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エネルギー移行軸に提携強化三菱UFJ、国営銀とDX協力も

ベトナムを訪問した三菱UFJ銀行の板垣靖士副頭取は19日、NNAとのオンラインインタビューで、今年10周年を迎えた国営ヴィエティンバンクとの提携関係を今後も拡大していく方向性を示した。対象分野として、デジタルトランスフォーメーション(DX)とカーボンニュートラル(炭素中立)実現に向けたエネルギー・トランジション(移行)の2つを軸に挙げた。ベトナム経済は今後も安定的に経済成長が続き、日本を含む海外企業の有力投資対象国の地位を維持するとの見方を示した。
三菱UFJ銀は同日、ヴィエティンバンクと資本・業務提携関係の構築から10周年になる式典を首都ハノイで開催。半沢淳一頭取や板垣氏ら多数の幹部が首都ハノイを訪問し、政府関係者などと会談した。グローバルコマーシャルバンキング部門長である板垣氏がこれに合わせ、NNAとのインタビューに応じた。主なやりとりは以下の通り。
——ヴィエティンバンクと提携後10年の成果をどう認識しているか。
1つ目は、ヴィエティンバンクが国営四大銀行の一つとしてベトナム経済をしっかり支援する中核的な銀行に成長したということが挙げられる。三菱UFJ銀は、約20%を出資する最大の協力銀行として、ヴィエティンバンクのリスク管理、コンプライアンス(法令順守)、リテール(小口取引)戦略の策定などに助言し、多くの取り組みを共同で展開してきた。当行の金融に関する先進的なノウハウを注ぎこむことで、ヴィエティンバンク自身の経営の高度化に寄与できた。
2つ目は、ベトナムに進出している当行の顧客企業に対するサービスの幅が飛躍的に広がったことだ。日系企業が中心の当行の顧客企業も、加工輸出などの製造業から、ベトナムの内需に照準を合わせたサービス業、小売業、不動産業などに幅が広がっており、求められるサービスの質は多様化している。当行がベトナムに持つハノイとホーチミン支店だけだったら、十分なサービスは提供できなかった。ヴィエティンバンクとの提携によってベトナム国内外の決済をはじめとするさまざまなサービスを提供できるようになった。
■政府との距離縮まる
新興国であるベトナムには、依然としてさまざまな不透明性がある。そのような中で国営銀行の一つと組んだことで、ベトナム政府との距離が格段に縮まり、何か問題が起これば政府に相談し、事業への助言を得られることも大きい。
——ヴィエティンバンクとは、両行の顧客企業を集めたビジネスマッチングの機会を定期的に提供してきた。どんな成功例があるか。
双方の企業同士の商談を仲立ちした件数は、すでに700件以上に上っている。双方の取引先企業が、単純に貿易フェアなどで出会って商談をするのとは異なり、両国の大手銀行が事業の将来性などをふるいにかけた企業同士だからこその安心感がある。個別の社名を紹介できないのはもどかしいが、日系の製薬会社がベトナム事業を拡大するために地場企業に出資した案件や、素材の輸入販売契約につながるなど多くの新しいビジネスが生まれた。
——三菱UFJ銀行のベトナム事業の収益はこの10年間でどの程度増えたか。
粗利益ベースでは約4倍になっている。アジアの拠点の中でも、相当高いペースで収益が伸びてきた。
■フィンテック技術で相乗効果
——提携10周年に合わせた両行の今回の首脳会談では、今後の協力関係の方向性についても確認されたと思う。今後、関係を拡大していく分野や変わってくる分野はあるか。
資本の面で言うと、三菱UFJ側の出資比率である約20%はすでに外資規制上の上限なので、今以上に出資比率を上げていくということは考えておらず、今の水準を維持していく。
共同事業について今後の新しいテーマとして意識しているのは、まずデジタルトランスフォーメーションだ。ベトナムの経済、社会のデジタル化は日本を上回るスピードで進んでおり、ヴィエティンバンクはさまざまな戦略を検討しているところだ。三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)でも東南アジアやインドでフィンテック(ITを活用した金融サービス)などのデジタルプレーヤーに出資・買収を始めている。当行自身が持つデジタルのノウハウの移転や提供に加えて、傘下となるそうした企業の知見をヴィエティンバンクの戦略に生かすことで、相乗効果を生み出すことを視野に入れている。
——ベトナムでは2050年を視野にいれた第8次国家電力開発基本計画(PDP8)を政府が正式に承認し、エネルギー分野の「脱炭素」の動きが加速していく。
ベトナムが現在、化石燃料に大きく依存している電源を、どう環境負荷のない次世代電源に移行していくかは、大きな課題だ。ヴィエティンバンクとの協力関係を通してぜひ支援していきたいと考えている。 (他の東南アジアの国と同様に化石燃料による発電割合が多い)日本では、MUFGも顧客企業と議論しながら、新しい技術とファイナンスのノウハウを融合させて、エネルギー転換を後押ししている。それをアジア全体に広げていこうと思っている。
