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【海外・教育事情】プロの眼 日本語や日本文化の理解に遅れも インター校のデメリット

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年11月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

グローバル教育のプロ 森山正明 (第5回)

引き続きインターナショナル・スクール(インター校)で学ぶメリット&デメリットについて解説します。インター校はプロジェクト型の授業が多く、他の生徒との協業作業を行い、発表形式の授業などが多く取り入れられていることは前回紹介しました。こういった環境で磨かれる能力は、「書く力」プラス「話す力」です。実際に帰国生のAO(アドミッションズ・オフィス)入試で、以下の能力も求められています。

●論理性 ●熱量 ●人間性

つまり、ただ話せるだけではダメなのです。

まず論理性です。グローバル社会でさまざまな国籍・民族の方との協業が一般化する中で、日本的な「忖度(そんたく)する」とか「上司の意見に従うだけ」では、成果を出すことはできません。他人を説得し意見をまとめるには、やはり誰しもが納得する論理性が必要になるのです。

次に熱量です。ペーパーテストでは測ることができない、自分の思いを伝える力です。入学後どれだけ勉強したいのか、卒業後どれだけ社会に貢献したいのか。なかなか数字としては測ることはできませんが、「この人と一緒に仕事をしたい」「この人と何かチャレンジしてみたい」と思わせるのは、一つの能力です。

最後に人間性です。相手をきちんと尊重することとほぼ同義だと思います。独りよがりにならず、社会において「和」を大切にできる素質です。グローバル社会では他民族・多宗教が前提の協業が行われます。お互いバックグランドを把握し、尊重しながらコミュニケーションを深める過程では、人間性が肝要になります。

インター校はこれら3つの育成をとても重視しています。もちろん民族系のインターナショナルスクールについては自国の教育方針が優先されることにはなりますが、グローバル系のインターナショナルスクールは、さらに広い視野に立って教育をしているケースが多数あります。

■インター校に通うデメリット

ただし、インター校に通っていれば、グローバル社会で活躍できる人材に成長するとは言い切れません。あくまでも日本人である以上、英語に偏重しすぎるのは弊害を生みます。

その筆頭が、母国語である日本語能力の伸びが著しく遅れるケースです。英語が話せても日本語がたどたどしいというパターンは少なくありません。全体的に日本語の能力が落ちることが一番のデメリットになると思います。

どんなに海外体験が豊富でユニークでも、自国の文化や歴史についての理解が浅いとグローバル社会では、認められることがありません。英語を母語にしている人は、世界にごまんといます。英語を話せるだけでよいのであれば、日本人ではなく英語人材を日本に呼び寄せればいいだけです。

英語にも方言があることをご存知でしょうか? イギリス英語とアメリカ英語以外にも、香港でよく耳にする「R」の音が強いインド英語も方言のひとつ。彼らの話す英語は「ヘタ」なのではなく、「訛りがヒドイ」を揶揄(やゆ)されているだけです。その一方で、日本人の話す英語は国際社会では「ヘタ」の代表格です。まず発音が悪いので言語不明瞭。発音を鍛えても、曖昧な表現が多いためやはり意味不明瞭。読み書きに偏重しすぎたから、表現力が未熟のままなのです。

表現力を鍛える方法は実は簡単で、家庭で日本語を使う機会を増やすことが効果的です。積極的に日本語を学ぶ機会をつくり、長期休暇の際は、日本の各地を旅行し、見識を深める。子供に「日本」を意識させ、興味関心をもたせることが、話題の論理性につながり、熱量(自信)を生み、人間性を養います。私自身、そんな例を多く目にしてきました。

お子様が真のグローバル人材になるために必要なものを、この機会にお考えになっていただきたいです。駐在員の方は、一緒に働く同僚と比較しても良いかもしれません。バイリンガルの方でもトリリンガルの方でも、長所・短所がありますよね。あなたのお子様は、どんな人間に育って欲しいのでしょうか? 拙稿(1)でも紹介したように「メイン+サブ」という海外における複数の就学パターンのなかから、お子様と一緒に学習環境を選択することが、まず第一歩です。さらにお子様の未来のために、ご家族で話し合いの場を定期的に設けていただきたいと切に願います。

<プロフィール>

森山正明(もりやま・まさあき)

香港日本人補習授業校教員。香港日本人学校大埔校非常勤講師。エデュケーショナル・アクティビスト(教育活動家)として、定期的に香港、広東省、シンガポールで「おとなの社会科見学」を主宰。アジア・グローバル時代の子育て・教育に役立つ情報サイト『みんなのグローバル受験』編集長。北京・香港・シンガポールで教育事業に20年従事。二児の父。香港在住。

