アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを拠点とする資産コンサルティング会社ノマド・キャピタリストによる調査で、マレーシアは医療観光(メディカルツーリズム)の渡航先トップに選ばれた。シンガポール、インド、トルコなどの競合を抑えての首位獲得となり、医療観光拠点としてのマレーシアの注目度が高まっていることがうかがえる。政府は、2026年を「医療観光の年」と位置付け、競争力ある価格ともてなしを強みに、さらなる産業振興を目指す。【降旗愛子】
マレーシア政府は26年を「医療観光の年」と位置付け、さまざまなキャンペーンを展開する予定だ=7月(NNA撮影)
フォーチュン・ビジネス・インサイツによると、世界の医療ツーリズム市場は24年に312億3,000万米ドル(約4兆6,100億円)に達し、25~32年に年平均23.0%の勢いで成長する見込みだ。
マレーシア投資貿易産業省傘下のマレーシア投資開発庁(MIDA)によると、21年時点で世界の医療観光市場の75%以上をアジア太平洋地域が占めた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)では長らく、シンガポールが医療観光のハブとなってきたが、ノマド・キャピタリストは「マレーシアはシンガポールに匹敵する施設を建設し、はるかに安い価格で医療サービスを提供している」と指摘する。同社によると、マレーシアでは体外受精などのサービスは欧米の5分の1、やけどなどの高度な治療や総合的な健康診断も数百ドルで受けることができる。シンガポールの物価が上昇するにつれ、マレーシアの首都クアラルンプールがその穴を埋めているとの見方を示した。
さらに、マレーシアは競争力ある価格に加え、タイよりも英語でのコミュニケーションが容易で、インドよりもインフラが整っているとも指摘した。
■インドネシア人が9割
24年に医療を目的としてマレーシアを訪れた旅行者は160万人。業界の売上高は前年から21%増の27億2,000万リンギ(約950億円)だった。
マレーシア政府は26年を「マレーシア観光年」とし、外国人観光客の誘致を大々的に推進する計画。医療観光業界も同時に、26年を「医療観光の年」と位置付け、さらなる産業振興を目指す。
政府は23年、全国4カ所の医療機関を医療観光の旗艦病院候補として選定した。これらの病院は、最先端の設備を有し、幅広い分野で高度な医療技術を持ち、国際的に認定された医療サービスを提供することで知られる。医療観光の年を前に、今年12月に4機関の中で最高得点を獲得した病院が旗艦病院として認定される見込みだ。
「東洋の真珠」とも呼ばれる風光明媚(めいび)なペナン島(北部ペナン州)の私立病院「アイランド・ホスピタル」は、旗艦病院候補の一つだ。同病院は昨年、三井物産が筆頭株主となっている地場病院経営大手IHHヘルスケアの傘下に入った。
アイランド・ホスピタルは1996年の設立。病床600床を有し、整形外科、腫瘍内科、循環器科など100人以上の専門医を抱えるペナン最大の私立病院となっている。外国人患者の予約から空港送迎、治療の息抜きとなる周辺観光まで一貫したサービスを提供し、マレーシアを訪れる医療観光客の約3分の1を受け入れる。そのため、外国人患者数は地元患者を上回る状況だという。
アイランド・ホスピタルのリム・コーイリン最高経営責任者(CEO)によると、医療観光客の9割が隣国インドネシアから訪れる。患者の出身地はペナン州と距離的に近いスマトラ島のメダンから、カリマンタン島、パプア、ティモールに至るまで、インドネシア全土に広がっているという。インドネシアのほかは、シンガポール、オーストラリア、英国、香港などからも患者を受け入れている。
医療観光業界は、全世界で海外渡航が禁じられた20年以降の新型コロナウイルス禍で大打撃を受けた。しかし、コロナ明けの回復は目覚ましく、リム氏によると、同病院の医療観光部門はコロナ前との比較で3割以上の伸びをみせているという。
リム氏は医療観光業界にとって逆風となるのは、為替相場、インフレ、景気などのマクロ経済動向だと指摘する。これらの要因はすぐに経営に影響するものではないが、患者の行動様式に影響を与えるため、常に気を配っていると話した。
