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中国開発車「N7」好発進東風日産、変革への挑戦(上)

日産自動車の中国事業が好転に向かっている。今年4月に発売した中国開発車「N7」の人気が背景で、現在は需要に供給が追い付かない状態。同車は中国市場を徹底的に研究して開発したことが奏功し、中国人消費者の心をつかんだ。世界市場で苦戦を強いられ、経営の立て直しを迫られている中、日産の現地法人は「中国事業の変革」を掲げており、N7の好発進で変革に向けたのろしが上がった形だ。【広州・川杉宏行】

中国事業の変革を目指す東風日産の關口勲総経理=広州市

「N7は好評をいただいている」。日産と中国自動車大手の東風汽車集団股フンとの合弁メーカー、東風汽車(DFL)の乗用車部門である東風日産乗用車(広東省広州市)の關口勲総経理は笑顔で話す。
N7は4月下旬に発売した電気自動車(EV)のセダン。高性能ながら15万元(約310万円)を切る手頃な価格に抑えた。N7は中国市場の流行をふんだんに取り入れたことから消費者の注目を集め、発売から約1カ月で1万7,215台を受注した。中国新車市場では月間販売1万台が人気車種の一つの目安とされており、N7は消費者からの支持を得た形だ。
ただ舞い込む注文に生産が追い付かず、N7の納車待ちの期間は一時、最長で10週間に達した。そこで、東風日産は生産能力の拡大に踏み切り、当初6,000台程度だったN7の月産能力を8月以降に最大1万台へと増やした。
生産能力の制約からN7の6、7月の販売台数は月6,000台余りにとどまっていたが、生産を増やした8月には1万台余りを売り上げ、人気車種の仲間入りを果たした。
N7の好調な販売は日産全体の販売にも好影響を与えた。6月の中国販売は15カ月ぶりに前年同月比でプラスとなり、7、8月はともに2桁の伸びを示した。N7の人気が店舗に消費者を呼び寄せ、他の車種の販売増にもつながっているという。
■「権限移譲」が決め手に
中国自動車市場は2020年代前半に主にEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を指す「新エネルギー車(NEV)」への急激なシフトが起こった。東風日産を含む日系自動車メーカーはこの急激な変化への対応が遅れ、中国NEV市場で苦戦を強いられた。
こうした中、東風日産はなぜN7というNEVのヒット商品を生み出すことができたのか。關口氏は事業改革への取り組みが奏功したと説明し、中でも「本社からの権限移譲が大きかった」と強調する。
日産を含む日系大手の新車開発はこれまで、「世界展開車を本社で開発し、それぞれの販売エリアで地域特性に合わせてカスタマイズする」という手法が主流だった。部品を供給するサプライヤーの選定も本社中心。こうした開発手法を通じて部品の共通化を図り、コスト低減につなげていた。
だが日産は手法を見直し、中国での開発の権限をほぼ全て現地法人に移管。本社は最終承認以外、何もしないという体制を敷いた。
中国市場はある意味で「巨大なガラパゴス市場」だ。市場規模、完成車メーカーの数、開発スピード、スマート化の進み具合、消費者の嗜好(しこう)など、どれをとっても他地域の市場とは様相が大きく異なる。
例えば、日本と中国を比べると、消費者の嗜好はかなり異なる。中国ではここ数年カラオケ機能付きのNEVが目立つようになったが、日本の消費者からはこの機能に否定的な声が多く聞かれる。中国のNEVの内装はエアコンなどの車載機器を操作するボタンを省き、全てをセンターディスプレーに集約してデジタル操作するのが主流だが、日本の交流サイト(SNS)では、中国のこのような内装に否定的な意見が見受けられる。
こうした事例は、日本で開発したクルマを中国に投入しても中国の消費者ニーズを満たせない可能性があることを示している。
本社から権限移譲を受けた東風日産は、中国市場に適したクルマの開発に着手。現在の流行や消費者の好みを徹底的に分析してN7を開発した。これが中国の消費者の心に刺さり、好調な受注の獲得につながった。
サプライヤーの選択を現地で行えるようになったのも中国事業に追い風となった。NEV向け部品は中国系企業が強いことに加えて、中国市場は価格競争が激しく、従来のグローバルサプライヤーでは対応が難しい場合があるためだ。
■輸出にも注力へ
關口氏は「N7の次」も考えている。今年第4四半期(10~12月)にはPHVのセダン「N6」を発売する計画だ。
日系大手がこれまで中国で投入してきたPHVは、スマート化が進んでいないガソリン車をベースにしたため、スマート化された機能を重視する中国の消費者には受け入れられなかった。
東風日産はこうした流れを踏まえ、N6をスマート化が進んだEVをベースとしたPHVとして開発する予定だ。EVベースのPHVを投入すれば、中国勢と同じ土俵に立つことになる。
東風日産は27年夏までに日産ブランドのNEVを9モデル投入する計画を示している。
東風日産は中国生産車の輸出にも注力する方針だ。先月には輸出事業の合弁会社、日産輸出入(広州)を設立した。出資比率は日産の中国法人、日産(中国)投資が60%、東風汽車集団股フンが40%。
合弁会社は今春の上海モーターショーで初披露したPHVの新型ピックアップトラック「フロンティアプロ」とN7を今後1年以内に中国から他地域に輸出する計画。中国生産車の輸出を通じて、日産の世界市場での事業展開を下支えする。
日産は03年6月、東風日産を設立し、中国市場に本格的に進出した。東風日産は主力のセダン「シルフィ(軒逸)」を中心に販売を積み上げ、18年には日産の中国での年間新車販売が過去最高の約156万4,000台に達した。だがNEVへの対応の遅れなどが響き、19年以降は6年連続で前年割れ。23年からは100万台を割り込んだ。
東風日産はN7の発売を起点として中国市場で反転攻勢に打って出る構えで、将来的に中国での年間販売台数(輸出車を含む)を再び100万台に乗せることを目標に掲げている。

