インドネシアのプラボウォ大統領が2024年10月の就任当初から優先政策に挙げる食料安全保障。世界第4位の人口、2億7,000万人以上の胃袋を満たすために、政府は食料の自給自足に向けた施策を進めている。中でも牛肉は、需要と供給のギャップが大きい食材だ。投資・下流化省は、肉牛頭数が全国4位の西ヌサトゥンガラ州で、畜産から食肉加工、飼料生産までに至る統合型肉牛農場開発プロジェクトを立ち上げ、日本企業などの投資を誘致している。
スンバワ島南部の畜産農家が所有する牛舎=インドネシア・スンバワ島(NNA撮影)
食料安全保障は、プラボウォ大統領が推進する8つのミッション「アスタ・チタ」に基づく優先政策の一つだが、現状は食料自給にはほど遠い。24年の牛肉の生産量約48万トンに対し、消費量は77万トンと、29万トンが不足している。牛肉(水牛肉を含む)の供給量は過去4年続けて少しずつ増えてはいるものの、消費量を満たせていない。

肉牛(水牛含む)の頭数は13年から緩やかに増加していたが、23年には前年から4割減少。24年(暫定値)はやや持ち直したものの、1,231万頭にとどまっている。

プラボウォ氏の肝いりで始めた無償給食プログラムもあるため、牛肉需要は今後さらに増えると見込まれる。政府は29年の牛肉需要量が88万トンに拡大すると予測。29年までの向こう5年間に、合計100万頭の肉牛の輸入を計画しており、輸入比率を24年の52%から29年には30%まで縮小しようとしている。
農業省によれば、投資家84社からの確約を得た肉牛の輸入頭数は、29年までの合計で58万頭弱。今年だけで約5万3,000頭の輸入が計画されているものの、実際に輸入されたのは9月時点で約1万9,000頭に過ぎない。
■西ヌサトゥンガラで統合型肉牛農場
投資・下流化省は、国内総生産(GDP)8%成長に向けた優先投資9分野の一つに食料安全保障を掲げる。同省投資促進局(東アジア、南アジア、中東、アフリカ地域担当)のチャホヨ局長は、首都ジャカルタで9月下旬に開かれたセミナーで、「スンバワ島の統合型肉牛農場開発は、国民の食生活を守るためのプロジェクトだ」と強調した。
同省が描くプロジェクトは、西ヌサトゥンガラ州スンバワ島に、肉牛の繁殖・飼育事業や飼料の確保といった川上から、食肉処理場やコールドストレージの整備、肥料の製造などの川下に至るまでの統合型アグリビジネスの仕組みを構築することだ。
なぜ西ヌサトゥンガラ州で、それも肉牛なのか。同州は肉牛の飼育頭数が2021年時点で130万頭を超え、全国で第4位の規模を誇る畜牛産地で、住民の多くが農業・畜産に従事する。「最大の市場を抱えるジャワ島では土地に限りがあるが、西ヌサトゥンガラ州には土地が豊富にあり、人材もいる」(チャホヨ氏)。
プロジェクトは、島南部のスンバワ県ラバンカ郡の1,395ヘクタールの用地で、繁殖牛6,000頭、肥育牛7,000頭の飼育場や、食肉処理場、飼料工場、廃棄物処理施設、倉庫やコールドストレージなどのインフラも整備する。総事業費は5,561億6,000万ルピア(約52億円)と巨額に上るが、「22年に試算した額で変動する可能性はある」(同省ラティ天然資源・製造業企画局長)。

生産量(年間)目標は、◇冷凍肉1,644トン◇非カーカス肉(サーロイン、ヒレ、モモなど)1,196トン◇固形肥料2万5,708トン◇液体肥料2万4,911トンのほか、◇牧草67万6,600トン◇サイレージ11万869トン◇コンセントレート6万5,000トン——と設定する。
チャホヨ氏は、将来はスンバワ島で飼育された肉牛から冷凍肉を生産して、消費地のジャワ島にも供給できるようにしつつ、家畜を食肉処理して家族や貧しい人々にささげるイスラム教の祝日「犠牲祭」には、スンバワ島から生体牛を全国に供給できるようにしたいと話した。

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肉牛(水牛含む)の頭数は13年から緩やかに増加していたが、23年には前年から4割減少。24年(暫定値)はやや持ち直したものの、1,231万頭にとどまっている。

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農業省によれば、投資家84社からの確約を得た肉牛の輸入頭数は、29年までの合計で58万頭弱。今年だけで約5万3,000頭の輸入が計画されているものの、実際に輸入されたのは9月時点で約1万9,000頭に過ぎない。
■西ヌサトゥンガラで統合型肉牛農場
投資・下流化省は、国内総生産(GDP)8%成長に向けた優先投資9分野の一つに食料安全保障を掲げる。同省投資促進局(東アジア、南アジア、中東、アフリカ地域担当)のチャホヨ局長は、首都ジャカルタで9月下旬に開かれたセミナーで、「スンバワ島の統合型肉牛農場開発は、国民の食生活を守るためのプロジェクトだ」と強調した。
同省が描くプロジェクトは、西ヌサトゥンガラ州スンバワ島に、肉牛の繁殖・飼育事業や飼料の確保といった川上から、食肉処理場やコールドストレージの整備、肥料の製造などの川下に至るまでの統合型アグリビジネスの仕組みを構築することだ。
なぜ西ヌサトゥンガラ州で、それも肉牛なのか。同州は肉牛の飼育頭数が2021年時点で130万頭を超え、全国で第4位の規模を誇る畜牛産地で、住民の多くが農業・畜産に従事する。「最大の市場を抱えるジャワ島では土地に限りがあるが、西ヌサトゥンガラ州には土地が豊富にあり、人材もいる」(チャホヨ氏)。
プロジェクトは、島南部のスンバワ県ラバンカ郡の1,395ヘクタールの用地で、繁殖牛6,000頭、肥育牛7,000頭の飼育場や、食肉処理場、飼料工場、廃棄物処理施設、倉庫やコールドストレージなどのインフラも整備する。総事業費は5,561億6,000万ルピア(約52億円)と巨額に上るが、「22年に試算した額で変動する可能性はある」(同省ラティ天然資源・製造業企画局長)。

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