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東南ア6カ国のIPOは縮小マレーシア最多、消費関連は活況

会計事務所のデロイトがこのほど発表した報告書で、2024年に東南アジア主要6カ国で実施された新規株式公開(IPO)は136件、資金調達額は合計で37億米ドル(約5,731億円)だったことが分かった。24年は前年より小粒なIPOが多かったことで、件数・調達額が共に前年比で減少。国別では件数・調達額の両方でマレーシアがトップとなり、消費関連のIPOが目立った。

24年にタイで最大のIPOを実施したタイ・クレジット・バンク=タイ・バンコク(NNA撮影)

デロイトによると、東南アジア主要6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)で24年に実施されたIPOは前年比17%減の136件。資金調達額は36%減の37億米ドルだった。件数ではマレーシアが55件で最も多く、インドネシアが41件、タイが32件で続いた。マレーシアは前年の32件から増えた一方、インドネシア(23年は79件)とタイ(同40件)は減少した。
調達額でもトップはマレーシアで、16億6,900万米ドル。前年の7億9,000万米ドルから2倍以上に拡大している。反対に、インドネシアは9億300万米ドルと、前年の4分の1ほどの規模に縮小。タイは8億1,100万米ドルで38%縮小した。IPOの規模が前年比で縮小した背景についてデロイトは、「5億米ドルを超える大規模なIPOが、23年は4件あったのに対し、24年は1件にとどまったため」と説明している。24年はマレーシアの小売り大手「99スピードマート」が9月にIPOを実施し、5億7,400万米ドルを調達。東南アジア6カ国では、24年で最大のIPOとなった。
業種別では、消費関連が件数・調達額で最も多く件数は58件、調達額は全体の46%を占めた。件数ベースでは工業が38件でこれに続き、調達額ではエネルギー・資源が全体の21%で消費関連に次いだ。消費関連の企業によるIPOは過去3年で毎年50件以上実施されており、需要の高さがうかがえる。この分野では、「99スピードマート」のほか、マレーシア系ホームセンター「ミスターDIY」をインドネシアで運営するダヤ・インティグナ・ヤサが12月に2億6,200万米ドルを調達。タイの日用品メーカー、ネオが4月に8,600万米ドルを調達した。「ミスターDIY」は今年1月にタイ証券取引所(SET)でもメインボードへの上場を申請しており、認可されている。タイ国内での店舗数は、24年末時点で900店を超えている。

ネオは、ファブリックケア「スマート」などの家庭用品や、シャンプーやボディーソープの「TROS」といったパーソナルケアブランド、子ども・幼児向けの「D—nee」といったブランドを展開。23年の売上高は95億バーツ(約435億円)だった。24年1~9月の売上高は74億バーツで、家庭用品が41%、パーソナルケアが28%、子ども・幼児向けが31%を占める。純利益は7億6,800万バーツだった。デロイトは消費財関連で企業が競争力を維持するためのポイントとして、「消費者のニーズの変化に対応すること」「複数のチャンネルを持つこと」「競争が激しい市場で差別化を図ること」を挙げている。
■タイは外国人投資家離れ進む
タイのIPOは、件数ベースでは2年連続で減少し、調達額は3年連続で減少した。デロイト・タイランドのパートナー、ウィラシニー氏はNNAに「当局は企業の上場が成功するかについて、審査を強化した」ことや、1件当たりのIPOの規模が小さかったことが低迷につながったと説明した。さらにデロイトは、外国人投資家にとっては、国内経済が低成長を続けていることが嫌気され、テクノロジーに強いマレーシアやベトナム、インドネシアに投資が流れていると分析している。外国人投資家によるタイでの株式の取引残高は、23年に1,921億バーツのマイナス、24年は1,469億バーツのマイナスとなった。

