デンソーがインドでビッグデータを活用する事業の実証に乗り出した。コールドチェーン(低温物流)のインフラ整備が進んでいない同地で、食品電子商取引(EC)と物流業者を結ぶマーケットプレースを試験的に運用する。集めたデータから配送の需要予測や車両の稼働率引き上げを図り、低コストで質の高い低温物流の構築を狙う。インドでの開発後は、東南アジアや日本に展開する「リバースイノベーション」の実現を目指す。[2370977_1.jpg]
デンソーは4月、データを活用してインドの低温物流の課題解決を図る実証事業を開始した。実証するのは、安価な冷蔵冷凍配送を提供する「マーケットプレース」の事業性と、鮮度を見える化する「鮮度スコア」の開発だ。
インドでは、新型コロナウイルスの拡大を経て、食品のECが急速に普及した。デンソーの現地法人デンソー・インターナショナル・インドの渡辺伸也副社長(販売・営業担当)によると、食品ECの普及に伴い低温物流の需要は拡大しているが、冷蔵冷凍トラックなどのインフラの普及が進んでいないことが課題だ。
運搬中に一度腐ったものが再び冷蔵されて配送されたり、届けた先で長時間放置されて腐ったりする事例が発生している。デンソー・インターナショナル・インドで同事業を担当する守本剛ゼネラルマネジャーは「こうした社会の課題を解決し、安心安全な商品を届ける仕組みをデータの力でつくれるのではないかというのが事業を立ち上げた背景」と説明した。
■14時間稼働でコスト同等に
マーケットプレースは、食品や医薬品のECのラストマイル配送(購入者の手元までの配送)がターゲットだ。冷蔵冷凍品を配送したいEC事業者などの荷主と、物流業者をマッチングする。デンソーはEC事業者から得る輸送料と、物流業者への支払いの差額で利益を得る。
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インドでのECの冷凍冷蔵配送は、保冷剤の使用が一般的となっている。その要因になっているのが、冷蔵冷凍車両での配送との価格差だ。守本氏によると、保冷剤と冷凍冷蔵トラックの配送コストの差は3~4倍。マーケットプレースでは、配送の需要や車両の位置情報などのデータを分析して車両の稼働率を上げることで、この差を埋めることを目指す。「車両の稼働時間を1日14時間にのばすことができれば、保冷剤での輸送と同等のコストになる」と守本氏は分析する。
実証事業では、冷凍冷蔵装置を搭載したトラック(四輪車)6台、三輪車5台、二輪車20台を使って検証する。四輪車のうち2台は、イセ食品による北部での鶏卵の輸送向けに使用。そのほかの車両は南部のベンガルール(バンガロール)で運用している。
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■配送中の鮮度も評価
マーケットプレースの構築のほか、実証事業では鮮度スコアの開発も目指す。配送車両に取り付けたセンサーから集めた温度や振動の情報や顧客の意見に基づき、各配送で鮮度をどれだけ保てたかを評価する。
鮮度スコアが開発できれば、価格がネックになって導入が進まない冷凍冷蔵車両での配送の価値を可視化できる。また、食品ECを利用して鮮度に不満があった場合、多くの消費者は理由を伝えずに他社のECに移行する傾向があることから、鮮度スコアの導入でECの離脱率の低減につなげることを狙う。
センサーや冷蔵冷凍設備などはデンソー製にこだわらない。デンソーの技術を活用するのは、あくまでデータ解析の部分だ。具体的には、配送の需要予測や物流業者の位置情報などに基づくマッチングのアルゴリズム、センサーによる商品管理や配送ルートの最適化といったオペレーションの改善で、同社が持つ技術を活用する。
■タイなどへの展開を目指す
「データを活用した低温物流事業は、インドと東南アジアが連携したデンソーの新規ビジネス『データドリブンビジネス』の初事業だ」——守本氏はそう語る。
狙うのはインドなど社会インフラが未整備の新興国での開発を通じた「リープフロッグ型」イノベーション。インドの豊富なエンジニア人材を活用してソフトウエアを開発し、海外展開する事業モデルを検証する。
