韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が11日で就任100日を迎えた。国政は、景気刺激策や不動産対策など積極的な政策運営が目立つ。外交面では自身が掲げる「国益中心の実用外交」を実践し、日本との関係強化にも意欲を見せる。李氏の現時点での評価について、神戸大学の木村幹教授に聞いた。
——まず李氏の国政運営をどう評価するか。
これまでのところは、「働く姿」を国民に見せることでうまくアピールしている印象だ。懸念されていた攻撃的な姿勢を与党に担わせることで、中立的な立場を演出している点も評価できる。ただ、大きな政策の方向性についてはいまだ不透明なことから「まだまだこれから」という感じだ。
——実用外交をどう見ているか。
李氏が掲げる実用外交は、経済的利益を重視した「実利外交」と捉えられることができる。つまり、原理原則よりも利益の確保を優先するという立場だ。
その意味で米国との関税交渉や労働者の拘束問題では、原理原則にこだわらず巧みに譲歩するなど、現状では外交をうまく進めているように映る。日本との関係もまずは友好関係を土台とし、小さな課題を1つずつ解決していく形をとっている。
——実用外交の課題は。
課題の1つ目は、「実利」の中にある安全保障問題の位置付けだ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権と異なり、現政権の外交的視野は朝鮮半島の周囲に狭く限定されており、台湾海峡問題を含めたより大きな西太平洋地域での安全保障が十分に組み込まれていない。そのため今後、日本と米国との安全保障面での協力も難しくなってくるかもしれない。
2つ目は、実用外交といえども、原理原則を放棄しているわけではないという点だ。その意味で、日本の政権交代などで歴史認識問題や領土問題での政治家の発言や行動が相次ぐようになると、現政権はそれなりに原理原則的な対応をしてくるはずだ。
すでに「佐渡島(さど)の金山」(新潟県佐渡市)の追悼式では韓国政府は欠席の意思を表明しており、日本の状況次第では急速に両国の関係が悪化する恐れもある。
——韓国はポスト石破に警戒を強めている。
李氏が原理原則を放棄していない中、例えば次期首相が靖国参拝などを行えば、首脳間の「シャトル外交」が中断することは確実だろう。ここからしばらくの間、日韓関係の鍵を握るのは日本側の政治状況になると考えている。

——在韓日系企業として考えられる李政権リスクとは。
李政権は経済的な利益を重視するため、同じ革新系でも文在寅(ムン・ジェイン)政権のようにビジネスに悪影響が及ぶ可能性は低そうだ。電気自動車(EV)や人工知能(AI)をはじめとした開発投資にも積極的で、日本企業としてはうまく韓国企業と協力して大きなビジネスチャンスにつなげていくことが重要になってくるだろう。
日韓関係についても、韓国国内では歴史認識や領土問題への関心が大きく低下しており、日本側から大きな動きがない限り、経済に影響するような問題は起きにくいと予想する。
——どのような企業戦略が必要か。
神戸大学の木村幹教授(本人提供)
最も重要なことは、2028年まで与党が国会の圧倒的多数を握り続けるということだ。そのため、よほどの事態が起こらない限り李政権は中途退陣に追い込まれることはない。韓国では大統領選挙と国会議員選挙が別のタイミングで実施されるため、こうした安定的な体制が再びいつ訪れるか分からない状況だ。
日本政府はもとより日本企業も、短期的なリスクに過度にとらわれず、長期的なビジネス戦略を今のうちに構築しておくことが重要となりそうだ。(聞き手=中村公)
<プロフィル>
木村幹
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。近著に「全斗煥」(ミネルヴァ書房)や「国立大学教授のお仕事 ——とある部局長のホンネ」(筑摩書房)。
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——まず李氏の国政運営をどう評価するか。
これまでのところは、「働く姿」を国民に見せることでうまくアピールしている印象だ。懸念されていた攻撃的な姿勢を与党に担わせることで、中立的な立場を演出している点も評価できる。ただ、大きな政策の方向性についてはいまだ不透明なことから「まだまだこれから」という感じだ。
——実用外交をどう見ているか。
李氏が掲げる実用外交は、経済的利益を重視した「実利外交」と捉えられることができる。つまり、原理原則よりも利益の確保を優先するという立場だ。
その意味で米国との関税交渉や労働者の拘束問題では、原理原則にこだわらず巧みに譲歩するなど、現状では外交をうまく進めているように映る。日本との関係もまずは友好関係を土台とし、小さな課題を1つずつ解決していく形をとっている。
——実用外交の課題は。
課題の1つ目は、「実利」の中にある安全保障問題の位置付けだ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権と異なり、現政権の外交的視野は朝鮮半島の周囲に狭く限定されており、台湾海峡問題を含めたより大きな西太平洋地域での安全保障が十分に組み込まれていない。そのため今後、日本と米国との安全保障面での協力も難しくなってくるかもしれない。
2つ目は、実用外交といえども、原理原則を放棄しているわけではないという点だ。その意味で、日本の政権交代などで歴史認識問題や領土問題での政治家の発言や行動が相次ぐようになると、現政権はそれなりに原理原則的な対応をしてくるはずだ。
すでに「佐渡島(さど)の金山」(新潟県佐渡市)の追悼式では韓国政府は欠席の意思を表明しており、日本の状況次第では急速に両国の関係が悪化する恐れもある。
——韓国はポスト石破に警戒を強めている。
李氏が原理原則を放棄していない中、例えば次期首相が靖国参拝などを行えば、首脳間の「シャトル外交」が中断することは確実だろう。ここからしばらくの間、日韓関係の鍵を握るのは日本側の政治状況になると考えている。

——在韓日系企業として考えられる李政権リスクとは。
李政権は経済的な利益を重視するため、同じ革新系でも文在寅(ムン・ジェイン)政権のようにビジネスに悪影響が及ぶ可能性は低そうだ。電気自動車(EV)や人工知能(AI)をはじめとした開発投資にも積極的で、日本企業としてはうまく韓国企業と協力して大きなビジネスチャンスにつなげていくことが重要になってくるだろう。
日韓関係についても、韓国国内では歴史認識や領土問題への関心が大きく低下しており、日本側から大きな動きがない限り、経済に影響するような問題は起きにくいと予想する。
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神戸大学の木村幹教授(本人提供)[/caption]
最も重要なことは、2028年まで与党が国会の圧倒的多数を握り続けるということだ。そのため、よほどの事態が起こらない限り李政権は中途退陣に追い込まれることはない。韓国では大統領選挙と国会議員選挙が別のタイミングで実施されるため、こうした安定的な体制が再びいつ訪れるか分からない状況だ。
日本政府はもとより日本企業も、短期的なリスクに過度にとらわれず、長期的なビジネス戦略を今のうちに構築しておくことが重要となりそうだ。(聞き手=中村公)
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木村幹
神戸大学大学院・国際協力研究科教授、法学博士(京都大学)。京都大学大学院法学研究科博士前期課程修了。専攻は比較政治学、朝鮮半島地域研究。近著に「全斗煥」(ミネルヴァ書房)や「国立大学教授のお仕事 ——とある部局長のホンネ」(筑摩書房)。"
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