トルコ家電大手アルチェリクのバングラデシュ子会社が、移転先の新工場で今年2月から本格稼働した。アルチェリクは、日立グローバルライフソリューションズと共同で設立した日本国外の家電事業を手掛ける合弁会社に60%出資しており、新工場では、日立ブランドの冷蔵庫を同国内向けに組み立て生産を行う計画だ。【遠藤堂太】
ワイヤハーネスの生産管理を担当するバングラデシュ東部出身のチャクマさん。アルチェリク現法の工場内ショールームで撮影=5月、ダッカ近郊(NNA撮影)
本体キャビネットの鋼板、庫内の棚やポケットなどに使用するプラスチック・樹脂などが次々と自動工程で成型・加工され、日本やドイツなど有名メーカーのロボットがフル稼働。コンプレッサー(圧縮機)などが正常に稼働するかを調べるため2時間通電する全数検査も行われていた。シェアが6割以上とされる地場ウォルトンの工場では行われていないという。すべての生産ラインがオンラインで結ばれており異常があれば検知できる。
現在の生産体制は1直で、昼休み前に訪れるとこの日、冷蔵庫は既に700台強が生産されていた。
アルチェリクは、バングラデシュで地場家電生産のシンガー株57%を2019年に取得。バングラデシュでは世界ブランドの「ベコ」と米国のミシンを由来とするバングラデシュの「シンガー」の両ブランドを中心に展開している。旧工場からの移転に伴い日立ブランドの冷蔵庫を新工場で組み立て生産する計画だが、生産台数は非開示。日立ブランドの生産のための部材は、タイのアルチェリク日立ホームアプライアンシズ(AHHA)から供給を受ける予定。
「ベコ」はアルチェリクの世界ブランド名。背後は2時間通電する全数検査の工程=5月、ダッカ近郊(NNA撮影)
アルチェリク現法の工場内の生産ライン=5月、ダッカ近郊(NNA撮影)
アルチェリクの現法、シンガー・バングラデシュ(シンガーBD)のゼネラル・マネジャー(製造担当)のヘラル・ウディン氏によると、新工場はアルチェリクの全世界の生産拠点で3番目に大きい。「世界スタンダードの製品品質と生産設備で国内外に出荷できる」と胸を張る。冷蔵庫以外にもエアコン、洗濯機、電子レンジ、アイロンなども生産する。シンガーBDは同工場に7,800万米ドル(約110億円)を投じた。工場敷地は13万5,000平方メートル。延べ床面積は7万7,000平方メートルだ。開発研究(R&D)機能も備える。
現在の冷蔵庫の年産能力は75万台、その他の家電が小型を含め225万台だが、従業員を現在の1,600人から4,000人に増やし生産も拡大する計画だ。ウディン氏によると、シンガーBDの冷蔵庫の市場シェアは普及価格のシンガーが15%、プレミアムブランドのベコが5%でウォルトンに次ぐ2位だという。
停電が多いことは販売のマイナスになるのではないか、という質問にウディン氏は、「冷蔵庫のニーズは大きい。停電が多いことを理由に買い控える人はいない」と前向きに話す。
■輸出拡大にも期待
現在は生産分の10%を輸出している。バングラデシュ国内で人気の「フィフティー・フィフティー(半々)」と呼ばれる、冷蔵と冷凍のスペースが半々の仕様が多い。冷凍スペースは肉の保存に使われており、バングラデシュと同様にイスラム教徒が多いインド東部・北東部や仏教徒の多いネパールに輸出される。
工場では、ワイヤハーネスの製造に向けた準備も進められていた。8月以降は150人体制とし、国内のほかトルコや欧州拠点向けにも輸出する計画だという。ただ、裾野産業が未成熟なバングラデシュでは、銅線やコンプレッサー、キャビネットに使う鋼板、ポケットなどに使う樹脂をはじめ多くの部材は中国、タイ、欧州などから調達している。
アルチェリクは首都ダッカ近郊で住友商事が開発したバングラデシュ経済特区(BSEZ)の操業第1号の企業となった。消費財のライオンをはじめ、日系や外資メーカーの工場も今年後半から相次ぎ立ち上がる見込みだ。
ウディン氏はBSEZ内に開設準備が進められているバングラデシュ初の通関施設に期待を寄せる。バングラデシュではチョットグラム(チッタゴン)港で輸入され工業団地向けに陸送される部材・商材を積んだすべてのコンテナは、同港税関でシールがはがされ開けられる。コンテナを開封することなくBSEZまで保税輸送され通関手続きができれば、輸送品のダメージや盗難だけでなく、輸出製品もコスト・日数の低減につながり、輸出拠点として伸ばせるからだ。
■地場ウォルトンが圧倒
バングラデシュでは、完成品の輸入は高関税が課せられるため、地場財閥系が韓国のLG電子や中国のハイセンスなどの製品を相手先ブランドによる生産(OEM)で組み立てている。アルチェリクのように外資が合弁で生産するのは珍しい。ただ、外資ブランドは都市部で強いが、農村部ではウォルトンをはじめ、安い地場系のニーズが高い。ウォルトンの販売店では、12年間保証付きで容量300リットルの冷蔵庫が5万タカ(約6万円)で販売されていた。
