1.ダイソーの上海店舗閉店
2024年12月4日に、華夏時報が、ダイソーの上海2店舗の閉店を記事にしています。
ダイソーは、2012年に、中国本土最初の店舗を広州市に開設。2023年12月末には、28店舗を本土に展開していたが、それから4か月以内に3店舗が閉鎖。また、天猫旗艦店も閉鎖。それに加えて、上海に残った2店舗(上海の高島屋・金虹橋店)も、年内の閉鎖方針が発表されたと報じています。
記事では、ダイソーは、著名な経営者である矢野博之氏が設立し、その経営哲学は、小売業界に大きな影響を与え、メイソウ(MINISO)を始めとする多くの企業に影響があると讃える一方で、中国市場に対する理解の欠如が、中国で成功できなかった要因と分析しています。記事では、複数の専門家へのインタビューに基づき、ダイソーが中国展開に成功しなかった理由を、以下の通り分析しています。
● 価格
中国では、模造品が溢れている状況下、正規品で競争力を持つのは難しい。
また、ダイソーの中国内店舗は、本国(日本)に比べて、割高で、商品の種類も限られ、魅力に乏しい。
● 立地
店舗の選択ミスによる移転が初期的に発生した上に、立地条件が悪い場所に出店する、ローコストオペレーションを採用したが、広告の欠如もあり、上手く機能しなかった。
● インターネット活用
現在、オンライン電子商取引が主流になっており、実店舗が影響を受けるほどだが、十分なオンライン対応ができていない。また、MINISOを始めとする成功企業は、TikTok・ウィチャット等の電子媒体を活用して、広告効果をあげているが、その対応が不足しており、ブランドを確立できていない。
● 後発の追い上げ
最初は、ダイソーから学ぶ側だったメイソウが中国市場だけでなく、世界市場で拡大した時、ダイソーは中国で自身の足場を見つけることができなくなった。この様な後発が多く出てきている。
上記の分析は、妥当なものだと感じています。やはり、中国ビジネスの変化は速く、時代に併せて、中国専用の対策をたてないと成功できません。かつての様に、日本製というだけでは、消費者に魅力を感じさせることはできず、資金と優秀な人材を投下して、販売戦略を練る必要が有ります。また、それに際しては、日本モデルの踏襲ではなく、中国に特化した戦略(広告・ブランディングに係る戦略)が必須となるのが、現在の中国であり、日本企業が苦戦する理由です。
ダイソーは、この意味で、中国に順応できなかった面はあるように思いますし、中国の生活・品質レベル向上により、低価格商品では、日本製であったとしても、消費者に魅力を感じさせることができなくなった面もあるでしょう。
一方で、日本人の筆者は、上海のダイソー店の存在は非常に有難く、頻繁に活用していました。生活圏内からダイソーがなくなるのは、少なからずショックです。
2.メイソウの日本撤退と脱日本
メイソウのビジネスモデルは、当初は、意図的に日本企業・日本製品と誤解させるものでしたが、これが中国でも嫌悪され、特に、2022年のSNS炎上騒動より脱日本を宣言。日本法人は2024年に閉鎖し、日本店舗も消滅しています。
東京経済オンラインの2022年8月22日付けの記事では、メイソウは、「無印良品とダイソーとユニクロを足して3で割った」雑貨店と揶揄される中国の雑貨チェーンである。これは、社名、ロゴ、10元(約200円)均一のビジネスモデルを見ても分かると記載しています。
この様な初期的な展開が、2022年のスペイン店でのSNS誤表記(チャイナドレスを日本の芸者の衣装と記載)の炎上をきっかけに、中国国内でも「無印やユニクロのパクリ」「恥ずかしい」との批判の声が高まった。2020年にはニューヨーク市場に上場しているが、中国国内では肯定的に受け止められず、コロナ期には3期連続で赤字を計上。最近は上場廃止もささやかれ、2022年7月にはリスク分散のため香港に重複上場したと報じています。つまり、大した実績をあげていない物まね企業、というような報道です。
ただ、この記事は、中国国内の報道をもとに記載されたものと推測しますが、2022年8月11日の南方都市報、その他のインターネットメディアでは、同社の日本製品を装う姿勢に嫌悪感を示し、過去3年間のマイナス成長、過去に発生した品質問題、20億元に近い累損という財務状況を、ネガティブに報じています。