マレーシア政府は今年7月からの売上・サービス税(SST)見直しで、外国人患者のみ民間医療サービスを受ける際に6%のサービス税が課されることとなった。外国人を狙い撃ちにした増税は、マレーシアが強みとする「もてなし」には逆行するとみられるが、リム氏は影響を推し量るには時期尚早とした上で「(6%の増税後も)シンガポールと比較すればまだ価格競争力は十分にある」とし、事業成長には大きく影響しないとの見方を示した。
アイランド・ホスピタルのリムCEO=7月(NNA撮影)
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マレーシア投資貿易産業省傘下のマレーシア投資開発庁(MIDA)によると、21年時点で世界の医療観光市場の75%以上をアジア太平洋地域が占めた。
東南アジア諸国連合(ASEAN)では長らく、シンガポールが医療観光のハブとなってきたが、ノマド・キャピタリストは「マレーシアはシンガポールに匹敵する施設を建設し、はるかに安い価格で医療サービスを提供している」と指摘する。同社によると、マレーシアでは体外受精などのサービスは欧米の5分の1、やけどなどの高度な治療や総合的な健康診断も数百ドルで受けることができる。シンガポールの物価が上昇するにつれ、マレーシアの首都クアラルンプールがその穴を埋めているとの見方を示した。
さらに、マレーシアは競争力ある価格に加え、タイよりも英語でのコミュニケーションが容易で、インドよりもインフラが整っているとも指摘した。
■インドネシア人が9割
24年に医療を目的としてマレーシアを訪れた旅行者は160万人。業界の売上高は前年から21%増の27億2,000万リンギ(約950億円)だった。
マレーシア政府は26年を「マレーシア観光年」とし、外国人観光客の誘致を大々的に推進する計画。医療観光業界も同時に、26年を「医療観光の年」と位置付け、さらなる産業振興を目指す。
政府は23年、全国4カ所の医療機関を医療観光の旗艦病院候補として選定した。これらの病院は、最先端の設備を有し、幅広い分野で高度な医療技術を持ち、国際的に認定された医療サービスを提供することで知られる。医療観光の年を前に、今年12月に4機関の中で最高得点を獲得した病院が旗艦病院として認定される見込みだ。
「東洋の真珠」とも呼ばれる風光明媚(めいび)なペナン島(北部ペナン州)の私立病院「アイランド・ホスピタル」は、旗艦病院候補の一つだ。同病院は昨年、三井物産が筆頭株主となっている地場病院経営大手IHHヘルスケアの傘下に入った。
アイランド・ホスピタルは1996年の設立。病床600床を有し、整形外科、腫瘍内科、循環器科など100人以上の専門医を抱えるペナン最大の私立病院となっている。外国人患者の予約から空港送迎、治療の息抜きとなる周辺観光まで一貫したサービスを提供し、マレーシアを訪れる医療観光客の約3分の1を受け入れる。そのため、外国人患者数は地元患者を上回る状況だという。
アイランド・ホスピタルのリム・コーイリン最高経営責任者(CEO)によると、医療観光客の9割が隣国インドネシアから訪れる。患者の出身地はペナン州と距離的に近いスマトラ島のメダンから、カリマンタン島、パプア、ティモールに至るまで、インドネシア全土に広がっているという。インドネシアのほかは、シンガポール、オーストラリア、英国、香港などからも患者を受け入れている。
医療観光業界は、全世界で海外渡航が禁じられた20年以降の新型コロナウイルス禍で大打撃を受けた。しかし、コロナ明けの回復は目覚ましく、リム氏によると、同病院の医療観光部門はコロナ前との比較で3割以上の伸びをみせているという。
リム氏は医療観光業界にとって逆風となるのは、為替相場、インフレ、景気などのマクロ経済動向だと指摘する。これらの要因はすぐに経営に影響するものではないが、患者の行動様式に影響を与えるため、常に気を配っていると話した。
マレーシア政府は今年7月からの売上・サービス税(SST)見直しで、外国人患者のみ民間医療サービスを受ける際に6%のサービス税が課されることとなった。外国人を狙い撃ちにした増税は、マレーシアが強みとする「もてなし」には逆行するとみられるが、リム氏は影響を推し量るには時期尚早とした上で「(6%の増税後も)シンガポールと比較すればまだ価格競争力は十分にある」とし、事業成長には大きく影響しないとの見方を示した。
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