■脱炭素技術にファイナンス検討
——三菱UFJ銀を含む日本のメガバンクは、いずれも石炭火力案件には新たな融資を行わない方針を打ち出している。ベトナムでエネルギー移行を進めるにあたって考えている方策は。
ベトナムでのエネルギー移行については、まさにこの国の電力セクターの企業と相談しながら進めていくことだと思う。発電時に石炭や天然ガスといった化石燃料にアンモニアや水素を混ぜて燃焼させるなどの新たな技術については、実証試験の段階から商業化していく途上にある。そういった新技術の導入へのファイナンスのようなことを含めて、さまざまな技術動向と金融の知見を組み合わせてエネルギー移行を進めていこうというアプローチを検討しているところだ。
■サプライチェーン再構築に欠かせず
——ベトナムは最近何年間も海外企業の有力投資先の一つになっているが、最も裾野が広く波及効果が大きいといわれる自動車産業には有力な地場企業が少なく、すでに裾野産業が集積しているタイやインドネシアほどの成長は見込めないとの見方もある。この国の先行きをどうみているか。
確かに経済に大きな付加価値をもたらす自動車産業については、「(年間新車販売台数)100万台クラブ」に入るタイやインドネシアに比べると、まだ黎明(れいめい)期というか、これから育っていくと思う。
ただ、この国の人たちの勤勉さや基本的な能力の高さでは周辺国より優位にあることを日本の経営者がそろって感じている。経済安全保障という文脈でも、ベトナムは非常に信頼できる国だ。それは中国との(外交上の懸案を抱えながらも良好な貿易関係を維持している)関係を見ていても言える。(米中両国の経済摩擦やロシアのウクライナ侵攻といったさまざまな地政学的要因を踏まえた)ストラテジック・サプライチェーン(供給網)を組んでいくときにベトナムは外せないし、まず最初に投資を検討する国だという評価がすでに固まっていると思う。
この先も東南アジア10カ国の中で最も高い経済成長が期待できる国だという認識は変わらない。

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■フィンテック技術で相乗効果
——提携10周年に合わせた両行の今回の首脳会談では、今後の協力関係の方向性についても確認されたと思う。今後、関係を拡大していく分野や変わってくる分野はあるか。
資本の面で言うと、三菱UFJ側の出資比率である約20%はすでに外資規制上の上限なので、今以上に出資比率を上げていくということは考えておらず、今の水準を維持していく。
共同事業について今後の新しいテーマとして意識しているのは、まずデジタルトランスフォーメーションだ。ベトナムの経済、社会のデジタル化は日本を上回るスピードで進んでおり、ヴィエティンバンクはさまざまな戦略を検討しているところだ。三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)でも東南アジアやインドでフィンテック(ITを活用した金融サービス)などのデジタルプレーヤーに出資・買収を始めている。当行自身が持つデジタルのノウハウの移転や提供に加えて、傘下となるそうした企業の知見をヴィエティンバンクの戦略に生かすことで、相乗効果を生み出すことを視野に入れている。
——ベトナムでは2050年を視野にいれた第8次国家電力開発基本計画(PDP8)を政府が正式に承認し、エネルギー分野の「脱炭素」の動きが加速していく。
ベトナムが現在、化石燃料に大きく依存している電源を、どう環境負荷のない次世代電源に移行していくかは、大きな課題だ。ヴィエティンバンクとの協力関係を通してぜひ支援していきたいと考えている。 (他の東南アジアの国と同様に化石燃料による発電割合が多い)日本では、MUFGも顧客企業と議論しながら、新しい技術とファイナンスのノウハウを融合させて、エネルギー転換を後押ししている。それをアジア全体に広げていこうと思っている。
■脱炭素技術にファイナンス検討
——三菱UFJ銀を含む日本のメガバンクは、いずれも石炭火力案件には新たな融資を行わない方針を打ち出している。ベトナムでエネルギー移行を進めるにあたって考えている方策は。
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■サプライチェーン再構築に欠かせず
——ベトナムは最近何年間も海外企業の有力投資先の一つになっているが、最も裾野が広く波及効果が大きいといわれる自動車産業には有力な地場企業が少なく、すでに裾野産業が集積しているタイやインドネシアほどの成長は見込めないとの見方もある。この国の先行きをどうみているか。
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