※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年11月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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グローバル教育のプロ 森山正明 (第5回)

引き続きインターナショナル・スクール(インター校)で学ぶメリット&デメリットについて解説します。インター校はプロジェクト型の授業が多く、他の生徒との協業作業を行い、発表形式の授業などが多く取り入れられていることは前回紹介しました。こういった環境で磨かれる能力は、「書く力」プラス「話す力」です。実際に帰国生のAO(アドミッションズ・オフィス)入試で、以下の能力も求められています。

●論理性 ●熱量 ●人間性

つまり、ただ話せるだけではダメなのです。 まず論理性です。グローバル社会でさまざまな国籍・民族の方との協業が一般化する中で、日本的な「忖度(そんたく)する」とか「上司の意見に従うだけ」では、成果を出すことはできません。他人を説得し意見をまとめるには、やはり誰しもが納得する論理性が必要になるのです。 次に熱量です。ペーパーテストでは測ることができない、自分の思いを伝える力です。入学後どれだけ勉強したいのか、卒業後どれだけ社会に貢献したいのか。なかなか数字としては測ることはできませんが、「この人と一緒に仕事をしたい」「この人と何かチャレンジしてみたい」と思わせるのは、一つの能力です。 最後に人間性です。相手をきちんと尊重することとほぼ同義だと思います。独りよがりにならず、社会において「和」を大切にできる素質です。グローバル社会では他民族・多宗教が前提の協業が行われます。お互いバックグランドを把握し、尊重しながらコミュニケーションを深める過程では、人間性が肝要になります。 インター校はこれら3つの育成をとても重視しています。もちろん民族系のインターナショナルスクールについては自国の教育方針が優先されることにはなりますが、グローバル系のインターナショナルスクールは、さらに広い視野に立って教育をしているケースが多数あります。

■インター校に通うデメリット

ただし、インター校に通っていれば、グローバル社会で活躍できる人材に成長するとは言い切れません。あくまでも日本人である以上、英語に偏重しすぎるのは弊害を生みます。 その筆頭が、母国語である日本語能力の伸びが著しく遅れるケースです。英語が話せても日本語がたどたどしいというパターンは少なくありません。全体的に日本語の能力が落ちることが一番のデメリットになると思います。 どんなに海外体験が豊富でユニークでも、自国の文化や歴史についての理解が浅いとグローバル社会では、認められることがありません。英語を母語にしている人は、世界にごまんといます。英語を話せるだけでよいのであれば、日本人ではなく英語人材を日本に呼び寄せればいいだけです。 英語にも方言があることをご存知でしょうか? イギリス英語とアメリカ英語以外にも、香港でよく耳にする「R」の音が強いインド英語も方言のひとつ。彼らの話す英語は「ヘタ」なのではなく、「訛りがヒドイ」を揶揄(やゆ)されているだけです。その一方で、日本人の話す英語は国際社会では「ヘタ」の代表格です。まず発音が悪いので言語不明瞭。発音を鍛えても、曖昧な表現が多いためやはり意味不明瞭。読み書きに偏重しすぎたから、表現力が未熟のままなのです。 表現力を鍛える方法は実は簡単で、家庭で日本語を使う機会を増やすことが効果的です。積極的に日本語を学ぶ機会をつくり、長期休暇の際は、日本の各地を旅行し、見識を深める。子供に「日本」を意識させ、興味関心をもたせることが、話題の論理性につながり、熱量(自信)を生み、人間性を養います。私自身、そんな例を多く目にしてきました。 お子様が真のグローバル人材になるために必要なものを、この機会にお考えになっていただきたいです。駐在員の方は、一緒に働く同僚と比較しても良いかもしれません。バイリンガルの方でもトリリンガルの方でも、長所・短所がありますよね。あなたのお子様は、どんな人間に育って欲しいのでしょうか? 拙稿(1)でも紹介したように「メイン+サブ」という海外における複数の就学パターンのなかから、お子様と一緒に学習環境を選択することが、まず第一歩です。さらにお子様の未来のために、ご家族で話し合いの場を定期的に設けていただきたいと切に願います。
<プロフィール> 森山正明(もりやま・まさあき) 香港日本人補習授業校教員。香港日本人学校大埔校非常勤講師。エデュケーショナル・アクティビスト(教育活動家)として、定期的に香港、広東省、シンガポールで「おとなの社会科見学」を主宰。アジア・グローバル時代の子育て・教育に役立つ情報サイト『みんなのグローバル受験』編集長。北京・香港・シンガポールで教育事業に20年従事。二児の父。香港在住。
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