香港生まれの青年が趣味で開発を始めたメモ帳アプリがいま、世界で1,900万人に利用されている。その名は「グッドノート」。大学で数学を専攻していた創業者の陳浩銓(スティーブン・チャン)氏は2010年、米アップルがタブレット端末「iPad(アイパッド)」を発売したことに触発されて開発を開始。大量の紙を使って行う自身の研究を効率化する目的で始めたが、ユーザーが増えたためビジネスを本格化した。成功の秘訣(ひけつ)は「豊富な開発人材」と語る陳氏に、創業の経緯や今後の展望を聞いた。
——創業の経緯は。
英国在住の創業者、陳氏がオンラインでNNAの取材に応じた(本人提供)
アイパッドが発売されたことがきっかけだった。オーストラリアの大学で数学と物理を学んでいた当時、数式の修正の繰り返しで大量の紙を浪費し、それらを保管しなければならないことがストレスだった。卒業まであと1年というときにアイパッドが発売され、ノートをデジタル化して紙を減らしたいと触発された。
プログラミングが趣味だったのと、当時リリースされていたほかのメモ帳アプリに満足できなかったことが動機になりアプリ開発を始めた。一学生として、もっと優れたアプリを使いたかった。当初は本格的な事業にしようとは思っておらず、5~6年は1人だけで開発に取り組んだ。
——グッドノートのビジネスモデルと特徴は。
当初は0.99米ドル(現在のレートで約140円)、現在は香港なら68HKドル(約1,210円)を1回支払えば使い放題としている。
サブスクリプション(定期課金制)にしなかったのは、より多くの人に全ての機能を使ってほしいから。その延長線で、学生に広めるために一定量を無料で使えるトライアルも用意している。
グッドノートは手書き入力のアプリ。手書きの感覚をそのままデジタルに落とし込むため、ペンの種類や、正確な書き心地といったクオリティーを重視している。もちろんテキストを打ち込むことも可能。PDFやワード、パワーポイントなどのドキュメントを読み込んで手書きで注釈を付けたり、ユーザー間でノートを共有して共同編集したり、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」でノートを表示して板書をしながらオンライン授業をできたり、便利で優れた機能を多く搭載している。
繁華街の尖沙咀に香港オフィスを構える=10月(NNA撮影)
——ビジネスとして本腰を入れたきっかけは。
アップルから15年にiPadのための入力用ペン「アップルペンシル」が発売されると、売上高が一気に2倍に膨れあがった。グッドノートはニッチなアプリから大衆アプリになり、趣味の延長だった事業は一大ビジネスに一変した。
——運営は黒字なのか。
グッドノートは英語や中国語、日本語など多言語に対応し、中学生から大人まで1,900万人に利用されるまでになった。初期から利益があり、黒字経営が続いている。
だからこそ約120人いる従業員の勤務形態をフレックス制とし、自由に研究してもらうことができる。自由な研究の成果として、優れた機能が生まれると考えている。
——成功の秘訣と、事業を進める上での苦労は。
何かを実行したり完成させたりするまでに必要な時間と技術を把握し、計画を立てて事業を進めること。その上で、最も重要なのが人材だ。
挑戦的な新機能を絶えず開発し、維持するためには多くの人材が必要で、当社には機械学習ツール、手書き認識システム、音声認識システムなど機能ごとに開発チームがある。開発人材は従業員の4割を占めていて、この比率は今後も維持していく。
苦労も、人材と技術の掌握にある。グッドノートはアップルの基本ソフト(OS)にしか対応していない。米マイクロソフトのOS「ウィンドウズ」版と米グーグルのスマートフォン向けOS「アンドロイド」版の開発には数年を要し、来年やっとリリースできる見通しとなった。
リラックスして開発に取り組める環境を重視し、オフィスにはカフェ・バースペースも併設=10月、尖沙咀(NNA撮影)
——ロンドン本社の設置も人材確保のためとか。
会社の規模が大きくなり、香港や中国本土以外の人材を引き入れる必要性を感じたため、20年末に本社を香港からロンドンに移転した。ロンドンはIT企業や最新技術が集積する都市であり、英語圏なので香港のチームとの一体化も容易だ。欧州での事業成長が他地域より速かったことも移転を後押しした。
香港はアジア本部として引き続き機能している。日本とシンガポール、ベトナムでも人材を雇用し、各国からリモートワークで開発に加わってもらっている。
——今後の戦略や目標は。
学習や教育に関するアプリは科目や目的によって細かく分かれているが、多くの科目・用途をグッドノートに統合し、学生に最も選ばれるアプリにすることを目指している。
例えば手書きの数式を検知する機能、ノートに書いた数式を解く機能、音声入力機能などは既に追加が決まっている。学習には他者との交流が不可欠なので、ユーザー同士の交流を促すチャット、コメント機能も開発し、交流サイト(SNS)としても機能させていく。世界の大学や教育機関との連携計画もあるので、国内外の教育界をつなげる役割を担いたい。
そういったアプリを作ることでユーザーにより良い学習体験を与え、特に科学技術分野の人材育成において、社会的なインパクトを与えることができればと思っている。(聞き手=蘇子善)
<会社概要>
グッドノート
08年設立。11年にアップルのアプリストア「アップストア」でメモ帳アプリ「グッドノート」の販売を開始した。ロンドンと香港に拠点を置き、従業員数は約120人。23年にはウィンドウズ版とアンドロイド版の販売を開始する予定。
21年の市場規模が約57億6,000万米ドルのメモ帳アプリ市場で、グッドノートは20社前後とされる主要プレーヤーの一つに数えられる。「エバーノート」「グーグル・キープ」、マイクロソフトの「ワンノート」など競合がひしめく中で学生を中心に一定の地位を確立し、1,900万人に利用されている。充実した機能は特にITや数学、デザイン、医薬、科学を学ぶ学生に定評がある。
