るには、まず国内からだ。その後、地域、世界へと移行していく。持続可能な社会を実現するために、例えばグリーン経済を国内で始める必要がある。その後、地域で共通の目標に向けて協力する。まずは国内での努力が必要だと考えている。
——脱炭素を実現する技術に関して、特に興味を持っている技術はあるか。
先ほど五つの分野について述べたように、脱炭素については各分野でさまざまな技術を活用できる。どのような技術を利用するかは詳細に検討する必要があるが、その判断は実業家たちが秀でている。我々は政策面で彼らを支え、必要とするものは何でも支援してきた。収入を得たり、問題を解決したりすることは、経済団体オクニャ協会のメンバーが得意とすることなので、彼らに任せている。
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