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輸出品、8割「買いたい」官民で関税対応、支援ムード醸成

トランプ米政権の対中関税政策で苦境に立たされる中国輸出企業を支援する取り組みが広がっている。中国政府は国内販路開拓の支援を強化し、小売企業もこれに呼応して輸出品の取り扱いを増やしている。こうした試みに消費者もおおむね好意的で、市場調査会社が実施したアンケートでは、回答者の8割以上が「国内で販売されることになった輸出品を買う意思がある」と答えた。国内では買い支えのムードが醸成されている。
上海市内の商業施設「上海環球港」に入ると、「輸出商品の展示販売会」と大きく書かれた売り場ができていた。輸出企業が国内市場向けに販路を開拓するのを支援するために設けられた特設会場には、靴や衣類、コーヒーポット、食器、菓子類などの幅広い商品が並ぶ。
靴を試着していた中年女性は「輸入品を買うより安い」と満足げだ。
トランプ政権が相互関税を含めた中国への関税を計145%に引き上げたことを受け、輸出を手がけてきた企業は中国国内への販路切り替えを進めている。
小売企業の動きは速かった。4月中旬にインターネット通販大手の京東集団(JDドット・コム)が輸出業者の国内販売支援に今後1年で2,000億元(約3兆9,300億円)を投じると発表したのを皮切りに、これまでに10以上のネット通販大手が支援策を打ち出した。スーパーマーケットには輸出品の専用コーナーも登場している。
こうした動きは日系企業にも広がっている。セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が四川省成都市で展開する「成都伊藤洋華堂(成都イトーヨーカ堂)」は、四川省と重慶市の輸出企業に支援を提案。小売業者と取引先の交流会に参加して供給情報を収集し、4月半ばからは貿易業務を手がける取引先の商品の店内販売促進を展開している。4月下旬に成都市の「成都伊藤洋華堂 建設路店」に屋外特設会場を設け、取引先の販売企画や販促を支援して輸出品の展示販売を展開した。
4月28日までに50社以上から支援策に関する問い合わせがあったという。これまでに食品1社と服飾2社の商品の国内流通を支援。現在も複数の企業と手続きや交渉を進めている。
■消費者も歓迎
中国の消費者も歓迎ムードだ。
市場調査会社の艾媒諮詢(IIメディアリサーチ)が4月に実施したアンケート(有効回答数は1,491件)によると、80%以上の消費者が「輸出向け商品を買う意思がある」と答えた。「価格の合理性」(56.0%)と「ブランド知名度」(56.0%)が輸出品を買う決め手になっている。
輸出品を国内で販売することには消費者の74.5%が肯定的な見方を示している。「製品のデザインやコンセプトが国際的」(55.6%)や「原材料を世界で調達しており高品質」(52.8%)と評価する声が多い。一方、否定的な声では「製品の仕様が国内基準を満たしていない」や「アフターサービスがない」といった指摘もあった。
艾媒諮詢のアナリストは 、国内販路の開拓が「中国の輸出企業が“輸出向けのOEM(相手先ブランドによる生産)”から“国内ブランド”への転換を実現する機会になる」と指摘した。
米国の関税政策の先行きが見通せない中、政府も支援を強めている。中国国営中央テレビ(CCTV)系の央視新聞によると、中国商務省は各地に「外貿優品中華行(輸出向けの優良品を中国へ)」と銘打った輸出企業と小売企業のマッチングキャンペーンを促し、2日までに計168億元規模の輸出品を調達する意向を取り付けたという。
輸出を地元経済を支える柱としてきた地域も支援を強化。広東省深セン市は4月下旬、サービス企業の国内開拓に向けて10項目の支援策を発表した。電子商取引(EC)サイトへの進出を支援し、条件を満たす企業に最大50万元の一時金を支給するほか、年間オンライン販売額が一定規模に達した企業には最大2,500万元を給付する制度も盛り込んだ。
■内需拡大のチャンスに
中国の小売市場には、米国向け輸出の減少を補うだけの底力があると専門家はみている。
復旦大学経済学院の張軍院長は4月中旬、「中国、日本、韓国を含む東アジアは、製造業の拡大によって欧米の先進国に追いついてきたが、最終的には内需が発展の最大の制約になっている」との見方を示した。「中国は14億人の人口を持つ大国だが、1人当たりの国内総生産(GDP)は米国の4分の1にも満たない」とした上で、「東アジアの他の経済体と異なるのは、中国の規模がはるかに大きいことだ」と指摘。トランプ政権との関税戦争が地方政府の補助金による消費促進という従来の手段を変化させる機会になり、内需拡大のボトルネックを解決することにつながるかもしれないと分析した。

