マレーシアが議長国を務める東南アジア諸国連合(ASEAN)は、東ティモールを11カ国目の加盟国として迎え、新たな一歩を踏み出した。同国の加盟は、ASEANにとってどのような意味を持つのか。ASEAN情勢に詳しい識者に話を聞いた。【Chan Keat Wah、本田香織】
ASEAN加盟国の各首脳と東ティモールのグスマン首相(左から5人目)は、東ティモールのASEAN正式加盟文書に署名した=10月26日、クアラルンプール(アンワル・イブラヒム首相の公式フェイスブックより)
ASEAN加盟国の各首脳と東ティモールのシャナナ・グスマン首相は先月26日、マレーシアの首都クアラルンプールで開いた首脳会議で東ティモールのASEAN正式加盟文書に署名し、同国の加盟が承認された。新規加盟は1999年のカンボジア以来で、11カ国体制となった。
シンガポールのシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」のASEAN研究センターで上級研究員兼コーディネーターを務めるジョアン・リン氏は、東ティモールのASEAN加盟について、「規模や発展段階の差異を超えて、域内の全ての国家を受け入れるというASEANの理念を体現している」と指摘。「経済的な野心と政治的な包摂性の両立を目指す『真の東南アジア共同体』としての自覚を強化する」との見方を示す。
また、東ティモールと地理的に近く結び付きが強いオーストラリアや、東ティモールの公用語となっているポルトガル語圏諸国との関係を通じて、外交関係を拡大することも可能とみる。
■インフラ投資やエネルギー協力の機会提供
リン氏は、経済面では、東ティモールの加盟がすぐにASEAN全体に影響を与えるわけではないが、長期的には恩恵をもたらすと見通す。「資源に恵まれながらも未開発の東ティモールはインフラ投資やエネルギー協力で新たな機会を提供し、将来的には、農業や観光、再生可能エネルギーの分野での協力も期待できる」という。
シンガポール国際問題研究所(SIIA)のオー・エイサン上級研究員も、東ティモールは豊富な石油・ガス資源を有し、将来的には繁栄したASEAN加盟国になる可能性があると指摘。ただ、同国の石油・ガス産業が中東諸国のように本格的に成長するまでは、多大な開発援助を必要とし、ASEANとしても支援的な姿勢が求められるとの見方を示す。
グスマン首相=10月27日、クアラルンプール(NNA撮影)
■制度面での能力などが課題
一方、ISEASユソフ・イシャク研究所のリン氏は、「東ティモールのASEAN加盟はあくまで出発点」と指摘。東ティモールの限られた制度面での能力と資源(時間、資金、人員、材料など)の制約が課題になるとみる。
官僚機構と外交システムが確立された既存の加盟国とは異なり、東ティモールは年間1,000回を超えるASEANの会合や300を超える法的文書に参加していくために、資金と人材育成の両面で継続的な支援を必要とするという。
ASEANにとっては、自らの制度的包容力と統合能力を試す試金石でもある。東ティモールは制度やインフラが発展途上にあり、ASEANへの完全な参加に向けては行政能力、ガバナンス(統治)、人材育成、デジタル基盤の整備など、多方面での支援が不可欠となる。
ただ、東ティモールの民主主義の実績と若い人口構成は、ASEANに新たな視点と活力をもたらすことが期待される。東ティモールの歩みはレジリエンス(強靱性=きょうじんせい)や国家建設、地域への帰属意識といったASEANの歴史と重なり合い、より結束した東南アジアに向けた戦略的な一歩となることが見込まれる。
ASEANは新たな小規模メンバーの参加を受け入れることで短期的には意思決定が遅れる可能性もあるが、適切に管理すれば、ASEANの適応力を示す好例となり、ASEAN加盟国間の格差是正を図る「ASEAN統合イニシアチブ(IAI)」などを通じて開発格差を縮小するという理念を再確認する機会にもなるという。
<メモ>
東ティモール
2002年にインドネシアから独立。人口は23年時点で約139万人。ASEANで唯一ポルトガル語を公用語とし、全人口の99.1%をキリスト教徒(大半がカトリック教徒)が占める。主要産業は農業で、輸出用作物としては特にコーヒーの栽培に力を注いでいる。国家財源として石油・天然ガスの開発が進められている。国内総生産(GDP)は24年時点で20億2,000万米ドル(約3,102億円、国際通貨基金《IMF》調べ)と、ASEAN加盟国で最低となっている。
