NNAが実施した調査によると、アジア太平洋地域に進出する日系企業のうち2022年下半期(7~12月)の売上高が前年同期比で「増える」と予測しているのは全体の4割弱と、前年調査の5割強から減少したことが分かった。「減収見通し」とした企業は3割で、前年調査の2割から増加。特に年の瀬まで「ゼロコロナ政策」を続けた中国で業績回復の足取りが重い。
NNAの調査(22年12月6~12日に実施、有効回答数769件)では、22年下半期の業績について、増収を予測した企業が39.8%となった。増収の見通しは「減収になる」(31.5%)、「前年同期並み」(19.6%)よりも多く、アジア太平洋地域の日系企業の経営状況はおおむね安定していると言える。
一方で前年の調査結果と比べると、日系企業では新型コロナウイルス禍からの業績回復ペースが鈍化していることが見て取れる。
前年調査では、21年下半期の業績について「増収」を予測した企業が52.4%と、今回の調査より12.6ポイント多かった。「減収」予測は19.1%で、今回を12.4ポイント下回っていた。
21年下半期の好業績はコロナ禍に見舞われた前年の反動という側面があった。これに対し、22年下半期は中国を中心に再びコロナの影響が顕著に表れ、増収企業が減少する形となった。
22年下半期の業績見通しで、「増収になる」と回答した企業にその増収幅を聞いたところ、「10%~20%未満」が36.3%で最も多かった。これに「1%~10%未満」(26.5%)、「20%~30%未満」(16.3%)が続いた。「減収になる」と予測した企業の減収幅は「10%~20%未満」(32.2%)、「1%~10%未満」(22.3%)、「20%~30%未満」(20.7%)の順で多かった。
■企業の5割が減収、中国と香港
22年下半期の業績見通しを国・地域別に見ると、中国は「増収になる」と回答した企業が26.2%で、調査対象にした主な13カ国・地域の中で3番目に少なかった。「減収になる」は47.1%で2番目に多い。
中国では最大の経済都市である上海でのロックダウン(都市封鎖)が6月1日に解除されたものの、その後も各地で散発的なロックダウンや地域をまたいでの移動制限があり、経済活動に影響を与えた。
中国政府は12月7日になり各種制限を大幅に緩和してゼロコロナ政策を事実上撤回したが、回答企業からは「コロナ政策の影響で人々の購買意欲が下がっている」(四輪・二輪車・部品)、「コロナ禍による規制に伴い客先の投資の延期および中止が続いたため減収となった」(建設・不動産)、「2カ月のロックダウンによる事業停止の影響で減収」(石油・化学・エネルギー)と、ゼロコロナ政策が業績を押し下げる要因になったとの声が多数あった。
中国中央政府のゼロコロナ政策に歩調を合わせざるを得なかった香港では、中国本土との往来正常化は年内に実現せず、また入境者への強制隔離が撤廃されたのも9月26日と遅く、企業の業績に影を落とした。
香港では「増収になる」と回答した企業の比率は18.4%にとどまり、13カ国・地域で最低だった。一方で「減収になる」と予測した企業は51.0%と全体で最も多い。香港では減収の理由として「中国のロックダウンや物流の停滞」(貿易・商社)などが挙げられている。
台湾も「増収になる」との回答が21.7%、「減収になる」は39.1%と、業績は厳しいとみる企業の方が多かった。
台湾は10月13日になって入境時の隔離制度を撤廃したが、減収の理由を見ると「電子材料関連原料の受注が大幅に低迷」(貿易・商社)、「電子部品業界の設備投資削減」(電機・電子・半導体)など、半導体需要の一服感から電子産業が調整期に入り、自社の業績にも影響すると予想する企業が多かったようだ。
東アジアの中でも韓国は好業績を予測する企業が目立った。韓国で「増収になる」との回答は52.4%で、13カ国・地域の中で3番目に多かった。
韓国は6月1日から外国人向けの短期査証(ビザ)の発給を再開するなど比較的早い時期からコロナ規制の緩和を進めており、増収予測の理由では「コロナ禍の影響が改善され設備投資が増加した」(機械・機械部品)などがあった。
■インドネシアとインドで好業績目立つ
東南アジアと南アジアでは、インドネシアとインドで「増収になる」との回答比率がいずれも65.1%に達し、13カ国・地域中で最高となった。