ウォルトンに対してはパナソニックが以前コンプレッサーを供給するなど日本メーカーも部材を供給していた。日本ブランドの冷蔵庫ではシャープの製品を地場企業が組み立てている。
■普及率は41%、アイス消費も拡大
首都ダッカのスラムのどの家にも300リットル級以上の冷蔵庫(写真右奥)があった。日本のビジネスホテルの客室と同じか狭いスペースの家賃は月額5,000円、世帯収入は2万円程度が一般的なため、中古品を購入していると思われる(NNA撮影)
英調査会社ユーロモニターによると、バングラデシュでは冷蔵庫の世帯普及率が、24年で41.5%に達している。15年の24.6%、20年の37.0%からみると、やや頭打ちの印象がある。しかし、地域別に見ると、首都ダッカで57.7%、第2の都市チョットグラムで49.6%と突出しており、地方の普及はこれからだ。
ユーロモニターのアディチャ・ヌグロホ・シニアアナリストによると、冷蔵庫の普及に比例し、アイスクリームの消費も、ダッカとチッタゴンで需要が高いが、地方も急伸しているという。伝統的な小規模小売店にアイスクリームメーカーが無償で冷凍庫を提供しているなど業務用の需要も伸びているようだ。
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現在の生産体制は1直で、昼休み前に訪れるとこの日、冷蔵庫は既に700台強が生産されていた。
アルチェリクは、バングラデシュで地場家電生産のシンガー株57%を2019年に取得。バングラデシュでは世界ブランドの「ベコ」と米国のミシンを由来とするバングラデシュの「シンガー」の両ブランドを中心に展開している。旧工場からの移転に伴い日立ブランドの冷蔵庫を新工場で組み立て生産する計画だが、生産台数は非開示。日立ブランドの生産のための部材は、タイのアルチェリク日立ホームアプライアンシズ(AHHA)から供給を受ける予定。
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現在の冷蔵庫の年産能力は75万台、その他の家電が小型を含め225万台だが、従業員を現在の1,600人から4,000人に増やし生産も拡大する計画だ。ウディン氏によると、シンガーBDの冷蔵庫の市場シェアは普及価格のシンガーが15%、プレミアムブランドのベコが5%でウォルトンに次ぐ2位だという。
停電が多いことは販売のマイナスになるのではないか、という質問にウディン氏は、「冷蔵庫のニーズは大きい。停電が多いことを理由に買い控える人はいない」と前向きに話す。
■輸出拡大にも期待
現在は生産分の10%を輸出している。バングラデシュ国内で人気の「フィフティー・フィフティー(半々)」と呼ばれる、冷蔵と冷凍のスペースが半々の仕様が多い。冷凍スペースは肉の保存に使われており、バングラデシュと同様にイスラム教徒が多いインド東部・北東部や仏教徒の多いネパールに輸出される。
工場では、ワイヤハーネスの製造に向けた準備も進められていた。8月以降は150人体制とし、国内のほかトルコや欧州拠点向けにも輸出する計画だという。ただ、裾野産業が未成熟なバングラデシュでは、銅線やコンプレッサー、キャビネットに使う鋼板、ポケットなどに使う樹脂をはじめ多くの部材は中国、タイ、欧州などから調達している。
アルチェリクは首都ダッカ近郊で住友商事が開発したバングラデシュ経済特区(BSEZ)の操業第1号の企業となった。消費財のライオンをはじめ、日系や外資メーカーの工場も今年後半から相次ぎ立ち上がる見込みだ。
ウディン氏はBSEZ内に開設準備が進められているバングラデシュ初の通関施設に期待を寄せる。バングラデシュではチョットグラム(チッタゴン)港で輸入され工業団地向けに陸送される部材・商材を積んだすべてのコンテナは、同港税関でシールがはがされ開けられる。コンテナを開封することなくBSEZまで保税輸送され通関手続きができれば、輸送品のダメージや盗難だけでなく、輸出製品もコスト・日数の低減につながり、輸出拠点として伸ばせるからだ。
■地場ウォルトンが圧倒
バングラデシュでは、完成品の輸入は高関税が課せられるため、地場財閥系が韓国のLG電子や中国のハイセンスなどの製品を相手先ブランドによる生産(OEM)で組み立てている。アルチェリクのように外資が合弁で生産するのは珍しい。ただ、外資ブランドは都市部で強いが、農村部ではウォルトンをはじめ、安い地場系のニーズが高い。ウォルトンの販売店では、12年間保証付きで容量300リットルの冷蔵庫が5万タカ(約6万円)で販売されていた。
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