マレーシア政府系シンクタンク、マレーシア経済研究所(MIER)などによる、中小企業の最高経営責任者(CEO)を対象にした景況感調査で、今月1日から実施された法定最低賃金引き上げについて、6割が「マイナスの影響がある」と回答した。運営コストの拡大を懸念している。専門家は、影響が出る企業と出ない企業に分かれるとの見方を示す。
調査は中小企業の経営者1,160人を対象に、米経営者団体ビステージ・インターナショナルとMIERが共同で実施した。
マレーシア政府は今月1日、最低賃金を全国一律で月1,700リンギ(約5万8,400円)に引き上げた。従来の水準から200リンギ(約13%)の引き上げとなった。これについて、43%が「わずかにマイナスの影響がある」、17%が「大幅なマイナスの影響がある」と回答した。
マレーシア中小企業協会(SAMENTA)のヨー・センフーイ事務局長は、多くの中小企業が依然として新しい最低賃金の基準を下回る賃金を支給していたことから、マイナスの影響を受ける可能性が高いと指摘する。賃金の上昇は労働コストを増大させ、収益を圧迫するとの見方を示した。
「企業はエネルギー費用の上昇にも直面しており、最低賃金の引き上げと合わせてコスト圧力が続くと、経費や雇用の削減、事業規模の縮小を余儀なくされる」と述べた。
マレーシアのテイラーズ大学(スランゴール州スバンジャヤ)の上級講師ポール・アンソニー・マリア・ダス氏は、衣料品工場やカフェなどは利益率が低く、コストの拡大分を顧客に転嫁するのは難しいと説明する。「新興企業もキャッシュフローと持続可能性の面で影響を受けるかもしれない」との考えだ。
一方で、労働コストの増大分を自動化で相殺する製造業者、需要を減退させることなく価格を調整できる高級レストラン、賃金の上昇を人材確保への投資と捉えるテクノロジー企業は、長期的な成長とイノベーションを促進できるとの見方を示す。
経済全体では、賃金の上昇で消費支出が増加し、内需企業が恩恵を受けると推測した。
■米関税政策は楽観視
米国のトランプ政権は4日、中国からの全製品に10%の追加関税を発動した。10日には、鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課すと発表したほか、13日には米国の輸出品に高い関税率をかける相手国の製品に同率の関税率を課す「相互関税」を導入すると発表した。
このような米関税政策のマレーシアへの影響について、78%が「プラス」もしくは「中立」の影響があると予想した。「マイナス」と回答したのは21%にとどまった。また、自社の事業に関しても、回答者の84%が「プラス」もしくは「中立」の影響を見込んでおり、「マイナス」と予想したのは15%だった。
中小企業協会のヨー氏は、リスクの軽減に向け、中国への経済依存度を減らす「チャイナプラスワン」戦略が促進される中で、マレーシアは戦略的な立地と産業基盤を有していることから、より多くの貿易や投資を引き付けることができると予想する。「電気・電子機器などの分野で、地場企業と外資企業との合弁事業や戦略的な提携が増える見込みだ」と期待を示した。
テイラーズ大学のポール氏は、一部の産業は投入コストの拡大に直面する可能性があるものの、環太平洋連携協定(CPTPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)などの貿易協定が米関税の影響を相殺するのに役立つとの見解を示した。
■信頼感指数はやや低下
CEO信頼感指数は「事業が好調(業績が改善)」の回答率から「不調(悪化)」の回答率を引いた数に、100を足して算出している。24年第4四半期(10~12月)の信頼感指数は113.0だった。前期比で1.6ポイント低下した。
第4四半期は景気判断の分かれ目となる100を5期連続で超えたが、同指数を構成する6指標のうち、「足元の景気」「景気の先行き」「雇用の見通し」の3指標が前期比で下落した。特に「景気の先行き」の指数は前期から12ポイント低下した。金利の上昇、世界経済の逆風、国内の政策への不確実性に対する継続的な懸念が浮き彫りとなった。

object(WP_Post)#9817 (24) {
["ID"]=>
int(24876)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2025-02-18 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2025-02-17 15:00:00"
["post_content"]=>
string(5547) "マレーシア政府系シンクタンク、マレーシア経済研究所(MIER)などによる、中小企業の最高経営責任者(CEO)を対象にした景況感調査で、今月1日から実施された法定最低賃金引き上げについて、6割が「マイナスの影響がある」と回答した。運営コストの拡大を懸念している。専門家は、影響が出る企業と出ない企業に分かれるとの見方を示す。
調査は中小企業の経営者1,160人を対象に、米経営者団体ビステージ・インターナショナルとMIERが共同で実施した。
