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NEV専業化で大躍進BYD、世界企業へと変貌(1)

広東省深セン市に本拠を構える自動車メーカー、比亜迪(BYD)が昨年から今年にかけ、大きな変貌を遂げた。これまでは「新エネルギー車(NEV)」に強い中国メーカーという存在だったが、NEVの世界的メーカーと言えるまでに急成長。ガソリン車の生産・販売を停止してNEVのみに特化したことを契機に、国内外で快進撃を続けている。【広州・川杉宏行】
2022年はBYDにとってメモリアルな1年となった。BYDは同年3月にガソリン車の生産・販売を停止。ガソリン車を打ち切って、NEVに専念した自動車メーカーはBYDが世界で初めてとされる。
「脱ガソリン車」宣言が快進撃の号砲となり、22年3月から10カ月連続で単月販売台数が過去最高を更新。22年通年の販売台数は前年比2.5倍の約187万台と、同社として初めて年間販売台数が100万台を超えた。
22年の電気自動車(EV)の世界販売は、米テスラ(約131万台)に次ぐ2位(約91万台)を記録。EVとプラグインハイブリッド車(PHV)を合わせた電動車の世界販売ではテスラを押さえて1位(約186万台)となり、名実ともに世界的なNEVメーカーへと変貌を遂げた。

BYDがいち早く脱ガソリン車にかじを切った意味はどこにあるのか。複数の業界関係者は「中国は遅かれ早かれ、ガソリン車からNEVに移行する。その先陣を切ったのがBYDだ」と口をそろえる。
自動車の専門家組織、中国自動車工程学会が20年に作成したNEVに関する技術ロードマップ(行程表)では、国内の新車販売に占める内燃機関車(ガソリン車とディーゼル車)の比率について、25年に40%、30年に15%、35年には0%とする道筋を示した。ロードマップは中国政府が正式決定したものではないが、政府の方針を色濃く反映しているとされ、中国では「脱ガソリン車は既定路線」とみられている。

三菱UFJ銀行がまとめた中国の電動車の普及見通しによると、35年の国内新車販売に占めるパワートレイン別の比率は、内燃機関車が0%、燃料電池車(FCV)が1%、PHVが15%、ハイブリッド車(HV)が32%、EVが51%となり、NEV(FCV、PHV、EV)が67%を占めると予測した。
BYDの脱ガソリン車の動きはこうした将来像を先取りしたものと受け止められている。BYDの幹部は中国メディアに「ガソリン車の生産・販売の停止は、王伝福董事長の長期的な戦略を見通す眼力によるもの」と説明した。
■小さな町工場からスタート
BYDは初めから完成車メーカーだったわけではない。
BYDの設立は1995年2月。従業員約20人の小さな町工場からのスタートだった。設立当初は、電池の生産や携帯電話の組み立てなどを手がけていた。自動車分野に参入したのは03年。初の量産車(ガソリン車)「F3」を発売したのは05年、初のEV「e6」の発売は09年だ。ただ00年代のBYDへの市場評価は決して高いものではなかった。
車載電池に詳しい業界関係者は、かつてのBYD車について「高いクルマを買えない人が買うイメージ」で、「安さが取りえ」との印象だったという。それが現在は「コストパフォーマンスの良いクルマへとイメージが変わった」と話す。BYD車の性能が上がったとの評価だ。
中国自動車市場をよく知る日本人関係者は、BYDが市場の評価を変える転機となったのが10年代に投入した「王朝」シリーズだとみている。
王朝シリーズは車名に中国の歴代王朝の名を冠した車種で、13年12月に発売したセダン「秦」を皮切りに、スポーツタイプ多目的車(SUV)の「唐」、「元」、「宋」(宋の一部モデルは多目的車=MPV)と、次々に新車種を市場に投入していった。王朝シリーズの最も新しい車種は20年7月に投入したセダン「漢」となる。
■若者もターゲットに
王朝シリーズは重厚な雰囲気の内装が特徴で、それが中高年層に受けた。一方で、BYDは近年、若者を意識したクルマ造りにも注力しており、時代の流れを取り入れたデザインの車種を積極的に投入している。
中でも海にちなんだ車名を冠した「海洋」シリーズにその傾向が強く表れている。22年7月に発売したセダン「海豹(シール)」はシャープでスポーティーなデザインが特徴で、「今どきのクルマ」に仕上げた。
BYDの幹部は「海洋シリーズの買い手の大部分が30歳前後の若者」と説明。「見た目や内装の色合いなど、若者の審美眼にかなっている」と自信をのぞかせた。
広州日本商工会の前会長で、中国の自動車事情に詳しい小泉大祐氏は「BYDはターゲットを若者だけに絞っているわけではないが、若者も意識したクルマ造りを進めている」とみている。BYDはこれまで同社製品を支持してきた中高年層に加え、若者層も取り込むことで、販売の裾野を広げる狙いとの見立てだ。
BYDは今、日本でも話題だ。今年1月に発売した日本への投入車種第1弾のSUV「ATTO3(アットスリー、中国名:元プラス)」がきっかけとなり、注目が集まっている。
日本投入第1弾となったアットスリーは、車体の凹凸をうまく生かした隙のないデザインを実現しており、これが日本でも一定の評価を受けているようだ。
こうした車体のデザインを担当しているのが、BYDが深セン市に設けた「グローバルデザインセンター」。19年に完成し、300人のデザイナーと100人の外部設計スタッフが同時に作業できるスペースを有する大型施設だ。欧州からデザイナーを招いているとされ、完成度の高いデザインを追求し、BYDの快進撃を陰で支えている。
BYDの製品ラインアップは現在、躍進の基礎を築いた「王朝」ブランド、若者を意識した「海洋」ブランド、てこ入れを図る「騰勢」ブランド、超高級車の「仰望」ブランドの4ブランドで構成されている。
BYDは年内に、5ブランド目となる「専門性が高く個性的な新ブランド」を立ち上げると明らかにしており、あらゆる消費者のニーズに対応していく構えだ。