インド国外への事業展開では、タイとインドネシアへの展開を見据えている。データドリブンビジネスがインド・東南アジアの連動事業であることと、両国の低温物流市場の規模が大きいことが理由だ。特にインドネシアでは、デンソーが出資するスタートアップ企業のグローバルモビリティサービス(GMS、東京都港区)が低温物流事業を一部で手がけていることから、実証事業での試験的な展開先に選んだ。最終的には日本や米国を含めた先進国に展開し、リバースイノベーションの実現を目指していく。
■将来的には上流にも参入
将来的にはデータを活用した事業を低温物流の供給網全体に広げていきたい考えだ。
例えばラストマイル配送の前段階では、EC事業者が商品を検査して粗悪品をはじくことで、安心安全を担保している。これはフードロスにもつながっており、ラストマイルの前工程にも参入できればフードロス問題の解決にも貢献できる。
守本氏は「われわれはラストマイルから入っていくが、データ解析という切り口で、将来的には倉庫などを含めてどんどん上流に向かっていきたい」と展望を語った。
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運搬中に一度腐ったものが再び冷蔵されて配送されたり、届けた先で長時間放置されて腐ったりする事例が発生している。デンソー・インターナショナル・インドで同事業を担当する守本剛ゼネラルマネジャーは「こうした社会の課題を解決し、安心安全な商品を届ける仕組みをデータの力でつくれるのではないかというのが事業を立ち上げた背景」と説明した。
■14時間稼働でコスト同等に
マーケットプレースは、食品や医薬品のECのラストマイル配送(購入者の手元までの配送)がターゲットだ。冷蔵冷凍品を配送したいEC事業者などの荷主と、物流業者をマッチングする。デンソーはEC事業者から得る輸送料と、物流業者への支払いの差額で利益を得る。
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■配送中の鮮度も評価
マーケットプレースの構築のほか、実証事業では鮮度スコアの開発も目指す。配送車両に取り付けたセンサーから集めた温度や振動の情報や顧客の意見に基づき、各配送で鮮度をどれだけ保てたかを評価する。
鮮度スコアが開発できれば、価格がネックになって導入が進まない冷凍冷蔵車両での配送の価値を可視化できる。また、食品ECを利用して鮮度に不満があった場合、多くの消費者は理由を伝えずに他社のECに移行する傾向があることから、鮮度スコアの導入でECの離脱率の低減につなげることを狙う。
センサーや冷蔵冷凍設備などはデンソー製にこだわらない。デンソーの技術を活用するのは、あくまでデータ解析の部分だ。具体的には、配送の需要予測や物流業者の位置情報などに基づくマッチングのアルゴリズム、センサーによる商品管理や配送ルートの最適化といったオペレーションの改善で、同社が持つ技術を活用する。
■タイなどへの展開を目指す
「データを活用した低温物流事業は、インドと東南アジアが連携したデンソーの新規ビジネス『データドリブンビジネス』の初事業だ」——守本氏はそう語る。
狙うのはインドなど社会インフラが未整備の新興国での開発を通じた「リープフロッグ型」イノベーション。インドの豊富なエンジニア人材を活用してソフトウエアを開発し、海外展開する事業モデルを検証する。
インド国外への事業展開では、タイとインドネシアへの展開を見据えている。データドリブンビジネスがインド・東南アジアの連動事業であることと、両国の低温物流市場の規模が大きいことが理由だ。特にインドネシアでは、デンソーが出資するスタートアップ企業のグローバルモビリティサービス(GMS、東京都港区)が低温物流事業を一部で手がけていることから、実証事業での試験的な展開先に選んだ。最終的には日本や米国を含めた先進国に展開し、リバースイノベーションの実現を目指していく。
■将来的には上流にも参入
将来的にはデータを活用した事業を低温物流の供給網全体に広げていきたい考えだ。
例えばラストマイル配送の前段階では、EC事業者が商品を検査して粗悪品をはじくことで、安心安全を担保している。これはフードロスにもつながっており、ラストマイルの前工程にも参入できればフードロス問題の解決にも貢献できる。
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