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シンガポールのシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」のASEAN研究センターで上級研究員兼コーディネーターを務めるジョアン・リン氏は、東ティモールのASEAN加盟について、「規模や発展段階の差異を超えて、域内の全ての国家を受け入れるというASEANの理念を体現している」と指摘。「経済的な野心と政治的な包摂性の両立を目指す『真の東南アジア共同体』としての自覚を強化する」との見方を示す。
また、東ティモールと地理的に近く結び付きが強いオーストラリアや、東ティモールの公用語となっているポルトガル語圏諸国との関係を通じて、外交関係を拡大することも可能とみる。
■インフラ投資やエネルギー協力の機会提供
リン氏は、経済面では、東ティモールの加盟がすぐにASEAN全体に影響を与えるわけではないが、長期的には恩恵をもたらすと見通す。「資源に恵まれながらも未開発の東ティモールはインフラ投資やエネルギー協力で新たな機会を提供し、将来的には、農業や観光、再生可能エネルギーの分野での協力も期待できる」という。
シンガポール国際問題研究所(SIIA)のオー・エイサン上級研究員も、東ティモールは豊富な石油・ガス資源を有し、将来的には繁栄したASEAN加盟国になる可能性があると指摘。ただ、同国の石油・ガス産業が中東諸国のように本格的に成長するまでは、多大な開発援助を必要とし、ASEANとしても支援的な姿勢が求められるとの見方を示す。
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■制度面での能力などが課題
一方、ISEASユソフ・イシャク研究所のリン氏は、「東ティモールのASEAN加盟はあくまで出発点」と指摘。東ティモールの限られた制度面での能力と資源(時間、資金、人員、材料など)の制約が課題になるとみる。
官僚機構と外交システムが確立された既存の加盟国とは異なり、東ティモールは年間1,000回を超えるASEANの会合や300を超える法的文書に参加していくために、資金と人材育成の両面で継続的な支援を必要とするという。
ASEANにとっては、自らの制度的包容力と統合能力を試す試金石でもある。東ティモールは制度やインフラが発展途上にあり、ASEANへの完全な参加に向けては行政能力、ガバナンス(統治)、人材育成、デジタル基盤の整備など、多方面での支援が不可欠となる。
ただ、東ティモールの民主主義の実績と若い人口構成は、ASEANに新たな視点と活力をもたらすことが期待される。東ティモールの歩みはレジリエンス(強靱性=きょうじんせい)や国家建設、地域への帰属意識といったASEANの歴史と重なり合い、より結束した東南アジアに向けた戦略的な一歩となることが見込まれる。
ASEANは新たな小規模メンバーの参加を受け入れることで短期的には意思決定が遅れる可能性もあるが、適切に管理すれば、ASEANの適応力を示す好例となり、ASEAN加盟国間の格差是正を図る「ASEAN統合イニシアチブ(IAI)」などを通じて開発格差を縮小するという理念を再確認する機会にもなるという。
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東ティモール
2002年にインドネシアから独立。人口は23年時点で約139万人。ASEANで唯一ポルトガル語を公用語とし、全人口の99.1%をキリスト教徒(大半がカトリック教徒)が占める。主要産業は農業で、輸出用作物としては特にコーヒーの栽培に力を注いでいる。国家財源として石油・天然ガスの開発が進められている。国内総生産(GDP)は24年時点で20億2,000万米ドル(約3,102億円、国際通貨基金《IMF》調べ)と、ASEAN加盟国で最低となっている。"
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