中国企業が「出海」と呼ぶ海外進出を強化する中、NIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は国際輸送のノウハウを武器に、中国企業のサプライチェーン(供給網)づくりを後押ししている。関税政策や地政学リスクなど先行きの不透明感がくすぶる状況下で、生産部材を中国から安定して供給する物流網は欠かせない。NXHDは2026年1月に上海市で東アジア全体の統括会社を本格稼働させ、中国事業を一段と強化する。【吉野あかね】
「『止まらないサプライチェーンをつくりたい』。そういった相談が増えている」。NXHDグループ中国代表の下小野田恒氏はこう話す。NXHDには東南アジアをはじめ海外進出を目指す中国企業から、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化に関する相談が相次ぐ。
自動車メーカーを中心に海外工場の設置が急速に進められているが、中国企業による供給網の構築は始まったばかり。下小野田氏によると、海外進出に伴い、調達や生産、販売にかかわる各段階のリスクを分析しながら、どこか一つの拠点で問題が起きてもサプライチェーンが止まらないような輸送ルートをつくりたいと考える中国企業が増えている。
中国の自動車メーカーが海外展開の強化に乗り出す中、中国で日系大手自動車の生産部品の輸送や部品の集約、海外への輸出を長年手がけてきたNXHDへの相談が増えているという。中国車メーカーのタイ向け輸出や、中国新興電気自動車(EV)メーカーの在庫拠点の構築も請け負う。
「タイでの物流ネットワークは中国系の同業より強い。中国系はノウハウも経験もなく、既にネットワークを構築しているわれわれに相談に来る企業が多い」と下小野田氏は話す。
自動車以外の物流も売り込む。半導体分野では海外からの輸入商品の物流、医薬品では海外からの原料輸入など幅広い分野の受注獲得に取り組む構えだ。
■中欧班列も活用
NXHDの中国事業は国際輸送がメインだ。これまでは海上輸送、航空輸送を中心に担ってきたが、中国企業のニーズが多様化する中、近年は多国間にまたがるクロスボーダー輸送やトラックを使った越境輸送にも注力する。
中国と欧州を結ぶ国際貨物列車「中欧班列」も積極的に活用している。地政学リスクに対応しようと、中国各地からカスピ海を経由して欧州に向かう複合輸送サービスを手がけ、ロシアを経由せずに輸送できるルートを構築した。ロシアに入る前のカザフスタンまでを鉄道で輸送し、カスピ海で海上輸送して、欧州まで鉄道やトラックを使うという仕組みだ。
ただ、中欧班列は国際情勢の影響を受けやすいという課題もある。9月中旬にはポーランド国境が封鎖されたことで、130本以上の中欧班列が足止めされたとみられている。
下小野田氏は「中国事業は海上輸送がメインの中で、第2の輸送手段として中欧班列があるが、ロシア情勢を巡って影響を受けている」と指摘。それでも、納期や価格といった中欧班列のメリットを生かせる代替輸送はなかなか見つけづらいとして、活用を広げていく考えだ。
NIPPON EXPRESSホールディングスの下小野田恒・中国代表=7日、上海市
NXHDは2028年までの経営計画で、東アジアでは自動車産業のフォワーディング(仲介業務)取扱数量の拡大や、東南アジア諸国連合(ASEAN)への生産拠点の移転、グローバルブランドとして海外進出を図る中国系企業の取り込みに注力する方針を掲げる。
中国事業をさらに伸ばすため、上海市に東アジア全体を束ねる統括会社を設立し、26年1月から本格稼働する。下小野田氏は「今まで以上に、中国を中心にして東アジアを見ていく必要性を感じている」と話す。
中国では今後、越境電子商取引(越境EC)の貨物輸送の受注も狙う。下小野田氏は、「中国発の越境ECが力をつけつつある。ASEANや欧州、中南米で成長していく動きに合わせて、取り組みを強化していかなければいけないと考えている」と話す。
「中国に根をしっかりと張る物流企業を目指している」。下小野田氏はこう力を込める。人材育成にも注力し、マネジメントの現地化も進めていく考えだ。
■加速する東南ア進出
世界の貿易環境が絶えず変化する中、中国企業は生産拠点を海外に移している。とりわけ、地理的に中国から近く発展のポテンシャルを持つASEANは、海外生産の重要拠点になっている。
