育児用品大手ピジョンのマレーシア法人ピジョン・マレーシアは、2030年までに同国のベビー用品市場でシェア首位を狙い、年間売上高1億リンギ(約30億円)の達成を目指す。22年の売上高と純利益は、新型コロナウイルス感染症の流行前の19年を20%上回った。21年比でも売り上げ、収益ともに30%拡大しており、今後はブランディングをさらに強化する。【笹沼帆奈望】
ピジョン・マレーシアでは、哺乳瓶と哺乳瓶乳首の売り上げが全体の6割強を占める=スランゴール州(NNA撮影)
「おしりふき」や「おむつ洗剤」などを除く売上高の8割は哺乳瓶、哺乳瓶乳首、オーラルケア製品、母乳育児、スキンケアの5分野で構成される。一番の売れ筋は哺乳瓶で、単価は2,000円相当。
売り上げ好調の背景には、小売店の展開で日本でも成功した販促を実践していることがある。商品陳列の際に、同じカテゴリーの製品を集めたブロックを作り、自社の製品に対象の新生児の月齢などを記したPOP広告を貼ることで商品をアピールする方法だ。オーラルケア製品はこの戦略を300店舗で展開し、売上高を年30%ずつ伸ばしている。
ピジョン・マレーシアの小泉剛一マネジングディレクターは、マレーシアは日本と比べると歯科検診なども義務化されておらず、オーラルケアの意識が低い傾向にあると指摘。「オーラルケアは赤ん坊のころから行う必要があると啓発することに重点を置く、日本で行ってきた販売手法を実践した」と話す。
オーラルケア製品は、同じカテゴリーの製品を集めたブロックを作り、その中で自社の製品にPOP広告を貼ることでアピールする戦略により、売上高を年30%ずつ伸ばしている(ピジョン提供)
同様の戦略で、母乳育児関連の商品や乳児用のスキンケア商品も販売。マレーシアは、過度の母乳代替製品の広がりを規制する世界保健機関(WHO)のガイドラインを推奨している。そのため、哺乳瓶といった人工物は積極的な広告が出せないが、さく乳器などは母乳育児を支援する製品として宣伝できる。そのことを認識してもらうためのアピールを行うことで、哺乳瓶と哺乳瓶乳首の売り上げは全体の6割強を占めるようになった。
現在、ピジョン製品を取り扱う小売店や薬局は約1,000店舗。このうち薬局については、他社ブランドを取り扱っていた店にも食い込み、現在は400店舗に拡大した。
小泉氏によると、マレーシアは外資の参入障壁が低いため、競合も増えやすい。そのため、直近の3、4年は基盤固めとして商品取扱店を増やすことなどに専念していたという。
オンラインでは、小売店から返品された商品で包装材の破損などがあるものの品質に問題がないものを、自社の電子商取引(EC)でアウトレット商品として値下げ販売している。こうした再販売は今ではECの売上高の1割を占めているという。
また、病院や産婦人科医院での取り扱いも拡大している。新型コロナ流行前の19年は首都圏の病院しかカバーできていなかったが、病産院ルート開拓のために一部外部へ業務委託をしたことで全土に拡大することができた。マレー系の人口が多い東マレーシアでは、約8割の病院・産婦人科医院で商品が取り扱われるようになった。主力製品である哺乳瓶や哺乳瓶乳首は国内全域の私立病院120カ所で導入されている。
現在はブランディングのため、病院・産婦人科医院の医師・看護師への育児教育プログラムを実施。マレーシア初の母乳バンク立ち上げに関する活動も開始している。
歯科クリニックでは、オーラルケア製品の販促を進める。23年末までに300のクリニックで取り扱ってもらうことを目標としている。製品の信頼度を通院者にも広め、店舗での再購入につなげる狙いだ。
■売り上げ拡大とブランディング強化
今後は、売り上げの拡大とブランディングの活動を両輪で強化する方針。マレーシアの出生数は22年に47万人となり、新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)実施前の49万人からは減ったが、下げ止まっているという。民族別では、中華系とインド系の出生数が減少している一方で、マレー系が増加している。
小泉氏は「売上高を拡大させるためには、(人口が最も多い)マレー系の顧客を増やす必要がある」と指摘。マレー系が多く住むマレー半島の東海岸や北部、東マレーシアでの事業を強化していく方針だ。