若者向けにデザインしたEV「海豹(シール)」

<メモ>
「新エネルギー車(NEV)」:NEVは「New Energy Vehicle」の略。中国政府の規定では、NEVはEV、PHV、FCVを指し、HVは含まない。中国ではEVを主力とするNEVメーカーが多いが、BYDはEV、PHVのどちらにも強いのが特徴。

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2022年はBYDにとってメモリアルな1年となった。BYDは同年3月にガソリン車の生産・販売を停止。ガソリン車を打ち切って、NEVに専念した自動車メーカーはBYDが世界で初めてとされる。
「脱ガソリン車」宣言が快進撃の号砲となり、22年3月から10カ月連続で単月販売台数が過去最高を更新。22年通年の販売台数は前年比2.5倍の約187万台と、同社として初めて年間販売台数が100万台を超えた。
22年の電気自動車(EV)の世界販売は、米テスラ(約131万台)に次ぐ2位(約91万台)を記録。EVとプラグインハイブリッド車(PHV)を合わせた電動車の世界販売ではテスラを押さえて1位(約186万台)となり、名実ともに世界的なNEVメーカーへと変貌を遂げた。

BYDがいち早く脱ガソリン車にかじを切った意味はどこにあるのか。複数の業界関係者は「中国は遅かれ早かれ、ガソリン車からNEVに移行する。その先陣を切ったのがBYDだ」と口をそろえる。
自動車の専門家組織、中国自動車工程学会が20年に作成したNEVに関する技術ロードマップ(行程表)では、国内の新車販売に占める内燃機関車(ガソリン車とディーゼル車)の比率について、25年に40%、30年に15%、35年には0%とする道筋を示した。ロードマップは中国政府が正式決定したものではないが、政府の方針を色濃く反映しているとされ、中国では「脱ガソリン車は既定路線」とみられている。