上記1の論調とはずいぶん違いますが、情況が変われば、手のひらを返して報道するのは、どこの国でも同じようです。
3.両者の実態
相手国の報道を見ると、ポジティブな印象を受けない両社(メイソウに関しては、2022年のバッシング時は自国報道も極めてネガティブ)ですが、実態はどうでしょうか。
ダイソーは、1977年開業。非上場ですので損益状況は分かりませんが、2024年2月末時点で売上高は6,249億円。店舗数は、5,325店(国内4341、海外984)と発表されています。
メイソウは2013年開業。ニューヨークと香港市場で上場し、2024年9月末第三四半期の売上高は12,281百万元(2,456億円)。単純計算で12か月に引き延ばすと、3,274億円。上述の記事(2022年)後は黒字転換しており、同時期の9か月ベースの純利益は18億人民元(360億円)。2024年9月末の未処分利益は35億元(700億円)に達しており、その他準備金と合計すると、46憶元(920億円)と優良です。
また、店舗数は、7,186店(国内4,250、海外2,936)とダイソーをしのぎます。
この様に比較すると、ダイソーは、日本国内を主体とした展開で(81.5%の国内店舗比率)、メイソウの倍近い売上を上げています。メイソウは、創業11年で店舗数を7千店以上とし、ニューヨーク・香港の両市場に上場するというのは、一種の快挙であり、大胆な海外展開に特徴が有ります(海外店舗比率40.9%)。これは、後発の立場を有効利用し、複数の先行の長所を取り入れた模倣から開始し、そこから独自路線に転換していった戦略が当たったと言えるでしょう。筆者も、中国のメイソウ店舗には何度か行きましたが、10元ショップというよりは、コンビニの発展形の様な印象で、これは、複数のビジネスモデルを融合させたがゆえでしょう。
ダイソーは、「相対的に高品質」な廉価日本品という商品特性が、一番有利に機能するのは、日本市場であるという前提で、戦略を立てているように思えます。80%以上の国内店舗比率で、6千億円を超える売り上げ、且つ、業界1位の実績は、その、戦略を守ったが故とも言えます。
この様に、両者の戦略は違いますが、双方、確実な実績をあげているのは、計数から見て取れます。自国の報道だけを見ると、相手国企業は、どちらも敗者のような印象を受けますが、視点を変えると、違った実態が浮かび上がります。
「軸足を変えれば、違った景色が見えてくる。天動説を唱えても真実は見えない」と筆者はよく講演で発言しますが、本件は、その典型的な例でしょう。
水野コンサルタンシーグループ代表 水野真澄
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● 価格
中国では、模造品が溢れている状況下、正規品で競争力を持つのは難しい。
また、ダイソーの中国内店舗は、本国(日本)に比べて、割高で、商品の種類も限られ、魅力に乏しい。
● 立地
店舗の選択ミスによる移転が初期的に発生した上に、立地条件が悪い場所に出店する、ローコストオペレーションを採用したが、広告の欠如もあり、上手く機能しなかった。
● インターネット活用
現在、オンライン電子商取引が主流になっており、実店舗が影響を受けるほどだが、十分なオンライン対応ができていない。また、MINISOを始めとする成功企業は、TikTok・ウィチャット等の電子媒体を活用して、広告効果をあげているが、その対応が不足しており、ブランドを確立できていない。
● 後発の追い上げ
最初は、ダイソーから学ぶ側だったメイソウが中国市場だけでなく、世界市場で拡大した時、ダイソーは中国で自身の足場を見つけることができなくなった。この様な後発が多く出てきている。
上記の分析は、妥当なものだと感じています。やはり、中国ビジネスの変化は速く、時代に併せて、中国専用の対策をたてないと成功できません。かつての様に、日本製というだけでは、消費者に魅力を感じさせることはできず、資金と優秀な人材を投下して、販売戦略を練る必要が有ります。また、それに際しては、日本モデルの踏襲ではなく、中国に特化した戦略(広告・ブランディングに係る戦略)が必須となるのが、現在の中国であり、日本企業が苦戦する理由です。
