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タイ、製造業全体に影響多大東南アジアの半導体事情(上)

半導体不足がアジアの製造業に大きな打撃を与えている。NNAは、6月にタイの首都バンコクとマレーシア・ペナン島でそれぞれ開催された製造業関連と半導体関連の見本市を取材し、半導体の調達に苦労する現場の声を聴いた。完成車、家電、産業用ロボット——。製造業が集積するタイでは、広範囲に深刻な影響が広がっていた。
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タイの首都バンコク東部のバンコク・インターナショナル・トレード&エキシビション・センター(BITEC)では6月22~25日に、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大規模の製造業展示会「マニュファクチャリング・エキスポ2022」が開催され、多くの日系企業がブースを構えた。
自動車向けプラスチック内装部品の製造を手がける太洋工作所(大阪市)のタイ法人、太洋テクノロジーインダストリー(タイランド)では、半導体不足の影響で注文がピーク時の7~8割に落ち込んだという。太洋テクノロジーインダストリー(タイランド)で品質管理マネジャーを務める北口浩志氏は「競合する中国とは価格競争を強いられている。今後は品質の高さで差別化を図っていきたい」と話した。
三菱電機のタイ法人、三菱電機オートメーション(タイ)は、中国・大連で製造した放電加工機をタイで輸入販売している。しかし、半導体不足に加え、新型コロナウイルス感染症の影響による工場の稼働日数の減少で、入荷に影響が出ているという。半導体不足の影響でタイの自動車メーカーも一部減産しており、関連顧客では生産面での影響を受けている。
樹脂メーカーの東洋紡(タイランド)も、完成車メーカーの減産を通じて半導体不足による影響を間接的に受けている。同社はタイでは、耐熱性や成型加工しやすいポリアミド樹脂「グラマイド」を拡販している。東洋紡(タイランド)の関係者は自社製品について「軽量化と強度・剛性を両立させた。金属代替材料として自動車部品メーカーに拡販している」と説明した。
日系企業を中心に工場のモノのインターネット(IoT)化を支援している日立製作所のタイ法人、日立アジア(タイランド)にも半導体不足の影響が及んでいる。同社の田中徹シニアマネジャーは「半導体不足でIoT化に必要な設備の調達に遅れが出るため、プロジェクト計画に支障が出ているケースも少なくない」と説明した。
商社も半導体不足の影響を実感している。日本の産業ロボットメーカーの販売代理店を務める浜正(大阪市)のタイ法人、浜正コーポレーション(タイランド)の関係者によると、現在の納期体制はかなり改善されているものの、昨年は半導体部品不足の影響でロボットの制御に使用される部品の欠品が相次ぎ、納期が通常よりかなり遅れた時期があったという。
専門商社の高島(東京都千代田区)の100%子会社で香港に拠点を置くアイタックインターナショナルは、タイ法人のアイタックインターナショナル(タイランド)を通じて、東部チョンブリ県にある工場で白物家電メーカー向けに実装基板を製造している。アイタックインターナショナル(タイランド)の藤木雄心シニアマネジャーは「昨今の半導体不足で完全な安定供給は難しい中でも、弊社ネットワークと部品調達能力を生かして、比較的安定供給はできている」と話す。
日系以外にも影響は出ている。米グラビテックのタイ子会社グラビテック・タイ(タイランド)も必要な半導体を調達できず、車載用のプリント配線板の受注が減少。現在は、代替品を見つけることで対処している。関係者は「品質の維持に最新の注意を払っている」と話した。
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■半導体製造・検査装置にも影響
マレーシアのペナン島では6月21~23日に、東南アジア最大規模の半導体産業展示会「セミコン・東南アジア2022」が開催された。新型コロナ感染拡大の影響により会場での開催は3年ぶりで、日本企業を含む約250社が出展した。
米インテルが工場を持つなど、パッケージング(実装)やテスティング(検査)といった「後工程」が中心で、大手半導体製造装置メーカーの工場建設が相次いでいるマレーシアでは、半導体製造・検査装置の部品を展示する企業が目立った。
東南アジアの展示会への出展は初めてという東京計装(東京都港区)は、半導体の製造工程で液体やガスの量を測定する流量計を展示。国際事業本部・海外営業部の中野智久部長によると、流量計自体にも半導体が使用されているため、世界的な半導体不足により生産は影響を受けているという。
マレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場するQESグループ傘下で半導体検査装置を製造するQESメカトロニックも、半導体不足の影響を受けている。同社のオン・ムーンピン・シニアマネジャーは「早めに半導体を調達し、備蓄を確保するようにしているが、それでも4カ月~1年待ちの状態が続いている」と嘆く。
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■供給減の中での需要増