販売が好調な東風日産の新型EV「N7」=広州市
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N7は4月下旬に発売した電気自動車(EV)のセダン。高性能ながら15万元(約310万円)を切る手頃な価格に抑えた。N7は中国市場の流行をふんだんに取り入れたことから消費者の注目を集め、発売から約1カ月で1万7,215台を受注した。中国新車市場では月間販売1万台が人気車種の一つの目安とされており、N7は消費者からの支持を得た形だ。
ただ舞い込む注文に生産が追い付かず、N7の納車待ちの期間は一時、最長で10週間に達した。そこで、東風日産は生産能力の拡大に踏み切り、当初6,000台程度だったN7の月産能力を8月以降に最大1万台へと増やした。
生産能力の制約からN7の6、7月の販売台数は月6,000台余りにとどまっていたが、生産を増やした8月には1万台余りを売り上げ、人気車種の仲間入りを果たした。
N7の好調な販売は日産全体の販売にも好影響を与えた。6月の中国販売は15カ月ぶりに前年同月比でプラスとなり、7、8月はともに2桁の伸びを示した。N7の人気が店舗に消費者を呼び寄せ、他の車種の販売増にもつながっているという。
■「権限移譲」が決め手に
中国自動車市場は2020年代前半に主にEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を指す「新エネルギー車(NEV)」への急激なシフトが起こった。東風日産を含む日系自動車メーカーはこの急激な変化への対応が遅れ、中国NEV市場で苦戦を強いられた。
こうした中、東風日産はなぜN7というNEVのヒット商品を生み出すことができたのか。關口氏は事業改革への取り組みが奏功したと説明し、中でも「本社からの権限移譲が大きかった」と強調する。
日産を含む日系大手の新車開発はこれまで、「世界展開車を本社で開発し、それぞれの販売エリアで地域特性に合わせてカスタマイズする」という手法が主流だった。部品を供給するサプライヤーの選定も本社中心。こうした開発手法を通じて部品の共通化を図り、コスト低減につなげていた。
だが日産は手法を見直し、中国での開発の権限をほぼ全て現地法人に移管。本社は最終承認以外、何もしないという体制を敷いた。
中国市場はある意味で「巨大なガラパゴス市場」だ。市場規模、完成車メーカーの数、開発スピード、スマート化の進み具合、消費者の嗜好(しこう)など、どれをとっても他地域の市場とは様相が大きく異なる。
例えば、日本と中国を比べると、消費者の嗜好はかなり異なる。中国ではここ数年カラオケ機能付きのNEVが目立つようになったが、日本の消費者からはこの機能に否定的な声が多く聞かれる。中国のNEVの内装はエアコンなどの車載機器を操作するボタンを省き、全てをセンターディスプレーに集約してデジタル操作するのが主流だが、日本の交流サイト(SNS)では、中国のこのような内装に否定的な意見が見受けられる。
こうした事例は、日本で開発したクルマを中国に投入しても中国の消費者ニーズを満たせない可能性があることを示している。
本社から権限移譲を受けた東風日産は、中国市場に適したクルマの開発に着手。現在の流行や消費者の好みを徹底的に分析してN7を開発した。これが中国の消費者の心に刺さり、好調な受注の獲得につながった。
サプライヤーの選択を現地で行えるようになったのも中国事業に追い風となった。NEV向け部品は中国系企業が強いことに加えて、中国市場は価格競争が激しく、従来のグローバルサプライヤーでは対応が難しい場合があるためだ。
■輸出にも注力へ
關口氏は「N7の次」も考えている。今年第4四半期(10~12月)にはPHVのセダン「N6」を発売する計画だ。
日系大手がこれまで中国で投入してきたPHVは、スマート化が進んでいないガソリン車をベースにしたため、スマート化された機能を重視する中国の消費者には受け入れられなかった。
東風日産はこうした流れを踏まえ、N6をスマート化が進んだEVをベースとしたPHVとして開発する予定だ。EVベースのPHVを投入すれば、中国勢と同じ土俵に立つことになる。
東風日産は27年夏までに日産ブランドのNEVを9モデル投入する計画を示している。
東風日産は中国生産車の輸出にも注力する方針だ。先月には輸出事業の合弁会社、日産輸出入(広州)を設立した。出資比率は日産の中国法人、日産(中国)投資が60%、東風汽車集団股フンが40%。
合弁会社は今春の上海モーターショーで初披露したPHVの新型ピックアップトラック「フロンティアプロ」とN7を今後1年以内に中国から他地域に輸出する計画。中国生産車の輸出を通じて、日産の世界市場での事業展開を下支えする。
日産は03年6月、東風日産を設立し、中国市場に本格的に進出した。東風日産は主力のセダン「シルフィ(軒逸)」を中心に販売を積み上げ、18年には日産の中国での年間新車販売が過去最高の約156万4,000台に達した。だがNEVへの対応の遅れなどが響き、19年以降は6年連続で前年割れ。23年からは100万台を割り込んだ。
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