例えば「新エネルギー車(NEV)」大手の比亜迪(BYD)は、研究開発(R&D)機能と中核部品の製造を中国で維持しつつ、タイに年産15万台の工場を設け、インドネシアでも年産15万台の工場建設を進めている。
米不動産サービス大手ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)のアナリストは、“研究開発は中国”“製造はグローバル”が中国企業の「グローバル化2.0」の特徴だと分析する。リスク管理の観点から見ても、地域化とマルチロケーションの戦略は、不測の事態や地政学的不確実性に対する企業の強靱性を高めることに役立つ。中国企業による一部サプライチェーンの東南アジアへの移転は、世界的な産業チェーンの再編に適応するための長期的な戦略だと指摘した。
貿易拡大に向けた関係も強まっている。中国とASEANは10月下旬、自由貿易協定(FTA)をアップグレードした「3.0版」に調印した。対象分野にはサプライチェーン連結性や中小零細企業などの5分野が追加された。
JLLアジア太平洋サプライチェーン&ロジスティクス部門のベン・ホーナーシニアディレクターはリポートで、「今後5~10年、東南アジアは中国企業にとって引き続きグローバル展開の重要な目的地になる」と指摘。「現在の海外展開の主力である新エネルギーや自動車、半導体、医薬品といったハイテク産業は、サプライチェーンの多様化や移転、再構築を通じてレジリエンスを高める必要がある」と指摘し、各国の特性に合わせて投資や研究開発、生産、販売の連携を実現していくことも重要だとの見方を示した。
中国企業の海外展開が加速する中、国際輸送の需要をどう取り込んでいくかが鍵になりそうだ。
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■中欧班列も活用
NXHDの中国事業は国際輸送がメインだ。これまでは海上輸送、航空輸送を中心に担ってきたが、中国企業のニーズが多様化する中、近年は多国間にまたがるクロスボーダー輸送やトラックを使った越境輸送にも注力する。
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ただ、中欧班列は国際情勢の影響を受けやすいという課題もある。9月中旬にはポーランド国境が封鎖されたことで、130本以上の中欧班列が足止めされたとみられている。
下小野田氏は「中国事業は海上輸送がメインの中で、第2の輸送手段として中欧班列があるが、ロシア情勢を巡って影響を受けている」と指摘。それでも、納期や価格といった中欧班列のメリットを生かせる代替輸送はなかなか見つけづらいとして、活用を広げていく考えだ。
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中国事業をさらに伸ばすため、上海市に東アジア全体を束ねる統括会社を設立し、26年1月から本格稼働する。下小野田氏は「今まで以上に、中国を中心にして東アジアを見ていく必要性を感じている」と話す。
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「中国に根をしっかりと張る物流企業を目指している」。下小野田氏はこう力を込める。人材育成にも注力し、マネジメントの現地化も進めていく考えだ。
■加速する東南ア進出
世界の貿易環境が絶えず変化する中、中国企業は生産拠点を海外に移している。とりわけ、地理的に中国から近く発展のポテンシャルを持つASEANは、海外生産の重要拠点になっている。
例えば「新エネルギー車(NEV)」大手の比亜迪(BYD)は、研究開発(R&D)機能と中核部品の製造を中国で維持しつつ、タイに年産15万台の工場を設け、インドネシアでも年産15万台の工場建設を進めている。
米不動産サービス大手ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)のアナリストは、“研究開発は中国”“製造はグローバル”が中国企業の「グローバル化2.0」の特徴だと分析する。リスク管理の観点から見ても、地域化とマルチロケーションの戦略は、不測の事態や地政学的不確実性に対する企業の強靱性を高めることに役立つ。中国企業による一部サプライチェーンの東南アジアへの移転は、世界的な産業チェーンの再編に適応するための長期的な戦略だと指摘した。
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