マレーシア政府は今月1日、最低賃金を全国一律で月1,700リンギ(約5万8,400円)に引き上げた。従来の水準から200リンギ(約13%)の引き上げとなった。これについて、43%が「わずかにマイナスの影響がある」、17%が「大幅なマイナスの影響がある」と回答した。
マレーシア中小企業協会(SAMENTA)のヨー・センフーイ事務局長は、多くの中小企業が依然として新しい最低賃金の基準を下回る賃金を支給していたことから、マイナスの影響を受ける可能性が高いと指摘する。賃金の上昇は労働コストを増大させ、収益を圧迫するとの見方を示した。
「企業はエネルギー費用の上昇にも直面しており、最低賃金の引き上げと合わせてコスト圧力が続くと、経費や雇用の削減、事業規模の縮小を余儀なくされる」と述べた。
マレーシアのテイラーズ大学(スランゴール州スバンジャヤ)の上級講師ポール・アンソニー・マリア・ダス氏は、衣料品工場やカフェなどは利益率が低く、コストの拡大分を顧客に転嫁するのは難しいと説明する。「新興企業もキャッシュフローと持続可能性の面で影響を受けるかもしれない」との考えだ。
一方で、労働コストの増大分を自動化で相殺する製造業者、需要を減退させることなく価格を調整できる高級レストラン、賃金の上昇を人材確保への投資と捉えるテクノロジー企業は、長期的な成長とイノベーションを促進できるとの見方を示す。
経済全体では、賃金の上昇で消費支出が増加し、内需企業が恩恵を受けると推測した。
■米関税政策は楽観視
米国のトランプ政権は4日、中国からの全製品に10%の追加関税を発動した。10日には、鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課すと発表したほか、13日には米国の輸出品に高い関税率をかける相手国の製品に同率の関税率を課す「相互関税」を導入すると発表した。
このような米関税政策のマレーシアへの影響について、78%が「プラス」もしくは「中立」の影響があると予想した。「マイナス」と回答したのは21%にとどまった。また、自社の事業に関しても、回答者の84%が「プラス」もしくは「中立」の影響を見込んでおり、「マイナス」と予想したのは15%だった。
中小企業協会のヨー氏は、リスクの軽減に向け、中国への経済依存度を減らす「チャイナプラスワン」戦略が促進される中で、マレーシアは戦略的な立地と産業基盤を有していることから、より多くの貿易や投資を引き付けることができると予想する。「電気・電子機器などの分野で、地場企業と外資企業との合弁事業や戦略的な提携が増える見込みだ」と期待を示した。
テイラーズ大学のポール氏は、一部の産業は投入コストの拡大に直面する可能性があるものの、環太平洋連携協定(CPTPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)などの貿易協定が米関税の影響を相殺するのに役立つとの見解を示した。
■信頼感指数はやや低下
CEO信頼感指数は「事業が好調(業績が改善)」の回答率から「不調(悪化)」の回答率を引いた数に、100を足して算出している。24年第4四半期(10~12月)の信頼感指数は113.0だった。前期比で1.6ポイント低下した。
第4四半期は景気判断の分かれ目となる100を5期連続で超えたが、同指数を構成する6指標のうち、「足元の景気」「景気の先行き」「雇用の見通し」の3指標が前期比で下落した。特に「景気の先行き」の指数は前期から12ポイント低下した。金利の上昇、世界経済の逆風、国内の政策への不確実性に対する継続的な懸念が浮き彫りとなった。
"
["post_title"]=>
string(81) "最賃引き上げ、6割が影響中小企業CEO、経費増大を懸念"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e6%9c%80%e8%b3%83%e5%bc%95%e3%81%8d%e4%b8%8a%e3%81%92%e3%80%81%ef%bc%96%e5%89%b2%e3%81%8c%e5%bd%b1%e9%9f%bf%e4%b8%ad%e5%b0%8f%e4%bc%81%e6%a5%ad%ef%bd%83%ef%bd%85%ef%bd%8f%e3%80%81%e7%b5%8c%e8%b2%bb"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2025-02-18 04:00:03"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2025-02-17 19:00:03"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=24876"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
マレーシア情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務