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台湾IT企業、中国離れ加速生産比率58%、経済部24年調査

台湾企業の中国離れが加速している。米中両国の摩擦激化や米国による中国企業への制裁強化を受けて、台湾域内と東南アジア各国に生産拠点を移したのが要因だ。台湾のIT関連企業の輸出製品のうち、中国(香港を含む)の工場で生産した製品の比率は、2024年に輸出金額ベースで58.1%に低下。25年は米トランプ政権の関税政策に対応するための対米投資が加速しており、この比率は年内にも50%を割り込む可能性がある。【黄柏萱】
台湾経済部(経済産業省)統計処がこのほどまとめた「輸出受注海外生産実況調査」によると、台湾企業のIT関連製品の輸出に占める中国での生産比率は2024年が58.1%で、初めて6割を下回った。
中国でのIT関連製品の生産比率は、第1次トランプ政権が発足した年の17年が89.2%だったが、それ以降は19年に80.7%、22年に71.9%と年々低下し、中国依存からの脱却が鮮明だ。
それに対応して増えたのが台湾と東南アジア諸国連合(ASEAN)で、17年に6.4%だった台湾での生産比率は24年は19.0%とほぼ3倍に増加。17年にわずか0.1%だったASEANの生産比率は24年に11.2%と100倍以上に拡大した。ASEANではベトナムやタイが台湾IT企業の主な生産移転先となっている。
台湾企業では、米IT大手アップル製品の生産を請け負うEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業がアップルからの要請を受け、16年前後から中国からの生産移転を加速。河南省や四川省の系列工場で生産していた輸出向けのスマートフォン「アイフォーン(iPhone)」やタブレット端末「アイパッド(iPad)」、ワイヤレスイヤホン「エアポッズ(AirPods)」などは、生産国をスマホはインドに、タブレット端末などについてはベトナムにそれぞれ移管したとみられている。

インドへの投資計画についてモディ首相と会談する鴻海精密工業の劉揚偉董事長=2024年8月(モディ氏のXより)

アイフォーンやアイパッドについては、鴻海と同様に生産を請け負う緯創資通(ウィストロン)など他の台湾EMS大手もインドやベトナムに生産拠点を移したとみられている。
■政府の「三大方案」が後押し
台湾政府は米中摩擦の激化を受けて、台湾企業の中国からの生産拠点の分散を後押しする政策「投資台湾三大方案」をスタート。このうち台湾への回帰投資を促す「歓迎台商回台投資行動方案」にはこれまでに335社が採用され、投資資金への公的支援を受けた。政府は今年、三大方案を延長・拡大する「三大方案2.0」の実施を決め、AI導入やグリーントランスフォーメーションを含む企業の投資を支援している。
これに先立ち、16年に打ち出された「新南向政策」では、台湾企業による東南アジア各国などへの生産シフトなどを補助金などで支援したことで、台湾から「新南向国向け」の原材料などの輸出もこの数年で大幅に伸びている。
経済部の「輸出受注海外生産実況調査」調査は、24年は台湾に本拠を置く2,833社を対象にアンケート形式で実施。このうち2,804社から回答を得た。ITを含む全ての輸出受注額に占める中国での24年の生産比率は33.1%だった。
経済部は、中国への生産依存率の低下の背景として、米中貿易摩擦などの地政学的リスクが最大の要因だと指摘。今年以降は、米国が世界の主要貿易相手国・地域に高率の相互関税を発動しており、関税によるコストの大幅な上昇を回避するため、中国から台湾、中国から米国を含む第三国へと生産が切り替わる傾向が強いとしており、かつては大半が中国だった台湾IT企業の中国生産比率は今後も下がり続ける見通しだ。
昨年以降は、人工知能(AI)の急速な普及で需要が強まるデータセンター向けのAIサーバーや、高性能コンピューター(HPC)、関連機器の生産を台湾に回帰させる傾向が強まったことも、域内の生産比率を押し上げる要因になった。
■理由は「顧客の要求」
経済部が生産国・地域の調査と同時に台湾企業を対象に調べている24年の生産行動に関する調査によれば、IT関連企業が海外生産を行う理由は「顧客要求への対応」(50.8%)や「(生産)コストの抑制」(47.6%)が大きな割合を占めた。
米中摩擦を含む「地政学的リスク」を理由に挙げたIT企業の割合は11.1%で、全産業の平均5.7%を大きく上回った。経済部は「IT企業は海外拠点の新設や生産ラインの拡張に最も積極的」と指摘している。
台湾企業が生産したIT関連製品の85%は台湾以外の第三国向け輸出で、そのうち米国が31.1%を占めた。台湾企業の中国生産に占める米国向け製品の比率は24.8%にとどまり、近年低下傾向にある。

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台湾企業では、米IT大手アップル製品の生産を請け負うEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手の鴻海精密工業がアップルからの要請を受け、16年前後から中国からの生産移転を加速。河南省や四川省の系列工場で生産していた輸出向けのスマートフォン「アイフォーン(iPhone)」やタブレット端末「アイパッド(iPad)」、ワイヤレスイヤホン「エアポッズ(AirPods)」などは、生産国をスマホはインドに、タブレット端末などについてはベトナムにそれぞれ移管したとみられている。
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■政府の「三大方案」が後押し
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これに先立ち、16年に打ち出された「新南向政策」では、台湾企業による東南アジア各国などへの生産シフトなどを補助金などで支援したことで、台湾から「新南向国向け」の原材料などの輸出もこの数年で大幅に伸びている。
経済部の「輸出受注海外生産実況調査」調査は、24年は台湾に本拠を置く2,833社を対象にアンケート形式で実施。このうち2,804社から回答を得た。ITを含む全ての輸出受注額に占める中国での24年の生産比率は33.1%だった。
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昨年以降は、人工知能(AI)の急速な普及で需要が強まるデータセンター向けのAIサーバーや、高性能コンピューター(HPC)、関連機器の生産を台湾に回帰させる傾向が強まったことも、域内の生産比率を押し上げる要因になった。
■理由は「顧客の要求」
経済部が生産国・地域の調査と同時に台湾企業を対象に調べている24年の生産行動に関する調査によれば、IT関連企業が海外生産を行う理由は「顧客要求への対応」(50.8%)や「(生産)コストの抑制」(47.6%)が大きな割合を占めた。
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