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サーバーの対米輸出が急成長部品は東南ア、利益確保に苦慮

台湾のサーバーの対米輸出が急拡大している。2022年から24年にかけて、対米輸出額は4.6倍の約159億米ドル(約2兆3,439億円)に達した。人工知能(AI)の頭脳となるデータセンター(DC)向けの需要が膨らんでいるからだ。台湾のEMS(電子機器の受託製造サービス)各社は、米政府の関税政策を見越して、米国とメキシコでの組み立て生産拡大を急ぐ一方、主要部品の生産拠点は東南アジアなどに分散させており、コストの最適化が課題になっている。【安藤千晶、黄柏萱】
台湾財政部(財務省)関務署(税関局)によると、台湾の対米サーバー輸出額は22年の約34億7,000万米ドルから24年には約159億米ドルへと4.6倍に急増。対米総輸出額に占める割合は4.6%から14.3%と3倍に拡大し、ここ数年で台湾輸出のけん引役として存在感を高めている。
25年以降は、この傾向がさらに鮮明になっている。1~4月は対米輸出に占めるサーバーの比率は1割前後で推移していたが、5月には29.9%と急激に拡大した。米国が4月に台湾を含む各国・地域への相互関税を公表したことで、米国で建設ラッシュが続くデータセンター向けのサーバー調達を前倒しする動きが加速したとみられている。米国が相互関税の発動停止期限を最終的に8月1日に延長したことで、前倒し調達は7月まで続いた。
鉅亨網によると、5月時点で米国のデータセンターシェアは世界の45%以上を占め、世界トップだ。
■輸入シェアで2位
台湾経済部(経済産業省)の24年の統計によれば、米国のサーバー輸入先として台湾は19年からメキシコに次ぐ2位を維持。24年1~8月の輸入先別シェアは、メキシコが64.7%、台湾が28.3%、オランダが1.1%、中国が1.0%の順だった。メキシコからの輸出の多くも、鴻海精密工業をはじめとするEMS各社のサーバーとみられる。当時は関税政策を政権の目玉に据えるトランプ氏の2期目の大統領就任前だったが、製造拠点の中国への依存脱却を進める米IT企業の需要を台湾メーカーが取り込んでいることが見て取れる。
■EMS各社、モジュールは東南アジアで
台湾の市場調査会社、集邦科技(トレンドフォース)の王瑞婉アナリストはNNAの取材に対し、ODM(デザイン・仕様の決定権が受託側にある委託生産)も手がける台湾のEMS各社は米国の関税政策を巡り価格競争力の維持に苦慮していると説明した。生産・組み立ての場所によって関税が変わることで、製造体制の見直しが一段と複雑になっている。
王氏によると、米国の新たな関税政策では、サーバーの完成品に関税が課される一方で、組み立て前のモジュールや中間部材は免税となる可能性がある。そのため、多くのEMSはサーバーをマザーボードやきょう体、電源など複数のモジュールに分割し、これらを東南アジアで製造。最終組み立ては米国やメキシコで行う手法を採用しているという。完成品の関税を避けつつ、柔軟なサプライチェーン体制を築く動きが広がっている。
鴻海のほか、広達電脳(クアンタ・コンピューター)、英業達(インベンテック)、緯創資通(ウィストロン)などの大手EMSは、既に米テキサス州、メキシコ、タイ、ベトナム、マレーシアなどで生産拠点の拡充を加速している。クラウドサービスを中心とする顧客からの要請もあり、中国以外の国への生産拠点の分散を進めている。
緯創、広達、仁宝電脳工業(コンパル・エレクトロニクス)の3社は今年8月、米国で総額約5億米ドルを投資すると発表。AIサーバー需要の拡大と相互関税への対応をにらみ、米国やメキシコの生産体制のさらなる強化に着手した。各社はサーバーやマザーボード組み立てなどを中心に、生産拠点の拡張や新工場の設立を進めるとしている。
■米国生産のコストは数倍以上
課題は生産コストの上昇だ。王氏は米国でのサーバーなど生産工場の建設費は台湾の5~15倍、人件費は2~2.5倍、電力コストは2~3倍に及ぶと分析している。加えて、水資源の制約や環境規制に伴う審査・許認可の煩雑さが初期投資やコンプライアンス(法令順守)のコストを押し上げていると指摘する。
近年の台湾元高もドル建て収益を圧迫しており、EMSの中には既に出荷価格を調整する動きも出始めているという。

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台湾財政部(財務省)関務署(税関局)によると、台湾の対米サーバー輸出額は22年の約34億7,000万米ドルから24年には約159億米ドルへと4.6倍に急増。対米総輸出額に占める割合は4.6%から14.3%と3倍に拡大し、ここ数年で台湾輸出のけん引役として存在感を高めている。
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鉅亨網によると、5月時点で米国のデータセンターシェアは世界の45%以上を占め、世界トップだ。
■輸入シェアで2位
台湾経済部(経済産業省)の24年の統計によれば、米国のサーバー輸入先として台湾は19年からメキシコに次ぐ2位を維持。24年1~8月の輸入先別シェアは、メキシコが64.7%、台湾が28.3%、オランダが1.1%、中国が1.0%の順だった。メキシコからの輸出の多くも、鴻海精密工業をはじめとするEMS各社のサーバーとみられる。当時は関税政策を政権の目玉に据えるトランプ氏の2期目の大統領就任前だったが、製造拠点の中国への依存脱却を進める米IT企業の需要を台湾メーカーが取り込んでいることが見て取れる。
■EMS各社、モジュールは東南アジアで
台湾の市場調査会社、集邦科技(トレンドフォース)の王瑞婉アナリストはNNAの取材に対し、ODM(デザイン・仕様の決定権が受託側にある委託生産)も手がける台湾のEMS各社は米国の関税政策を巡り価格競争力の維持に苦慮していると説明した。生産・組み立ての場所によって関税が変わることで、製造体制の見直しが一段と複雑になっている。
王氏によると、米国の新たな関税政策では、サーバーの完成品に関税が課される一方で、組み立て前のモジュールや中間部材は免税となる可能性がある。そのため、多くのEMSはサーバーをマザーボードやきょう体、電源など複数のモジュールに分割し、これらを東南アジアで製造。最終組み立ては米国やメキシコで行う手法を採用しているという。完成品の関税を避けつつ、柔軟なサプライチェーン体制を築く動きが広がっている。
鴻海のほか、広達電脳(クアンタ・コンピューター)、英業達(インベンテック)、緯創資通(ウィストロン)などの大手EMSは、既に米テキサス州、メキシコ、タイ、ベトナム、マレーシアなどで生産拠点の拡充を加速している。クラウドサービスを中心とする顧客からの要請もあり、中国以外の国への生産拠点の分散を進めている。
緯創、広達、仁宝電脳工業(コンパル・エレクトロニクス)の3社は今年8月、米国で総額約5億米ドルを投資すると発表。AIサーバー需要の拡大と相互関税への対応をにらみ、米国やメキシコの生産体制のさらなる強化に着手した。各社はサーバーやマザーボード組み立てなどを中心に、生産拠点の拡張や新工場の設立を進めるとしている。
■米国生産のコストは数倍以上
課題は生産コストの上昇だ。王氏は米国でのサーバーなど生産工場の建設費は台湾の5~15倍、人件費は2~2.5倍、電力コストは2~3倍に及ぶと分析している。加えて、水資源の制約や環境規制に伴う審査・許認可の煩雑さが初期投資やコンプライアンス(法令順守)のコストを押し上げていると指摘する。
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