マレー系の顧客獲得においては、ハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得した商品ラインアップの拡充が鍵になる。「スピード感を持って製品を開発し、ローカライズした新商品を発売していきたい」と小泉氏。「消費者のライフスタイルに合った商品に『ピジョンらしさ』といった付加価値を加え、育児生活を楽しくできるような商品を提供していきたい」と意気込む。
「売り上げの拡大とブランディングの活動を両輪で進める必要がある」と話すピジョン・マレーシアの小泉マネジングディレクター=スランゴール州(NNA撮影)
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売り上げ好調の背景には、小売店の展開で日本でも成功した販促を実践していることがある。商品陳列の際に、同じカテゴリーの製品を集めたブロックを作り、自社の製品に対象の新生児の月齢などを記したPOP広告を貼ることで商品をアピールする方法だ。オーラルケア製品はこの戦略を300店舗で展開し、売上高を年30%ずつ伸ばしている。
ピジョン・マレーシアの小泉剛一マネジングディレクターは、マレーシアは日本と比べると歯科検診なども義務化されておらず、オーラルケアの意識が低い傾向にあると指摘。「オーラルケアは赤ん坊のころから行う必要があると啓発することに重点を置く、日本で行ってきた販売手法を実践した」と話す。
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現在、ピジョン製品を取り扱う小売店や薬局は約1,000店舗。このうち薬局については、他社ブランドを取り扱っていた店にも食い込み、現在は400店舗に拡大した。
小泉氏によると、マレーシアは外資の参入障壁が低いため、競合も増えやすい。そのため、直近の3、4年は基盤固めとして商品取扱店を増やすことなどに専念していたという。
オンラインでは、小売店から返品された商品で包装材の破損などがあるものの品質に問題がないものを、自社の電子商取引(EC)でアウトレット商品として値下げ販売している。こうした再販売は今ではECの売上高の1割を占めているという。
また、病院や産婦人科医院での取り扱いも拡大している。新型コロナ流行前の19年は首都圏の病院しかカバーできていなかったが、病産院ルート開拓のために一部外部へ業務委託をしたことで全土に拡大することができた。マレー系の人口が多い東マレーシアでは、約8割の病院・産婦人科医院で商品が取り扱われるようになった。主力製品である哺乳瓶や哺乳瓶乳首は国内全域の私立病院120カ所で導入されている。
現在はブランディングのため、病院・産婦人科医院の医師・看護師への育児教育プログラムを実施。マレーシア初の母乳バンク立ち上げに関する活動も開始している。
歯科クリニックでは、オーラルケア製品の販促を進める。23年末までに300のクリニックで取り扱ってもらうことを目標としている。製品の信頼度を通院者にも広め、店舗での再購入につなげる狙いだ。
■売り上げ拡大とブランディング強化
今後は、売り上げの拡大とブランディングの活動を両輪で強化する方針。マレーシアの出生数は22年に47万人となり、新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)実施前の49万人からは減ったが、下げ止まっているという。民族別では、中華系とインド系の出生数が減少している一方で、マレー系が増加している。
小泉氏は「売上高を拡大させるためには、(人口が最も多い)マレー系の顧客を増やす必要がある」と指摘。マレー系が多く住むマレー半島の東海岸や北部、東マレーシアでの事業を強化していく方針だ。
マレー系の顧客獲得においては、ハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を取得した商品ラインアップの拡充が鍵になる。「スピード感を持って製品を開発し、ローカライズした新商品を発売していきたい」と小泉氏。「消費者のライフスタイルに合った商品に『ピジョンらしさ』といった付加価値を加え、育児生活を楽しくできるような商品を提供していきたい」と意気込む。
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