ダイソーは、この意味で、中国に順応できなかった面はあるように思いますし、中国の生活・品質レベル向上により、低価格商品では、日本製であったとしても、消費者に魅力を感じさせることができなくなった面もあるでしょう。
一方で、日本人の筆者は、上海のダイソー店の存在は非常に有難く、頻繁に活用していました。生活圏内からダイソーがなくなるのは、少なからずショックです。
2.メイソウの日本撤退と脱日本
メイソウのビジネスモデルは、当初は、意図的に日本企業・日本製品と誤解させるものでしたが、これが中国でも嫌悪され、特に、2022年のSNS炎上騒動より脱日本を宣言。日本法人は2024年に閉鎖し、日本店舗も消滅しています。
東京経済オンラインの2022年8月22日付けの記事では、メイソウは、「無印良品とダイソーとユニクロを足して3で割った」雑貨店と揶揄される中国の雑貨チェーンである。これは、社名、ロゴ、10元(約200円)均一のビジネスモデルを見ても分かると記載しています。
この様な初期的な展開が、2022年のスペイン店でのSNS誤表記(チャイナドレスを日本の芸者の衣装と記載)の炎上をきっかけに、中国国内でも「無印やユニクロのパクリ」「恥ずかしい」との批判の声が高まった。2020年にはニューヨーク市場に上場しているが、中国国内では肯定的に受け止められず、コロナ期には3期連続で赤字を計上。最近は上場廃止もささやかれ、2022年7月にはリスク分散のため香港に重複上場したと報じています。つまり、大した実績をあげていない物まね企業、というような報道です。
ただ、この記事は、中国国内の報道をもとに記載されたものと推測しますが、2022年8月11日の南方都市報、その他のインターネットメディアでは、同社の日本製品を装う姿勢に嫌悪感を示し、過去3年間のマイナス成長、過去に発生した品質問題、20億元に近い累損という財務状況を、ネガティブに報じています。
上記1の論調とはずいぶん違いますが、情況が変われば、手のひらを返して報道するのは、どこの国でも同じようです。
3.両者の実態
相手国の報道を見ると、ポジティブな印象を受けない両社(メイソウに関しては、2022年のバッシング時は自国報道も極めてネガティブ)ですが、実態はどうでしょうか。
ダイソーは、1977年開業。非上場ですので損益状況は分かりませんが、2024年2月末時点で売上高は6,249億円。店舗数は、5,325店(国内4341、海外984)と発表されています。
メイソウは2013年開業。ニューヨークと香港市場で上場し、2024年9月末第三四半期の売上高は12,281百万元(2,456億円)。単純計算で12か月に引き延ばすと、3,274億円。上述の記事(2022年)後は黒字転換しており、同時期の9か月ベースの純利益は18億人民元(360億円)。2024年9月末の未処分利益は35億元(700億円)に達しており、その他準備金と合計すると、46憶元(920億円)と優良です。
また、店舗数は、7,186店(国内4,250、海外2,936)とダイソーをしのぎます。
この様に比較すると、ダイソーは、日本国内を主体とした展開で(81.5%の国内店舗比率)、メイソウの倍近い売上を上げています。メイソウは、創業11年で店舗数を7千店以上とし、ニューヨーク・香港の両市場に上場するというのは、一種の快挙であり、大胆な海外展開に特徴が有ります(海外店舗比率40.9%)。これは、後発の立場を有効利用し、複数の先行の長所を取り入れた模倣から開始し、そこから独自路線に転換していった戦略が当たったと言えるでしょう。筆者も、中国のメイソウ店舗には何度か行きましたが、10元ショップというよりは、コンビニの発展形の様な印象で、これは、複数のビジネスモデルを融合させたがゆえでしょう。
ダイソーは、「相対的に高品質」な廉価日本品という商品特性が、一番有利に機能するのは、日本市場であるという前提で、戦略を立てているように思えます。80%以上の国内店舗比率で、6千億円を超える売り上げ、且つ、業界1位の実績は、その、戦略を守ったが故とも言えます。
この様に、両者の戦略は違いますが、双方、確実な実績をあげているのは、計数から見て取れます。自国の報道だけを見ると、相手国企業は、どちらも敗者のような印象を受けますが、視点を変えると、違った実態が浮かび上がります。
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