大和総研経済調査部の増川智咲エコノミストによると、半導体不足は、供給が減る中で需要が拡大したのが原因だ。
供給減少の要因には、米国による中国の半導体受託生産の中芯国際集成電路製造(SMIC)への制裁のほか、ルネサスエレクトロニクスの製造子会社工場の火災や台湾での干ばつによる水不足などが挙げられる。
一方、需要拡大要因としては、第5世代(5G)移動通信システム関連のインフラ投資やデータセンターなどの産業向けに加え、世界的な在宅勤務の増加に伴うパソコン(PC)やスマートフォンなどの需要拡大、想定を上回るペースでコロナ禍から回復した自動車産業が車載用半導体の注文を増加させたことが挙げられるという。
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今年に入ってからは、ウクライナ危機が半導体不足に拍車をかける懸念が出ている。ロシアやウクライナを主要原産国とする、半導体製造に必要とされる原材料(ネオンやパラジウム)の供給不安が浮上したためだ。半導体の製造に必要となる装置の導入には時間がかかる上、生産工程に大量の水を必要とするなど、半導体の供給ラインは簡単に拡張できるものではないことも、半導体の需給逼迫(ひっぱく)がなかなか解消しない一因となっている。
そのような中、タイやマレーシアでは、半導体不足を克服するための動きが見られ始めているのは明るい材料となっている。

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日系企業を中心に工場のモノのインターネット(IoT)化を支援している日立製作所のタイ法人、日立アジア(タイランド)にも半導体不足の影響が及んでいる。同社の田中徹シニアマネジャーは「半導体不足でIoT化に必要な設備の調達に遅れが出るため、プロジェクト計画に支障が出ているケースも少なくない」と説明した。
商社も半導体不足の影響を実感している。日本の産業ロボットメーカーの販売代理店を務める浜正(大阪市)のタイ法人、浜正コーポレーション(タイランド)の関係者によると、現在の納期体制はかなり改善されているものの、昨年は半導体部品不足の影響でロボットの制御に使用される部品の欠品が相次ぎ、納期が通常よりかなり遅れた時期があったという。
専門商社の高島(東京都千代田区)の100%子会社で香港に拠点を置くアイタックインターナショナルは、タイ法人のアイタックインターナショナル(タイランド)を通じて、東部チョンブリ県にある工場で白物家電メーカー向けに実装基板を製造している。アイタックインターナショナル(タイランド)の藤木雄心シニアマネジャーは「昨今の半導体不足で完全な安定供給は難しい中でも、弊社ネットワークと部品調達能力を生かして、比較的安定供給はできている」と話す。
日系以外にも影響は出ている。米グラビテックのタイ子会社グラビテック・タイ(タイランド)も必要な半導体を調達できず、車載用のプリント配線板の受注が減少。現在は、代替品を見つけることで対処している。関係者は「品質の維持に最新の注意を払っている」と話した。
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■半導体製造・検査装置にも影響
マレーシアのペナン島では6月21~23日に、東南アジア最大規模の半導体産業展示会「セミコン・東南アジア2022」が開催された。新型コロナ感染拡大の影響により会場での開催は3年ぶりで、日本企業を含む約250社が出展した。
米インテルが工場を持つなど、パッケージング(実装)やテスティング(検査)といった「後工程」が中心で、大手半導体製造装置メーカーの工場建設が相次いでいるマレーシアでは、半導体製造・検査装置の部品を展示する企業が目立った。
東南アジアの展示会への出展は初めてという東京計装(東京都港区)は、半導体の製造工程で液体やガスの量を測定する流量計を展示。国際事業本部・海外営業部の中野智久部長によると、流量計自体にも半導体が使用されているため、世界的な半導体不足により生産は影響を受けているという。
マレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場するQESグループ傘下で半導体検査装置を製造するQESメカトロニックも、半導体不足の影響を受けている。同社のオン・ムーンピン・シニアマネジャーは「早めに半導体を調達し、備蓄を確保するようにしているが、それでも4カ月~1年待ちの状態が続いている」と嘆く。
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■供給減の中での需要増
大和総研経済調査部の増川智咲エコノミストによると、半導体不足は、供給が減る中で需要が拡大したのが原因だ。
供給減少の要因には、米国による中国の半導体受託生産の中芯国際集成電路製造(SMIC)への制裁のほか、ルネサスエレクトロニクスの製造子会社工場の火災や台湾での干ばつによる水不足などが挙げられる。
一方、需要拡大要因としては、第5世代(5G)移動通信システム関連のインフラ投資やデータセンターなどの産業向けに加え、世界的な在宅勤務の増加に伴うパソコン(PC)やスマートフォンなどの需要拡大、想定を上回るペースでコロナ禍から回復した自動車産業が車載用半導体の注文を増加させたことが挙げられるという。
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