SETメインボードの総合株価指数「SET指数」は、昨年9月にペートンタン政権が発足して以降は上昇が続き、10月中旬には1500台に近づいた。ただ、11月に米国の大統領選でトランプ氏が勝利した後は貿易政策に対する不安が高まり、再び下落を開始。12月末には1400.21となり、2月4日の終値は1304.39にまで下落している。SETの担当者によると、5日時点でIPOはメインボードで7件申請されており、4件が承認されている。2部市場(MAI)では15件が申請され、3件が承認されている。
ウィラシニー氏は、今年のタイのIPOについて、第2次トランプ政権が発足した影響はあるものの、経済成長率が2.7%と24年から加速する可能性が高いことから、件数と金額は増えるとの見通しを示した。SETのエグゼクティブ・バイス・プレジデントのアムノイ氏は、「大手企業を中心に、IPOを通じた資金調達に関心は高い」とし、企業にとっては市場の状況や価格設定が課題になると指摘。さらに、当局が企業への監視を強める中で、新しい状況に対応ができるかが鍵になるとした。
■マレーシアは活況
シンガポールのIPO件数は4件と過去10年以上で最低となり、調達額も3,400万米ドルと、少なくとも20年以降で最低の水準となった。24年にシンガポールで実施されたIPOは、全て第2部のカタリスト上場。世界的に金利が高くなる傾向にある中で、シンガポールで盛んな不動産投資信託(REIT)が低迷した。ただ、デロイトは今後のシンガポールでのIPOの見通しについて、「金利が安定することが見込まれることから、25年は活気を取り戻すことが期待できる」とした。
堅調なマクロ経済や消費を背景に、マレーシアでのIPOは活況。デロイトによると、件数は06年以降で最も多く、調達額は17年以降で最高を記録した。政治が安定していることに加え、経済政策も外国人投資家に好感されているという。
デロイトは今後の東南アジアでのIPOの見通しについて、「消費が拡大していることや中間層が増えていることに加え、消費や不動産、医療、再生可能エネルギーといった分野とテクノロジーを掛け合わせた分野で、投資家を引きつける可能性がある」との見方を示す。東南アジアではないものの、近隣国ではインドで24年のIPOが300件を超え、調達額は200億米ドル近くを記録するなど、IPOブームとも呼ばれる状況が続いている。域内に加え、インドや中国など周辺国の状況が東南アジアのIPOに影響を与えることになりそうだ。

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調達額でもトップはマレーシアで、16億6,900万米ドル。前年の7億9,000万米ドルから2倍以上に拡大している。反対に、インドネシアは9億300万米ドルと、前年の4分の1ほどの規模に縮小。タイは8億1,100万米ドルで38%縮小した。IPOの規模が前年比で縮小した背景についてデロイトは、「5億米ドルを超える大規模なIPOが、23年は4件あったのに対し、24年は1件にとどまったため」と説明している。24年はマレーシアの小売り大手「99スピードマート」が9月にIPOを実施し、5億7,400万米ドルを調達。東南アジア6カ国では、24年で最大のIPOとなった。
業種別では、消費関連が件数・調達額で最も多く件数は58件、調達額は全体の46%を占めた。件数ベースでは工業が38件でこれに続き、調達額ではエネルギー・資源が全体の21%で消費関連に次いだ。消費関連の企業によるIPOは過去3年で毎年50件以上実施されており、需要の高さがうかがえる。この分野では、「99スピードマート」のほか、マレーシア系ホームセンター「ミスターDIY」をインドネシアで運営するダヤ・インティグナ・ヤサが12月に2億6,200万米ドルを調達。タイの日用品メーカー、ネオが4月に8,600万米ドルを調達した。「ミスターDIY」は今年1月にタイ証券取引所(SET)でもメインボードへの上場を申請しており、認可されている。タイ国内での店舗数は、24年末時点で900店を超えている。