インドネシアは4月6日に首都ジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港で到着時ビザの発給を再開し、海外との往来正常化を本格化させた。企業からは「コロナの影響からの回復が1番の増収理由」(四輪・二輪車・部品)、「個人消費が緩やかに回復している」(小売り・卸売り)と経済・社会が正常化に向かっていることを実感する声が多かった。「自動車およびバイクの生産回復」(鉄鋼・金属)など、自動車市場の好調が売り上げ増につながっているとする企業も目立った。
インドでは8月8日付で、日本から渡航する際に求められていたPCR検査が不要になった。11月22日からはワクチン2回接種の証明書がなくても入国可能になるなど、下半期に水際対策の緩和が一気に進んだ。
企業の増収理由もコロナ禍からの回復を挙げる内容が多く「コロナ禍からの生産活動の回復」(機械・機械部品)、「堅調な国内需要に支えられている」(その他の製造業)、「インド企業の活況」(運搬・倉庫)などがあった。
タイも「増収になる」との回答が46.2%と多い。タイは5月1日から入国時に義務づけていたPCR検査を廃止。6月1日からは2年ぶりにバーやパブ、カラオケ店の営業再開を認めるなど、コロナ関連規制の見直しを進めてきた。
タイでの増収の要因としては「コロナ明けの景気伸長により」(その他の非製造業)とコロナ禍からの経済全体の回復を挙げる内容のほか、「コロナや半導体不足の影響の減退」(四輪・二輪車・部品)、「コロナ影響による半導体不足が前年に比較して回復している」(四輪・二輪車・部品)と、自動車産業を中心に半導体供給が復調し、これが増収につながっているとする分析が多かった。
ベトナムとフィリピンも増収を予測する企業が4割を超えた。ベトナムで「増収になる」と答えた企業は42.5%、フィリピンは48.7%だった。
増収の理由としては「21年のロックダウンの反動」(ベトナム/その他の製造業)、「業界の景気が上向いているため、日本への輸出が増える」(ベトナム/電機・電子・半導体)、「海外顧客の需要増から」(フィリピン/電機・電子・半導体)などが挙げられた。
シンガポールとマレーシアは、他の東南アジアの国と比べ業績が振るわなかったとする回答が目立った。「増収になる」との回答はシンガポール、マレーシアともに29.4%で、13カ国・地域のうちでは香港と台湾、中国に次いで低い。
両国はいずれも4月1日から入国規制を大幅に緩和したが、「需要減と為替の影響」(シンガポール/貿易・商社)、「顧客の生産量減に伴う販売数量減」(シンガポール/石油・化学・エネルギー)、「小売り向けの売り上げが減少しているため」(シンガポール/食品・飲料)、「仕入れや輸送費などの値上がり」(マレーシア/機械・機械部品)、「許認可の遅れ、設計変更による売り上げ減少」(マレーシア/建設・不動産)、「原料高の価格転嫁ができておらず、(影響が)遅れてやってきている」(マレーシア/石油・化学・エネルギー)などコロナ禍が過ぎても為替や消費冷え込み、原料価格上昇などに足を引っ張られている企業の様子がうかがえた。
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一方で前年の調査結果と比べると、日系企業では新型コロナウイルス禍からの業績回復ペースが鈍化していることが見て取れる。
前年調査では、21年下半期の業績について「増収」を予測した企業が52.4%と、今回の調査より12.6ポイント多かった。「減収」予測は19.1%で、今回を12.4ポイント下回っていた。
21年下半期の好業績はコロナ禍に見舞われた前年の反動という側面があった。これに対し、22年下半期は中国を中心に再びコロナの影響が顕著に表れ、増収企業が減少する形となった。
22年下半期の業績見通しで、「増収になる」と回答した企業にその増収幅を聞いたところ、「10%~20%未満」が36.3%で最も多かった。これに「1%~10%未満」(26.5%)、「20%~30%未満」(16.3%)が続いた。「減収になる」と予測した企業の減収幅は「10%~20%未満」(32.2%)、「1%~10%未満」(22.3%)、「20%~30%未満」(20.7%)の順で多かった。
■企業の5割が減収、中国と香港
22年下半期の業績見通しを国・地域別に見ると、中国は「増収になる」と回答した企業が26.2%で、調査対象にした主な13カ国・地域の中で3番目に少なかった。「減収になる」は47.1%で2番目に多い。
