※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年9月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。
グローバル教育のプロ 森山正明(第3回)
家族帯同で海外赴任する場合、まず悩むのは学校の選択だと思います。教育言語を英語にするのか、日本語にするのか。知識重視か、のびのびと学習できる環境か?——日本で進学するより選択肢が多岐に渡るので、お子様の未来を考え、ご家庭での教育方針を見直す良い機会にもなります。
そこで今回はまず現地校(ローカル校)で学ぶメリット・デメリットを紹介します。現地校とは、その国の子供が主に通っている学校を指します。シンガポールや香港、中国本土などでも、日本の学習指導要領にあたる、その国が定めた教育指針の下で学ぶことになります。
それではさっそく香港にある現地校の種類を見てみましょう。
<香港における現地校カテゴリ>
(1)官立(公立)
(2)津貼(政府援助のある半私立)
(3)直資(同)
(4)私立
(1)~(4)はそれぞれ、香港ならではの言語政策により、(A)英語重視の中国語以外の教科を英語で行う学校(EMI:English-medium instruction school)と、(B)中国語重視の英語以外の教科を中国語で行う学校(CMI:Chinese-medium instruction school)に分かれます。
■我が子が現地校を選んだ理由
香港は、1997年以前は英国植民地でした。返還後もしばらくは英国式の教育制度が残り、「6(小学校)——5(中学校)——2(高校)——3(大学)年制」でしたが、2009年の教育改革で中国と同じ「6——3——3——4年制」へ移行しました。
義務教育は、日本と同じ小学校6年+中学校3年の計9年間ですが、中高一貫教育になっている学校が多いため、実質12年間となっています。私の子供(14歳/中学3年生相当)が通う学校は、現地校のうちの、EMI系の直資学校(政府援助のある半私立校:Direct Subsidy Scheme=DSS)です。
なぜEMI系の直資学校を選ぶことになったかをお話しましょう。
まず始めに考えたのが、私と妻のキャリアプランです。日本に帰る可能性があるのかないのか、または別の国に行くのか。結局、香港に長く住む可能性が一番高いだろうとなりました。日本人学校に通う選択肢もありましたが、香港の日本人学校は中学部までしかありません。高校以上を香港で過ごす可能性が高いということは、いずれ転校するということであり、そうであれば、最初から現地校に通わせたほうが良いと考えました。
加えて日本人学校でも英語の授業があるとはいえ、香港で長く生活をしていくには不十分なレベルです。香港の現地校では、EMI系でも英語はもちろん中国語も必修。言語教育が充実していて他の言語も学ぶ機会が豊富にあります。
思春期を迎える子供にとって、人間関係が一番密に構築される時期でもあることも考慮しました。現地校の場合は、周りがほぼ100%香港人であり、6年間一緒に過ごし、一生の親友といえる関係が築けます。インターナショナル・スクール(国際学校)は多くの外国籍の友達と知り合うことができグローバル社会を体感できるよい点がある一方で、駐在員子女が少なくないため、生徒の出入りが多いです。将来的に香港社会に溶け込んでいく際、香港大学や中文大学といった名門大学出身ということよりも、ご近所(地元出身者)であることが重視されるという背景も香港ならではの特徴だと思います。
また直資学校は英語で授業を行うEMI系、中国語で行うCMI系に関わらず、政府からの補助金が出ているため、比較的授業料が抑えられているのもメリットとして挙げられます。
■家族皆でデメリットを克服
一方でデメリットです。実際に通わせてみないと分からない体験を交えながらご紹介します。
香港の現地校は一般的に、型にはまった詰め込み式授業が多いとされています。我が子が通う直資学校でも詰め込み的な学習が散見され、インター校と比べると前時代的に感じることもしばしばあります。
さらにレベルの高い直資学校は宿題の量が多く、その難易度も高いため、私の子供は毎晩真夜中まで宿題に追われています。例えば、先日は「第一世界大戦中に前線で戦っている兵士が家族にあてる手紙を書きます。兵士の気持ちになって事実をまとめながら書きなさい」という宿題がありました。私も初めて見る、1カ月に渡ってまとめていくプロジェクト型の宿題です。
こうした日本ではまず出されない宿題とは別に、並行して通常の宿題もどっさり出されます。試験も厳しく、留年さえも珍しくない環境です。当然、子供の精神的なストレスはかなりあり、精神的なケアも必要になります。
親の温かいフォローが必要になるという意味では、「将来英語が必要になるから、英語が学べる学校へ」というだけの理由で、教育言語が英語の現地校を選択し、我が子を通わせるのはお勧めしません。確かに私の子供も英語の力はついていますが、あくまで学習動機の根っこには香港の社会や人に対するリスペクトがあります。こうした価値観を養うためには、お子様だけでなく親が自ら発信するかたちで、その国の素晴らしい面をしっかり伝えていくことが肝要になります。そうした覚悟がある(できた)ご家庭であれば、現地校への進学を検討してもよいのではないかと思います。
次回は、インター校で学ぶメリット&デメリットについて紹介をします。
<プロフィール>
森山正明(もりやま・まさあき)
香港日本人補習授業校教員、香港日本人学校大埔校非常勤講師。エデュケーショナル・アクティビスト(教育活動家)として、定期的に香港、広東省、シンガポールで「おとなの社会科見学」を主宰。アジア・グローバル時代の子育て・教育に役立つ情報サイト『みんなのグローバル受験』編集長。北京・香港・シンガポールで教育事業に20年従事。二児の父。香港在住。