ネオは、ファブリックケア「スマート」などの家庭用品や、シャンプーやボディーソープの「TROS」といったパーソナルケアブランド、子ども・幼児向けの「D—nee」といったブランドを展開。23年の売上高は95億バーツ(約435億円)だった。24年1~9月の売上高は74億バーツで、家庭用品が41%、パーソナルケアが28%、子ども・幼児向けが31%を占める。純利益は7億6,800万バーツだった。デロイトは消費財関連で企業が競争力を維持するためのポイントとして、「消費者のニーズの変化に対応すること」「複数のチャンネルを持つこと」「競争が激しい市場で差別化を図ること」を挙げている。
■タイは外国人投資家離れ進む
タイのIPOは、件数ベースでは2年連続で減少し、調達額は3年連続で減少した。デロイト・タイランドのパートナー、ウィラシニー氏はNNAに「当局は企業の上場が成功するかについて、審査を強化した」ことや、1件当たりのIPOの規模が小さかったことが低迷につながったと説明した。さらにデロイトは、外国人投資家にとっては、国内経済が低成長を続けていることが嫌気され、テクノロジーに強いマレーシアやベトナム、インドネシアに投資が流れていると分析している。外国人投資家によるタイでの株式の取引残高は、23年に1,921億バーツのマイナス、24年は1,469億バーツのマイナスとなった。

SETメインボードの総合株価指数「SET指数」は、昨年9月にペートンタン政権が発足して以降は上昇が続き、10月中旬には1500台に近づいた。ただ、11月に米国の大統領選でトランプ氏が勝利した後は貿易政策に対する不安が高まり、再び下落を開始。12月末には1400.21となり、2月4日の終値は1304.39にまで下落している。SETの担当者によると、5日時点でIPOはメインボードで7件申請されており、4件が承認されている。2部市場(MAI)では15件が申請され、3件が承認されている。
ウィラシニー氏は、今年のタイのIPOについて、第2次トランプ政権が発足した影響はあるものの、経済成長率が2.7%と24年から加速する可能性が高いことから、件数と金額は増えるとの見通しを示した。SETのエグゼクティブ・バイス・プレジデントのアムノイ氏は、「大手企業を中心に、IPOを通じた資金調達に関心は高い」とし、企業にとっては市場の状況や価格設定が課題になると指摘。さらに、当局が企業への監視を強める中で、新しい状況に対応ができるかが鍵になるとした。
■マレーシアは活況
シンガポールのIPO件数は4件と過去10年以上で最低となり、調達額も3,400万米ドルと、少なくとも20年以降で最低の水準となった。24年にシンガポールで実施されたIPOは、全て第2部のカタリスト上場。世界的に金利が高くなる傾向にある中で、シンガポールで盛んな不動産投資信託(REIT)が低迷した。ただ、デロイトは今後のシンガポールでのIPOの見通しについて、「金利が安定することが見込まれることから、25年は活気を取り戻すことが期待できる」とした。
堅調なマクロ経済や消費を背景に、マレーシアでのIPOは活況。デロイトによると、件数は06年以降で最も多く、調達額は17年以降で最高を記録した。政治が安定していることに加え、経済政策も外国人投資家に好感されているという。
デロイトは今後の東南アジアでのIPOの見通しについて、「消費が拡大していることや中間層が増えていることに加え、消費や不動産、医療、再生可能エネルギーといった分野とテクノロジーを掛け合わせた分野で、投資家を引きつける可能性がある」との見方を示す。東南アジアではないものの、近隣国ではインドで24年のIPOが300件を超え、調達額は200億米ドル近くを記録するなど、IPOブームとも呼ばれる状況が続いている。域内に加え、インドや中国など周辺国の状況が東南アジアのIPOに影響を与えることになりそうだ。" ["post_title"]=> string(84) "東南ア6カ国のIPOは縮小マレーシア最多、消費関連は活況" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e6%9d%b1%e5%8d%97%e3%82%a2%ef%bc%96%e3%82%ab%e5%9b%bd%e3%81%ae%ef%bd%89%ef%bd%90%ef%bd%8f%e3%81%af%e7%b8%ae%e5%b0%8f%e3%83%9e%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%82%a2%e6%9c%80%e5%a4%9a%e3%80%81%e6%b6%88" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2025-02-06 04:00:03" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2025-02-05 19:00:03" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=24628" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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