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会社の待遇に課題意識シンガポール社員、意識調査で

シンガポールの従業員は、会社の待遇に高い期待を持ちながら満足度は低い——。従業員のエンゲージメント(働きがいや組織への愛着)調査でこんな傾向が浮かび上がった。調査によると、シンガポールは周辺国や日本と比べて従業員が会社に抱く期待の度合いが大きく、また期待の種類も多い。専門家は「全ての期待に応えるのは現実的ではないため、的を絞ってその企業ならではの特色を打ち出す」ことを推奨する。
組織人事コンサルティングのリンクアンドモチベーション(東京都中央区)が2016年から蓄積した日本国内企業の約500万人と、20年以降に東南アジア各国組織から収集した約2万5,000人のデータを調査・比較し、報告書にまとめた。東南アジアでの調査対象は主に日系企業だ。
調査では、人が組織に帰属する要因を16領域に分類し、従業員が会社に対して「何をどの程度期待しているのか(期待度)」と「何にどの程度満足しているのか(満足度)」の2つの観点で従業員に複数の領域に関する質問を行い、それぞれ5段階で答えてもらった。
調査の結果、シンガポールは他の対象国のベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、日本と比べ、会社への期待度が高い一方、満足度は相対的に低いことが明らかになった。領域別に見ると「制度待遇」は期待度4.56に対し満足度3.56、「仕事内容」は期待度4.49に対し満足度3.59、「情報収集」は期待度4.58に対し満足度3.90など、会社が提供するものと従業員が求めるものとに乖離(かいり)が見られた。
■売り手市場ゆえに会社への要望も高い
リンクアンドモチベーションのシンガポール法人社長の近藤俊弥氏は、多くの領域でシンガポール人の期待度が高い理由について「経済的に豊かであることと、売り手市場であること」を挙げた。
東南アジア唯一の先進国であるシンガポールは、豊かさの目安となる1人当たり名目国内総生産(GDP)が約9万米ドル(約1,320万円)と突出して高い。物質的に豊かになった国では従業員が求めるものは金銭だけでなく、やりがいや成長など複雑かつ多様化するという。また、政府が自国民を優先的に雇用する政策を推進しているため、会社に対する従業員の要望は他国に比べて高くなりがちだ。
調査結果を見ると、とりわけ制度待遇と仕事内容の2領域で期待と満足の乖離が大きい。シンガポール人には仕事を通じて自分の価値や経験値を高めようとする意識があり、より良い給与と経験を得るためなら転職をためらわない。近藤氏は、「日系企業はシンガポール人の従業員がキャリア志向であることをよく理解し、不満が表出する前に新しい仕事や課題を常に提示することが重要」と話す。

■会社基盤や施設には高い満足
従業員が高い期待を抱くと同時に高い満足を得られている領域もある。上司による従業員の業務や成長に対する「支援行動」と、職場で目標・計画が共有されていることを示す「内部統合」は、乖離がそれぞれ0.5ポイント前後と小さく、上司の寄り添うマネジメントで職場がまとまっていることがうかがえる。
また、顧客基盤や財務状況を表す「会社基盤」や、会社の設備とスペースに関する「施設環境」も満足度が高いことから、会社の安定感や働く環境への不満は小さいといえる。
一方、期待度が低い領域は、会社の理念や戦略目標が共有されている状態の「理念戦略」や、未来のための取り組みである「変革活動」など。シンガポールの従業員は会社の方針や戦略をあまり重要視せず、組織内で変化することに前向きでない様子が見られるという。
近藤氏は「シンガポールでは、従業員の期待度が高い領域が多い。企業が全てを提供するのは難しいため、自社は『ビジョンの共有に注力する』『福利厚生を充実させる』といったように特色を打ち出すことが現実的な対応策になる」と助言する。

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調査の結果、シンガポールは他の対象国のベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、日本と比べ、会社への期待度が高い一方、満足度は相対的に低いことが明らかになった。領域別に見ると「制度待遇」は期待度4.56に対し満足度3.56、「仕事内容」は期待度4.49に対し満足度3.59、「情報収集」は期待度4.58に対し満足度3.90など、会社が提供するものと従業員が求めるものとに乖離(かいり)が見られた。
■売り手市場ゆえに会社への要望も高い
リンクアンドモチベーションのシンガポール法人社長の近藤俊弥氏は、多くの領域でシンガポール人の期待度が高い理由について「経済的に豊かであることと、売り手市場であること」を挙げた。
東南アジア唯一の先進国であるシンガポールは、豊かさの目安となる1人当たり名目国内総生産(GDP)が約9万米ドル(約1,320万円)と突出して高い。物質的に豊かになった国では従業員が求めるものは金銭だけでなく、やりがいや成長など複雑かつ多様化するという。また、政府が自国民を優先的に雇用する政策を推進しているため、会社に対する従業員の要望は他国に比べて高くなりがちだ。
調査結果を見ると、とりわけ制度待遇と仕事内容の2領域で期待と満足の乖離が大きい。シンガポール人には仕事を通じて自分の価値や経験値を高めようとする意識があり、より良い給与と経験を得るためなら転職をためらわない。近藤氏は、「日系企業はシンガポール人の従業員がキャリア志向であることをよく理解し、不満が表出する前に新しい仕事や課題を常に提示することが重要」と話す。

■会社基盤や施設には高い満足
従業員が高い期待を抱くと同時に高い満足を得られている領域もある。上司による従業員の業務や成長に対する「支援行動」と、職場で目標・計画が共有されていることを示す「内部統合」は、乖離がそれぞれ0.5ポイント前後と小さく、上司の寄り添うマネジメントで職場がまとまっていることがうかがえる。
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一方、期待度が低い領域は、会社の理念や戦略目標が共有されている状態の「理念戦略」や、未来のための取り組みである「変革活動」など。シンガポールの従業員は会社の方針や戦略をあまり重要視せず、組織内で変化することに前向きでない様子が見られるという。
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