※特集「プロの眼」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2018年9月号<http://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。
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グローバル教育のプロ 森山正明(第3回)
家族帯同で海外赴任する場合、まず悩むのは学校の選択だと思います。教育言語を英語にするのか、日本語にするのか。知識重視か、のびのびと学習できる環境か?——日本で進学するより選択肢が多岐に渡るので、お子様の未来を考え、ご家庭での教育方針を見直す良い機会にもなります。
そこで今回はまず現地校(ローカル校)で学ぶメリット・デメリットを紹介します。現地校とは、その国の子供が主に通っている学校を指します。シンガポールや香港、中国本土などでも、日本の学習指導要領にあたる、その国が定めた教育指針の下で学ぶことになります。
それではさっそく香港にある現地校の種類を見てみましょう。
<香港における現地校カテゴリ>
(1)官立(公立)
(2)津貼(政府援助のある半私立)
(3)直資(同)
(4)私立
(1)~(4)はそれぞれ、香港ならではの言語政策により、(A)英語重視の中国語以外の教科を英語で行う学校(EMI:English-medium instruction school)と、(B)中国語重視の英語以外の教科を中国語で行う学校(CMI:Chinese-medium instruction school)に分かれます。
■我が子が現地校を選んだ理由
香港は、1997年以前は英国植民地でした。返還後もしばらくは英国式の教育制度が残り、「6(小学校)——5(中学校)——2(高校)——3(大学)年制」でしたが、2009年の教育改革で中国と同じ「6——3——3——4年制」へ移行しました。
義務教育は、日本と同じ小学校6年+中学校3年の計9年間ですが、中高一貫教育になっている学校が多いため、実質12年間となっています。私の子供(14歳/中学3年生相当)が通う学校は、現地校のうちの、EMI系の直資学校(政府援助のある半私立校:Direct Subsidy Scheme=DSS)です。
なぜEMI系の直資学校を選ぶことになったかをお話しましょう。
まず始めに考えたのが、私と妻のキャリアプランです。日本に帰る可能性があるのかないのか、または別の国に行くのか。結局、香港に長く住む可能性が一番高いだろうとなりました。日本人学校に通う選択肢もありましたが、香港の日本人学校は中学部までしかありません。高校以上を香港で過ごす可能性が高いということは、いずれ転校するということであり、そうであれば、最初から現地校に通わせたほうが良いと考えました。
加えて日本人学校でも英語の授業があるとはいえ、香港で長く生活をしていくには不十分なレベルです。香港の現地校では、EMI系でも英語はもちろん中国語も必修。言語教育が充実していて他の言語も学ぶ機会が豊富にあります。
思春期を迎える子供にとって、人間関係が一番密に構築される時期でもあることも考慮しました。現地校の場合は、周りがほぼ100%香港人であり、6年間一緒に過ごし、一生の親友といえる関係が築けます。インターナショナル・スクール(国際学校)は多くの外国籍の友達と知り合うことができグローバル社会を体感できるよい点がある一方で、駐在員子女が少なくないため、生徒の出入りが多いです。将来的に香港社会に溶け込んでいく際、香港大学や中文大学といった名門大学出身ということよりも、ご近所(地元出身者)であることが重視されるという背景も香港ならではの特徴だと思います。
また直資学校は英語で授業を行うEMI系、中国語で行うCMI系に関わらず、政府からの補助金が出ているため、比較的授業料が抑えられているのもメリットとして挙げられます。
■家族皆でデメリットを克服
一方でデメリットです。実際に通わせてみないと分からない体験を交えながらご紹介します。
香港の現地校は一般的に、型にはまった詰め込み式授業が多いとされています。我が子が通う直資学校でも詰め込み的な学習が散見され、インター校と比べると前時代的に感じることもしばしばあります。
さらにレベルの高い直資学校は宿題の量が多く、その難易度も高いため、私の子供は毎晩真夜中まで宿題に追われています。例えば、先日は「第一世界大戦中に前線で戦っている兵士が家族にあてる手紙を書きます。兵士の気持ちになって事実をまとめながら書きなさい」という宿題がありました。私も初めて見る、1カ月に渡ってまとめていくプロジェクト型の宿題です。
こうした日本ではまず出されない宿題とは別に、並行して通常の宿題もどっさり出されます。試験も厳しく、留年さえも珍しくない環境です。当然、子供の精神的なストレスはかなりあり、精神的なケアも必要になります。
親の温かいフォローが必要になるという意味では、「将来英語が必要になるから、英語が学べる学校へ」というだけの理由で、教育言語が英語の現地校を選択し、我が子を通わせるのはお勧めしません。確かに私の子供も英語の力はついていますが、あくまで学習動機の根っこには香港の社会や人に対するリスペクトがあります。こうした価値観を養うためには、お子様だけでなく親が自ら発信するかたちで、その国の素晴らしい面をしっかり伝えていくことが肝要になります。そうした覚悟がある(できた)ご家庭であれば、現地校への進学を検討してもよいのではないかと思います。
次回は、インター校で学ぶメリット&デメリットについて紹介をします。
<プロフィール>

森山正明(もりやま・まさあき)
香港日本人補習授業校教員、香港日本人学校大埔校非常勤講師。エデュケーショナル・アクティビスト(教育活動家)として、定期的に香港、広東省、シンガポールで「おとなの社会科見学」を主宰。アジア・グローバル時代の子育て・教育に役立つ情報サイト『みんなのグローバル受験』編集長。北京・香港・シンガポールで教育事業に20年従事。二児の父。香港在住。
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