三菱UFJ銀行がまとめた中国の電動車の普及見通しによると、35年の国内新車販売に占めるパワートレイン別の比率は、内燃機関車が0%、燃料電池車(FCV)が1%、PHVが15%、ハイブリッド車(HV)が32%、EVが51%となり、NEV(FCV、PHV、EV)が67%を占めると予測した。
BYDの脱ガソリン車の動きはこうした将来像を先取りしたものと受け止められている。BYDの幹部は中国メディアに「ガソリン車の生産・販売の停止は、王伝福董事長の長期的な戦略を見通す眼力によるもの」と説明した。
■小さな町工場からスタート
BYDは初めから完成車メーカーだったわけではない。
BYDの設立は1995年2月。従業員約20人の小さな町工場からのスタートだった。設立当初は、電池の生産や携帯電話の組み立てなどを手がけていた。自動車分野に参入したのは03年。初の量産車(ガソリン車)「F3」を発売したのは05年、初のEV「e6」の発売は09年だ。ただ00年代のBYDへの市場評価は決して高いものではなかった。
車載電池に詳しい業界関係者は、かつてのBYD車について「高いクルマを買えない人が買うイメージ」で、「安さが取りえ」との印象だったという。それが現在は「コストパフォーマンスの良いクルマへとイメージが変わった」と話す。BYD車の性能が上がったとの評価だ。
中国自動車市場をよく知る日本人関係者は、BYDが市場の評価を変える転機となったのが10年代に投入した「王朝」シリーズだとみている。
王朝シリーズは車名に中国の歴代王朝の名を冠した車種で、13年12月に発売したセダン「秦」を皮切りに、スポーツタイプ多目的車(SUV)の「唐」、「元」、「宋」(宋の一部モデルは多目的車=MPV)と、次々に新車種を市場に投入していった。王朝シリーズの最も新しい車種は20年7月に投入したセダン「漢」となる。
■若者もターゲットに
王朝シリーズは重厚な雰囲気の内装が特徴で、それが中高年層に受けた。一方で、BYDは近年、若者を意識したクルマ造りにも注力しており、時代の流れを取り入れたデザインの車種を積極的に投入している。
中でも海にちなんだ車名を冠した「海洋」シリーズにその傾向が強く表れている。22年7月に発売したセダン「海豹(シール)」はシャープでスポーティーなデザインが特徴で、「今どきのクルマ」に仕上げた。
BYDの幹部は「海洋シリーズの買い手の大部分が30歳前後の若者」と説明。「見た目や内装の色合いなど、若者の審美眼にかなっている」と自信をのぞかせた。
広州日本商工会の前会長で、中国の自動車事情に詳しい小泉大祐氏は「BYDはターゲットを若者だけに絞っているわけではないが、若者も意識したクルマ造りを進めている」とみている。BYDはこれまで同社製品を支持してきた中高年層に加え、若者層も取り込むことで、販売の裾野を広げる狙いとの見立てだ。
BYDは今、日本でも話題だ。今年1月に発売した日本への投入車種第1弾のSUV「ATTO3(アットスリー、中国名:元プラス)」がきっかけとなり、注目が集まっている。
日本投入第1弾となったアットスリーは、車体の凹凸をうまく生かした隙のないデザインを実現しており、これが日本でも一定の評価を受けているようだ。
こうした車体のデザインを担当しているのが、BYDが深セン市に設けた「グローバルデザインセンター」。19年に完成し、300人のデザイナーと100人の外部設計スタッフが同時に作業できるスペースを有する大型施設だ。欧州からデザイナーを招いているとされ、完成度の高いデザインを追求し、BYDの快進撃を陰で支えている。
BYDの製品ラインアップは現在、躍進の基礎を築いた「王朝」ブランド、若者を意識した「海洋」ブランド、てこ入れを図る「騰勢」ブランド、超高級車の「仰望」ブランドの4ブランドで構成されている。
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<メモ>
「新エネルギー車(NEV)」:NEVは「New Energy Vehicle」の略。中国政府の規定では、NEVはEV、PHV、FCVを指し、HVは含まない。中国ではEVを主力とするNEVメーカーが多いが、BYDはEV、PHVのどちらにも強いのが特徴。" ["post_title"]=> string(75) "NEV専業化で大躍進BYD、世界企業へと変貌(1)" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%ef%bd%8e%ef%bd%85%ef%bd%96%e5%b0%82%e6%a5%ad%e5%8c%96%e3%81%a7%e5%a4%a7%e8%ba%8d%e9%80%b2%ef%bd%82%ef%bd%99%ef%bd%84%e3%80%81%e4%b8%96%e7%95%8c%e4%bc%81%e6%a5%ad%e3%81%b8%e3%81%a8%e5%a4%89%e8%b2%8c" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2023-04-24 04:00:04" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2023-04-23 19:00:04" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=13006" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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