上海市内の商業施設で開かれている輸出品の展示販売会は多くの来場者を集めている=6日
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上海市内の商業施設「上海環球港」に入ると、「輸出商品の展示販売会」と大きく書かれた売り場ができていた。輸出企業が国内市場向けに販路を開拓するのを支援するために設けられた特設会場には、靴や衣類、コーヒーポット、食器、菓子類などの幅広い商品が並ぶ。
靴を試着していた中年女性は「輸入品を買うより安い」と満足げだ。
トランプ政権が相互関税を含めた中国への関税を計145%に引き上げたことを受け、輸出を手がけてきた企業は中国国内への販路切り替えを進めている。
小売企業の動きは速かった。4月中旬にインターネット通販大手の京東集団(JDドット・コム)が輸出業者の国内販売支援に今後1年で2,000億元(約3兆9,300億円)を投じると発表したのを皮切りに、これまでに10以上のネット通販大手が支援策を打ち出した。スーパーマーケットには輸出品の専用コーナーも登場している。
こうした動きは日系企業にも広がっている。セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂が四川省成都市で展開する「成都伊藤洋華堂(成都イトーヨーカ堂)」は、四川省と重慶市の輸出企業に支援を提案。小売業者と取引先の交流会に参加して供給情報を収集し、4月半ばからは貿易業務を手がける取引先の商品の店内販売促進を展開している。4月下旬に成都市の「成都伊藤洋華堂 建設路店」に屋外特設会場を設け、取引先の販売企画や販促を支援して輸出品の展示販売を展開した。
4月28日までに50社以上から支援策に関する問い合わせがあったという。これまでに食品1社と服飾2社の商品の国内流通を支援。現在も複数の企業と手続きや交渉を進めている。
■消費者も歓迎
中国の消費者も歓迎ムードだ。
市場調査会社の艾媒諮詢(IIメディアリサーチ)が4月に実施したアンケート(有効回答数は1,491件)によると、80%以上の消費者が「輸出向け商品を買う意思がある」と答えた。「価格の合理性」(56.0%)と「ブランド知名度」(56.0%)が輸出品を買う決め手になっている。
輸出品を国内で販売することには消費者の74.5%が肯定的な見方を示している。「製品のデザインやコンセプトが国際的」(55.6%)や「原材料を世界で調達しており高品質」(52.8%)と評価する声が多い。一方、否定的な声では「製品の仕様が国内基準を満たしていない」や「アフターサービスがない」といった指摘もあった。
艾媒諮詢のアナリストは 、国内販路の開拓が「中国の輸出企業が“輸出向けのOEM(相手先ブランドによる生産)”から“国内ブランド”への転換を実現する機会になる」と指摘した。
米国の関税政策の先行きが見通せない中、政府も支援を強めている。中国国営中央テレビ(CCTV)系の央視新聞によると、中国商務省は各地に「外貿優品中華行(輸出向けの優良品を中国へ)」と銘打った輸出企業と小売企業のマッチングキャンペーンを促し、2日までに計168億元規模の輸出品を調達する意向を取り付けたという。
輸出を地元経済を支える柱としてきた地域も支援を強化。広東省深セン市は4月下旬、サービス企業の国内開拓に向けて10項目の支援策を発表した。電子商取引(EC)サイトへの進出を支援し、条件を満たす企業に最大50万元の一時金を支給するほか、年間オンライン販売額が一定規模に達した企業には最大2,500万元を給付する制度も盛り込んだ。
■内需拡大のチャンスに
中国の小売市場には、米国向け輸出の減少を補うだけの底力があると専門家はみている。
復旦大学経済学院の張軍院長は4月中旬、「中国、日本、韓国を含む東アジアは、製造業の拡大によって欧米の先進国に追いついてきたが、最終的には内需が発展の最大の制約になっている」との見方を示した。「中国は14億人の人口を持つ大国だが、1人当たりの国内総生産(GDP)は米国の4分の1にも満たない」とした上で、「東アジアの他の経済体と異なるのは、中国の規模がはるかに大きいことだ」と指摘。トランプ政権との関税戦争が地方政府の補助金による消費促進という従来の手段を変化させる機会になり、内需拡大のボトルネックを解決することにつながるかもしれないと分析した。
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