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香港では「増収になる」と回答した企業の比率は18.4%にとどまり、13カ国・地域で最低だった。一方で「減収になる」と予測した企業は51.0%と全体で最も多い。香港では減収の理由として「中国のロックダウンや物流の停滞」(貿易・商社)などが挙げられている。
台湾も「増収になる」との回答が21.7%、「減収になる」は39.1%と、業績は厳しいとみる企業の方が多かった。
台湾は10月13日になって入境時の隔離制度を撤廃したが、減収の理由を見ると「電子材料関連原料の受注が大幅に低迷」(貿易・商社)、「電子部品業界の設備投資削減」(電機・電子・半導体)など、半導体需要の一服感から電子産業が調整期に入り、自社の業績にも影響すると予想する企業が多かったようだ。
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韓国は6月1日から外国人向けの短期査証(ビザ)の発給を再開するなど比較的早い時期からコロナ規制の緩和を進めており、増収予測の理由では「コロナ禍の影響が改善され設備投資が増加した」(機械・機械部品)などがあった。
■インドネシアとインドで好業績目立つ
東南アジアと南アジアでは、インドネシアとインドで「増収になる」との回答比率がいずれも65.1%に達し、13カ国・地域中で最高となった。
インドネシアは4月6日に首都ジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港で到着時ビザの発給を再開し、海外との往来正常化を本格化させた。企業からは「コロナの影響からの回復が1番の増収理由」(四輪・二輪車・部品)、「個人消費が緩やかに回復している」(小売り・卸売り)と経済・社会が正常化に向かっていることを実感する声が多かった。「自動車およびバイクの生産回復」(鉄鋼・金属)など、自動車市場の好調が売り上げ増につながっているとする企業も目立った。
インドでは8月8日付で、日本から渡航する際に求められていたPCR検査が不要になった。11月22日からはワクチン2回接種の証明書がなくても入国可能になるなど、下半期に水際対策の緩和が一気に進んだ。
企業の増収理由もコロナ禍からの回復を挙げる内容が多く「コロナ禍からの生産活動の回復」(機械・機械部品)、「堅調な国内需要に支えられている」(その他の製造業)、「インド企業の活況」(運搬・倉庫)などがあった。
タイも「増収になる」との回答が46.2%と多い。タイは5月1日から入国時に義務づけていたPCR検査を廃止。6月1日からは2年ぶりにバーやパブ、カラオケ店の営業再開を認めるなど、コロナ関連規制の見直しを進めてきた。
タイでの増収の要因としては「コロナ明けの景気伸長により」(その他の非製造業)とコロナ禍からの経済全体の回復を挙げる内容のほか、「コロナや半導体不足の影響の減退」(四輪・二輪車・部品)、「コロナ影響による半導体不足が前年に比較して回復している」(四輪・二輪車・部品)と、自動車産業を中心に半導体供給が復調し、これが増収につながっているとする分析が多かった。
ベトナムとフィリピンも増収を予測する企業が4割を超えた。ベトナムで「増収になる」と答えた企業は42.5%、フィリピンは48.7%だった。
増収の理由としては「21年のロックダウンの反動」(ベトナム/その他の製造業)、「業界の景気が上向いているため、日本への輸出が増える」(ベトナム/電機・電子・半導体)、「海外顧客の需要増から」(フィリピン/電機・電子・半導体)などが挙げられた。
シンガポールとマレーシアは、他の東南アジアの国と比べ業績が振るわなかったとする回答が目立った。「増収になる」との回答はシンガポール、マレーシアともに29.4%で、13カ国・地域のうちでは香港と台湾、中国に次いで低い。
両国はいずれも4月1日から入国規制を大幅に緩和したが、「需要減と為替の影響」(シンガポール/貿易・商社)、「顧客の生産量減に伴う販売数量減」(シンガポール/石油・化学・エネルギー)、「小売り向けの売り上げが減少しているため」(シンガポール/食品・飲料)、「仕入れや輸送費などの値上がり」(マレーシア/機械・機械部品)、「許認可の遅れ、設計変更による売り上げ減少」(マレーシア/建設・不動産)、「原料高の価格転嫁ができておらず、(影響が)遅れてやってきている」(マレーシア/石油・化学・エネルギー)などコロナ禍が過ぎても為替や消費冷え込み、原料価格上昇などに足を引っ張られている企業の様子がうかがえた。"
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