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——創業の経緯は。[caption id="attachment_10159" align="aligncenter" width="620"]英国在住の創業者、陳氏がオンラインでNNAの取材に応じた(本人提供)[/caption]
アイパッドが発売されたことがきっかけだった。オーストラリアの大学で数学と物理を学んでいた当時、数式の修正の繰り返しで大量の紙を浪費し、それらを保管しなければならないことがストレスだった。卒業まであと1年というときにアイパッドが発売され、ノートをデジタル化して紙を減らしたいと触発された。
プログラミングが趣味だったのと、当時リリースされていたほかのメモ帳アプリに満足できなかったことが動機になりアプリ開発を始めた。一学生として、もっと優れたアプリを使いたかった。当初は本格的な事業にしようとは思っておらず、5~6年は1人だけで開発に取り組んだ。
——グッドノートのビジネスモデルと特徴は。
当初は0.99米ドル(現在のレートで約140円)、現在は香港なら68HKドル(約1,210円)を1回支払えば使い放題としている。
サブスクリプション(定期課金制)にしなかったのは、より多くの人に全ての機能を使ってほしいから。その延長線で、学生に広めるために一定量を無料で使えるトライアルも用意している。
グッドノートは手書き入力のアプリ。手書きの感覚をそのままデジタルに落とし込むため、ペンの種類や、正確な書き心地といったクオリティーを重視している。もちろんテキストを打ち込むことも可能。PDFやワード、パワーポイントなどのドキュメントを読み込んで手書きで注釈を付けたり、ユーザー間でノートを共有して共同編集したり、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」でノートを表示して板書をしながらオンライン授業をできたり、便利で優れた機能を多く搭載している。
[caption id="attachment_10157" align="aligncenter" width="620"]繁華街の尖沙咀に香港オフィスを構える=10月(NNA撮影)[/caption]
——ビジネスとして本腰を入れたきっかけは。
アップルから15年にiPadのための入力用ペン「アップルペンシル」が発売されると、売上高が一気に2倍に膨れあがった。グッドノートはニッチなアプリから大衆アプリになり、趣味の延長だった事業は一大ビジネスに一変した。
——運営は黒字なのか。
グッドノートは英語や中国語、日本語など多言語に対応し、中学生から大人まで1,900万人に利用されるまでになった。初期から利益があり、黒字経営が続いている。
だからこそ約120人いる従業員の勤務形態をフレックス制とし、自由に研究してもらうことができる。自由な研究の成果として、優れた機能が生まれると考えている。
——成功の秘訣と、事業を進める上での苦労は。
何かを実行したり完成させたりするまでに必要な時間と技術を把握し、計画を立てて事業を進めること。その上で、最も重要なのが人材だ。
挑戦的な新機能を絶えず開発し、維持するためには多くの人材が必要で、当社には機械学習ツール、手書き認識システム、音声認識システムなど機能ごとに開発チームがある。開発人材は従業員の4割を占めていて、この比率は今後も維持していく。
苦労も、人材と技術の掌握にある。グッドノートはアップルの基本ソフト(OS)にしか対応していない。米マイクロソフトのOS「ウィンドウズ」版と米グーグルのスマートフォン向けOS「アンドロイド」版の開発には数年を要し、来年やっとリリースできる見通しとなった。
[caption id="attachment_10158" align="aligncenter" width="620"]リラックスして開発に取り組める環境を重視し、オフィスにはカフェ・バースペースも併設=10月、尖沙咀(NNA撮影)[/caption]
——ロンドン本社の設置も人材確保のためとか。
会社の規模が大きくなり、香港や中国本土以外の人材を引き入れる必要性を感じたため、20年末に本社を香港からロンドンに移転した。ロンドンはIT企業や最新技術が集積する都市であり、英語圏なので香港のチームとの一体化も容易だ。欧州での事業成長が他地域より速かったことも移転を後押しした。
香港はアジア本部として引き続き機能している。日本とシンガポール、ベトナムでも人材を雇用し、各国からリモートワークで開発に加わってもらっている。
——今後の戦略や目標は。
学習や教育に関するアプリは科目や目的によって細かく分かれているが、多くの科目・用途をグッドノートに統合し、学生に最も選ばれるアプリにすることを目指している。
例えば手書きの数式を検知する機能、ノートに書いた数式を解く機能、音声入力機能などは既に追加が決まっている。学習には他者との交流が不可欠なので、ユーザー同士の交流を促すチャット、コメント機能も開発し、交流サイト(SNS)としても機能させていく。世界の大学や教育機関との連携計画もあるので、国内外の教育界をつなげる役割を担いたい。
そういったアプリを作ることでユーザーにより良い学習体験を与え、特に科学技術分野の人材育成において、社会的なインパクトを与えることができればと思っている。(聞き手=蘇子善)
<会社概要>
グッドノート
08年設立。11年にアップルのアプリストア「アップストア」でメモ帳アプリ「グッドノート」の販売を開始した。ロンドンと香港に拠点を置き、従業員数は約120人。23年にはウィンドウズ版とアンドロイド版の販売を開始する予定。
21年の市場規模が約57億6,000万米ドルのメモ帳アプリ市場で、グッドノートは20社前後とされる主要プレーヤーの一つに数えられる。「エバーノート」「グーグル・キープ」、マイクロソフトの「ワンノート」など競合がひしめく中で学生を中心に一定の地位を確立し、1,900万人に利用されている。充実した機能は特にITや数学、デザイン、医薬、科学を学ぶ学生に定評がある。"
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